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14:メスガキは聖女を憂いる

『悪魔のカード』で悪魔化して、一体ずつデーモンのMPを枯渇化している間にも戦いは続いている。


 悪魔が無力化するにつれて聖女ちゃんとおねーさんの被弾率は減る。それは聖女ちゃんが庇い損ねたり、おねーさんが避けそこなったりしておねーさんが死ぬ確率が減ることだ。


「わ、わかってはいますけど、こ、怖いいいいいいいい!」


 テーラーは戦闘職じゃない。デーモンの攻撃を何発か避けそこなえば、死が見える。おねーさんが怖がるのも無理はない。ダメージは聖女ちゃんが回復するけど、それでも痛いものは痛いし怖いものは怖いのだ。


「何とか耐えて!」

「はひぃ! ああ、幼女に守られたり期待されるのって幸せ! ひぃぃぃ!」

「嬉しい悲鳴、なのかなぁ……」


 ミラースカーフを振りながら、恐怖に耐えるおねーさん。物理攻撃しかできない赤悪魔からすれば鬱陶しい相手だ。そしてMPを枯渇化されたデーモンからすれば、アタシがおねーさんから物理反射をコピってるので恨みの対象だ。


「オイ、オ前モ魔法撃テヨ!」

「ウルセェ! コイツが悪インダ!」

「やだー。トーカにたーくさん吸われて煙も出ないデーモンさんが怒ってるー。指さすのやめてー」


 アタシから【精吸収】されてないデーモンからすればアタシの姿はデーモンと同じなのだが、攻撃された側からすればアタシは悪魔コスプレの人間だ。しかも気づけばMPがなくなり、殴るしかできない。しかし殴ってもダメージは反射。詰みなのだ。


「何言ッテルンダ、オマエ?」

「こーいうことよ、ざーこ」

「ヌオオオオオオオ! 吸ワレルゥゥゥゥ、ナント言ウ、吸引力ダ!」


【精吸収】でMPを吸収しているのでMPの枯渇はない。だけど数が一体ずつなのでとにかく時間がかかる。予定では赤悪魔の取り巻き数名を無力化してアタシも赤悪魔に向かう予定だったけど……。


「どんだけ集めたのよ。あーもう!」


 まだまだMPがあるデーモンはいる。このすべてを無力化しない限りは、悪魔化は解除できない。そして悪魔化している間はカグヤドレスに着替えることができず、赤悪魔から『聖魔の守り』を盗めないのだ。


「レッドバロンが聖攻撃に弱くなったら、天雷剣と【征伐】【聖剣技】で一気に倒せるのに!」

「心配ご無用だ遊び人トーカ! 天騎士ルークはこの程度の苦難には屈しない!」


 両手剣を振るいながら天騎士おにーさんは吠える。赤悪魔の攻撃を受けながら、しかしその動きは止まらない。踏み出し、腰を回し、同を回し、肩を起点に腕を振るい、刃を叩きつける。体全てで剣を振るう。


「【ホーリー・クロス】! 我が技を、天の十字架を、その身で受けろ!」

「オオオオオオオオオ! コノ、程度デ! ……死ネ! 【(サン)(ロク)(オー)ドロップ】」

「ぐはあああああああああ! ま、まだまだぁ!」


 一撃大技を受けてはのけぞり、相手の攻撃を受けてはのけぞり。どこかの少年漫画っぽい展開が繰り広げられていた。こんだけ大技の応酬を繰り返しているけど、決定打には遠い。それは互いのHPもあるが、聖女ちゃんの聖歌でHPが常時回復しているのがある。


Amazing(驚くべき) grace(恵みよ)――」


 聖女ちゃんは歌う。胸に手を当て、祈るように遠くを見ながら。


How sweet(その甘く) the sound(優しい響き)――」


That saved(私のような者) a wretch(までも救って) like me(くださる)――」


【驚くべき恵み】――その元ネタであるアメイジンググレイスと言う歌。その意味を、私は出発前におねーさんから聞いたわ。


『作詞者のジョン・ニュートンは黒人奴隷を輸送する『奴隷貿易』で富を得ていました』


 奴隷貿易、と言うのはアタシも聞いたことがある。アメリカとかイギリスとかで、黒人の人を売買していたいわゆる人身売買だ。国レベルで行われていて、いろいろあって廃止された。


