第49話 取り調べ
1
「みんな、待ってろよ。土産をたくさん持ってきたからな」
逢坂の関では、郎党を率いた俺は関所を超えようとしていた。
2年ぶりの帰郷。みんな元気にしてるかな、って胸を躍らせながら土産物をたくさん持って出たよ。
逢坂の関を超えて近江国へと入ったとき、後ろから蹄の音が聞こえた。
振り返ると、そこには胴丸で武装した盗賊の一団が向かっていたんだ。
盗賊のリーダーと思われる大柄で髭面の中年男は、俺の率いる一団に向かって呼びかけた。
「そちらは源義朝公家臣の北条時兼殿にあらせられますかな?」
「なんでお前ら俺のこと知ってんだ!!」
「荷物を下ろせば、ここから先は無事に通してやろうと思うんだがな」
「それは出来ねぇお願いだ。お前ら、やってしまえ!!」
俺は郎党に号令をかけた。
突然襲って来た盗賊の集団に、郎党たちは斬りかかっていく。
郎党たちの活躍もあり、盗賊の集団は盗賊の一団が棟梁と思しき中年男を除いて壊滅状態になっている。
「ぐっ……」
悔しそうな表情で太刀を握りながら、盗賊の長は時兼を睨みつける。
窮地に立たされた盗賊に向かい、俺は矢を構えて、こう問いかけた。
「さて、どうすんだ、盗賊さんよ? お前さんは一人だぜ」
矢を向けられ、命の危険を感じたのだろう。盗賊の棟梁は半泣きの状態で、
「ゆ、許してください」
と地に手をつけようとした。
「それでいい。もう二度と......」
するんじゃねぇぞ、そう時兼が言おうとしたとき、
「バーカ! 引っ掛かったな!」
と盗賊の長が叫んだのを嚆矢に、樹木に潜んでいた伏兵たちが一斉射撃を開始した。
「クソ、罠だったか」
俺は舌打ちし、
「荷物はいい。とりあえず京都へ......」
逃げるぞ、と号令をかけようとしたときに、後ろから矢を射られた。
「くそ……」
あまりの痛さに俺は、地面の上でのたうち回っていた。そこへ盗賊の仲間の一人がやってきて、俺の首元を思いっきり叩いた。
意識が徐々に混濁していく。めまいがする。そのまま俺は倒れてしまった。
「こんな感じか」
時兼は事件が起こる数日前に起きた出来事について語り終えた。
「ほーう」
「そして気がついたら、俺と常胤は牢に入れられていて……」
申し訳なさそうに時兼は言った。
「なるほど。常胤そっちはどうだ?」
常胤の方を向いて、正清は聞いた。
「ほとんど同じなんだけど、一応話しておくがこんな感じでした」
常胤は記憶を無くす直前にあった出来事を語り始めた。
2
そのとき僕は、六条の源氏屋敷の中にあった詰所を出て、南都経由で下総へと帰ろうとしていました。
「久しぶりの故郷。みんな元気にしてるかな」
当分の衣食や京で買ったたくさんのお土産を持たせて、鈴鹿の関を越え、大和から伊勢へと入ろうとしたときに、数十人の盗賊たちが道を塞いできました。
「な、なんだ、お前たちは!?」
武器を手に、僕は目の前の道を塞ぐ盗賊に用件を伺いました。
盗賊の長は、
「オッサン。積み荷を降ろしたらこの道を通してやるよ」
と答えました。
全く予想通りの回答に僕は、
「や、やるもんか! お前たち、やれ!!」
太刀を引き抜いて武器を持った兵士たちに命令し、盗賊と戦うことにしました。
戦闘はすぐに終わり、無事鈴鹿の関を抜け、大和から伊勢へと入ることができました。ですが、伊勢に入ってしばらくしたときに、大量の盗賊たちに囲まれました。
「また盗賊か」
再び武器を構え、盗賊の軍団と対峙した。だが、今度は数十人ではなく数百人くらいいる感じでした。
数百人対十数人。これではいくら訓練を積んでいるとはいえ、人数の差で押し切られて負けてしまう。そう判断した僕は、
「みんな、逃げるぞ。京都へ。帰省はまたお預けだ」
撤退をうながした。今は命が大事。勝ち目のない戦いはしたくないから。
とにかく逃げることだけを考え、馬を走らせました。ですが、途中で敵に馬の腹を突撃されて落とされ、気を失ってしまいました。
「それで、僕も気がついたら牢獄の中にいてというわけで」
「ほう。状況が似ているな」
関所を越え、畿内を出ようとしているときに盗賊に襲われる。一度は追い詰めるものの、伏兵が出てきて一気に盗賊側に有利になる。似ている。襲われた時の状況が。
このことから正清は、
(盗賊たちは、事前に源氏で弱い時兼や常胤が帰省することをどこかで知り、やったのではないか?)
