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第22話 関東の義朝㉑─上総広常─


   1


 安房へと渡った俺たちは、安西、神余かなまりといった豪族たちを味方につけて上総を縦断し、3月に下総へと渡った。

 俺の再起を聞きつけた下総の豪族 千葉常胤ちばつねたねは、5000騎の軍勢を率いて俺たちの陣へとやってきた。

 弱々しそうな見た目に合わない大鎧を着た青年は俺の前にひざまずいて言う。

「わ、私は千葉常胤。こ、こんな田舎者ですが、義朝様のお力になりたく、5000騎の兵を率いて参陣した所存」

「おお、5000人も連れて来てくれたか。頼もしい!」

「あ、ありがとうございまーすっ!!」

 うやうやしく常胤は義朝の前でひざまずいた。

「頼りにしてるぞ」

「はい。我が居城 亥鼻城いのはなじょうにて、屋敷を用意していますので」

「ありがとう」

 8000人の大所帯になった軍勢で、俺たちは亥鼻城へ向かった。


 常胤に招かれ、俺たちは亥鼻城の大広間に案内された。

 亥鼻城には屋敷が二つある。平地にある屋敷と丘の上にあるそれだ。平時は丘の下にある平地の屋敷に住まい、有事のときは丘の上にある屋敷に籠城し戦う。

 庭には白地に千葉家の家紋である星と三日月が染められた旗が春風にたなびいている。

「お前、上総介の親せきと聞いたが?」

「ええ」

 俺は常胤に、今すぐ上総介に取り次ぐことはできないか? と聞くと常胤は眉間にしわを寄せて、

「やめてくださいよ……。あいつは危険です」

 と震えた声で答えた。

「そこを親戚の力で何とか」

「辞めておいた方がいいですよ。あいつは源氏とか平家とかどうでもいい人間ですから」

「あいつはあなたの父為義を見限ってから、坂東の王を自称して、周辺の佐竹、小山、葛西といった武士たちに宣戦布告をしています」

「真面目に危険なやつだな」

 景義の言っていたことは、間違いではなかった。

 この日本から坂東を独立させるという発想は、まともな神経の持ち主のそれではない。精強な関東の武士たちをまとめ上げて朝廷と戦ったとしても、まず勝てない。古に力と石の鏃で朝廷と張り合った蝦夷でさえ、北へ北へと追いやられていったのだから。

 そして、親父のやってきたことは、想像以上に根が深い。

「でも、俺たちは今、兵力を必要としている。相手は1万以上の大軍勢を率いている。このままでは、負けてしまう。だから、四の五の言ってられないんだ」

 俺は頭を下げた。

 面倒くさそうな顔をした常胤は、ため息を一つついて言う。

「とりあえず護衛のための軍勢は出しますけど、あとは『自己責任』で頼みますよ」


   2


 万が一の事態に備えて、1000騎の率いて俺は、広常の屋敷へと向かった。

 源氏軍が兵を率いてこちらへ向かっているという報を聞いたのか、広常の方も兵を用意している。

「何の騒ぎかと思えば、流れの源氏の御曹司が兵を挙げたのか」

 床几にどっしりと身を構えた広常は面倒くさそうに言った。胴丸の向こう側からは、生傷がそこら中に刻み込まれた筋肉質な体が見える。

「違う。お前と話をしに来たんだ」

「へぇ」

「上総介、どうか俺に力を貸してほしい」

「この上総介に頼み事か。いい度胸じゃねぇか小僧」

 側にかけていた石突の代わりに刃のついた薙刀を持った広常は、

「おらぁ、正直源氏か平家かなんてどうでもいいんだ。おう、お前気に入った。よかったら俺と一緒に坂東、いや日本を盗ろうじゃねぇじゃないか? どうだ?」

 その矛先を俺の顔面に向けた。

 目の前では尖った薙刀の切っ先が太陽の光をうけ、白く輝いている。

 俺は大手を広げ、

「源氏か平家なんかどうでもいい、か。正直俺もそうだ。けれども、俺は自分を頼りにしている仲間を向見捨てることなんてできない」

 思っていることをそのまま言った。本音を言えば、俺も源氏か平家かなんてどうでもいい。敵同士ではなく、共に高め合う仲間だから。けれども、自分を頼ろうとしている人間を目の前にして、逃げようなんて芸当は俺にはできない。

