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第29話 鎌倉奪還戦争⑤─景親の居場所を暴け!(中編)─


   1


「お前たち、行ってこい」

 何匹か山鳥を作ったあと正清はそう言って空へと放った。

「正清、お前紙人形を山鳥にしたけど、どっから出したんだよ?」

 先ほど出てきた山鳥が何だったのかわからなかった俺は、正清に聞いた。

「あれは式神といって、陰陽師や神官、巫女が使う使い魔のようなモノだ。僧侶たちは『護法童子』なんて言ってる。式神は術者によって形が違っていて、犬だったり猫だったりする感じか。まあ多くの術者は空を飛べる鳥の形をしたものを作っている感じなんだがな。高等な術者ともなれば、自身の分身を作り上げることもできる」

「へぇ……」

 何でもあり過ぎて、よくわからない。素人の俺からしたら、どうすればいいか聞くのと、へぇ、と返すぐらいで精一杯だ。

「しばらくの間、ここで待っているとしよう」

 正清が放った山鳥の式神が戻るまで、俺たちは敵味方の屍が倒れる大庭邸で待つことにした。もちろん敵襲に用心しながら。

 このまま待つこと四半刻ほどが経ったころ。

 正清が出した山鳥が戻ってきた。射貫かれでもしたのだろうか、出てきたときは30匹くらいいた山鳥の式神は5匹に減っている。

 山鳥は鳴いた。

 山鳥の式神の鳴き声に応ずるかのように正清はうなずいたり、結界の向こう側にある景色がどのようなものだったかなどの質問をしていた。

 俺の耳にはただの山鳥の鳴き声にしか聞こえない。

 このことから、俺たちのように力を持たない者たちには聞こえない仕様になっていることは確かなようだ。いや、もしかしたら、主人と従っている式神の間でしか、式神の言葉はわからないのかもしれない。

 式神との会話を終えた正清は再び俺たちの方を向いて、

「とりあえず、ここにはあいつらはいない。いるのは、滑川のほとりにある廃寺。そこに術者がいる。術者を引きずり出して、あいつらを俺たちの目にも見えるようにする」

「おう」

 俺たちは軍勢を率い、滑川を北へたどったところにある廃寺へ向かった。


   2


 廃寺は景親の屋敷から離れた場所にあった。外観はお寺というより、大きめの庵に近い感じに見受けられた。

「ここか」

「ああ。目の前に透明な膜みたいな壁がある」

 見えるのか? と俺は聞いた。

 正清は、ああ、とうなずいて、

「これはなかなか強い結界だな」

 頭を傾げた。そして、

「仕方ないが、この術を使うか」

 腰に差していた刀で手を斬った。

 手からは血がとくとくと出ている。

 湧き出る生き血を自分の刀にまとわせ、正清は呪文のようなものを唱えた。そして、

「破ッ!」

 と叫んで右袈裟に宙を斬った。

 正清が宙を斬ったあと、生暖かい風がお堂の中から吹き抜ける。

「これで、結界は破った」

 刀についた血をふき取り、納刀しながら正清は言った。

「こんな術、なんであのとき使わなかった?」

「見ての通り、この術は体への負担が大きい。他にも結界を破る術はいくつかあるのだが、この結界はそこそこ強いから、自分の力では破壊するのが難しかった」

「なるほど」

「術者を殺しに行くぞ」

「おう」

 俺と正清は、気味の悪いお札があちこちに貼られたボロボロの廃寺の扉を蹴破って入った。

 中には、12、3歳くらいの黒い狩衣を着た少年が印を組みながら、呪文のようなものをぼそぼそと唱えていた。

「景親に術をかけているのは貴様か?」

 俺は呪文を唱え続ける少年に、俺は尋ねた。

 無視して呪文をひたすら唱え続ける少年。

「あと、祐親の土人形を作ったのも貴様か?」

 以前から気になっていたことを、俺は聞いた。あんなことができる人間は、先ほどまで結界を張っていた術を使える人間であるこの少年しかいない。

 少年は無視した。

「どうなのかって、聞いてんだよ!」

 しびれを切らした俺は、大きな声で怒鳴りつけた。

 少年は呪文を唱えるのを辞め、振り返った。日に焼けていない青白い顔の、中性的な顔立ちの少年だった。

 振り向いた少年は、こうつぶやいた。

「ここに来るのはわかっていたぞ、鎌田正清、そして源義朝」


   3


「なぜ、俺たちの名前を知っている?」

 俺は少年に俺たちの名前を知っている理由を聞いた。

「そりゃあ、俺もお前たちと同じ、よそ者だからな。身元を言うなら、蘆屋道満の弟、といっていいか」

「ほう。名前は名乗らないスタンスか」

「陰陽師の俺が本名名乗ると思った? そもそも『蘆屋道満』というのも偽名みたいなもんだけどね」

 小馬鹿にするような笑みを浮かべながら、少年は言った。まだ声変わり前の子憎たらしい声ということもあってか、イライラは普段の倍以上に上がっていく。

 ここでイライラしても相手の思うつぼだろうということで、別のことを考えた。

 相手は蘆屋道満の弟。

 道満と聞いて、彼女の顔を摂関家の屋敷で一度見かけたことがあることを思い出した。

 肩のあたりで切りそろえた黒髪、真っ白な肌、吸い込まれそうなほどに黒く澄んだ瞳。そして、しゅっとした鼻筋と、甘く、柔らかそうだけど猛毒をたたえていそうな真っ赤な唇の長身の美女だった。歳のほどは、16、7くらいだろうか。