『ニュートンは貿易中に事故にあい船が沈みそうになりましたが、奇跡的に助かりました。その際に神の存在を信じたようです。神に赦されて救われたと思ったようですね。

 その後船を降りて牧師になり、この歌を作りました。歌には奴隷貿易を行った事の後悔と、それを赦した神への感謝があります』


 いわゆる懺悔の歌。罪を犯した者が、それを神に赦されたという歌。


 アタシがそれを聞いた時、凄く自分勝手な歌だと思った。謝るべきは捕まえた奴隷で、許してもらうのも神じゃなくその奴隷からじゃない? そこまで思った後で、聖女ちゃんの事を思い出す。


『私は……多くの命を奪って強さを得ました。この強さは、歪んだ方法で得た強さなんです』

『そうですね。でも、その人たちはクライン皇子に冤罪をかけられた人達。罪もなく、本来死ななくてもよかった人達です。……それを忘れるわけにはいきません』


 あの子は、誰にも許してもらえない。許しを得る対象は、もうこの世にいないのだ。


 素晴らしき恵み。甘美な響き。私を救う神。


 あの子には、それがない。誰もあの子を赦せない。あの子自身さえ、赦せないのだ。


「……ばーか。そんな顔で歌ってんじゃないわよ」


 聞こえないように、ぼそりと呟く。祈るように遠くを見る聖女ちゃん。罪を許された聖歌を歌いながら、自分は許させないと遠くに置くように。許されたいなんて全く思わないままに、許される喜びを歌う。


 胸の痛みを押さえるように、自らの罪から逃げないように顔をあげて。涙を流すことはない。涙を流す資格なんてない。アタシには、そう見えた。そういう風にしか、見えなかった。


「とっとと終わらせるわよ。ふん!」


 終わったら何か言ってやる。アタシはそう心に決めて、戦いに意識を向けた。これからもあんな顔で歌われたら辛気臭いだけだもん。何ができるかもわからないけど、あんな顔するあの子の顔なんかもう見たくないんだから。


 状況は大きく変わらない。アタシがデーモンのMPを減らしていくたびに状況は有利になっていくが、劇的に変化するわけでもない。一体ずつ、少しずつ有利になるだけだ。その少しずつの歩みが、いらだたしい。


「これで最後の一匹。とっととアタシに吸われてへにょりなさい!」


 コイツで最後。このデーモンのMPさえゼロにすれば、悪魔化を解除して赤悪魔の『聖魔の守り』を盗んで、あとは集中砲火だ。ボスさえ倒せば取り巻きザコも消える。あとはかみちゃまあかちゃんを上に届けて、それで終わり。その後で聖女ちゃんに説教よ。


「人間に踊らされる愚か者めが。うつけものなど我が配下に不要。消えよ」


 重い、声が聞こえた。


 その瞬間にデーモン達は何かに押さえられるように倒れ、そしてトマトのように潰される。まるで声そのものが重量をもって圧し潰したように。


「魔王、<ケイオス>様……!」


 膝をつき、重圧に耐えるようなポーズで赤悪魔が口を開く。赤悪魔以外のデーモンは皆、潰れた。赤悪魔も鍛えられた筋肉でどうにか耐えてるみたいだけど、油断すればそのまま潰れそう。


「は? 魔王<ケイオス>……? はぁ!?」


 レッドバロンは言った。魔王<ケイオス>と。


「ベドゴサリア、失望したぞ」

「返す言葉もございません」


魔王<ケイオス>。<フルムーンケイオス>の魔王。アタシが知る姿そのままだ。黒いローブを羽織った魔術師風の男。魔王城に鎮座する、悪魔の王。ひざを折る赤悪魔は、王に敬服するようにも見える。


「ラスボスがわざわざ城から出てくるとか、反則じゃない?」


 まさかの想定外。アタシは冗談めかしてそういうしかできなかった。

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