オネエさまはダメンズウォーカーな幼馴染を救います。
「うわーん、やられたああああ……っ!」
とある大衆向けかつ庶民の憩いの場、町中にひっそり建つ酒場の一角。ジョッキを片手にテーブルに突っ伏し、声を上げる幼馴染を、こちらもまたジョッキを手に、中身にくちつけ冷ややかに見やるルヴィ。そこそこアルコール度数の高いその中身をすこしばかりのどに流し込み、わかりやすく溜息を吐いた。
「アンタねえ……。とりあえず、今回はどんなのに引っかかったの?」
「……しゃ……」
「しゃ?」
「借金が……あったみたいで……」
「なるほど? で、働いていると見せかけて働いていなかった、と?」
「…………そのうえ、置いてあったお金、持っていかれました……」
いくら? と問えば、幼馴染がぼそりと告げたのは、彼女の二か月分の給料相当の金額。思わずまたも溜息を吐いてしまった。
「ホンット、おバカね、アンタ」
「返すことばもございません……」
幼少期からの幼馴染である彼女、マイセ・リアは、昔からよくクセのあるというか、問題のあるというか……身も蓋もなく俗物的に言ってしまえばダメンズと呼ばれる輩に惹かれてしまう性質にあった。
たとえば浮気性だったり。たとえば明日から本気を出す系だったり。たとえば極度のマザコンだったり。
借金を隠して近づいてきた男に引っかかるのも、実はこれがはじめてではない。が、彼女のお金を盗んで雲隠れした男ははじめてだった。二か月分もの給料を失い、これからしばらく生活に困りそうな彼女を思い、ルヴィは眉間に手をあてる。
「まあ、今日はアタシが奢ってあげるわ。ヤケ酒くらいつきあってあげるから、すきなだけ飲んじゃいなさい」
「ありがとぉおおぉ、ルヴィぃぃい……。やっぱり頼れるのはルヴィだけだよぉおお」
「はいはい。それはいいけど、顔はどうにかしなさい。女の子なんだから化粧をぐずぐずにしない」
「はいっ」
言いながらルヴィが差し出したティッシュで目もとを拭き、ハンドミラーで顔を確認したマイセは、とりあえずそこまでひどい化粧崩れはなしと判断し、ジョッキの中身を一気に煽る。なかなかの豪快っぷりだ。
「昔っから言ってるケド、アンタ、ホントに男を見る目ないわよねえ」
「自覚はあります……。でもでも、俺にはキミだけなんだとか言われちゃうと、こう、きゅんってきちゃうでしょ? 乙女ゴコロ的に!」
「……そーゆーちょろいところだと思うわよ、アタシ」
「ちょ、ちょろくはないもん……」
さきほどの豪快さはどこへやら。かわいらしく両手でジョッキを抱え、ルヴィから視線を逸らしてくちを尖らせるマイセは、間違いなくそのあたりの自覚もあるのだろう。それでも毎度おなじ台詞を言われるだけでほいほい惚れてしまうのだから、始末に悪い。
ルヴィとしても幼馴染として、また気の置けない友人として大事に想うマイセに、不幸になってほしくはない。だからこうしてちょくちょく気にかけるし、彼女がアレな男性に引っかかるたびに注意もしている。
お互いそれなりにいいおとななのだから自己責任だろうと言われても仕方ないとわかってはいるが、それでもやはり放っておけないのだ。
「あーあ、もういっそ、ルヴィがわたしを貰ってくれないかなー」
「あらイヤよ。アンタはアタシのタイプじゃないケド、アタシだってアンタのタイプじゃないでしょ?」
「自意識過剰! って言いたいけど、ぐぬぬ、事実でしかない……!」
悔しそうに睨みつけてくるマイセに、ルヴィは勝ち誇ってふふんと鼻で笑う。
実はルヴィ、口調こそ女性的ではあるものの、こころもからだも男性である。背もすらりと高く、がっちりとはしていないまでも仕事上筋肉もほどよくついており、顔のつくりも整っている。柔軟性に富み、なんだかんだと世話焼きでやさしく、ついでに多趣味で器用でもあるという、それはそれは素晴らしい人間性の持ち主だ。
