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1:メスガキは召喚された

 アタシ、朝桐桃華は異世界に召喚された。


「オー・ギルガス・リーズハグル・シュトレイン。偉大なる三大神に願い仕る」

「天杯の寄る辺に従い、剣の導きに従い、聖母の歌声に導かれし者よ」

「時は満ちた。始祖との契約に従い、我らに救いを与えたまえ――」


 そこは全てが白色で構成された神殿だった。


 白い床。白い柱。白い天井。取り囲んでいる人達も白い服。


 あー、これ夢ね。そう思って寝直そうとしたけど、妙に頭が冴える。夢なんだから醒めろ醒めろと目をつぶって何度も頭の中で繰り返すけど、全然醒めそうにない。


「成功したぞ! 聖女の召喚だ!」

「しかも二人だ! これまでになかった事例だ!」

「「うおおおおおおおおおおおお! これでこの国は救われるぞ!」」


「うるさいわね! 何なのよ、アンタら!」


 あまりの煩さに立ち上がって叫ぶアタシ。


「おお、落ち着いてください聖女様。私達は貴方を召喚した者です」


 しょうかん~?


 よくわからない言葉だけど、どこかで聞いたことがある。っていうか、この状況はどこかで見たことがある。えーと……?


 頭をひねっていると、赤髪のお兄ちゃんが前に出てきた。キラキラした服を着て、イケメンっぽくポーズを決めている。正直びみょー。服に着せられてる感ある。


「私はオルスト皇国の第一皇子クライン=ベルギーナ=オルスト。実はこのオルスト皇国を含めた<ミルガトース>は魔王<ケイオス>に侵略されているのだ」


<ミルガトース>……魔王<ケイオス>……あとこのクラインとか言う皇子……。ああああああああ!


 しってる。アタシこの人知ってる! <フルムーンケイオス>っていうゲームに出てくる人だ! <ミルガトース>とか魔王<ケイオス>とかで思いだした。結構やり込んでたオンラインのRPGだ。


 最初にジョブを選んで、その後にジョブに沿ったスキルを買って成長していくゲームで、最初のジョブが弱いとどうしようもない感じなのよね。ジョブの選び直しが出来ないから、ホント最初が大事。


「しかし私が主体となって英雄召喚の儀式を行った。

 いや、英雄召喚の最秘奥。天秤と剣と聖母の因子を込めた聖女召喚だ」


 なんて考えている間に、ザンネン皇子が言葉を続けてた。


 聖女。

 ジョブとしてはかなり強いジョブ。殴る育て方でも強いし、魔法に依っても強い。なによりも魔王<ケイオス>が悪属性で、聖女は対悪魔装備最強の【聖血槍】が装備できたり、聖属性究極魔法【聖母の歌】を覚える事ができる唯一のジョブだ。対魔王戦では要になるジョブと言ってもいいわ。


 だけど、殴り魔法どっちのルートも荊の道。はっきり言ってマゾプレイ。こと【聖母の歌】はレアアイテム三つを合成して作った杖をゲットしてレベル98到達、とか苦行過ぎる特殊スキルだ。アタシはやだ。


 そんなことしなくても、あのジョブなららくらくに魔王倒せる。早くチュートリアル済ませてジョブ決定しないと。


「あの……英雄召喚の儀式って何なんですか?」


 およ?

 弱々しい声が聞こえてきたので目を向けると、そこには女の子がいた。アタシと同じぐらいの年齢だ。


「おお、麗しき少女。英雄召喚の儀式とは――」


 あー、アタシ知ってるのでパスパス。スキップボタンとかあったら連打してる。


 簡単に説明すると、この国を作った人がこの世界を創った神様と契約をして、世界が危機の時に英雄を呼び出せるという『設定』だ。ぶっちゃけ、ゲームキャラがいるだけの理由にすぎないわ。


