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第94話 黒幕④─まさかの出来事─


   1


「しつこいな、貴様」

 やれやれといった顔で、師仲は再び立ち上がった義朝の方を見た。

「何度だって立ち上がってやるぜ。お前が俺の大事にしているやつらを傷つけようとする限りな!!」

 義朝は溶岩の魔人と化した師仲に鬼切丸の切っ先を向ける。

「念力まで使いやがったか」

「何かわかんねぇができた」

「君は神にでもなるつもりか?」

「何にだってなってやるさ。魔王にだって、お前らの言う『弥勒菩薩』ってのにもな」

「笑止」

 師仲は溶岩を爆散させた。

(頼むぜ、鬼切丸)

 心で念じた義朝は結界を張った。

「いつまで持つかな、この灼熱の岩漿ようがんの中」

「お前を殺すまでさ‼」

 そう叫んだ義朝は、念力で溶岩を吹き飛ばした。残りは鬼切丸に吸わせ、火焔の鬼切丸とした。間髪を入れず、そのまま鬼切丸の白金の礫を放った。

 火焔を纏った白金の礫は先端が尖った槍状ではなく、三日月型となっている。

「そんなもの、効くはずも無い‼ 頼政の一撃以外はな‼!」

 師仲はれいの強力な結界を張った。

「それはどうだろうな」

 自信満々な表情で義朝は返す。

 火焔を纏った鬼切丸の白金の斬撃は、結界を切り裂き、師仲の身体を真っ二つにした。

(まさか、我が結界が)

 絶対に破れない。鬼切丸を使い始めたばかりの義朝には。師仲は心の中でそうたかをくくっていた。たかだか力に覚醒し、念力も覚えたての男に、幻獣の力を持つ自分を倒せるとは思っていなかった。そんな男が、まさか鬼切丸の力をここまで使いこなせるようになるとは。

(大丈夫だ。再生をすれば問題ない)

 師仲は黄龍の力で再生をしようとした。だが、身体が真っ二つになったうえに鬼切丸の斬撃により力を吸われたこともあってか、なかなか再生が追い付かない。

(畜生)

 動けない師仲は、何もできず、ただ狼狽えることしかできない。

 間髪入れずに義朝は、弱った師仲の元へ駆け、両腕を切り落とした後、鬼切丸の切っ先を師仲に突き付けた。

「言い残すことはあるか?」

「……貴様ごとき、貴様ごとき、簡単に殺せるからな」

 五体不満足となった師仲は、義朝を怨嗟の籠った目で睨みつけながら、息も絶え絶えに最期の一言になるであろう一言を放った。

「ほーう。負け惜しみか。どこまでも見苦しい奴だ」

 義朝は師仲の首を跳ね、胸にある核を破壊して殺そうとした。核を破壊して殺そうとしたとき、

「引っかかったな」

 と首だけになった師仲が囁いた。

 彼の小言を無視し、義朝は核を破壊しようとした瞬間、

「ぐばっ‼」

 残っていた師仲の爪に胸を貫かれ、義朝は血を吐いて倒れた。

「勝った、勝ったぞ!!」

 スローペースではあるが、自己再生をしながら師仲は高らかに笑った。


   2


「赤龍と白龍は死んだ」

 黄色い龍となった師仲はまた大地の力を使って回復した。そして黄龍の姿となり地震を起こし、再び京都を沈めようとした。

「貴様の思い通りにはさせないぞ、師仲‼」

 どこからか青年の声がした。

(まだ残っていたか)

 鬱陶しいなぁ、と思いながら声のする方を向くと、そこには重盛の姿があった。

「将門の器の小僧か。何の用だ⁉」

 他心通テレパシーを使い、師仲は重盛の心に問うた。

「義朝さんの仇、ここで討つ‼」

 そう重盛は叫んだあと、刀を抜き、その切っ先を師仲へと向けた。同時に瞳の色が黒から青へと変わった。そして後ろには光を放つ輪が出現する。

「後ろの光背。貴様もどうやら13の仏の応身か⁉」

「そうとも」

「面白い。来い」

 師仲は再び半獣態になり、重盛と戦うことにした。

 岩石を飛ばし、重盛の肉体を粉々にしていく。

「私は不死身だ」

 肉体を元通りにした重盛はそのまま言った。

「肉体が自己再生する。どうやら薬師如来の応身のようだな。タダでは殺せないか」

 師仲は再び、溶岩を纏った形態へと変化をした。

(地を司る黄龍の力。やはり岩漿の力をも使えるか……)

 薬師如来の覚醒は物理攻撃や毒攻撃は全て効かない。斬られても細胞が残っていれば、それから臓器や骨、脳、神経、循環器系、筋肉を再生できる。強力な細菌やウイルスに侵されたとしても、強力な免疫細胞や白血球の力で瞬時に撃退できる。だが、細胞を殺し、炭にできる岩漿を纏われては、一部分は再生できるだろう。が、そのまま行ってしまえば細胞が全て焼かれ、再生ができなくなる。

