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第32話 鎌倉奪還戦争⑥─源義朝VS源義広─


   1


「行かせはしないぞ、義広」

「何すんだよ兄貴。本気で殺す気か?」

 唇を震わせながら、義広は言った。

「そんな半端な覚悟で戦場に出てたのか?」

 そう俺は問いただすと、義広は乗っていた馬の手綱を引っ張り、逃げ出した。

「逃げるなんて卑怯だぞ」

「バカだな。そんなんだから、罠に引っかかるんだよ」

 義広は手のひらを太陽にかざした。

「殿、危険です! あいつは白い光を放つんです」

 義広が神通力の使い手だというのだろうか。断じてそんなことはない。げんにあんな小物がそんな力を持っているとは思えない。

「貴様何をする気だ。手を太陽にかざしたって、何も起こりはせんぞ」

「それはどうかな」

 そう言うと、太陽に当たっていた義広の手のひらは、透明になった。

「貴様もその手の使い手か」

「ご名答」

 そう答えた直後、焦げくさい臭いがした。同時に、

「熱い!」

 まさかと思い、俺は胸元を見てみた。そこには、白い光が当たっている。

 白い光は煙を上げながら鎧を威している紐を焼いている。

「貴様、何をした!?」

「何を、って。そんな特別なことはしてないさ。太陽の光を利用して、お前を焼き殺そうとしたまで」

「そんなチンケな方法で俺を殺せると思うなよ」

「これでもチンケな能力と言えるか?」

 義広は透明になった手を枯草に向けた。

 先ほどの焦げくさい臭いと同時に、煙が上がった。そして光が当たっているところからは炎が出て、枯れている草を灰へと変えてゆく。

「なんだ、ただ火を起こすだけか」

「もしここに油がまかれていたら、俺が起こした火によってみーんな黒焦げになるぜ」

「その手があったか……」

 よく考えてみれば、確かにチマチマ焼いていても、鎧を破壊したり、相手を火傷させたりできるくらいの殺傷力しかない。だが、事前策として、地面に油樽を仕込み、それを枯草で隠しておいて、自分が形勢不利になったときに発火させれば、勝てる可能性は大いに高まる。自分も大やけどを負うことになるが。

(あいつの形成を不利にするためには、まず切り札である透明になった手の甲を斬り落とすしかなさそうだな)

 俺はひたすら義広の左手を狙って斬りかかった。

 透明になっている左手を壊されることを予測していたのか、義広は右手に持っていた長めの腰刀で防御をする。

「狙い通りだったか」

「そうだよ。今度は鎧で防御されていない場所を狙って撃とうか」

 義広は鎧の効果が及ばない首元を狙って、また透明になった左手から白い光を放った。

「熱っ」

 首元に熱さと激痛が走った。

「俺の力をバカにした罰だ」

「ううっ……」

 義広の持つ力を侮っていた。単純に発火するぐらいだと思っていたが、鎧を着ていない部分に当たるとこうも痛いとは思わなかった。攻撃が当たった部分を見てみると、皮膚がただれている。

「次こそは本気で殺すぞ」

 義広はまた、左手を上に掲げ、先ほどの白い光を繰り出した。

(落ち着け、何としてもあいつを倒す方法を考えるんだ)

 攻撃を寝転がりながら避け、俺は痛みをこらえながら起き上がった。そして兜の紐をほどいて、それを楯にしながら、義広を倒す方法を考えた。

「避けてばかりとは兄貴らしくないな。どうした、攻撃してこないのか? あ、もしかして、東国に来てから実戦に参加してないから弱くなりました、みたいな? だったら弟の義広様が、戦い方ってものを教えてやるよ」

 腰刀を鞘に納め、右手も透明にした義広は、両の手を天高くかざした。れいの白い光が、俺を狙ってくる。

 左手から放たれた一撃は、首を狙って撃たれた。

 この一撃は兜を盾にすることで何とか防げた。だが、右手から放たれたもう一つの一撃は、足にぶつかった。足が痛い。

 馬から落ちそうになったが、俺は何とか体勢を立て直し、そのまま駆け続けた。

(そういえば、あいつが攻撃をしているとき、必ず大空に向かって攻撃しているよな)

 俺は義広が白い光で攻撃をするときの法則に気がついた。れいの光を放つとき、必ず太陽に透明になった左手をかざしていた。もし太陽の光を集めて攻撃しているのであれば、それを遮ってしまえば奴を倒せるんじゃないか? と考えた。

