第34話 鎌倉奪還戦争⑩─土の巨人─
1
突如現れた土の巨人に対抗するため、体勢を立て直すべく逃げる俺たちに、五郎は中に入っていた大岩を落としてきた。
大岩はものすごい早さで俺たちの方へと落ちていく。
「どうやら俺の出番なようだな」
「広常、どうするんだよ」
「まあ、見ときな」
薙刀を構えた広常は、薙刀を振って、岩を切り裂いた。
岩はきれいに二等分され、俺たちの頭上をよけるように落ちた。
「おお!」
そう俺が聞くのを無視し、広常は上下に刃のついた薙刀で岩を斬り落とした。
斬られた岩は空中できれいに真っ二つに切断され、地面に落ちていく。
「上総広常に任せとけ」
大岩を斬り落とした広常は、自慢げに薙刀を振り回しながら言った。
「ありがとう」
俺はお礼を言った。もし広常が来ていなかったら、この場で大岩に押しつぶされてみんな死んでいた。
「おう」
と広常は自信満々に答えて、
「さあ、どんどん来い」
薙刀を振り回して、土の巨人に向かって薙刀の切っ先を向けた。
2
広常が大岩を斬ったことにより何とか生存できた俺たちは、滑川の対岸にあるお堂に逃げ込んだ。ここには人智を超えた力を持つ者に詳しい正清がいる。正清なら、あの土の巨人の倒し方を何か知っている。そう思ったからだ。
土の巨人は地ならしをしながら、俺を探している。
「さっきの揺れはやっぱり五行の土の力を持ったあいつだったか」
土の巨人が出てきたことを教えたとき、正清はいつもの冷静な感じで返した。
せかすように、俺は土の巨人のいい倒し方がないか聞いた。
困った表情で正清は、
「五行の力はすなわち『自然の力』。どう足掻いても勝てるわけがない」
と答えた。
「どうすりゃいいんだよ!」
「草木を操る力を持つ者がいれば、土の力を持つ者は瞬時に倒せるはず」
「結局そうなるのか」
「お前にそんな力がないのはわかっているが、それでも、諦めるのはまだ早い。義朝、さっき渡した札はあるか?」
先ほど正清からもらった札があるか確かめるべく、俺は巾着袋に手を伸ばした。
幸運なことに、札はしっかり巾着袋の中にあった。
「あった」
「よし。作戦としてはこうだ──」
正清は作戦の内容について説明した。
一つ目の作戦は、浜へと土の巨人を引き付けてそこで戦う。そして何としても海へと引き付けて土の巨人を弱体化させる。そして異能封じの札を相手に貼り、力を奪う。二つ目は体内に侵入し、中から破壊していき、核となっている異能者を殺すというものだった。
ここまではまだ現実的な作戦だった。だが、三つ目の作戦は、
「三つ目はお前に備わっている力が覚醒するか」
というものだった。
「俺の力!?」
俺には正清のように特別な力は備わっていない。鬼切丸を持ったことがあったが、何も起きなかった。
当時まだそうした術者の存在を心から信じていなかったから、継承者にはなれないんだな程度の認識でいた。しかし、今になって思えば、そうした力に関して、自分には縁がなかった。そう思うことにしている。
「源氏一族には数代に一人、特別な力を備えた者が生まれる。源経基はその力を使って、時を止める力を持つ平将門をこの世から葬ることに力を貸した。いや実際はその力で倒していたりな」
「ほう」
この世界と異世を結ぶ力。時を止める力を持つ平将門をこの世から葬り去った。よくわからないが、とにかくすごい力なのは俺にもなんとなくわかった。
「一番簡単なのは、海へと引き付けて倒すか体内へと入り込んでそこからやること。それしかない」
「わかった」
立ち上がった俺は、
「行くぞ」
と言った。
「おう」
義明、広常、時兼、祐継らは立ち上がり、再び戦闘の準備を整えた。
準備が全て整った夕方。俺たちは作戦を実行すべく、再び滑川を超えた。夕焼け空ということもあってか、逆光で黒く見える土の巨人は大きく見える。
3
作戦実行に移った。
布陣としてはこうだ。
まず、囮として俺が出てくる。そしてそのまま南下し、義明や時兼のいる部隊のいるところまで、土の巨人五郎を追い詰める。そこで義明や時兼の率いる弓矢部隊によるありったけの矢での一斉射撃でどうにかしようという作戦だ。ちなみに矢には毒が塗られている。その毒を土に染み込ませ、五郎を仕留めるのだ。
五郎は地面を鳴らしながら、俺を探している。
「源義朝はここにいる。逃げも隠れもしない!」
俺を探している土の巨人に向かって、俺は叫んだ。
土の巨人は俺を見つけるや否や、走って向かってきた。作戦は順調に進んでいる。
山の中にあった石を、土の巨人は俺にぶつけてきた。
石つぶてを弾きつつ、俺は南へ向かって馬を走らせる。
体内の石つぶてが尽きてきたと思われるころに、五郎は大岩を出してきた。
「岩とかそういうのは俺に任せとけ」
広常は俺の後ろに出て、次々と繰り出す大岩を斬っていった。
当たらないせいなのか、次々と岩を体から出してくる五郎。
薙刀を風車のように振り回しながら広常は、
「どんなにすごい攻撃でもな、当たらなきゃ意味なんてねぇ」
自信満々気に言った。
4
由比ヶ浜の海岸まで引き付けることには成功した。だが、ここで予想外の事態が起きた。
「今だ、一斉射撃を食らわせろ!」
由比ヶ浜まで来たとき、作戦通り義明は弓矢部隊に号令をかけた。自身も残り少ない矢を手に取り、一斉射撃を土の巨人五郎に食らわせる。
一斉射撃により刺さった矢は、土でできた体の中に次々と刺さってゆく。
「やったか?」
全ての矢を撃ち果たした義明は、満足げな表情を浮かべて土の巨人を見た。
先ほどまで大きな地鳴りを立てて進んでいた土の巨人五郎は制止している。毒矢の効果が、守っている土を伝って中の五郎に効いてきたのか?
