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第14話 関東の義朝⑬─北条館の戦い─


   1


「どうすりゃあいいんだよ……」

 突然の敵襲に今にも泣きそうな顔でうつむいている時兼。

「困ったことになった」

「こういうときに正清がいてくれたらな……」

 正清がいてくれたら、こういう突然の敵襲が来ても周りをまとめ上げ、冷静に戦略を考えてくれる。時兼が泣き言を言っても、少しきつい口調で現実を見据えた発言をして黙らせてくれる。

「元はと言えば、お前たちが伊東の雇った盗賊部隊をやっちまったのが悪いんだろ?」

 その通りだ。何も知らずに助けてしまった俺たちにも非はある。でも、そうしなければ、領民を守れなかった。

「なら、俺から言わせてもらうが、お前の怠惰な平和主義のせいで、どれだけの領民が悲しまなきゃいけないか、わかってるのか!? お前はこの北条の地を守る武家の棟梁なんだろう。民が虐げられていても、なんとも思わないのかよ」

 声を荒げて、俺は目の前にいる酔っぱらいの中年オヤジに聞いた。

 涙目になった時兼は、俺の襟裾をつかんで叫ぶ。

「お前みたいな勇者には、俺のような臆病者の気持ちなんて、これぽっちもわからないよな」

「目の前で苦しんでいる人間を助けようとか、お前は思わないのかよ」

「悪かったな、薄情な人間でよ」

 ふてくされた時兼はそう吐き捨て、部屋を出ようとしたそのとき、

「お前たちいい加減にしな!」

 時兼の妻は屋敷中に聞こえる大きな声で叫び、

「グダグダしていても何も始まらないよ」

 と叱咤した。

 そのとおりだ。ここで仲間割れをしていても、何も始まらない。かえって自滅にかかる時間を早めてしまうだけだ。

 時兼の妻は俺の肩を叩き、

「こんなのの代わりにうちの領民助けてくれたんだろう? 自信を持ちな」

 と耳元でささやいた。

「ありがとうございます」

「お前らがバカみたいなことしてなければ、俺は」

 平穏に日常を過ごせていたのかもしれないんだ。そう言おうとしただろう時兼の方を妻は睨みつけ、

「お前はグダグダしてないで屋敷守る!」

 思いっきり蹴りつけた。

 時兼は叩かれたところを涙目になりながら、

「仕方ねぇな。戦えばいいんだろ、戦えばよ」

 と言ったあとに鬼のような形相で俺と景義の方を向いて、

「おい、お前ら、これ終わったら出て行けよな」

 と吐き捨てた。

「言われなくても出て行ってやるよ」


   2


 籠手と腹巻、具足をつけた即席の防備で、俺たちは下人などを寄せ集めた兵士たちと一緒に戦った。

 景義と一緒に俺は、弓矢を片手に南側の門を守る。北側の門は時兼らが守護している。

「源義朝はここにいる。逃げも隠れもしない」

 撃って、撃って、撃ちまくった。切り出した巨木や木槌で門を破壊し、入って来ようとする伊東家の兵士たちを。

 矢が尽き始めたとき、俺は刀を抜いて戦おうとした。だが、

「無茶ですって、この高さから飛び降りるなんて」

 一緒に弓矢を持って応戦していた景義に引き留められた。

「俺を誰だと思ってる」

「でも……」

「俺を信じてるんだろう? なら、委ねてやってもいいじゃないか」

「ちょ、辞めてくださいよ! 無茶ですって!」

 俺は門の櫓から飛び降りた。空中で刀を大上段に構え、門を破壊しようとしている兵士に斬りかかった。

 兵士は俺の攻撃を刀で防ごうとしたが、時すでに遅し。刀ごと体を真っ二つに斬られ絶命した。

 真っ二つに斬られた同胞の死体を見て、たじろぐ伊東家の兵隊たち。

 そんな兵士たちに情けをかけることなく俺は斬りこんでいった。

「あれは、源義朝! こっちから来てくれるとはな。お前ら、義朝を討ち取ったら祐親様がたんまりと褒美をくれるそうだ。やっちまえ!」