 プレイヤーが操るゲームキャラクターは全員『英雄』と呼ばれるの。戦士も魔法使いも、もちろん聖女も。


「つまり、その魔王を倒すために私は選ばれたんですね」


 だけどその子はものすごくやる気になっていた。


「えー、なくない? 夢とかゲームだから許されるんだけど、これって拉致監禁だよ? いたいけな少女を許可なくこんな所に呼ぶとか、ハンザイなんだからね。おにーさん?」

「だ、だまれ! これもこの国の為、この世界の為なのだ! ガキが偉そうな事を言ってるんじゃない!」


 ちょっと煽っただけなのに、皇子様は顔を真っ赤にして叫ぶ出す。うわ、煽り耐性なさすぎ。年上なのにはずかしー。


「とにかく、お前達は魔王を倒すために召喚されたんだ! 早速だがその強さを測ってやる!

 そちらのお嬢さんのジョブは……ほう、やはり『聖女』のようだな。【聖歌】スキルをとってスキルランクを上げれば【聖母の歌】を覚えられるぞ!」


「「おおおおおおおおおお!」」


 隣の女の子のジョブを見たクライン皇子の言葉を聞いて、歓声をあげる人達。


 え? 【聖歌】をあげても【聖母の歌】は覚えられないよ? あれは特殊アビリティだから単にスキルランクを上げてもおぼえられないんだけど?


 っていうか、待って。あの子が聖女だってことは、もしかしてチュートリアル終わってる感じなの? じゃあアタシのジョブももう決まってるの? 何それありえなくない?


「そして貴様のジョブは……ハッハッハ! 『遊び人』か! 生意気な貴様にはお似合いのクズジョブだ!」


 皇子はアタシを指差して、大笑いする。


「遊び人だと」

「運だけがいい役立たずジョブか」

「聖女と共に召喚されたのに、ここまでハズレとは……」


 そして周囲の人達もそんな事を言う。


「えー。遊び人いいじゃん。むしろサイコー!

 大船に乗った気分でいなさい、貴方達。魔王とかすぐに倒してあげるから」


 遊び人。


 ゲーム内の説明では、運だけが高い役立たずだ。覚える事が出来るスキルも【笑う】【着る】【買う】といった冗談のようなスキルで、戦闘的な実用性は低い。運以外のステータスの伸びも悪く、戦いや生産といった事が何もできない役立たずの筆頭だと言われていた。


「ふざけるな! 遊び人如きが魔王を倒すなど何の冗談だ! ああ、そうか。冗談も遊び人のスキルなんだな。いやはや道化師にはうってつけだ!」

「魔王どころかイッカクコウモリにすら勝てないな!」

「剣も魔法も碌に使えないクズジョブのくせに!」


 次々と罵りの言葉が飛んでくる。それが遊び人のゲーム開始時の印象だ。


 ゲーム開始時はそう言われていたんだけど、アタシはそんなのを無視してこのジョブを選んだ。見た目可愛かったし、ゲームって遊びだから遊び人てイイカンジって軽い感じで選んだの覚えている。


 実際、『あ、これ他のジョブと違う』って気付いたけど遊んでいくうちに遊び人の強さが分かってきた。で、それをネットにあげたらすごい反応があって、ちやほやされた。今では人気ジョブの頭角。引っ張りだこのジョブだ。アタシもやってて気持ちよかったなぁ。


「我が皇国に役立たずを置いておく余裕はない」


 皇子がそう言うと同時に、数名の兵士がアタシを取り囲む。え、ちょっと? なにするのよー!


「ちょっとー!? 女の子の身体を手荒く抱えないでよね! こら、ちょっと、はなせー! って、きゃあああああ!」


 そのまま兵士達に抱えられて、神殿の外に投げ出された。


「どこへなりとも失せるがいい。もっとも、そんなクズジョブでは何処にも行けないだろうがな!」


 わざわざそんなことを言いに来た皇子様。そして神殿の奥に消えていく。


「うわ、ないわー。ありえなくない!」


 投げ出された痛みが、これが夢じゃないと教えてくれる。こうしてアタシことアサギリ・トーカは、ほぼ無一文で異世界<ミルガトース>に放逐されたのだ。ふっざけんなー!


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