と考えた。そうでなければ、通った道は別であるが、同時に襲撃を加えることなどできるはずがない。
また、どうやってその情報を入手したのか? ということも考えた。
一番考えられるのが、源氏一門及び家臣、もしくは千葉家や北条家の家臣の中に敵と通じている者がいることだ。前者だったら、考えられる人物については見当がついている。後者だったら、本当にわかりづらいので、あぶり出すのにかなりの時間と労力がかかる。
ちなみに兵力については、事前に盗賊に扮装させた下人や武者たちを集めてやったと考えるのが妥当か。
わからないことだらけの六波羅平家邸襲撃事件。ただ、わかったことが、二つある。一つは、
「時兼や常胤に犯行時の記憶が無いのは、精神に何かしらの影響を与える力を持った人間が口封じのために記憶を改竄した」
ということだ。それが宿禰によるものか、もしくは摂関家のドサクサに紛れて記憶を操る能力を奪った者やそれ以外の者、陰陽師の術によるものなのかはハッキリしないが。
そしてもう一つは、
「平家と源氏の連携をよく思わない者たちによる犯行である」
ということ。源氏に六波羅の平家屋敷を襲わせることで、相互に不信感を生ませ、源氏と平家を戦わせ、どちらも消耗しきったところで両者ともに滅ぼそうと考えている誰かがいる。それが摂関家なのか、信西なのか、それとも院なのかはわからないが。
調書を書き終えた正清は、
「本当にお前たちは、何も知らないらしいな」
と言って筆を置いた。そして、再び常胤と時兼を縄にかけ、
「少しの間待ってろ」
と言い残し、牢の鍵を再びかけた。
3
「今回の作戦は、半分失敗、半分成功だった」
東伏見の自邸で二条親政派の仲間たちを集め、集会を開いていた師仲は、前回の作戦について報告した。
時兼と常胤を拉致し、自身に仕えている侍と屍兵で源氏軍に偽装させ、清盛のいる六波羅泉殿を襲撃させる。このややこしい作戦の目的は、源氏の代表である義朝と平家の代表清盛との間に不信感を抱かせることが目的であった。だが、作戦を遂行したあと、清盛が報復に六条の源氏屋敷を襲撃した、もしくはそれに匹敵する話を聞かない。検非違使も河内源氏家の家長である義朝、実行犯である時兼や常胤を釈放したりで、事件として扱う気が全く無い。これが、半分の失敗。
半分の成功は、源氏や平家の一部の家臣や一門衆に、ヘイトを植え付けることができたことだ。清盛の弟教盛と郎党で侍大将の伊藤忠清が、源氏屋敷へ攻め込もうと清盛に提言したという出来事があったということを平家に送り込んだ忍びの報告で聞いた。
顔を真っ青にした竹内は、
「あいつらをなめちゃいけないぜ。武士といえども、中には俺たち、いや、俺たち以上に頭のキレるやつが何人かいるようだからな」
と言った。
「ほーう」
「特に清盛の嫡男平重盛と、義朝の乳兄弟鎌田正清には気を付けろ。あいつらは、俺たち同志の存在には気づいていなくても、平家と源氏との関係性が良くない状態でいて欲しい誰かがいることを察しているかもしれないからな。そして、問題は平清盛。あいつはバカだ。だが、奴の体には将門の魂がいる。何かのきっかけで覚醒されたなら、時を止めて、ここにいるほとんどは殺されてしまう」
「ま、将門だと!?」
伝説の怨霊の名前を聞いた師仲は、目を大きく見開いた。
師仲に続き、震え上がる他の同志たち。
平将門。
矢を弾き返し、触れた刀の白刃をもへし折る。そして、首だけになっても生き、胴体を探しに東国へと向かったという凄まじい生命力。
これらのことから、この名前は、京都の貴族たち、いや、都人にとって伝説でもあり、そして恐怖の対象にもなっている。それが時を止めることや自己再生能力によるものという事実を知っている人間は、一部の僧侶や神官、陰陽師、貴族や皇族ぐらいなものだが。
「まあ、心配するな、師仲。時を止められても、お前は動くことができる」
竹内は成親の方を向いて、名前を呼んだ。
成親は、はい、と返事をする。
「重盛の監視を怠るなよ」
「わかりました」