男女問わず好意を持たれる彼は、どこをどう切り取ろうともマイセが引っかかるちょっとアレな男性枠には入りようがない。
そしてそんなルヴィは、男女どちらも恋愛対象とできる性質にある。まあ、この国自体も特段そういう方面での抑圧もないので、自由気ままに恋愛を楽しんでいる、という部分もあるが、それでも一応タイプくらいはあった。
包容力があり、おとなでやさしく、穏やかなロマンスグレー。ルヴィはそういう相手に滅法弱い。
で、あるからして。お互いにお互いが恋愛としてのタイプに掠りもしないからこそ、こうして腹を割っての飾らない会話もできるというもの。
「でもまあ、そろそろアンタのその性質も本格的にどうにかしないとねえ……。ヘンな男に引っかかって、いつそのまま結婚なんてしちゃうんじゃないかって、冷や冷やしちゃうもの」
恋人としてならまだいい。いや、相手の性質があまりに悪く、ストーカーじみてきてしまうと問題だが、そうなったらそうなったでいっそ葬ってしまえるだけの実力やら伝手やらがルヴィにはあるからなんとでもできる。……ああ、もちろん、葬るのは社会的にだ。犯罪だめ、絶対。
しかし結婚までしてしまうと断然手間が増えてしまう。どうにかできないとは言わないが、それでも未然に防げるうちに防いで、マイセが不幸にならないようにしなければと考えを巡らせた。
けれどこのマイセ、昔から何度注意をしようと必ずクセのある相手ばかりに引っかかってくるのだ。どうすればまともな相手を見つけられるようになるのか、いまさら良案など浮かびようもない。
「大丈夫、だいじょーぶ。わたしだって、結婚相手ともなれば、ちゃーんと見定められるもの」
「……アンタ、酔ってるでしょ?」
「酔ってないよー? おねーさーん、おかわりー!」
空になったジョッキを振り回し、明らかに怪しい呂律でもってウェイトレスの女性にへらへらと笑みを向けるマイセに、またも溜息をひとつ。彼女はなかなかに酒に酔いやすく、けれど放っておくとこれでもかと飲み続けるのだ。
介抱する自分の姿が容易に想像でき、ルヴィはさらに溜息を増やす。
ほんとうに、この幼馴染はいつまで経っても手がかかりすぎる。それでも見捨てられない自分も大概だ、なんて思いながら、お金を盗まれたことなどなかったかのように陽気に笑うマイセを、困った子を見るように生温かく見つめるのだった。
と、いうことがあったのは、たったの一週間前だったと記憶している。
そう、たった一週間だ。一週間しか経っていないというのに。
「なにやってんのよ、マイセえええええええっ!」
腕の立つ剣士であることを活かして冒険者家業をしているルヴィは、マイセのヤケ酒につきあった翌々日から依頼をひとつこなしてきていた。依頼自体は苦もなくこなしてきたのだが、場所的にすこし距離があり、往復にすこしばかり時間を要してしまったのは事実だ。
けれどそれでもたった一週間。一週間留守にしただけで、帰ってきたルヴィを迎えた情報に、思わず叫んでしまったのは仕方のないことだろう。
なにしろ、あのマイセが結婚するというのだ。共通の知人からはなしを聞いたときは我が耳を疑った。なにを言っているのかと、いっそ疑ってかかったりもしたのだが、どうやらそれは事実らしい。証人が何人もいた。
その情報にルヴィが頭を抱えたのも束の間。彼はすぐさまマイセに連絡……をすることなく、とにかく相手を調べ上げることにした。それはもう、徹底的に。使える人脈という人脈を使い、プロフィールから性格、家柄、趣味嗜好性癖生活リズムと、若干どころか大いに引くくらいの情報を集めに集めた。
そして結果をもう一度。
「なにやってんのよ、マイセえええええええっ!」