「中にいる五郎を討ち取るぞ!」
動きを止め、勢いづいた義明は、土の人形に守られた五郎を討ち取るべく、弓矢部隊に号令をかけた。
刀を抜き、五郎の体を削ってゆく。
ある程度削ったとき、石つぶてや岩に守られた大きな球体が出てきた。
「五郎、覚悟しろ!」
義明率いる弓矢部隊は弓矢から腰に帯びていた刀に持ち替え、石の結界に守られた五郎を斬ろうとした。
石の結界はボロボロ崩れた。中から水干の上に脇楯と籠手をつけた五郎の姿が現れた。
「やってしまえ!」
物具を取って構えた兵士たちは、五郎に斬りかかった。だが、同時に突然地鳴りが起きた。
混乱する兵士たち。
しばらくしたあと、兵士たちの足元が割れた。
悲痛な叫び声を上げながら、兵士たちは地面の底へと落ちていく。
「な、何が起きたんだ……」
刀を片手に持った義明は、呆然と立ち尽くしていた。
俺も何が起きていたのか、よくわからない。
「そんな攻撃で、私が恐れをなしたと思ったか?」
体を震わせながら、刀から弓矢に持ち替えた義明は、矢をつがえた。
首を狙い、矢を放った。
つんざくような音が、大きな月が出て藍色から濃紺に変わっていく空の中に駆けていく。
だが、突如土の壁が出てきて、義明の放った矢を遮った。
「クソ」
方向を変え、義明はまた矢を放とうとした。
矢を弦につがえようとしたが、矢筒には矢が残っていなかった。
「こうなったら……」
弓を置いた義明は、腰に差していた刀を抜き、五郎に斬りかかった。
五郎に近づいた。相手は抵抗してくる様子がない。このままいけば討ち取れる。
斬れそうになったとき、突然義明の目の前に土でできた武者たちが取り囲んだ。土の武者は10人、20人と増えていった。
「なんなんだよ、おい」
混乱しながらも、太刀を振って抵抗する義明と生き残った武者たち。だが、土の兵隊の人数の方が多いためか、徐々に押されていく。
「面倒なことになった」
馬を出し、俺と広常は義明の救援へと向かった。だが、後ろ側から土でできた兵に取り囲まれた。
「どうしても行かせるつもりはない、か」
再び持っていた得物を構え、俺と広常は対峙した。
土の兵士は斬っても崩しても元通りに復元される。生身の人間とは違い、一人ずつ倒していってもキリがない。
「どうすればいいんだよ!」
いらだつ広常。がむしゃらに薙刀を振り回して土の兵士を倒していく。
俺たちが苦戦している間に、義明のいる方向から断末魔が聞こえた。同時に義明の方にいた土の兵たちがこちらへ押し寄せてきた。
「畜生、厄介なのが増えやがって」
きりがない。倒しても倒しても五郎の作り出した土の兵が押し寄せてくる。倒しても元に戻るからたまったものではない。
「えーい、相手にしてるのがバカバカしい!」
倒せない相手と戦っていても意味がないことを悟った俺は、土の兵の中を突っ切っていくことにした。
「広常、後ろは頼んだ」
「おうよ」
広常に後ろを任せ、俺は土の兵たちのいる場所を抜けた。
(待ってろ、義明、時兼)
絶対にやられてるんじゃないぞ。そう心の中で祈りながら、俺は二人を助けるべく向かった。
「そ、そんな……」
まさかとは思っていたが、義明は倒れていた。
息があるかを確かめてみる。
息はもう無かった。俺が来るのが少しでも早ければ。俺がもう少し強かったら。義明の命は救えた。でも、俺が来るのが遅すぎたがために、弱すぎたがために、義明はこのような目に遭ってしまった。
「仇は必ず取るからな」
涙をこらえながら、俺は五郎の方へと向かった。




