第88話 決着③─子供たちの戦い─
1
源氏軍の右翼。父を助けるべく、頼朝は平家軍の大軍相手に突き進んでいた。
「進め!!」
鬼切丸を片手に頼朝は、数の差に臆することなく突き進む坂東武者たちを率いて進み続ける。
「貴様頼朝だな!? その首もらった!!」
平家軍の一般兵たちは打ち物の白刃や矢を構え、次々と討ち取りに向かう。
「うっとうしい奴らが」
攻撃をする前に頼朝は鬼切丸で斬りつけた。
平家軍の一般兵は、武器ごと真っ二つに切断され、そのまま絶命する。
血払いをし、馬の手綱を引いて頼朝は突き進む。
「そこにいるのは頼朝か!?」
「誰だ?」
頼朝は声のする方を向いた。
声のする方には、自分と同じ年くらいの立派な鎧を着たひ弱そうな少年が刀を持ってこちらを見ている。
「おれは平宗盛。清盛の三男だ!!」
ひ弱そうな少年は名乗った。
「平家の嫡男か。私が源義朝の三男頼朝だ」
「いざ、勝負!!」
宗盛は刀を上段に構え、頼朝のいる方へ突進した。
「ふっ」
頼朝は避ける素振りを見せず、彼が攻撃を繰り出したときに出た一瞬の隙を鬼切丸で横なぎに宗盛を斬りつけた。
「ぎゃあぁぁっ!!」
宗盛はそのまま落馬した。
「貴様は殺す価値もない」
頼朝は血払いをし、再び馬の手綱を引いて駆けだした。
(平家の嫡男はこの程度か……)
平家の侍は数だけで剛の者が少ないという評は正しかった。人間だけ多いと統制が取れなくなる。嫡男がこれほどの器量では、平家は長くはないであろう。
(今は賊軍でも、最後に勝つのは源氏だ)
心の中でほくそ笑みながら、頼朝は帝のいる六波羅の泉殿を目指し、駆け抜ける。
2
平家軍の兵士たちを次々と大剣で斬ったり叩き潰したりしながら、義平は左翼で父を守っていた。
(あれが、平清盛か)
立派な鎧を身にまとった男を見た義平は、清盛、正確に言えば彼の身体を借りている将門の様子を観察した。
彼の目の前には、黒焦げになった男がいた。父親の軍の手前を守っていること、鎌田家の家紋が染められている白旗の動きが乱れていたり倒されたりしているのを見る限り、倒されたのは正清だと義平は見た。
(正清を殺すとはなかなかやるじゃねぇか)
片腕なうえに手加減をしながらも、自分の一撃を受け止めて攻撃を入れたり、時には怪しげな力を使って自分を追い詰めたりした正清。そんな正清を倒すとは、意外と平清盛は強い。初めて出会ったときの弱気な感じは、実力を隠すためであったか。
(面白れぇ)
ワクワクする。想像以上に強かった清盛と戦えることに気分が高揚した義平は、
「平清盛、覚悟しろ!! 俺は源義朝が長男悪源太義平だ!!」
大剣を軽々と大上段に構え、義平は将門の脳天を目掛けて斬りかかった。
「貴様見たところ、経基王の末裔だろう? 何の用だ?」
攻撃を軽々とかわし、平清盛、いや、まだ彼の身体を借りていた将門は嬉しそうに聞いた。
「貴様のような雑魚に用はない」
「ほう。戦ってみるか? 今の私は機嫌がいい」
将門は腰に帯びていた小烏丸の柄に手をかけた。
「余裕こいてられるのも、今のうちだぜ!!」
義平は大剣で右袈裟に斬りかかった。
攻撃をよけた将門は、義平が大剣を軽々と持ち上げ、次の攻撃を繰り出そうとする刹那を見計らい、抜刀した。その時間わずか数秒。刹那の瞬間であった。
首筋に、冷たい金属の感覚が皮膚を伝ってくる。義平は首元を見ると、そこには将門の刃が触れているのが分かった。
「負けまし、た......」
義平は負けを認めた。歴戦の清盛と地方でただ粋がっているだけの自分。格があまりにも違うことをひしひしと感じたからだ。ちなみに彼は清盛の中身が平将門であることには気づいていない。
「随分と物分かりがいいではないか」