ダメンズウォーカーは、やはりダメンズウォーカーだった。しかも今回は一層性質が悪い。なぜならもう、身も蓋もなく犯罪者の部類だったのだから。
……いや、ひとのお金を盗んで消えた相手も犯罪者ではあるが。
ちなみにその男はマイセのヤケ酒につきあった翌日には捕まえて警吏に突き出している。ルヴィに抜かりはないし、その手腕に不備もない。
結婚への危惧は確かに伝えたというのに。なぜあの子はこうもひとのいうことを聞かないのか。
今度こそがっつりと頭を抱えたルヴィは、諦めにも似た決意を灯す。もうダメだ。あの子をこのまま放っておいてはいけない、と。
長々と溜息を吐き出したルヴィは、俯けていた顔を上げる。その双眸は、怜悧なひかりを宿していた。
マイセ・リアとカール・ツァロスの出会いは、実はずいぶんと前らしい。
学生時代の友人のひとりだったカールは、今回のマイセの失恋の件を聞き、慰めるという口実で久方ぶりにマイセに接触したようだ。
マイセのダメンズウォーカーっぷりは割と周囲に知られているようで、けれど今回に限って接触したのは、なんのことはない。彼が次を探していたからにほかならない。
たまたま次を探していた彼のもとに、たまたま都合よく傷を抱え、自他ともに認めるちょろいマイセがフリーになったという情報が流れてしまったのが運の尽きだろう。偶然を装いマイセに接触した彼は、あたかも自分も恋人と別れ傷心なのだというようにマイセに告げ、おなじ傷を負うもの同士と共感を得て懐に入り込み、例のことばをくちにしたようだ。
ぼくにはきみしかいない、と。
ちなみにそのことばに弱いことも、マイセのダメンズウォーカーっぷりを知るものの間ではふつうに知られている。マイセにはとことん弱点しかなかった。
それでも一足飛びに結婚とは気が早すぎると思うのだが、カールも焦っていたのだろうか。確かにもう次はないだろう。マイセと結婚し、マイセを潰したら、彼はきっと国外に逃亡するつもりでいるに違いない。
そう、カール・ツァロスの性癖は、嗜虐趣味。行き過ぎたそれで、彼は過去にふたり、恋人を死に追いやっている。
だというのに、いまだ彼を捕まえられないこの国の警吏の、なんと無能なことか。自身の諜報能力が異常なのだと自覚のないルヴィは他人事ながらに憤りを感じていた。
とにもかくにも、そんな輩にマイセを頼めるはずがない。ルヴィはやはり溜息を吐き、下準備をきちんと整え、そうしてからカール・ツァロスの邸へと正面堂々乗り込むのだった。
この日このとき、カール・ツァロスとマイセは揃ってカールの邸にて結婚の打ち合わせをしていることは調べてある。当然のごとくアポイントメントなんぞ取りつけることもなく邸を訪れたルヴィは、そこにいた使用人に自身の身分を示し、カールらのいる中庭へと押し入った。
「そこまでだ、カール・ツァロス。マイセ・リアとの婚姻は、白紙とさせてもらう」
凛と声を張り告げたことばは、いつもの口調とずいぶん違って放たれる。突然の闖入者に驚き戸惑った男……カールは、がたりと騒々しく椅子を押しやりながら立ち上がった。
「だ、だれだ、おまえは! 勝手にひとの邸に上がり込んで……!」
「許可ならとってある。もっとも、きみの、ではないが」
そう言いながら見せつけるようにずいとルヴィが突きつけたのは、この国の警吏の重鎮、その最高責任者の直筆サインと印の入った許可証。記されるのは、カール・ツァロスの邸に踏み入り、婚約者であるマイセ・リアを取り戻すこと。
「な、なんだこれは……」
震える声でつぶやき、それから突きつけられた許可証をひったくるように奪い目を通していたカールは、その内容にどんどん顔色を失っていく。
「……アルヴィオス・ディ・ヴェスタ……だと……。それは幻の英雄じゃあ……」
