滅びゆく山
風見清蓮は、死出山で産まれた陰陽師だ。当然の事だが、死出山の力を源としている。死出山が滅び、力を失えば、清蓮も力を失ってしまう。清蓮は強大な力を持っていたが、それでも以前より力が落ちているそうだ。
ところが、梨乃は風見の陰陽師だが、死出山で産まれていない為、その力が弱まる事はなかった。梨乃は清蓮の後に続いて、技を放つ。
妖と化した宵宮は、人間だった頃の力を遥かに凌ぐ力を持っていた。発する瘴気は並の人間が吸えば、一瞬で動けなくなるだろうというのが分かる。梨乃は術で吸わないようにしているが、油断したら動けなくなってしまうだろう。
能力を持っているとはいえ、死神と異なり生身の人間である梨乃は、命の危険と隣り合わせで戦っていた。
「『旋風砲』!」
梨乃は強力な風の流れを造り出し、宵宮を足止めした。それに続いて、清蓮が技を放つ。
「『木霊招舞』!」
清蓮は式神を召喚し、それを木の幹に憑依させて宵宮を縛った。そして、自らの術でそれごと宵宮を焼き尽くす。
「凄い…」
「これでも力は落ちている方だ」
だが、宵宮は清蓮の束縛を解き放ち、再び清蓮を攻撃した。瘴気の弾と毒の棘が、同時に清蓮を襲う。
「『疾風刃』!」
梨乃が風で攻撃を断ち切った。そして、御札を投げて瘴気を浄化する。少なからず、梨乃の攻撃は宵宮に効いているようだった。
「我にしか攻撃しないな。正気を失っても我の事を忘れていないのか」
清蓮は一人宵宮に向かった。宵宮は赤く血走った目でじっと清蓮だけを見つめる。
「宵宮は生まれつき狂気を宿していた、妖になってもそれは変わらないのだろう。我がここで始末をつける、梨乃は離れておけ」
梨乃は清蓮の言う通りその場から離れた。
清蓮は何かを唱えて、周囲の『風』を集めだした。そして、霊水晶の数珠を握る。清蓮の目は自らの霊力で青く光っていた。
「悪しき魂よ、現世の未練を断ち、あるべき場所へと還れ、『葬風蓮』!」
清蓮がそう唱えると、宵宮の周囲に強大な『風』が吹き込み、力を全て奪われた。
「『冥道強返』!」
そして、発生した光の柱に包まれ、宵宮は跡形もなく消え去ってしまった。
宵宮が消え去り、周囲の禍々しい気配は消えた。久々に力を出したのか、清蓮はその場に倒れる。梨乃はそんな清蓮に駆け寄った。
「清蓮さん!」
「力を使い過ぎただけだ、時期に回復する。」
清蓮は霊水晶を握って霊力を取り込んだ。だが、意識だけで肉体がないはずの清蓮の身体は傷ついていた。清蓮の術ももう持たないということだろうか。
清蓮が立ち上がったその時だった。亜空間が破れ、中から霊達が流れ込んで来る。それに伴い、怪達も入り込んで来た。
「我の力が弱まる所を付け狙ったのか、この亜空間が破れるとは、我の力もここまでか…」
「亜空間だけじゃない、向こうの結界も破れている。もし、何かあってとしても智君が守ってくれるはず」
梨乃は立ち上がって御札を構えた。