第17話 関東の義朝⑯─激突─
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俺を大将とした50騎の軍勢は、途中景義と一緒にいた祐継の軍勢80騎、宗平の軍勢40騎と合流し、石橋山で景親の大軍1000騎と対峙した。
先陣は時兼だった。
時兼は前線へと出て、名乗りを挙げ、
「景親、お前鎌倉権五郎の末裔だってのによ、どうしてその主君のひ孫に弓引いてんだよ?」
と問いかけた。
馬に乗って家臣数名に守られながら出てきた垂髪の景親は答える。
「昔は昔、今は今。同じ一族であろうとも、世代が離れれば他人と同じもんだろ。時兼、お前だって元をたどればおれと同じ一族なのに、こうして弓矢を引いてるのはどうしてだ?」
「……」
言い返せない時兼。
「悔しくて言葉が出ないのか?」
「あ、怖いのか。足が震えているもんな」
小馬鹿にするような口調で、景親は黙り続ける時兼を煽り続けた。
時兼は馬から降りた。そして地面に弓と矢の入った矢筒を置き、座って、
「俺には戦う意思はない。この通り!」
と深々と頭を下げようとした。
(何をやってやがる!!)
後ろで見ていた俺は、
「話にならん。やれ!!」
兵士に戦うよう指示を出した。
弓矢の応酬がしばらくの間続いたあと、白兵戦となった。
ところどころから、叫び声と薙刀と薙刀、太刀と太刀がぶつかり合う音が地響きのように聞こえてくる。
敵の数は多い。明らかにこちらの倍以上はいるような気がする。だが、ここは戦場。少しの弱みを見せてしまえば、兵たちの士気に関わってくる。負けそうだろうが何だろうがやるしかない。もうここまで来たら、引き返せない。
「狙うはの景親の首一つ。他の奴らに構うな、進め!」
先陣で指揮と戦闘を両立しつつ、俺は景親のいる本陣を目指した。
本陣の手前まで来たとき、15、6ほどの銀髪と虎のような琥珀色の瞳を持った少年が率いる80人ほどの手勢に行く手を塞がれた。銀髪と虎のような琥珀色の瞳。この特徴は紛れもなく伊東祐親その人だった。
祐親は確認するように聞く。
「お前義朝だろう?」
こちらも今目の前にいる祐親が本人なのかを確かめるため、
「ああ。貴様のように変な土人形を使った影武者なんか使ってない。それよりも、今目の前にいるお前は、本物の祐親なんだろうな?」
と聞き返した。
「そうさ。簡単には景親のところへは行かせないぜ」
「そう来なくちゃな」
俺と祐親は刃を合わせた。
鍔迫り合いをしているときに俺は、伊東邸討ち入りからずっと気になっていた2つの疑問、なぜ俺たちの襲撃を察知できたのか? そして、祐親の土人形を操っていたのは誰なのか? について聞いた。
「ああ、お前たちの計画は全て筒抜けだからな。全部忍者部隊が情報を抜き取っていた。今ごろ、お前たちに味方しようとしている渋谷や山内は、残りの1000騎に阻まれていることだろう」
「汚い手を使いやがって」
力ずくで俺は祐親の体勢を崩し、
「ああ、怖い怖い」
俺の猛攻をしなやかな身のこなしで祐親は避け続ける。
「今俺を殺したら、情報が手に入らなくなるぜ。いいのか?」
「気が変わったから殺すことにした」
「へぇ」
いつの間にか懐に入り込んでいた祐親は、俺の胴に蹴りを入れた。
受けた蹴りの痛みが引くまで、俺は寝転がりながら防御を続けた。
そして立ち上がったあと、持っていた刀で十数合刃を合わせた。
20合目くらいになったときには、お互いに刀を構えて間合いを取り、出方をうかがっていた。
「臆したか?」
「臆してなんかいないぜ。それはそのままお前に返す。本物の肉体だから、傷つくのが怖いんだろ?」
「怖くなんかないぜ」
祐親は俺の首をめがけて突きかかった。
とっさに俺は避けようとした。だが、祐親の繰り出した突きの方が少し速かった。今斬り返そうにも切り返せない。死ぬ。
念仏を唱えようとしたとき、小太刀を持った22、3歳ほどの青年が攻撃を制止した。祐継だった。
「兄上、何の真似だ? 勝負に水を差すな」
いらついた口調で、祐親は聞いた。
間合いを取って小太刀をハの字に構えた祐継は、
「祐親、貴様の相手はこの私だ!」
「いいだろう。この機に決着をつけようじゃないか」
祐継と祐親の兄弟対決が始まった。
祐継は一方の攻撃を片方の小太刀でうけ、また片方の小太刀でできた隙を切り込む。
対する祐親は、双方向から来る攻撃を身軽に避けてゆく。
戦闘を見ていた俺に祐継は言う。
「義朝くん。君は先に行きなさい。弟は私が始末するから」
「ありがとう」
俺は景親のいる本陣をめがけ、走って向かった。
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祐親の足止めを祐継に任せ、10騎の軍勢を率いた俺は、景親のいる本陣へと突っ込んだ。
景親の周りを取り囲み、守りに徹する近習たち。そんな近習たちを相手に、俺は斬ってゆく。そして、景親の目の前へ来て、
「景親、覚悟しろ」
切っ先を突きつけた。
景親はうろたえる様子もなく、ひどく落ち着き払っている。刀の柄に手をかけることなく。
淡々とした口調で景親は弟に命令する。
「五郎。源氏の大将をやってしまえ!」
「わかりました」
返事をした水干を着た垂髪の少年五郎は、前へと出てきた。そして、俺の目の前で手をかざした。
「手を突き出したからって、何が起きるんだ。兄弟もろとも斬ってやる」
そう言いながら俺は、五郎と景親目がけて斬りかかった。
余裕の笑みを浮かべながら、景親は言う。
「そう言ってられるのも今のうちだぞ。源氏の大将よ」
「お前のセリフだろ」
大鎧を着、烏帽子を被っていない景親めがけて俺は斬りかかった。相手は刀も構えていない。確実にやれる。
景親の体を真っ二つにしようとしたその瞬間、地面がむくむくと盛り上がった。そしてそれは俺の周りを覆い、気が付いたら土に囲まれてしまっていた。
「何をしやがった」
持っていた刀で俺は出口を掘ろうとした。だが、掘れば掘ろうとするほど、体が締め付けられてゆく。息ができなくて苦しい。どんどん意識が遠のいていく。




