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勤の記憶


 智の一件の後、勤は不思議な夢を何度も見るようになった。

 そこはいつもぼやけた光を放っていた。古い町並みは、勤にとっては見覚えのない景色のはずなのに、何処か懐かしく感じる。そこで勤は、“自分ではない別の人物”になって、誰かを待っていた。

 そして、映画のように景色が変わると、次は青波台にある『光の樹』がある丘に着いていた。そこで、“自分ではない別の人物”は、透明になって、そこでも誰かを待っていた。

 勤が、その人物は誰なんだろうと考えていると、夢から覚め、元の自分に戻っていた。




 勤がその話を玲奈と智にすると、智が『光の樹』について話始めた。

「『光の樹』は死出山に繋がる魂の通り道と言われているんだ。昇天した魂の光が樹の隙間から漏れるから、その名前が付けられている。父さんは、樹の様子を見る為に時々ここを訪れているんだ。」

魂にずっと触れていると、樹の寿命も縮まっていくのだそうだ。そこで、廉は時々様子を見に来ているらしい。

「でも、どうして勤君の夢の中にその『光の樹』が出てくるのだろう…?」

「今はもうないけど、昔ここで自殺する人が居たんだってさ。勤の夢の中の人物が、樹の側で透明になったって事は、その可能性もあるんじゃないか?」

「そうか…」

勤は二人に話してみたが、結局答えが分からずまた一人で考えてしまった。




 そして、三人は『光の樹』の側で別れてそれぞれの家に帰って行った。玲奈も自分の家に戻って行く。

 家に着くと、珍しく優太が仕事を終えて帰って来ていた。

「お父さん!早かったんだね!」

「お帰り、玲奈」

玲奈は、優太の横にやって来て、こう話し出した。

「『光の樹』が自殺スポットだったの」

「ああ…、僕の知り合いもそこで死んだよ」

「知り合い?」

「青山晴人っていう人、父さんの知り合いで何回か会った事があるよ。それにしても、玲奈はどうしてそんな事を聞くんだい?」

「友達が気になるんだって…」

玲奈は、テーブルに頬杖をついて、明日梨乃にもその話をしてみようと思っていた。





 翌日、玲奈は梨乃に勤の話をした。そして、梨乃の能力の一つである『夢渡』で勤の夢の中に入ってほしいというのを伝えた。

「『夢渡』で勤君の夢を見てほしい?」

「うん、ひょっとして勤君の記憶に関係あるかもって」

「そっか…」

「梨乃姉ちゃんって、晴人さんの話聞いた事ある?」

「瞬叔父さんの同級生で、親友だった人よね?確か、自殺した話を聞いた事がある…」

「そうなんだ…」

玲奈は、梨乃の横に座って、こう言った。

「梨乃姉ちゃんって、千香さんの産まれ変わりだって言ってたでしょ?もしかして、晴人さんも生まれ変わって誰かと再会したいんじゃないかな?」

梨乃は、玲奈の言う事がなんとなくそうだろうという気がしてきた。





 その日の夜、梨乃はベッドの中に入って、勤の事について考えた。

「勤君の夢の中に入るんだよね…」

梨乃が目を閉じると、すぐに眠りについた。そして、勤の夢の中に入っていく。



 そこは、勤の夢のはずなのに、人が住んでいた頃の死出山に来ていた。そこで、幼い頃の瞬を見かける。

「瞬叔父さん…?と横にいるのは?」

瞬の横には、幼い少年と、瞬と同い年くらいの少年が並んで瞬と話していた。幼い少年は、梨乃の父親によく似ている。

「もしかして、この人が晴人さん?」

梨乃がその三人の事を追おうとしたその時、景色が暗転し、夢の舞台が変わっていた。



 そこは、梨乃達が産まれる前の青波台だった。何故それが分かったのかというと、青波駅の駅舎が古く、建築途中の知っている建物があったからだ。梨乃は、そこにある『光の樹』に向かって走り出す。



 梨乃が『光の樹』に辿り着くと、そこには霊になった男性が一人佇んていた。梨乃はその横に座り、男性にこう話し掛ける。

「青山晴人さん、ですよね?」

「俺の事が、視えるのか…?」

晴人は梨乃が自分の事が視える事に驚きながらも、懐かしく思っていた。

「俺の親友も、霊が視えたんだ…。君とは初めてあったはずなのに、懐かしいな、何でだろう」

梨乃は、夢の中の晴人と話そうとしたが、夢が途切れ、現実世界に戻ってしまった。




 目が覚めると、朝になっていた。梨乃は朝の支度を済ませ、玲奈と一緒に学校に向かう

「そっか、夢の中で晴人さんと出会ったんだね」

「うん…」

「晴人さんって、瞬さんと仲良かったんでしょ?そういえば、おじいちゃんが、瞬さん今度家に来るって言ってたな…」

茂と瞬は現在も親交があり、今も時々瞬が渡辺邸に来る事を玲奈は知っている。今度の休日も、話があるからといって来る事を玲奈は知っていた。

「その時、私達も行けないかな?」

「迷惑にならなかったら、いいとは思うけど…」

瞬と晴人は親友だった。勤の前世が晴人なら、出会った時に何か反応するはずだ。以前会った時は何もなかったが、きっと、それは記憶を未だ思い出していなかったからだろう。

「勤君も、何かの拍子に思い出してくれたらいいんだけどね…」

玲奈は、今度遊びに行く事を茂に伝えようと思った。そして、また瞬に会える日を楽しみにしながら、学校に居る勤にそれを伝えに行った。



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