満足そうな笑みを浮かべ、将門は言った。
「何か勝てなそうって感じたから」
「わかっているではないか」
将門は刃を納め、続ける。
「お前はまだ若い。一芸に優れた者、常人では考えられない力を使う者、元々の能力が高い者……。これからいろんな敵と出会うだろう。そうした敵と戦って経験を積んでから、また私に挑むといい。今度はしっかり殺してやる」
義平を称えた後、将門は義朝の居場所を示す馬印の方へ一人駆けていった。
3
持ち場に戻り、義平は次々と迫り来る平家軍の兵士たちを大剣でなぎ倒していく。
(しかし、数ばかりは多いな)
一門衆の質が劣るという弱点を補うため、平家軍は兵力を増強していると聞いていたが、やはりこの話は本当だったらしい。倒しても倒しても兵力が湧いてくる。
「鬱陶しいんだよ‼」
義平は大剣を力強く振り回し、ぐるりと回って周りの兵士たちを斬り倒した。
兵士たちは武器ごと切断し、倒れていく。
「将はどこだ!?」
大音声で義平は叫んだ。
「将ならここにいるよ」
義平の心の叫びに呼応するように、返しが来た。
声のする方を、義平は見た。
「ついに見つけた!!」
声の先には、新しい鎧と直垂を着た重盛が立っていた。手には刀を持っておらず、不適な笑みを浮かべながら義平の方を見ている。
「重盛、なぜここに!?」
義平は困惑した。内裏の戦いですぐに重盛を倒し、手足は斬ったはずだ。このまま体中の血が流れて死んだと思っていた。が、とうの本人は目の前にいて、斬ったはずの手足が再生し、しかも先ほどよりも元気そうである。あり得ない。一体何があったのか。
「力が、覚醒したんだよ!! 油断したな!!」
「想定外すぎて、こちとらどう受け取っていいかわかんねぇんだよ、亡霊」
「亡霊か生きてるかは、お前の目で確かめろ」
重盛は挑発した。
彼が本当に亡霊か確かめるべく、義平は重盛を胴体ごと斬った。
「お望み通り殺してやったぞ」
自信満々に義平は重盛の身体を三等分に切り刻んだ。やはり雑魚は雑魚。覚醒しても何も変わらない。
去ろうと思い、義平は持ち場に戻ろうとした。そのとき、斬られた重盛の身体は胴体が瞬時にくっつき、元通りの状態になった。
「何っ!!」
義平は驚きで言葉が出なかった。斬られた人間の生命力がしぶとくて、生きて這いつくばってきたこと、首を斬っても目が動いていたりといったことはあった。大体斬られた人間は、痛みと死への恐怖で苦悶の表情を浮かべ、屍と化していく。だが、重盛は違った。斬られた後瞬時に身体を再生させ、再び立ち上がった。こんな人間を見たことは無い。いや、人間というよりは化け物だ。
「これで、わかっただろ、僕が生きてるって」
「力って何だよ!? 死にかけが」
気味悪そうに義平は、大剣の矛先を重盛に向けた。
義平に動じることなく、重盛は印を組み、薬師如来の真言を唱えた。
「お前の体力を回復させた」
「ありがとな」
「もう一度正々堂々勝負をしよう」
「いいよ、来いよ。今度は手足だけでなく、貴様のその首も吹き飛ばしてやる」
そう言って義平は大剣を振り上げ、重盛を殺そうとしたそのとき、身体から力が抜けていった。
(全身が痛い、重い)
体が重くなる。痛みが走る。青白くなった義平は血を吐いて倒れ、地面の上をのたうち回った。
「貴様、何をした!?」
息を切らしながら、義平は聞いた。
「頭の悪そうなお前にはわからないから言おうか迷ったが言わせてもらおう。神通力には二種類ある。正の力と負の力。僕の力はヒトを治すことができる。ヒトを治すことは、仕組みを知っていなければできないこと。その反対を君にやったと思ってもらえればいい」
「ちくし……」
悪態をつく前に義平は全身の血を吹き出し亡くなった。




