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第86話 決着①─対峙─


   1


「平清盛、貴様は俺が何としても討ち取ったら‼」

 一番乗りは広常であった。上下に刃のついた薙刀をきらめかせながら、清盛のいるところへ突撃して来る。

「清盛の首はそう易々と取らせねぇ」

 忠清は二本の刀で広常の一撃を受け止めた。

「二刀流の若造か。久しぶりだな。ちったぁ腕上げただろうな?」

「ああ。ジジーの方こそ、老いて鈍ってねぇだろうな!?」

 両刃の薙刀と二刀流剣士の太刀。二つの刃がぶつかり、火花を散らす。

「ありがとう!!」

 清盛は白い馬の鞭を打ち、義朝のもとへと進んでいく。

「平家の大将、覚悟!」

 義朝の方へ突き進む清盛の前で、佐々木秀義が立ち塞がった。秀義は刀を構え、清盛の方をカッと睨み付ける。

「オッサン、どけ!!」

 清盛は馬の手綱を強く握り、秀義をスルーしようととする。

(今だ!!)

 清盛とすれ違うタイミングを見計らい、秀義は抜刀した。

 肉眼では捉えられない速度の白刃の斬撃が、清盛の隙を容赦なく斬りつけていく。

「うわっ!!」

 紙一重で避ける清盛。

「しぶとい奴だ」

 秀義は一の太刀をふるった後そのまま二の太刀三の太刀といった具合で清盛に斬りかかった。

「うっ‼」

 馬上で左足の脛を切られた。ぐらりと落ちていく清盛。

「覚悟‼」

 秀義はそのまま刀を鞘に納め、抜刀の体勢に入った。

(いける)

 落ちてくる刹那を見定め、秀義は清盛の首を取ろうとした。鞘から飛び出た高速の斬撃が、清盛の首めがけて飛んできた。そのとき、

「誰だ、貴様⁉」

 清盛と同じくらいの歳の薙刀を持った男が、突然勝負に割って入ってきた。青年は名乗る。

「俺は平盛国。お前は誰だ?」

「私は近江国の侍で、宇多院の末裔佐々木秀義」

「違う『源氏』の系統か」

「左様」

 秀義は再び構えを取った。

「清盛、こいつは俺が食い止めておく。行ってこい!!」

 後ろへ退いた盛国は、薙刀を構え、秀義の抜刀術にいかにして抵抗するかを考えた。

「盛国、頼んだ‼」

 秀義の斬撃から難を逃れたあと、源氏家臣団の一人八田知家は、清盛の乗る馬の腹を蹴った。

 揺られて落ちる清盛。

 落ちた清盛の兜をつかみ、知家は、

「オメーが平清盛か?」

 と聞いた。

「そうだ」

 清盛は堂々と名乗った。

「こんなのでよく平家の大将が務まるなぁ」

「叔父によく言われたよ」

「なんだ、自覚あんのかよ」

 ボロボロになっている清盛に、知家は左ストレートを加え、間髪入れずに右腕で首を絞めつけた。

「負けるわけには、いかないんだ……」

 清盛は泣きながら、知家の鍛え上げられた太い腕に噛みついた。

「痛くもねぇな」

 知家は清盛の抵抗など意に介さず、強く強く、平家の大将の首を絞めつける。

(さっき秀義のやつに斬られて弱ってる。殺るなら今のうち……)

 さらに力を入れ、清盛の息の根を止めて討ち取ろうとしたところへ、棍を持った唐人風の男が顔面に向かって蹴りを入れようとしてきた。

「オメーが平教盛だな!?」

「そうさ。お前は誰だ!?」

「俺は下野国の住人で源氏家臣団の一人八田知家」

「なら、そこで絞めてる男を離してもらうぜ」

 教盛は持っていた棍を解体した。

 解体した棍は三つに分かれ、節目は鎖で連結している。

 蛇のように不規則に動く鎖付きの棍は、

「危ぶねぇ」

 知家は間一髪のところで、教盛の持つ未知の武器の攻撃をかわした。

 教盛の登場により生まれたわずかな隙に、清盛は逃げ出し、再び義朝のもとへ走った。

(ちっ、逃げ出しやがったか)

