桜が咲く時
玲奈とよく似た少女は、玲奈の事を不思議そうに見ていた。彼女も、玲奈と同じような事を思っていたらしい。
「もしかして、ドッペルゲンガー?」
「ドッペルゲンガーって何…?」
どうやら、玲奈とよく似た少女はドッペルゲンガーが何か知らないようだった。玲奈は、昔茂から教えてもらった事をその少女に伝える。
「ドッペルゲンガーっていうのはね、自分とよく似た人がこの世に三人居てね、その人同士が出会ってしまうと死んでしまうって話。」
「へぇ…、まあ、もしそんな事があったら私がなんとかするから!」
少女はそう言ってどこからともなく鎌を取り出した。それは、智とよく似ているが、柄が水色になっていて、何処と無く可愛らしい印象を与える。
玲奈は最初それに驚いていたが、智と同じように死神なんだと思うと、表情を戻した。それに気づいた少女は、不思議そうに玲奈を見つめる。
「私が死神でも、驚かないの?」
「うん、私の友達の中にも死神が居るから」
「そっか、私は死神は死神だけど、半端者だから…」
「半端者、ってどういう事?」
「私は、死神と人間の間の子だから…」
「じゃあ、華玄と同じような存在って事?でも、華玄は男の人だったし…」
死神と人間の間の子は冥界には居ないはずだ。フォレスの話からして、風見華玄が封印されて以来、死神と人間が結ばれる事はない。死神達から驚かれたので、そもそも生きた人間を見る事自体珍しいはずだ。
それなのに、目の前に居る少女は、自分は人間と死神の子だと言っている。以前夢で出会った風見昴、華玄の産まれ変わりだと思われる少年程ではないが、目の前の彼女も、梨乃や智以上の霊力を持っているのが、玲奈には分かった。
「私は渡辺玲奈、君は?」
「私は剣崎真莉奈っていうの」
「見た目もだけど名前も似てるんだね、私達」
「そうだね!」
真莉奈はしばらく玲奈の事を見つめていたが、樹の上で誰かが呼んでいるのに気付いて、上っていった。玲奈は、樹の隙間から真莉奈の姿が見られると思ったが、真莉奈の姿は全く見えなかった。
すると、それと入れ替わるように智が玲奈の元へ現れた。
「玲奈、どうしたんだ?」
「智君、どうしてここに?」
智は頭を掻きながら笑った。理由は何であれ、玲奈に会いに来てくれたのは、玲奈は嬉しかった。
そういえば、先程真莉奈は、苗字を剣崎と名乗っていた。智の親戚か何かだろうかと思った玲奈は、智に聞いてみる。
「智君って女の子の従兄弟って居る?」
「いや、父さんの方の従兄弟は居ないし、母さんの方には居るけど男の子だ。女の子の従兄弟は見た事ない。」
「じゃああの子は、なんだったんだろう…」
玲奈は、真莉奈が消えた先をじっと見つめていた。
「でも、何でだろう。あの子とは、真莉奈ちゃんとはいつかまた会える気がするんだ。」
智は、そんな玲奈を不思議そうに眺めていた。
同じ頃、梨乃と勤も何かの声に呼ばれて何処かに向かっていた。二人が向かっているのは、白部山の奥深くにある巨木の桜だった。季節はもうすぐ夏になるというのに、花が咲いている。
「季節外れの桜が咲いている…」
その木の下には、誰かか立っていた。見た目からして、勤と同い年くらいの少年に見える。その少年は梨乃達が来るのを分かっていたようだった。
「待っていたよ」
梨乃達を待ち構えていたのは、水干を着た少年だった。少年は、御札を構えて梨乃達の方を見つめる。梨乃は、その少年に驚く事なくこう言った。
「桜弥、どうしてここに居るの」
「まぁ、風の気まぐれってやつかな」
桜弥は、そう言って突風を吹かせた。その勢いで桜の花は一気に舞い散る。どうやら、その花は実際に咲いていた訳ではなく、桜弥の霊力で具現化していたものだそうだ。
「勤君、離れてて!」
梨乃は一度勤を避難させた。
そして、梨乃は式神を使って木の根を操り、桜弥を束縛しようとした。ところが、桜弥は梨乃の手の内が分かるようで、先回りして回避していく。
「清蓮の技を使えるようになったのか、流石だな」
桜弥は、そう言って梨乃が操る根を燃やした。
どうやら、桜弥も梨乃と同じように様々な属性の技を使えるらしい。桜弥は、炎の勢いを更に増そうと風を起こした。
「マズイな、このままじゃ山が燃える…」
すると、梨乃は一度炎が燃えている場所から離れた。
「『水神招舞』!」
梨乃がそう言って技を放つと、バケツをひっくり返したような雨が一気に降り注ぎ、桜弥の炎は消えてしまった。
「この技には相手の戦意を失わせる効果もある、どうよ」
「流石だ、だがまだまだのようだな」
桜弥は、梨乃の術で浴びた水を服で拭き取り、背中を向けた。
「また会おうぜ」
桜弥はそう言って、風と共に消えてしまった。
そして、取り残された勤は、梨乃の所に戻って来て、桜弥の事について聞いていた。
「梨乃さんはさっきの、桜弥っていう奴が何者なのか知ってるんですか?」
「まぁね…」
梨乃はそう言って何かを考えている素振りを見せた。