 義広の攻撃の法則に気が付いた俺は、馬に乗ってその場から駆け出した。追尾しにくくするために、ジグザグに走行して。

「逃げんなって言ったのはお前の方だよな」

 義広の煽りに相手することなく、俺は戦場を駆け抜け、本陣におびき出した。途中白い光に撃たれもしたが、痛みと熱さ、そして焦げ臭い臭いを我慢して、周りを覆っている幕の紐を次々斬り落としていく。

 全て斬り終わったあと、俺は義広が攻撃しようとしたときに次々に投げ出した。焼けたものもあったが、狙い通り何枚かは義広の方へと飛んで行った。

「何をするんだよ」

 視界を奪われた義広は、

「お前の力は、透明になった手に太陽の光を集め、それによってできた熱で火を起こしたり相手に攻撃をしたする。違うか?」

 視界を奪われている義広は舌打ちをした。

「図星のようだな」

 視界を奪われ、攻撃ができない隙に、俺は義広に刺突を喰らわせた。

 白い幕は義広から出た血によって真っ赤に染まってゆく。

「お前、いろんな奴らと戦った経験ないだろ? 鎌倉殿名乗るんだったら、一度修行でもして出直して来い」

 刀を納めた俺は、景義を守るべく、先ほど景義が向かった場所へと向かおうとした。

(右肩が痛い!)

 何かが突き刺さったような痛みが右肩からした。下に着ている鎧直垂の感覚から、血が出ているのはなんとなくわかった。

 右肩を見てみる。

 右肩には、透明な水晶の礫が刺さっていた。

(まさか、あいつがやったのか!?)

 そんなわけないだろう。そう思いつつ、後ろを見てみると、両腕を水晶のように透明にし、よろよろと立っている義広の姿があった。

 義広は、

「はははっ、引っかかったな。俺が太陽の光を集めて撃つだけだと思っていたろ。ふせいかーい! 正解は、硝子を作り出す能力でした! ばーか」

 透明になった腕から、先の尖った水晶のような鉱物の礫を手から出し、義広は思いっきり投げつけた。

 右手に持っていた刀で俺は義広の飛ばしてくる透明な鉱物のつぶてを弾き返し、左手に持っていた腰刀で義広の左腕に腹部を突き刺した。そして力が使えないよう、正清からもらった護符を貼り付けた。

「力が、力がああああああっ‼ 貴様、どこからこんなものを持ち出した⁉」

 見苦しい泣き声を上げながら、義広はあまりの痛みにのたうち回っている。

「俺の郎党がお守りにくれたのさ」

「あいつか、正清か!! おのれ八咫烏め!!」

「貴様は殺す価値もない」

 右手に持っていた刀を納め、兜の緒を再び締めた俺は、馬に乗ってその場を離れた。小者ごときに時間を使っている暇はない。


   2


 義広を倒したあと、景義を助けに向かった。

 途中義明と遭遇した。周りには腹巻をつけたまま耳を削がれて殺された雑兵や、立派な鎧を着ているが首の無い侍大将の胴体があちこちに転がっている。

「義明、こっちも用が済んだようだな」

「ああ」

 義明の隣には、縄で縛られた祐親の姿があった。

 縄で縛られた祐親は、手足を必死に動かしながら抵抗している。

「といっても、やったのはあいつだがな」

 そう言って義明は右を向いた。

 そこには上下に刃のついた特徴的な薙刀を持った顔に傷のある大男が、雑兵を木の枝のように斬り落としていた。

 上下に刃のついた薙刀。顔に傷。大男。上総広常だ。

 雑兵を倒したあと、広常はこちらへやってきて、

「義朝、久しぶりだな」

 と楽しそうに挨拶をした。

「広常か。久しぶりだな」

「ああ。ちょうど義明が若白髪の餓鬼と戦ってたときに来たんだ。なかなかいい戦いだったぜ」

「それより、佐竹のやつは大丈夫なのか?」

 あのとき2万の兵を引き連れてやってきた佐竹義政が、どうなったのか、個人的に気になったからだ。

 豪快な笑い声を上げて笑ったあと、広常は、

「あんな雑魚にあれこれ心患う必要なんかねぇ。本拠地まで攻めた途端、泣いて降伏しやがった」

 自慢げに語った。

「ほう」

 ひとまず、佐竹が降伏したのは良かった。ここで大庭の軍勢と合流したら、さっき捕らえられた義広が奪還されて、確実に形成が逆転していた。

「今ごろ、千葉家の城に幽閉されてるだろうな」

「それよりも、景義はどうした? まだ10か11くらいの胴丸を着た餓鬼は見かけなかったか?」

「ああ、大庭のとこの餓鬼か。なら、向こうで戦ってる」

 広常は左を向いた。

 広常が向いた先には、大庭兄弟の姿があった。兄の景義は信眼、弟の景親は八双に構えて、互いに出方を伺っている。

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