マイセ・リアの婚約者として記された名を読み上げ、顔面蒼白にしたカールがおそるおそる顔を上げた先にいるのは、隣国の軍服をきっちりと着込んだ美丈夫。表情もなく見下ろしてくる彼の圧倒的な威圧に、カールは短く悲鳴を上げその場で尻もちをついた。
「私を知るか。それで? きみは私の婚約者に手を出そうと、そういうつもりと受け取ってよろしいか?」
「ひっ……! め、めめめ、滅相もございませんっ! し、しら、知らなかったんです! 彼女があなた様のご婚約者だなんて……!」
「ふむ……では彼女はこちらでかいしゅ……ごほん、連れ帰ってもよいな?」
「も、もちろんですとも!」
言質をいただいたので、とにかく早々に有言実行に移すルヴィ改めアルヴィオスは、きょとんと小首を傾げている幼馴染の手を取ると、すこしばかり強引に引っ張りだす。
「……さっさと行くわよ。すぐにこの国の警吏のひとたちが来るわ。これ以上面倒に巻き込まれるのはごめんよ」
素早くマイセの肩を抱き、その耳もとでちいさく告げる。マイセはいまだ状況を飲み込めていない様子ながらも空気を読んでかこくこくうなずき、アルヴィオスに促されるままカール邸をあとにするのだった。
そうしてまたもやってきた、一週間前とおなじ酒場。ここはルヴィとマイセの馴染みの店だったりもする。
カール邸をあとにするなりさっさと軍服を脱ぎ捨てたアルヴィオスは、いつもの冒険者仕様の簡易な旅装に身を包み、連れてきていたおなじ軍服姿の男性に自身の軍服を預けると、マイセを伴いこの酒場まで足を運んだのだ。
そうして当然落ちる、極大の雷。
「こんのっ! おバカああああっ!」
「ひぇっ!」
ばん、と、テーブルについた手が大きな音を立てるが、それが単にその音を立てるためにだけにされた行為であることは、マイセにもわかっている。なぜならルヴィがその気であれば、このテーブルくらいあっさり破砕されていただろうから。
ちなみに、馴染みの店だけあって、こうしてルヴィがマイセに雷を落としても、店員も店の客の概ねも驚きもしない。数人だけ驚いた様子でふたりに視線を向けていたが、おそらく新規の客だろう。ちょっと申しわけないと思うくらいには、ルヴィは常識人だし冷静さも保っていた。が、特にフォローはしない。
雷を落とされた当のマイセは短く悲鳴を上げるなり身を竦ませたが、その程度でルヴィの気が収まるはずもない。とにかく自分のぶんだけ酒を頼んだあたり、その証左となるだろう。
「アンタはホンットーに……! ひとがいない間になんってことしてんのよ!」
「えええ……いや、なんかちょっと意気投合したひとと、勢いで結婚までいっちゃっていたというか……」
「意気投合したひとと! 勢いで⁉」
「ひえっ、い、いや、知り合いだよ⁉ 学生時代の同級生だもん! 知ってたひとだよ⁉」
「そんなコト言ってるんじゃないわよ! アンタ、ついこの間のはなしも忘れているわけ⁉」
「え……。なんだっけ?」
ぽかんと間抜け顔を晒す幼馴染に、ルヴィの苛立ちは増すばかり。溜息を吐いて、ジト目で睨みつける。
「ヘンな男に引っかかって結婚したりしないよう、はなししてたでしょう」
「あ。あー。してた……ような?」
ぴきり。ルヴィのこめかみのあたりで血管が浮き、気づいたマイセが慌ててことばを重ねる。
「べ、別にヘンな男じゃないよ⁉ ちゃんと知ってるひとだし、そりゃ勢いだったけど、ちゃんと大丈夫だって思ったから結婚しようかってなったんだし」
「たった数日で? バカじゃないの?」
「時間は関係ないでしょ」
「はっ。アンタはアンタのダメ男ほいほいっぷりを舐めすぎなのよ。アイツ、犯罪者よ。ふたり殺してる」
「…………へ?」
「アタシがそれに関わって介入すると国際問題にもなりかねないし、なにより表立って行動するのは面倒だからその辺はこの国の警吏に任せたけど、アンタ、下手したら死んでたわよ」
