第66話 平家軍の襲撃①─平家軍の一部の襲撃─
1
「義朝様、義朝様!!」
日付が15日から16日に変わろうとしていたころ。乱れた屋敷の中で義朝は、慌てた伊勢三郎義盛の声で目を覚ました。
「何だ、騒がしいな」
あくびをして義朝は目を覚ました。
目を開けた先には、ひどく慌てた三郎義盛の姿があった。
「どうした、義盛!?」
何があったのか、義朝は聞いた。
ごくりと唾を飲み込んだ三郎義盛は、低い声でこう答えた。
「平家方に不穏な動きあり」
「え!?」
平家方とは和解したはずだ。なのに、なぜ今さら軍勢を出した? よくわからない。
が、今ここは宴で警備が薄くなっていて、兵力も少ない。それにここには泊っている客人も何人かいる。安全のためにも、ここはどうにかしなければいけない。
「何があったか、聞かせてくれ」
「はい」
義盛は先ほど、清盛の弟である平教盛と家臣の伊藤忠清が、100人ほどの軍勢を率いて六条堀川にある源氏屋敷に侵攻していることを話した。
「わかった」
義朝は眠っていた兵士や雑色を起こした。そして、ここから避難するように伝えた。
2
義朝は客人の警備にあたっていないありったけの軍勢を小庭に集めた。そして側にいた三郎義盛に、こちらの軍勢はどれだけいるのか聞いた。
三郎義盛は、
「およそ40」
と答えた。
「畜生」
圧倒的に数が少ない。本来60人の軍勢がいるが、うち20人は客人の警護に回しているため、人数が少なくなっている。穴埋めに非戦闘員も動員しようと考えたが、この状況で出しても損害を大きくするだけ。勝つことは諦めた方がよさそうだ。
「急なことだから仕方がない。やるだけやるぞ」
そう言って義朝は腰に帯びていた鬼切丸を抜き、兵士たちに、檄を飛ばす。
「みんな行くぞ!」
兵を集めて半刻もしないうちに、平家軍はやってきた。拳一つで教盛は門を破壊し、兵を鼓舞し、源氏屋敷へと侵入した。
「斬り込み隊長は任せておけ!!」
義平は背中に背負った大きな刀を構え、迫りくる平家軍に斬りかかった。
平家軍の先陣は義平の大剣の餌食となり、血しぶきとともに生首となった。
「鬼切丸、力を貸せ」
義平の後ろに控えていた頼朝は、腰に佩いていた鬼切丸を抜いた。
鬼切丸は心臓の音にも似た不気味な音を立てて、六尺はあろう規格外の大きさの、峰に白く輝く鱗を帯びた大太刀へと変化した。
「去れ!!」
頼朝の放った斬撃は虚空をかけ、先頭に立っていた10人を真っ二つにした。
「妙な刀を持った小僧を殺せ!!」
頼朝は鬼切丸を構えた。
鬼切丸を中心に、ガラスの幕のような結界が頼朝の周りを覆った。
弾き返された矢は、放った味方の方へと弾き返され、ばたばたと倒れていく。
「鬼切丸か、俺にも貸せよ」
義平は剣を振って敵をなぎ倒していく頼朝に言った。
「兄上にその資格は、無い」
「ならば、奪うまで」
義平は持っていた大剣を振り上げた。
義平の全力の一撃を、鬼切丸でうける頼朝。
仲間割れが始まった。
「仲間割れとはいい気味だ」
戦う兄弟のもとへ、教盛は割り込んだ。
「人の戦いを汚すんじゃねぇ!!」
義平は大剣を大上段にかざし、教盛へと突撃した。
「青いな」
教盛は右手で掌底を作り、義平の前に突き出した。
「何も起きてねぇじゃねぇか。おまけに間合いから外れてる」
教盛の謎多き動作を義平は笑った。だが、その後血を吐いて倒れた。
「次はお前だ」
義平を容易く倒した教盛は、鬼切丸を持つ頼朝へと向かっていった。
(何だ、この感覚は!?)
頼朝に近づいたとき、教盛は気がどこかへ吸われている感覚がした。同時に、背筋が凍るような感覚もする。
本能でヤバいと察した教盛は、飛び下がった。そして呼吸を整え、再び立ち向かった。
頼朝は鬼切丸を八双に構え、防御態勢に入る。蹴りを入れたところで鬼切丸の切っ先で足を斬ろうとしたが、素早い教盛の動きで間合いに入られてしまい、攻撃が難しくなった。小刀に持ち替えて刺そうと考えていたところへ、仲家が間に入った。
「仲家、なぜここに!?」
突如現れた同居人に頼朝は驚いた。客人ならみんな避難しているはず。なのに、どうして加勢を?
「それはできない。お前は客人だ。ここから安全に逃げてもらう義務がある」
「これでも立派な武士。そして神仏より授かりし力を持っている。お前はここで死なれては困るから、この奇妙な術を使うオッサンは俺が食い止める。お前たちは残っている客人と非戦闘員を守ってくれ」
仲家は頼朝を狙って繰り出した教盛の攻撃をうけたあと、結界を解いて変化をした。
変化した仲家の姿は、爬虫類型人類のようであった。だが、手足の指が鋭い三本の鉤爪や尻に生えった太く長い尻尾から、幻獣である龍もしくは太古の昔地球を闊歩していた恐竜であるとわかる。
「貴様も化け物であったということか。見たところは半魚人と見た」
「いや、それが、ただの『半魚人』ではないんだね」
仲家は三本指になった手足を突き出し、かかってきた平家方の一般兵の胴体に風穴を開けた。
一般兵は血しぶきとともに鈍い音を立てて倒れた。胴丸を着込んでいた胴体には、前の三つの爪とかかとの跡の形の穴が空いている。
「なるほど」
教盛は龍の一種だと悟った。気分が高ぶってくる。
「燃えてきた」
勢いをつけ、教盛は異形の姿となった仲家に蹴りを入れた。
仲家はその蹴りを軽く受ける。
「そういえば、名乗りをしていなかったな。おれは源仲家。お前は何という」
「俺は平教盛。清盛の義弟さ」
名乗りを挙げた教盛は、
「喰らえ」
長く生えた尻尾を使い、仲家は思いっきり築地へと教盛を突き飛ばした。
3
屋敷の奥で義朝は指揮を執っていた。
100人対40人。明らかにこっちの方が分が悪い。うち2人は、忠清と教盛という平家きっての武者二人。こちらにも義平や頼朝、そして突如乱入してきた仲家という猛者がいる。だが、義平と頼朝は経験が浅いから、下手を打ってしまう可能性もある。
(撤退も考えるか)
籠城は無理だ。ここは一旦六条の源氏屋敷から逃げるほかない。
義朝は今いる30数名に対し、撤退を命じようとしたとき、横から物凄い殺気を感じた。
殺気の感じる方向を見ると、そこには両手に大刀を構えた忠清の姿があった。突き進む忠清には、討ち取ろうとしようとする者を寄せ付けないほどの物凄い鬼気を纏っている。
「首は頂く」
そう叫びながら、忠清は義朝の首を狙って斬りつけようとする。
「この前の二刀流剣士か」
義朝は鬼切丸を抜いて、忠清の繰り出す二刀をうけた。
「そうだ。貴様の郎党に邪魔をされて、仕留め損ねたな」
「そうか。調度いい機会だ」
忠清は持っていた刀で足を斬りつけようとした。
義朝は忠清の一撃を短刀で防ぎ、頭突きを喰らわせる。




