第83話 平治の乱・急②─鎌倉悪源太義平─
1
信頼に鎧を着せたあと、義朝は軍議を開いた。
軍議では、まず義朝たち精鋭を中心とした部隊を編成し、六波羅へと攻め入り、平家勢を打ち破る。そして平家屋敷へと突入し、帝を奪還するというものだった。
「そうすると内裏の警備が手薄になるが、誰を当てる?」
正清は義朝に聞いた。
平家勢は帝を擁している。こうなれば、内裏を奪還する必要が出てくるので、ここへも絶対兵を出すはずである。兵力を帝の奪還に集中させるのはいいが、肝心な家を失っては元も子もない。それに源氏軍には内裏を再建できるほどの財力が無い。なので、誰か内裏を守るために、ここへ残らねばならない。
「ここに残りたいやつはいるか?」
義朝は今いる仲間たちに聞いた。
「ならば、俺に任せておけ、親父」
まず先に手を上げたのは、義朝の長男である義平であった。
「攻められないぞ、いいのか?」
「誰もやりたがらねぇのなら、俺がやる。平家なんざ、飛ぶ斬撃を使う忠清と触れずに吹き飛ばす教盛以外の武者はみんな雑魚だ。すぐに討ち取ってやるよ」
自信満々に立ち上がり、義平は言った。
「任せた、義平」
「おう」
元気な自身の長男を見て大事を託したあと、義朝は鬼切丸を抜き、
「帝を奪われた雪辱を晴らすぞ。皆の者、出陣じゃ!!」
鬨の声を上げた。
「おーっ!!」
大将義朝に応じ、返す東国の武者たち。彼らの声が、主のいない廃墟と化した内裏に響き渡る。
義平の軍勢を残した源氏軍の主力は、帝のいる六波羅を目指し、進軍した。
2
平家軍のうち最初にやってきたのは、重盛の軍勢500だった。
門の目の前には、石切の太刀を担ぎ、足を大の字に広げて立っている義平の姿があった。手勢はおよそ17人。圧倒的に少ない。
「我こそは平重盛。お前が高名な鎌倉悪源太義平か⁉」
「そうだ‼」
確認を取ると同時に、義平は石切大太刀を大上段に振りかざし、重盛の脳天ごと斬りかかろうとした。
(何て馬鹿力……)
太刀を受けた重盛は、心の中で感じた。小柄な体だが、棍棒サイズの巨大な刀を片手で軽々と振り回している。凄まじい腕力である。一体そんな馬鹿力がどこから出ているのであろうか?
──落ち着け、落ち着け。きっと弱点はあるはず。
そう心の中で言い聞かせ、重盛は退いて構えを続ける。
(臆したか)
平家はそれほど強い武者がいない。自分と同じ長男ですらこの程度なのだから、推して知るべしといったところか。
(じれったいな)
いつになったら攻撃を仕掛けてくるのだろうか? やるなら早くしろ。そう思った義平は、石切の大太刀を振り上げ、鎧を着た重盛に再び斬りかかった。
重盛は構えるのを辞め、逃げた。
(普通重量武器は威力こそあるが、大きさや重さの分速さは失われる。その隙を見計らい攻撃を仕掛けるしかない)
とりあえず、今はいのちだいじに。兵法三十六計逃げるに如かず。馬に乗って、全速力で駆けだした。
「へっ、やっぱり怖いんだな。平家は飛んだ腰抜けの集まりみてぇだな」
挑発しながら、義平は石切の大太刀を軽々と振り回し、右薙ぎ、左薙ぎ、右袈裟といった具合で重盛を追い詰め続ける。
「脳天かち割ってやら‼」
義平は石切大太刀を大上段に構え、再び重盛に斬りかかった。
(今だ!)
義平の一撃を避けた重盛は、できた隙を突いて攻撃を仕掛けようとした。
(そう来るだろうな)
義平は石切大太刀を手放した。そして体勢を低くし、そのまま重盛の足に蹴りを入れた。
築地へ向かって吹き飛ぶ重盛。
義平は手放した石切大太刀を持って、
「間抜けが。重量武器は攻撃力があるが、速さに劣る。これぐらい猿でもわかる」
と言って、重盛の両足を斬りつけた。
「ぎゃあぁあぁあーっ‼」
痛みのあまり、重盛は断末魔を上げた。足は真っ赤な血しぶきと共に1メートル吹き飛ぶ。
首を取られる! 覚悟を決めた重盛は目をつぶった。が、義平は重盛を殺すことなく、石切大太刀の切っ先を目の前に近づけ、
「貴様なぞ殺す価値も無い。屋敷にでも戻って無能な父のお守りでもしてろ」
と言い残し、両腕も斬って重盛を守る兵士たちの方へ蹴とばした。
3
勝った義平は、内裏の階に腰掛け、休んでいた。
──内裏は守れた。あとは父上と頼朝が勝ってくれれば、天下はこっちのモン。
正直なことを言えば、自分も六波羅の決戦で戦いたかった。が、あの親父のことだ。好きなようには戦わせてくれるわけがない。
それに親父は、最初に生まれた俺よりも、正妻との間に生まれた二人目の弟の頼朝の方が可愛がっている。無理もない。あいつは特別なのだから。でも、やはり先に生まれたお兄ちゃんとしては、全然面白くない。何で正室から生まれただけで特別扱いされているんだと考えると、腹の底から少し歳の離れた弟の存在が、憎く、妬ましく感じられる。
──だから、剣を振るうんだ。
剣を振るい、武功をあげれば、誰かが自分を認めてくれる。頼朝の代わりでしかない自分は、そうすることでしか生きられない。
(でも、今から行っても怒られるだろうな……)
そう思い、冬晴れの空を見上げようとしたときに、
「若君、報告いたします」
郎党の一人がやってきた。彼は階に座っている義平の目の前で膝をかがめて言う。
「源光保が裏切り、平家方に着きました」
「何ィ!?」
平家軍の大将を倒し、有頂天になっていた義平の気分は、一気にイラつきへと転じた。
(殺す)
義平は脇に置いていた石切大太刀を持ち、廃墟同然となった内裏を出た。裏切り者の光保を殺すために。
目の前にいた雑兵たちを、巨大な大鉾とも見える大太刀を軽やかに振り回し5人、10人、15人と薙いでいく。
恐れをなしたのか、雑兵たちは刃をきらめかせるだけで、攻撃を仕掛けずに静観している。
「来ねぇのか、なら──」
こっちから行ってやる。義平は再び石切を振り回し、道を切り開いた。
道を切り開いている途中、馬に乗った唐人風の服を着た鉄の棍を持った男が、義平の目の前に現れた。教盛だ。
教盛は血で真っ赤に染まった大太刀を見て、
「貴様、義平だな!?」
と聞いた。
「ああ、そうさ。あんた、平教盛だろ?」
「おう。もうここは包囲されている。戦うなら六波羅でやろうぜ」
「その方が面白れェ。今の俺はとても殺しがしたくてたまらねぇからな」
義平は教盛と軽く一戦を交え、六波羅へと向かった。