「…………う、そ、でしょ……?」
「ウソなものですか。アタシがちゃんと本気で調べ上げたんだから」
きっぱり言いきれば、その信頼性の高さを知るマイセの顔から血の気が引いていく。その顔を見て、ようやくルヴィもきちんと落ち着いてきた。
「アンタのダメ男ほいほいっぷりは大概だけど、よくもまあ、ここまでひどい男にまで引っかかったわね」
「……返すことばもございません」
「ホントよ、もう。まさかアタシがこんなかたちで身をかためるハメになるなんて思ってもなかったんだから」
盛大に溜息を吐く。犯罪方面からの介入をせずに、きちんと許可を得て正規のかたちでマイセを救出するには、自分の婚約者であるということにするのが最善と判断した。マイセとカールの婚姻は婚約期間もなく、お互いの口約束でしか成り立っていないものであることは調べてあったし、こちらの情報が届かなかった理由としても、ルヴィの籍が本来は隣国にあるからという体で言いわけとするつもりで決めてのものだ。
ルヴィの本名はアルヴィオス・ディ・ヴェスタ。隣国の辺境伯の三男にして、多くの魔物を討ち取ってきた偉業を誇る、世界に名を轟かせる英雄そのひとだ。けれど彼はその名も経歴も肩書きも褒章もすべてを煩わしく思い、五年前に出奔している。いまでは彼をアルヴィオスと知りながらそばにいるのはマイセただひとりだ。
名を偽り、身分を偽り、ひとりの冒険者として身を立てる彼は、その自由を気ままに謳歌していた。ちなみにルヴィと名乗るのは本名から取っているのもあるが、単にかわいいからという理由からでもある。出奔している身でありながら本名をもじった偽名を使うのは、たとえそこからバレたとしてもどうとでもできる自信があるからにほかならない。
ともかく、そんなわけでアルヴィオス・ディ・ヴェスタは現在、多くの国がその存在を欲しながらも手にできない、幻の英雄として讃えられているのだ。
「そういえば、さっきカールくんも言ってたね。婚約者ってなんのはなし?」
「アンタとアタシよ。アンタを助けるために、そうするのが都合がよかったの。……まあ一応、白紙に戻すこともできるけど……アンタ、放っておくとこういうことばっかり起こすでしょ? もう仕方ないから覚悟を決めて一生面倒見てあげるわ」
「え。あんなにいやがってたのに?」
「なによ。このアタシじゃ不服なワケ?」
「め、滅相もございません! ぜひもらってやってください!」
ははー、と、なにやら変に畏まって頭を下げるマイセに、ルヴィは鼻を鳴らす。けれどその視線はどことなくやさしく見えた。
……諦めの度合いのほうが多そうだけれど。
「腐れ縁ってのも厄介なモノね。ねえ、マイセ、一応言っておくけれど、アタシ、結婚するからには愛がないのはイヤなの」
「え、あ、うん。そうだね」
「だから……」
ずいっと、身を乗り出し、妖艶に笑む。自身の美貌を知っているからこその、それを最大限に活かす、それはもう妖しくも美しい笑みで。細めた双眸でしっかり正面に絡めとれば、この顔を見慣れているはずのマイセでさえ思わず赤面した。
「ちゃあんと、愛し、愛される関係になるわよ?」
アンタも、覚悟を決めなさいね。
囁くように低く艶めかしく告げれば、マイセはただただこくこくと首を縦に振った。それに満足したルヴィは、そういえばつまみを頼み忘れたと、ホールを忙しなく動き回るウェイトレスを呼び止めるため、一度マイセから視線を外した。
その一瞬。ほんのわずかなその時間。
マイセがそれはもう獰猛に。ルヴィがかつて見たこともない笑みをうれしそうに浮かべていたことに、彼が気づくことはなかったのだった。
マイセ「恋愛って落としたもの勝ちでしょ?」