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第23話 関東の義朝㉒─鎌倉奪還戦争開始─


   1


 目を覚ますと、俺は亥鼻城にある屋敷の一間にいた。

「起きたか!」

 喜びいっぱいの笑顔を浮かべた義明は、俺の手を強く握って

「おお義明、久しぶりだな」

「お前ずっと寝てたんだぜ」

「それよりもあいつを倒しに行かないと」

 布団から立ち上がった俺は、傷が痛む傷のまま広常を倒すべく立ち上がろうとした。だが、義明の近くにいた正清に、

「辞めとけ」

 と言われ、制止させられた。

「そんなことはわかってる」

「今行ったら、次こそはあの世行き」

「死ぬのが怖くて、武士なんかやってられるか」

 枕元に置いてあった刀を杖にして、俺は立ち上がった。だが、歩こうとしたときに広常に斬られたところが痛んで、倒れかけた。

「言わんこっちゃない」

 ため息を一つ、正清はついた。

 正清の左隣にいた時兼は、

「まああせるなよ。広常が逃げるわけじゃねぇんだしよ」

 と諭した。

「はやくケリをつけないと」

 傷が痛む身体を無理やり立たせようとしたときに、

「皆さんに報告があります」

 胴丸を着た下人が入ってきた。

「何だ?」

「佐竹と足利の軍勢がこちらへ向かっているとの情報。現在は隣接している豪族の小山、比企らが交戦中」

 淡々とした口調で下人は北関東であった出来事について語った。下総の北端で何かがあったとなっては、うかうかしていられない。休む暇を惜しんで兵を出さねば。

「いつまで持ちそうだ」

 正清がそう聞くと、下人は、

「兵力の総数からして、そう長くは持たないかと」

 と自信なさげな口調で答えた。

「そうか」

「それと……」

「何だ?」

 俺は聞くと、下人は重たい口を開けて、

「比企・小山連合軍の総大将は、大庭景義だそうです」

 と答えた。

「無茶しやがって」

 あいつらしいな。まだ青すぎるところが。

「離れていても、あいつは大事な俺の仲間だ。もう一度立ち上がって助けに行かないと」

 再び俺は立ち上がり、側に置いていた刀を持って立ち上がろうとした。だが、広常から受けた傷が痛んで、なかなか上手く立ち上がれない。

「お前が人のことを言える義理か」

 大きなため息をついて、正清は言った。

 倒れる俺の体を支えた義明は、肩を叩いて言う。

「ひとまず、上総介の説得は俺たちに任せろ。その間、お前は休んでてくれよ。何とかするからさ」

「ありがとうな」

 義明に介抱されながら、俺は再び床へとついた。


   2


「そういえば常胤」

「どう致しましたか?」

 木刀での手合わせを終えで休んでいるとき、俺は千葉を本拠地にしようと思っていることを伝えた。

 正直旅には疲れた。どこか落ち着ける場所が欲しい。

 持っていた木刀を置いて縁側に腰かけた常胤は、

「構いませんよ。千葉は港もあるから交易とかはしやすいです」

 と答え、

「けれども、守りは薄いうえに、北には佐竹と足利の脅威がありますが、その辺はどうするのですか?」

 と問いかけた。

「まあ、どうにかなるだろう。ほら、昔から言うじゃないか。『住めば都』って」

 そうだ。仮にこの千葉が俺にふさわしくない土地だったとしても、俺たちの手で作り変えていけばいい。東国の武士の都として。その方が、意義を失った鎌倉奪還よりもずっと効率がいい。それに、自分のせいで関係のない誰かが巻き込まれるのは、もう見たくない。

 小さな声で口調で常胤は、

「源氏の臣下の分際でこんなことを言うのは畏れ多いですが、やっぱり源氏の御曹司には、鎌倉が一番似合うと思います」

 と答えた。

「どうして鎌倉なんだ? もう俺には、鎌倉を奪い返す意味なんてないのに」

「鎌倉の方が、それに逃げて行った景義殿への信頼を回復することにもなるのかなって。ですから、私としては、鎌倉を目指して進軍してほしいです。私はそれほど強くはないから武功は立てられないかもしれませんが、兵力くらいなら出せます。だから──」

 地べたに膝をついた常胤は、

「もう一度、鎌倉奪還のために戦ってください。お願いします」

 と頭を下げた。

 頭を上げたときに見せた常胤の顔は、死の覚悟を決めた武者のそれだった。

「いきなりそんなことされてもなぁ......」

 困る。

 困惑している俺と土下座をしている常胤を見ていた正清は、

「せっかく根性なしの常胤がそう言ってるんだ。乗ってやれよ」

 と揺さぶりをかけた。

「でも、俺はもう疲れた」

「鎌倉を奪還し、再び源氏のものとすることが、離れていったあいつの信頼を取り戻すいい機会になると思うんだがな」

「信頼、か......」

 思い返せば、景義にはいいところなんて、何一つ見せられていない。負けて、負けて、負けて。とにかく負けてばかりの無様な姿ばかりを見せていた。負けてばかりいれば、信頼も信用も無くなるよな。

「たまには源氏の御曹司らしいところも見せてやれよ。今までだって、こうして困っていた奴らを助けてきただろ。一度無になったものでも、時間をかけてまた積み上げていけばいい。それがたとえ、元通りにならなかったとしても」

