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戻り来りて
薬の匂いが漂う部屋に入るなり硬直したサシャの、鼓動の変化を感じ取る。
小さな部屋の殆どを占めるベッドに眠るサシャの叔父の表情は、トールに、自分を可愛がってくれた母方の祖父を病院に見舞った幼い日を思い出させた。
「サシャ」
ベッド側の椅子に腰を下ろしたサシャを、枯れた声が揺らす。帝都での暮らしは? サシャを呼び戻すなんて、師匠も大げさな。叔父の言葉に頷くだけのサシャを、トールは見守ることしかできなかった。
サシャの瞳から落ちた涙が、トールを濡らす。
『本』ではあるが、俺は濡れても大丈夫。我慢するな。サシャの帰宅が遅れると必ず顔色を変えてサシャを抱き締めていた腕の、今の細さを確かめ、トールは首を横に振った。




