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第47話 騒ぎの収束


   1


 清盛がいるであろう警備の堅かった場所へ、義朝は向かった。

「貴様、清盛様を殺しに来たのだな?」

 警備をしていた兵士たちは、一斉に腰に差している刀を抜いたり、持っていた薙刀の切っ先を義朝に向けたりした。

「違う」

 強い口調で、義朝は否定した。

「では、ここまで軍勢を率いてきた理由はなんだ?」

「清盛を助けに来た。それだけだ」

「屁理屈を言うな」

 得物を構え、警備をしていた兵士たちは、義朝に襲い掛かろうとした。

「結局こうなるのか……」

 義朝は片手に持っていた鬼切丸を構えた。

 清盛を守る下人たちは、一斉に得物を構え、声を上げて義朝に襲い掛かってきた。

 襲い掛かる清盛の護衛を、峰で次々と殴り倒していく義朝。

 義朝の異次元の強さに、清盛の身辺を守る護衛たちは、次々と倒れていく。だが、それでも懲りることなく、義朝に攻撃を仕掛ける。

 それを繰り返しているところへ、胴丸に身を包んだ清盛の弟経盛がやってきた。経盛は力いっぱいに、

「お前ら、辞めろ! 兄上が、やめろ、って言ってるよ」

 と叫んだ。

 経盛の叫び声を聞いた護衛たちは、一斉に義朝への攻撃を辞め、経盛を見る。

 経盛は鬼切丸を持っている義朝に、

「あんたが源義朝か?」

 と聞いた。

「ああ」

「兄上が、死にそうなんだ。お前に来いって言ってる」

「わかった。今行く」

 経盛に案内され、義朝は清盛の元へと向かった。


   2


「義朝なのか?」

 朝の光が塗籠に作られた窓から差す中、瀕死の清盛は痛々しい声で聞いた。

「ああ」

「ありがとう。助けに来てくれて」

 今体に残っている力を使い、清盛は義朝の手にそっと触れた。

 清盛の手を義朝は掴み、

「生きてて、よかった」

 と言って涙を流した。友が生きていていた。それだけでもうれしい。けれども、同時に、友の危機に助けに行けなかった自分の無力さ、異変にすぐ気づけなかった自分の無能さに打ちひしがれた。

「おれも嬉しいよ」

 同じく友の助けに清盛は、青白くなった戦塵にまみれた顔に笑顔を浮かべた。

「ごめんな。遅れてしまって。そして忠清が勝手なことをしてしまって」

「義朝は悪くない。もう、おれはここまでみたいだ」

「そんなこと言うなよ」

 諦めきった清盛のもとへ、

「父上、遅れました」

 重盛がやってきた。

「お、お前が父上を殺そうとしたんだな!」

 怒りに満ちた目つきで重盛は、腰に差していた刀に手をかけた。

「落ち着け、重盛。俺はお前の父を助けに来ただけだ」

 必死に弁解する義朝。

 しばらく黙り込んだあと、重盛は、父を助けに来てくれたことに対する感謝を述べた。

「父上、今治します」

 重盛は薬師如来の真言を唱え、父の負った傷を治そうとした。

 だが、重盛が力を使おうとした瞬間、痛みと傷が塞がっていった。1分もしないうちに傷は塞がり、先ほどのダメージが無かったかのように清盛はピンピンしている。

「どういうことだ!?」

 突然傷が治ったことに清盛は戸惑った。自分に特異な力は備わっていないはず。同時に、義朝から聞いた昔話を思い出した。もしかして、死にかけたから、とうとう神通力みたいな特殊な能力にでも目覚めたか?

「そんなこと、あり得るのか!?」

 突然起きたあり得ない出来事に、義朝も混乱している。

「どうやら奇跡が起きたみたいだな」

「ああ」

 清盛がうなずいたとき、頭痛がした。

 頭痛が止んだあと、脳内から、

『清盛、久しぶりだな』

 と声がした。

「その声は!?」

 その声の持ち主を清盛は知っていた。死の淵から清盛を助けた平将門のそれであったからだ。

 将門はうれしそうに、

『覚えていてくれたか。お前の守護霊、いや本来の体の持ち主平将門だ』

 と答えた。

「将門、お前か」

『貴様今回も随分と派手にやられたようだな。私に早く体を譲り渡せば、こんな傷ごときすぐ治るうえに、あれだけの雑魚も時を止めてすぐに片づけられるものを。あと、あれは奇跡などではない』

「じゃあ、何だって言うんだ?」

『私の力だ。お前も知っているだろう。私は憎き藤原秀郷に矢を射られたあとに首だけになって坂東を目がけて飛んでいった話を。あれはこの力を使っていたからさ』

「お前に頼れば、武家の棟梁にもなれるんだな?」

『もちろん。いや、武家の棟梁というしみったれたものではなく、公卿や関白、この国の新たな天皇みかどにだってなれる』

「そうか。なら、お前に頼らずに、俺は武家の棟梁になってやるよ」

 強い口調で清盛は言うと、将門は、

『笑止。お前の体はいずれ体はもらう。そのときは覚悟をしておけ。平清盛』

 と嘲笑った。そして、清盛の脳内に聞こえた将門の声は消えていった。

(将門? 一体何がどうなっている?)

 側で清盛が脳内の将門と対話しているところを見ていた義朝は、そんなことを思った。先ほどの大怪我で、清盛の頭がおかしくなってしまったか? いや、狂っているのは自分なのかもしれない。けれども重盛にあわてる風な様子は見られない。

「大丈夫か?」

 ひとまず、義朝は苦しそうにしていた清盛に声をかけた。

「ああ。気にするな。この戦いで疲れたのかもしれないな。しばらくゆっくり休むことにするよ」

「それがいい」


   3


 事件のあと、近隣住民の通報を受けて、検非違使がやってきた。もちろん、清盛たちが当初予定していた熊野詣は中止である。

 検非違使の取り調べに対し、義朝は、やっていない、と答え、昨日あった一日のことを話した。実行犯である常胤と時兼の証言とは大きくかけ離れていたため、検非違使の役人たちを大いに悩ませた。

 検非違使の役人は、被害者である清盛とその一門も呼び出し、尋問を行うことにした。

 証人として呼ばれた清盛と家貞は、普段義朝との関係は良好で、自分たちのことを助けに来てくれたことを話した。時子は、何がなんだかよくわからない、と答えた。だが、教盛と忠清は、源氏による一方的な襲撃だと主張していたが。

 検非違使は義朝に罪はないと判断し、釈放した。代わりに実行犯である常胤と時兼らに謹慎を申し付けるという形で、源氏軍の六波羅平家屋敷襲撃事件は幕を閉じた。

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