 子どもながらに俺は、その美しさに目を奪われた。同時に、禍々しさというか、何か人智を超えた何かを感じたことがあった。

 その蘆屋道満の弟が、目の前にいる。しかも、隙だらけ。見たところ確実に殺れる。この好機を逃したら、景義を救うことができない。

 覚悟を決めた俺は、刀を八双に構えて斬りかかろうとした。

「行くな、義朝!」

 正清は止めようとした。だが、今このときを逃せば、殺す機会を逃してしまう。

 そのまま、俺は道満の弟に斬りかかった。一の太刀に全てを込めて。

 道満の弟は、俺の一の太刀を避け、

「臨兵闘者皆陣烈在前……」

 印を結びながら九字を唱えた。そして、不動明王の真言を唱えた。

(なるほど。このまま隅っこへ追いやって首を取るか)

 この調子で俺は、道満の弟を名乗る少年の首を取ろうとした。

 だが、道満の弟は、斬られよう寸前に、

「破ッ!」

 と刀印を結びながら叫んだ。

 刀を振り下ろし、俺は道満の弟を名乗る少年を斬ろうとした。が、途中で体が動かなくなってしまった。

(畜生……)

 体を動かそうと思っても動かない。鉛の鎧をまとっているような重さと強烈な痺れが全身をくまなく覆う。

「だから『行くな』って言ったのに!」

 呆れ顔で正清は、ため息をついて俺の方を見た。

「貴様の大将には、少し術をかけておいた。どうやら何の能力もないようだな。解き方がわからないから、しばらく苦しい思いをすることになるだろうな」

「ほう。こうなることは予測済み。義朝、しばらくここで待ってろ」

 そう言い残し、正清は外へ出た。

「待て!」

 道満の弟は、正清を追いかけた。そして紙人形を取り出し、呪文を唱えた。

 紙人形は、山犬の形を取り、正清に噛みついてくる。

「式神か」

 正清は力を使い、周りの鉄を刃状にし、山犬の式神を切ってもとの紙人形に戻した。

「最初から力を使ってくるとはな」

「道満の弟相手に出し惜しみなんてしてられるか。それよりも貴様、何かを隠しているだろう?」

「ご名答」

 道満の弟は六芒星が染められた狩衣を脱ぎ、上半身裸になった。そして、白目が黄色になり、耳は頭の上の方へと向かい、犬のような耳になった。そして犬歯は牙へと変わってゆく。

「貴様も異能の者だったか」

「もちろん。俺は正直黒龍の力を継ぎたかった。だけど、姉貴との決闘に負けて、仕方なくこの力を手にしたよ」

「あの女が強いのは俺も知っている。貴様の力はなんだ?」

「それは……」

 爪を出した道満の弟は、

「『狼』の力さ」

 といって正清の首元を引っかいた。

 間一髪のところで、正清は攻撃を避けた。そして籠手をつけていない左腕に噛みつく。

「うっ……」

「八咫烏の一員である貴様だって知っているだろう。人間の知性と動物の野生の生命力と身体能力。この二つの力を併せ持つ動物の力を持った異能者の恐ろしさを」

「もちろん。ただ、頭の方も畜生にまで落ちぶれてなきゃいいけどな」

 正清は刀を離し、義明にした謎の焼き付ける攻撃をした。焦げ臭いにおいが辺りに充満する。

 人智を超えた何かを察した道満の弟は、すぐさま噛みついていた牙を離し、

「歴代の『鉄を引き付ける力』を持っている人間には、そういうこともできたな。危うく焼き殺されるところだった。だが、これで、貴様の攻撃も無効化できる」

 といって刀印を結んだ。

「ほう。結界を張れば、特殊な異能の攻撃の影響は緩和されるからな」

「陰陽師をなめんなよ。俺たちは、お前らのような人智を超えた者たちの力について書かれた資料を読み漁ってるんだよ。だから、八咫烏の神通力の使い手というだけのお前みたいなやつよりは、力のことについてはよく知っている」

 道満の弟は正清の脇の下を狙い、蹴りを入れようとした。

 籠手をつけている方の手で、正清は道満の弟が繰り出した蹴りを受け止めた。

「へえ」

 正清は戦いを傍観していた義明と祐継の名前を呼んで、手が空いてる奴らと一緒に景親の屋敷に行って、刀や長刀をありったけ持ってきてくれと頼んだ。

「そんなもの持ってきて、何するつもりだよ?」

 何をするかわからないので、その用途に疑問を投げかける義明。だが、戦闘中の正清は、

「いいから早く!」

 と強めの口調で言う。

「わ、わかった」

 切羽詰まっていることを察した義明は、手の空いている者たちを率いて、馬に乗って先ほどいた景親の屋敷へと向かった。

「面倒なことになってきそうだな」

 道満の弟は攻撃を辞め、深く息を吸った。そして、犬の鳴き声のような甲高い声で遠吠えをした。

「仲間を呼んだか」

「正解。お前の仲間がここへ来るときには、鎌倉の山に住んでいる狼たちがお前たちに牙をむいてくるだろう。正清、お前が必殺技を放とうとするときには、みんな狼に食われて骨だけになってるだろうな」

「そうか……」

 苦々しい表情で、正清は攻撃を避ける。


(八咫烏、必殺技?)

 意味が分からない。特に八咫烏は。

 必殺技については、話を聞く限り、正清の使う力でしかできない奥義であることはわかる。義明や祐継にありったけの打物を持ってこい、と言っていたことや、敵の様子からして、鉄を使った威力の高い術や技であることは確かだろう。

 戦闘の様子を見ながら、俺は一歩も動けずにいる。

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