(ここは一つ一つを積み重ね、師仲が実体を持ったところを狙うしかない)

 深呼吸した重盛は結界を二重に張った。師仲の張っている結界を中和し、彼に接近した後、

「吹き飛べ‼」

 と叫び、念力で彼の周りの溶岩を吹き飛ばした。

(かかったな)

 これを狙っていた師仲は、彼の周りを溶岩で囲んだ。

(やはりそう来るよな)

 重盛は気を集中させ、教盛から教えてもらった気功で突破口を開いた。そしてそのまま忠清から教えてもらった飛ぶ斬撃をお見舞いした。気を纏っているので、その威力は忠清の放つそれの何倍にもなる。

(戦略は天晴である。が、やはり鬼切丸の一撃と比べて気を吸われないからまだマシか)

 再生しながら師仲はほくそ笑んだ。再生をしつつ、凄まじい速度で礫を飛ばして重盛の肉体を粉々にしようとした。そして溶岩で細胞そのものを灰にしようとした。

「これで終わりだ‼」

 重盛の細胞を溶岩で焼き払おうとしたとき、

「オンコロコロセンダリマトウギソワカ」

 薬師如来の真言マントラが聞こえきた。

 師仲は声のする方を向いた。

 視線の先には先ほどミンチ肉にした重盛の姿があった。しかも、無傷である。

「どういうことだ!?」

 怯える師仲。

 重盛は怯む師仲のことを意に介さず、印相を組んで、

「反転!!」

 と叫んで続ける。

「これでお前は死んだも同然だ」

 重盛が印相を解いたあと、

「ぐぶあっ!!」

 師仲は血を吐いて膝をついた。

(しまった。うっかり隙を見せてしまった)

 薬師如来の力は全ての怪我や難病を治す力。が、同時に五臓六腑を破壊し、相手を死に至らしめる。薬と毒相反する面を併せ持っているのだ。

(耐えろ、耐えろ……)

 心の中で、師仲は自分に言い聞かせた。

「しぶといな」

 やれやれと言わんばかりに、重盛は苦しそうにする師仲を見る。

「お前ら武士を、罪深いお前たちを、地獄に、落とさない限り、死ねな……」

 師仲は地に伏した。

(あまりに呆気無い。これが本当に八咫烏の中の元大烏か⁉)

 力こそは本物である。が、やられるのがあまりにもあっさり過ぎる。直接的な戦闘とは無縁の公家組であったとしても、体術や剣術、薙刀、弓は北面の武士や滝口並みに出来る。むろん、能力の使い方については言うまでもない。

 重盛は自身の力を纏った刀で師仲の肉体をみじん切りにした。残るは師仲の核。ここさえ斬るなり突くなりすれば、殺せる。容赦なく刀の切っ先で核を突こうとしたとき、

「大地には浄化する力がある」

 と首だけになった師仲が語り始めた。

「往生際の悪い奴め」

 そう言い、重盛は核を貫こうとしたが、地面が揺らぎ、核が転がっていった。

「待て‼」

 核を追って重盛は追おうとしたが、突如自分のいる場所が突き上げられ、反対の方向へ転がっていった。

 大地の力で再び回復し、元通りになった師仲は大笑いしながら、

「毒を流しても、土の中の小さな命が私の毒を無害化してくれる。何てったって、私は黄龍。木火土金水の「土」を司る龍だからね。これで貴様もおしまいだ!! 東方の浄土へと還れ!!」

 最初の方で義朝を突き落とした地面割で、重盛をマグマの底へと突き落とした。

 速くなっていく落下速度。どこまでも続き、深くなっていく暗闇。

「クソ……」

 悔しそうな表情で燃え滾る岩石の海へと続く暗闇へ落ちていく重盛。心の中で念仏を唱え、死を覚悟した。同時に観音菩薩の名号も唱えた。落ちていくだけ。

 どこまでも落ちていく。もう助かりそうもない……。

 希望を捨てかけたそのとき、何者かが落ちていく重盛を咥えた。

 突如現れた何かは、ものすごい速さで地上へと駆け上がった。そして重盛を地上へと戻した。

(あれはもしや!?)

 重盛は自身を助けた者の姿を見た。

 澄んだ青色の瞳を持ち、白銀の鱗に覆われた龍の姿があった。背中には重盛と同じ光背が光を放っている。

(もしや、12の仏、弥勒菩薩か⁉)

『未来記』や100年前の伊勢斎宮によれば、まだ降誕する時期ではない。なのに、なぜ、現れた!? また、弥勒菩薩は「末法より100年後に生まれる源氏の誰か」とされている。まさか、源氏の誰かの身体を使って一時的に降臨したのか⁉

 考えれば考えるほど、よくわからない。だが、助けてくれたことには感謝しなければいけない。

「ありがとう」

 重盛は礼を言った。

 白龍は「どういたしまして」と言うようにお礼をしたあと、師仲の方へと向かっていった。

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