 背後で指揮を執っていたそこそこ立派な鎧を着た武者は、攻撃の標的を門から俺へとすり替えた。

 薙刀の穂をきらめかせ、次々と俺に襲い掛かってくる。

 最初は次々と迫りくる敵たちを各個撃破していった。ある者は一刀のうちに、またある者は弓や薙刀を持った腕ごと斬り伏せ、次々と戦闘不能にさせていった。

「お前ら、さっきの威勢はどうしたんだ」

 血刀を正眼に構えながら、目の前にいる20人ほどの兵士を挑発した。

 目の前の兵士たちは、手足をわなわなと震わせ、出方を伺っている。

「どうした、俺を討ち取るんじゃなかったのか? おい、どうしたんだ? こんな体を震わせて」

 先ほど俺を討ち取るようたきつけた大将に、俺は切っ先を向けた。

「ち、違う。こ、これは、む、武者震いだ!」

「ほーう」

 持っていた刀を八相に構え、俺は大将の方へと向かった。

「血迷ったか、義朝!」

「今だ、討ち取れ!」

 先ほどまで怯えて手を出さなかった有象無象たちが、俺の首を狙って襲い掛かってくる。

 雑魚どもを無視し、俺は大将の首だけを狙い、ひた走った。

 大将本人は逃げる素振りを全く見せていない。今が好機。そのまま突っ込もう。

 俺はそのまま大将のところへ突っ込んだ。太刀を2回ほど交わし、首を取る寸前まで追い詰めた。最後の一太刀で決めようとしたそのとき、大将は不敵な笑みを浮かべた。

「死の恐怖に耐えられなくて──」

 頭でもおかしくなったか? そう聞こうとしたときに、大将は、

「引っかかったな、バーカ!」

 手を差し出した。

 そのとき、物凄い衝撃と痛みが体内を駆け巡り、門の扉を破るくらいの勢いで吹き飛んだ。

「ちくしょ......う......」

 俺は倒れた。あんな卑怯なやり方で倒されるとは、思ってもいなかった。

 気を失う前に聞こえたのは、俺を討ち取ろうとした敵軍の大将の高らかな笑い声だった。


   3


「あいつはどこへ行った!」

 目を覚ました俺は飛び上がるようにして起き、先ほどの戦闘で吹き飛ばした将を探すべく、立ち上がった。

 側にある刀を手に取り、将を倒しに行こうとする。

 だが、先ほど衝撃を受けた箇所が痛み、思わずうなり声を上げて倒れてしまった。

「この場で倒れてたまるか......」

 痛みに耐えながらも、俺は立ち上がった。

 ここで倒れるわけにはいかない。どんな手段で俺を倒したのか知らないが、いい気持のする決着のつき方ではない。絶対に奴の仕掛けを暴いて、この手で討ち取ってやる。

「でも、痛い」

 痛い。とにかく奴にやられたところが痛む。

 俺は自分の非力さを感じた。

 京にいたときは、ほぼ負け知らず。盗賊だろうが延暦寺や鞍馬寺の僧兵だろうが、絶対に勝てるという自信があった。

 だが、坂東へ来てからはどうだろうか。

 忍びの者を取り逃がし、有象無象を率いている侍大将にわけのわからぬやり方で負けてしまった。忍びの者は無理だとしても、せめてあの侍大将だけは殺らねば......。

 痛みに耐えて、あの侍大将を討ち取りに行こうとしたときに景義が入ってきて、

「あ、起きましたか。もう奴らはいませんよ」

「え」

 正気に戻った。もう、伊東の軍勢は撤退したようだ。

「景義、俺が眠っている間に何があった?」

「それは──」

 景義は語った。

 気を失ったあと、兵士たちが俺の首を取ろうと大挙して群がってきた。だが、俺を助けるべく景義が軍勢を割いてきたことにより、討ち取るのを断念。その隙をついて俺を救出し、この部屋に運び入れた。

「なるほど。景義ありがとうな」

「どういたしまして」

「とりあえず、追い払えてよかった」

「今はゆっくりしていましょう」

「そうしておくか」

 とりあえず俺は、休んでおくことにした。

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