「いい度胸じゃねぇか。この上総介広常に歯向かうとはよ」

 突きつけていた薙刀を構え、広常は斬ろうとした。やる気だ。

 覚悟を決め、刀の柄に手をかけた。だが、そのとき、そばにいた義明はすぐに刀を抜き、

「落ち着け、広常」

 広常を制止した。

 突然の戦闘が始まったことに、動揺する俺と広常の兵たち。

「おう、義明か。久しぶりだな」

 強張っていた顔に笑みを浮かべた広常言った。

「そうだ。俺だよ」

「義明、いい加減目覚ませ。源氏だ平家だ言ったって、どうせ俺たちを裏切るんだ」

「お前の辛い気持ちは、俺にもよくわかる。でも、今はそんなことを言っている場合じゃないんだ。だから、頼む。俺と義朝にほんの少しでもいいから力を貸すだけでいいんだ。な、俺とお前の仲だ。頼むよ」

「俺にだって、いくらお前との仲でも譲れないものはあるさ。そのためだったら……」

 お前も殺す。そう言って広常は義明を斬った。

「うわあぁぁって、だから言ったのに」

 涙目になった常胤は、怯えながら広常と俺が対峙している様子を見ている。

「さあ、かかって来い義朝。格の違いってやつを見せてやるよ」

「いいぜ。かかって来い」

 腰に帯びていた刀を抜いて構えた俺は、奇抜な薙刀を持った広常と対峙した。

 お互いに間合いをとって、得物を持って構え合う俺と広常。

 意志と意志の張り合いを見守る両軍の兵士たち。

 長い武器を持った相手には、矛の重量の関係で振り下ろしてから再び構えるまでの間に一瞬の隙ができる。そこを狙って広常の動きを封じるしかない。

「臆して来れないのか? なら、こっちから行ってやら」

 広常は両方に刃のある薙刀を車輪のように回転させてこちらへと向かってきた。

「臆した? 違うな。作戦を考えていたのさ」

「そうか。なら、両刃の薙刀を持つ俺を倒してみろ」

 薙刀を八双に構えた広常は、すかさず俺の肩をめがけて右袈裟に斬りかかった。

 持っていた刀で俺は広常の一撃を受け止めた。

 広常は目にもとまらぬ速さで俺の刀を受けていた刃を離し、下の刃で首を目がけて左薙ぎに斬ろうとした。

(しまった。あいつの薙刀は普通のものとは違うんだった)

 そうだった。

 普通薙刀には上の方に矛がついていて、下の方には石突がついている。だが、広常の持っているそれには石突の代わりに刃がついている。

 咄嗟に俺は鞘を片手に持って広常の一撃を防いだ。

「それで防いだ気になってるのか?」

「お前みたいな二刀流の剣士のような奴にはこれしか対処法がないんだよ」

「そうか」

 広常は器用に両刀の薙刀を振り回しつつ、俺は鞘と刀でひたすら防いで戦った。

(計画通り)

 刃の届かない範囲まで間合いを詰めた。このまま詰めて薙刀を破壊しよう。そう考えた俺は、広常の持っている薙刀をめがけて斬りかかった。

 薙刀の柄を破壊されることを察した広常は引き、再び刃を繰り出した。

「臆しているのはそっちの方じゃないか」

「それはどうだろうな?」

 俺は持っていた刀で薙刀の一撃を受けた。作戦を変更して、柄で刃を防ぎ、次の一撃を一瞬に発するときに生じる隙を狙って一撃を入れるしかない。

(今だ!)

 左手に持った鞘で俺は、右の腕を狙って逆右袈裟に打ちかかった。

 狙い通り広常は鞘の一撃を受けた。そして刃に腕力と全体重をかけて、力いっぱい斬りかかった。

(この時を待っていた!)

 薙刀の動きを封じた俺は、一瞬にできた隙を狙い、右手に持っていた刀で草摺と胴をつなぐ紐の間に結んである帯を目がけて突こうとした。

 だが、俺の刺突が遅かった。

 全体重をかけた広常の一撃は、鞘を斬り落とし、そのまま胴ごと俺を斬り倒した。

「しまった!!」

 油断だった。

 右手に持っていた刀は、力の抜けた右手から落ち、地面に突き刺さる。

 意識が薄らいでいる俺の首先に薙刀を突きつけた広常は、

「ざまあねぇな。だが、楽しかったぜ。久しぶりに強い奴に出会えてよ。急所は外しておいた義朝。また戦おうぜ」

 と言い残して去っていった。

 そして俺は、あまりの痛さに気を失った。

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