第31話 鎌倉奪還戦争⑤─景義奪還─
1
「あれが、景親の陣か」
離れたところから、俺は景親の陣を見ていた。
大庭家の家紋が入った旗が春風にたなびく敵陣には、厳重な警備が敷かれている。俺たちが景義の奪還をしに来ると読んでのことだろう。
だが、幸いなことに、兵力はこちらの方が断然多い。
「行くのか?」
「ああ。男にはやらなきゃいけないときがあるからな。それに、今正清は療養中だから、細かな陣立てとかは立てられない」
「そうか」
「ここは、俺のやり方で正々堂々とやらせてもらう!」
「了解」
「よし、お前ら……」
俺は号令をかけようとしたとき、義明は、ちょっと待った! と叫んだ。
「どうした、義明」
「なぜかあいつらの旗の中に、お前のところの家紋が無かったか?」
「そうか?」
義明の言っていることが正しいかどうかを確かめるべく、俺はまた景親の陣を見た。笹竜胆の紋が紛れているかどうかを確かめるべく。
探しているところへ、
「悪りぃ、遅れっちまった」
時兼が帰ってきた。
「ご苦労だった」
「この様子だと、お前らも大変だったようだな」
「ああ」
「よし、お前ら。時兼も無事生きて帰って来たことだし、景親の陣地に突っ込むぞ」
「おう」
8000人の軍勢を率いて、俺は景親の陣地へと突っ込んだ。
2
陣地の前を警護している軍勢を破り、本陣へと入った。
本陣には、白装束に着替えられ、縄で縛られた景義と、白い糸で威された立派な大鎧を着た景親の姿があった。
景義の後ろには、胴丸を着た首切り役の郎党がいた。
首切り役の郎党は俺たちに景義の身柄を取られるまいということで、持っていた白刃を振り上げ、景義の首をはねようとした。だが、斬ろうとしたとき、
「うっ……」
矢が腕を貫いた。
首切り役の郎党が矢の飛んできた方向を向くと、そこには義明の姿があった。
矢を命中させた義明は、
「こいつに傷をつけると、今度は俺の弓がお前の首を貫くぜ」
と言い残し、第二の矢を構えた。
「そんな脅しに屈するか!」
首切り役の郎党は痛みをこらえながら、再び景義の首を斬ろうとした。
義明は構えていた二の矢をすかさず放ち、首切り役の郎党を殺した。
景親の本陣を守っている兵士の中に動揺が走る。
前線に立った俺は、大きな声で、
「景義、助けにきた!! 今行くぞ!! 大庭景親、お前の運もここまでだったみたいだな」
と叫んだ。
床机から腰を上げ、馬にまたがり出てきた景親は、
「大将のお出ましか」
と面倒くさそうにつぶやいた。
「ああ。俺はこの世のどこにいようとも逃げも隠れもしない」
「そうだ義朝、お前に朗報がある」
景親は手を叩いた。
すると、幕の奥から、景親よりも立派な大鎧を着た白馬に跨った少年武者が供を引き連れて現れた。
景親は馬上から降り、
「鎌倉殿のお成りだ、下がれ」
と叫んでひざまずいた。
号令が下ると同時に、周りにいた景親の郎党はひざまずいた。
開けられた道からは、白馬に乗った赤糸縅の鎧を着た少年武者が近習十数人を引き連れて現れた。
白馬に乗った少年武者は、
「兄貴、久しぶりだな」
俺の方を見て、わずかに微笑みを浮かべた。
3
「お、お前は......」
目の前に出てきたのは、弟の義広だった。
源義広。源為義の三男で、俺とは弟の間柄になる。だが、母親が違っているので、育った環境は全く違う。
「義広、なぜここにいる?」
俺はなぜ東国に義広がいるのか聞いた。
「なぜって? それよりも兄貴、俺、鎌倉殿になったんだぜ!」
「だからどうした?」
「兄貴は反乱軍として討伐することになったんだよ!」
「というわけだ。大儀であったが、ここで死んでもらおう」
景親は周りにいた兵士たちに、構え、と命令した。
「死ねって言われて黙ってやられる武士がどこにいる。やるぞ」
号令をかけ、俺は景親の軍勢と激突した。
「景義、今助けに行くからな。絶対に死ぬなよ」
指揮をしながら、景義のいる場所を目指した。俺の首を取ろうと群がる有象無象を斬りながら。
景義のところまで五間ぐらいのところまで来た。
「待ってろ‼」
景義目がけ、馬で駆けようとしたときに、
「久しぶりだな、義朝」
俺を目がけて祐親が飛び蹴りを入れてきた。
俺は祐親の飛び蹴りを避け、
「祐親、どけ。俺は急いでいるんだ」
と言って刀を構えた。
地面に着地した祐親は、
「どけ、と言われて、素直にどく敵がどこにいるって言うんだ」
俺が乗っている馬を蹴倒した。
「いいだろう。この前の戦いのケリもつけたいからな」
「行くぞ‼」
祐親は攻めに出た。
俺の一撃を流水さながらの動きでかわし、俺に蹴りかかってくる。
紙一重で俺は祐親の攻撃を避けたり受けたりして、攻撃の機会を伺った。
「お前、前よりも動きが鈍いぞ」
「ここに至るまでいろいろあってな」
「そうか」
よけようとした俺に、祐親は蹴りを入れた。
激痛が鎧越しに伝わってくる。もし鎧をつけていなかったら、痛いだけで済まないのは確実だろう。
祐親は起き上がろうとする俺に、何度も蹴りを入れた。
もうダメだ、と思ったときに矢が飛んできた。
祐親は飛んできた矢を素手で掴んだ。
「貴様の思い通りにはさせないぞ」
矢が放たれた場所には、矢を構えた義明がいた。
「何だと思ったら、三浦半島のド田舎にいる田舎侍のオッサンか。2対1もいいだろう」
「こいつは俺が足止めしておく、だから行け‼」
「わかった。任せたぜ」
叫び声がこだまする戦場の中、俺は景義を目がけて馬で駆けた。
「源義朝だ」
「絶対に討ち取れ‼」
景義の前に来たとき、打ち物を持った雑魚たちが俺に襲い掛かってきた。
「お前らいい加減にしろよな」
馬から降りた俺は、雑魚十数名を戦闘不能にし、景義の元へ向かい、縄を切った。
「どうして、私のことを助けに来てくれたのですか?」
解放された景義は、俺に聞いた。
「そんなの決まってるだろ。仲間だからだよ」
「なんか、あのときは」
「もう忘れろ」
後悔している景義に、俺は強めの口調で言った。今は戦場。過去の行いを悔いている暇はない。
「源義朝と大庭景義、その首もらった!」
俺と景義の首を狙う景親の下人5、6人が薙刀の矛をきらめかせながら襲い掛かってきた。
薙刀の柄を斬り落とし、一気に3人斬った。
薙刀が使い物にならなくなった下人は、腰に帯びていた刀に手をかけた。
景義は倒された下人から刀を奪い、抜く前に残った3人を斬り落とした。
倒した兵士から、俺は胴丸を外し、
「これを着ろ」
景義に渡した。
「ありがとう!」
「うまく逃げろよ」
胴丸を着ながら、景義は逃げた。
「あいつはここで殺させてもらうぜ」
胴丸を着ながら逃げようとする景義を狙い、義広は馬の手綱を引いて追いかけようとする。
「させるか」
八双に構えた俺は、力いっぱい左袈裟に義広に斬りかかった。
「うおっ、危ねっ」
俺の一撃を間一髪で義広は受け止めた。