 正清は思い悩む俺にさらに揺さぶりをかけた。

 確かに俺は、困っているやつらを助けてきた。力にはなれないけれど。

 そしてもし仮に、失った景義の信頼を取り戻せるのなら、何もないところからでもいい。再び積み上げてきたものの結果が、前とは違うものであっても。

「仕方ない、やるか」

 重い腰を上げて、俺は縁側から立ち上がった。

「ありがとうございますっ!」

 さらにかしこまって、頭を下げる常胤。

「そうでなくちゃな」

 堅い顔に似合わない微笑みを浮かべる正清。

 鎌倉奪還の戦いの鏑矢が、このとき再び放たれた。


   3


 桜の咲き始める2月の終わりに俺たちは軍を出した。目的は、武蔵国への進出と比企・小山連合軍を支援するため。

 本来であれば、武蔵への進出は広常を味方につけてからやる予定だった。だが、広常は断固として味方になることを拒否し続けていたので、予定を変えて武蔵進出の方を優先する形となった。

 武蔵進出は上手く事が進んだ。

 武蔵の豪族豊島清経、比企掃部、そして領地である塩谷庄に逃げていた渋谷氏、熊谷氏が俺たちの味方になった。

 兵力がある程度そろったところで、改めて鎌倉を攻める計画を立てるため、味方となった武士たちを亥鼻城の小高い丘の上にある屋敷に集めた。

 俺とその諸将が座る円座の前には、鎌倉の地形が描かれた絵図と将棋の駒が置いてある。表にしてあるのが俺たちで、裏にしてあるのが景親の軍勢だ。

「少し不安だが、決戦の時が来たな。正清、説明をしてやってくれ」

 俺がそう指示をすると正清は、

「まず、俺たちと常胤殿、義明殿の合わせて5000騎は、景親の占拠している鎌倉へ入る。足利・新田対策は熊谷と葛西、豊島ら武蔵勢に任せよう。あと、常陸の佐竹は、千葉殿を筆頭とした房総勢で攻める」

 右手に持っていた扇で地図の上に置かれた将棋の駒を動かしながら丁寧に説明した。そして、何か質問はあるか? と尋ねた。

 時兼は手を挙げた。

「どうした、時兼?」

 持っていた扇で海の方を示した時兼は、

「でも、鎌倉をどうやって攻撃すんだよ? 三方は山、そして南は海じゃねぇか」

 と聞いた。

 そういえばそうだ。鎌倉は北、東、西を山に囲まれ、南には海がある。おまけに鎌倉へ入る道も少ない。守る側にとっては都合の良い土地と言っていい。

 再び正清は持っていた扇で将棋の駒を動かしながら、説明を再開する。

「海があることを利用するんだよ。相手は山から俺たちが攻めてくると想定しているだろうからな。だから、俺と義朝は軍勢を半分に分け、武蔵を離れる。俺たちは大船を経由して亀ヶ谷の坂から攻める。景親らはそこから陸路で俺たちが攻めてくると想定しているだろうからな。陸に戦力が集中しているところへ、海から義明と義朝の軍勢で由比ガ浜へ上陸する。そして景親の屋敷を襲撃し、景親の身柄を捕らえるなり首品を取るなりする」

「おお」

「海から攻めるという発想は斬新だな」

 正清の巧みな作戦に、坂東の武士たちは感嘆の声を上げた。

「他に質問のあるやつはいるか?」

 祐継は手を挙げた。続けて、

「相手が海から攻めてくることを察していた場合はどうするんですかね?」

 と述べた。三方を山に囲まれた鎌倉の弱点が海だと景親側がわかっていることも充分考えられる。そのとき、海からの攻めにどう対応する

「そういうときのために、誰かがあちらの陣営に潜り込んでもらいたい。あちらで攻撃するフリをして、機を見計らって寝返る。さすがに裏切者が出ては作戦に支障が出るだろうから、嫌が応でも攻撃を緩めなければいけなくなる。そこでできる隙を一気に突くんだ」

「了解」

 祐継はそう言うと、正清は説明を続けた。

「南武蔵勢と葛飾郡の東側の者たちの集合場所は武蔵と下総の境界にある浅草寺。各々の領地に帰ったら、戦闘の準備に入れ」

「はっ!」

「御意」

 

「最後に警告しておくが、万が一陰陽師や異能の者たちと出会ったときは逃げるように。俺からは以上だ」

 坂東武者の一同に礼をしたあと正清は俺の方を見て、

「義朝、最後に何か言え」

「えーっ」

「こういうのは大将であるお前から何か言わないと示しがつかないだろ?」

「仕方ないな……」

 渋々俺は、坂東武者の一同がいる前へ出てきて、

「みんな、来るべき決戦の時が来た。鎌倉を再び源氏の手に取り戻し、坂東を再び一つにする。行くぞ!!」

 と即興で考えたそれっぽい台詞を屋敷中に響く大きな声で言った。

「おーっ!!」

 南坂東に住まう武者たちの轟きが、城内、いや、千葉の村中に響きわたる。

 そして藤の花が咲き始める3月の終わり。俺たちは1万2000もの大軍を率いて、鎌倉を攻めることにした。

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