 逃げて義朝のところへ向かう清盛の方を見て、知家は追いかけようとした。

「お前の相手は俺だ!!」

 追いかけようとする知家の前に、変態棍をぶんぶん振り回した持った教盛が立ち塞がる。

(正清、あとは頼む)

 本陣前にいる仲間に望みを託した知家は、教盛を足止めすべく戦いに専念することにした。

「教盛、ありがとう」

 清盛はそう言い残し、義朝の方へと向かった。

「ああ、あとは任せろ」

 清盛は義朝のいる本陣へまっすぐ駆けていった。


   3


 義朝を守る源氏家臣団の鉄壁の防御を一門の力で切り抜けた清盛は、本陣の目の前に来ていた。

(あいつの目を、何とか覚まさせないと……)

 義朝は今、自分を見失っている。いろんな不幸が重なって、どうしようもなくなっている。積もる話や言いたいこともたくさんある。だから、一度しっかり話がしたい。そう思い、義朝の目の前を目指した。

「おい!」

 声をかけようとしたとき、背の高い片腕の男が清盛の目の前に立ちふさがった。源氏家臣団の筆頭鎌田正清である。

「お前が清盛だな!?」

 確認のため、正清は尋ねた。

「ああ」

 うなずく清盛。

「清盛、お前には恨みはないが、親友とものところには絶対に行かせない」

 正清は刀の柄に手をかけ、抜いた。

「正清か、久しぶりだな。そこをどけ」

 負けじと清盛も腰の小烏丸を抜き、正清と対峙する。

 刀を構えた両者の間には、張り詰めた空気が流れる。

(平清盛。やはりこの男それほど強くはないな)

 清盛の構え、そしてここへ来るまでにいくつかの傷を負っているのを見て、正清は確信した。前の戦いのとき、為朝との戦いを自身の弟に任せていた辺り、武士としてさほどの戦闘力を有していないとは思っていたが、やはり見立て通りであるらしい。ここまでたどり着くまで、源氏家臣団の中の指折りの実力者たちが鉄壁の守りを固めていた。この程度の武者なら、広常辺りに討ち取られているのが普通だ。が、こうしてここまで来れているということは、強力な郎党なかまや一門かぞくの助けがあってのこと。決して自身の力ではない。

(こういう奴は意地汚かったりするから面倒だな。あと、厄介なのはこいつの中にいる平将門。清盛の自我があるうちに器となる肉体を殺さないと)

 平将門の生まれ変わりが白河院の落胤である清盛であること、そして「時を止める力」を持っていることは、賀茂の斎院や泰親からは度々耳にしていた。もしここで彼の中に潜んでいる将門が顕現したら、確実に負ける。そうなる前に確実に息の根を止めておかねば。

 間髪入れずに正清は斬りかかった。

(相手は片腕。なら、こちらに利がある!!)

 正清の一の太刀をかわした清盛は、腕が無くガラ空きになっている左胴を狙い、横なぎに斬りかかった。

(腕が無い方を狙ってくるのは想定内)

 すぐさま正清は返し、清盛の攻撃を防いだ。そして清盛の右足に低めの蹴りをお見舞いした。

「うっ!!」

 倒れる清盛。

 正清は駆け寄り、次の一手を出す前に両足両手首を斬り落とし、切っ先を目の前に突きつけた。

「お前のような弱い奴を義朝になんか、近寄らせない」

「俺は友だぞ......」

 四肢を切り落とされ、血塗れになった清盛は、痛みなど意に介せず、正清をきっと睨み付けた。

「俺も『友』だ。小さいときからずっと一緒にいる。あいつの強さや思慮の足りなさ、誰もいないところでずっと抱えていた思い......。全部知ってる」

「じゃあ、なぜ止めなかったんだよ......。友なんだろ?」

「友だから、止めなかった」

 正清は首に向けるのを切っ先から刃へと変え、最後に言い残すことはあるかと聞こうとしたとき、死にかけの清盛の雰囲気が変わったことに気が付いた。

 雰囲気の変わった清盛は低く、余裕のある声で、

清盛うつわは殺させない」

 と言い、神通力で斬られた四肢を再生させた。

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