第68話 平家軍の襲撃③─忠義とすれ違い─
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「間に合え......」
清盛は100騎の兵をかき集めて、六条の源氏屋敷を目指した。
兵士たちの中には、籠手と脛当てだけをつけた簡易な武装でまず先に駆けつける者、あくびをしながらついていく者、眠いのにと愚痴をこぼしていく者まで三者三様であった。
近くで兵士たちの雄たけびと金属が打ち合う音、矢が飛ぶ風切り音が聞こえる。
音のする方には、松明の明かりに照らされ、かすかに見える赤旗と白旗が見える。赤旗には揚羽蝶の家紋が、白旗には笹竜胆の家紋が入っているので、どちらが源氏軍で、どちらが平家軍かの見分けがつきやすい。
源氏屋敷に近づけば近づくほど、雄たけびと戦いの音が大きくなっていく。
その中に混じって低い獣の咆哮と何かが崩れ落ちる爆音が聞こえた。同時に破壊される屋敷の築地。
崩れ行く築地からは、爬虫類型の宇宙人のような怪物とそれを殴り飛ばす教盛の姿があった。
爬虫類型の宇宙人のような怪物は、気を失うと同時に直垂を着た少年の姿へと変化した。
得意気に教盛は、
「殿、源仲家という者を生け捕りに致しました」
と目の前にいる清盛に報告した。
「お、お前……」
震える手に力を込め、清盛は思いっきり平手打ちをして叫んだ。
「なんてことをしてくれたんだ!!」
青筋を浮かべて怒る清盛に、教盛は声を張り上げて返す。
「兄上、源氏を排しておかねば、いずれ我が一門に害を成す!!」
「前にも言ったよな『平和を守る』のが俺たち武士の存在意義だって」
「でも、お前、武家の棟梁になるんだろう? なら、源氏と平家は本来別の一族であるのはわかってるよな!?」
「……」
清盛は黙った。正直いつかは義朝と戦わなければいけなくなる。その覚悟がついていなかった。
自分に義朝は殺せない。仮にその時が来たら、自分にできるであろうか?
「気をつけて!!」
二人の重盛は叫んだ。
気絶していた仲家は変化をした。2本の足で立つ首を長くしたトカゲにも似た姿に変わった。
獣の姿になった仲家は、大きな咆哮を上げ、清盛と教盛、重盛を睨み付けた。
「待て、コラ!!」
教盛は追いかけようとした。だが、物凄い速さで繰り出した尻尾の鞭で吹き飛ばされ、そのまま逃げていった。教盛の兵士たちが馬に乗って追いかけたが、鋭い牙で嚙み砕かれてしまう者、地響きで馬が騒いで落馬する者などが続出し、そのまま逃げられてしまった。
「何だ、あの生き物は!?」
清盛は源氏の一族と思わしき少年が変身した謎の生物について考えた。
「あれは龍ですよ」
重盛は答えた。
「絵図で見るものと違うでないか?」
「龍にも位列がありまして、一番上に五行の力を併せ持つ青龍、赤龍、木龍、白龍、黄龍、そしてそれと同格の黒龍がいます」
「ほう」
「あの少年が変身したのはおそらく、龍の中でも下級のものであったと思われます」
「そうか」
五行の龍と黒龍がいるのはわかった。だが、下級の龍を龍と呼んでいいのか清盛は戸惑った。どちらかといえば、龍というよりは、記紀神話や渡来品として宋国から入ってくる鰐というべきではなかろうか? だが、このことについて考えるのは後でいい。今は、義朝の無事と忠清を止めることが先決だ。
「それよりも、忠清を探さないと」
「そうだな。あと、義朝も心配だ」
清盛と重盛、教盛は、忠清のもとへと向かった。
2
清盛たちは六条の源氏屋敷で義朝を探した。
屋敷の中には、血の川で倒れて死んでいる兵士たちの死骸がいくつもあった。そこから発する血の臭いに酔いながら、清盛の軍勢は義朝と忠清を探した。
兵士の一人が、母屋の下の庭で倒れているのを見かけたそうなので、清盛たちはそこへ向かった。
報告どおり、義朝は忠清とともに白州の下で倒れていた。両者ともに深い傷を負っている。
清盛は鬼切丸片手に倒れている義朝の元へと駆け寄った。
「清盛か、どういうことだ!?」
苦しそうに白州に横たわっていた義朝は聞いた。
「俺は何も関係ない。忠清と教盛が、全部やった」
「だろうと思った。お前がそんなことを命じるほど図太いヤツじゃねぇのは、俺が一番よく知ってるからな」
「そうか」
「全然そんなことは無いさ。おかげでお前を危険な目に晒してしまったから」
清盛がそう言おうとしたとき、
「悪いな。疑ってしまって」
意識を取り戻した忠清が目を開け、言った。
「忠清、お前も何てことをしてくれたんだ......」
倒れている忠清を、清盛は睨み付けた。
今にも忠清を殺しかねない清盛に、義朝は、
「許してやれよ。こいつも、お前のことを思って、こういうことをしたんだ。まあ、こっちとしては、いい迷惑だがな」
と笑った。
「こいつら、俺の命もなく勝手にやったんだぞ!!」
「羨ましいぜ。こうしてお前のことを思って行動してくれる仲間がいるなんてよ。そして、誰よりも強い」
「どうしようもない奴らだけど、褒めてやってくれて、ありがとな」
周りを見渡して清盛は、
「ひとまず、二人の手当てを急ごう。手の空いている者たちは──」
と命じようとしたときに、大剣を軽々と持ち上げている義平と白銀の鱗を持った峰の大太刀を構えた頼朝の姿があった。
義平は大剣を片手で軽々と持ち上げ、
「お前が、平清盛か」
全力の殺気を纏った刀身の切っ先を平家の者たちに向けた。
(こりゃ、詰んだな……)
義朝の息子二人に囲まれた。一人は大剣を、もう一人は妖しい雰囲気を纏った七尺ほどの太刀を構えた少年……。いずれもただ者ではない。
「親父を殺すように仕向けたんだろ?」
「違うって」
清盛は必死で弁解した。
「言い訳は無用。殺す」
義平は大剣を振り上げ、清盛に斬りかかろうとした。だが、そこへ、横にいた頼朝が入ってきて、彼の一閃を防いだ。
「なぜ止める!? こいつは父上を殺そうとした張本人だぞ」
「辞めてください、兄上!! この人はそういう人ではありません」
「根拠は、どこにあるんだ?」
「なんとなくだけど、この人は優しい人だと思うから」
「だから、命を助けるのか⁉ 甘いな」
義平は軽々と大剣を左薙ぎに振った。
頼朝は飛び上がり、印を組み、呪文を唱えた。
「何だ、これは!?」
頼朝が呪文を唱えた後、義平の足元から蔓が生えてきた。
「鬱陶しいな」
義平は必死で体にまとわりつこうとする蔓を取り除こうとした。が、取っても取っても、蔓は地面から生えてきて、彼の動きを封じようとする。
蔓は彼の首まで伸びてきて、強く締めつけにかかる。
「兄上には少し黙っててもらおう」
そう言って頼朝は、蔓の力を強めた。
少しした後、義平は呼吸困難になった後、気を失って跡れた。
「何かわからないけど、ありがとう、少年」
突如起きた兄弟げんかに、清盛は命を救われた。
この後清盛は、手の空いている者たちに手当てや残党の逮捕を命じ、騒動を収束させた。




