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豆のスープと味噌汁
今朝のスープの具も、豆と黒麦と野草が少しずつ。大ぶりな木椀を押し戴くように小さな手の中に収め、中身を少しずつ飲み干すサシャの段々と赤くなっていく頬を、テーブルの隅から確かめる。こんなに具が少ないスープだけで、昼までお腹が保つのだろうか? 木椀をそっとテーブルに置いたサシャの細すぎる手首から、トールは目を逸らした。
毎日、同じスープで飽きないのだろうか? 次の疑問は、トールの胸にブーメランのように刺さる。この世界に『本』として転生する前のトールの朝食も、卵と季節の葉物野菜が入った味噌汁だった。幼い頃に暮らしていた瀬戸内の田舎で祖母が大鍋で作っていたのは、飲み干すと大麦の粒が残る味噌汁。四年生で引っ越した日本海側の小さな町で父が作ってくれたのは、滑らかで塩気が少ない味噌汁。
この世界で、味噌を作ることは可能だろうか? 使った食器を丁寧に洗い片付けるサシャの儚げな背中に小さく唸る。麹を作るところから、できるだろうか? 脳裏から引っ張り出した、図書館の本から得た知識に、トールは再び小さく唸った。




