蓮華が咲く園
その日の晩の事だった。玲奈は久々に夢を見た。はっきりとした夢を見るのは、智の一件以来無かったから、最初は驚いたが、すぐに慣れた。
玲奈の目の前には、真っ赤な蓮華の花畑が広がっていて、その先には蓮の花が咲く湖がある。それはまるで、極楽浄土を現しているようだった。
玲奈は湖の前に立って、一歩踏み入れた。不思議な事に、その湖の上は歩けるようになっていた。玲奈は、何かに導かれたようにその上を走って行った。
その湖の中央には誰かが立っていた。背格好から玲奈と同い年くらいの少年のように見えたが、神話に出てくる神が着るような白い衣を身に纏っていた。手には糸が巻き付いていて、湖の下に繋がっている。
玲奈が近づくと、その人物は振り向いて玲奈の方を見た。その顔は、何処か智に似ていた。
「来たな、玲奈」
「君は、一体…?」
その人物は玲奈の方を見ると、口元を緩めてこう言った。
「お前冥界で、俺の事話してただろ?」
玲奈は、冥界で何の話をしていたのか考えた。そして、フォレスにある人物の事を教えてもらったのを思い出して、その少年に伝えた。
「風見の忌み子の、風見華玄?」
「ああ、そうさ」
「忌み子っていうから、もっと禍々しい存在だと思ってた…」
玲奈は目の前の少年は、大きな声で大胆に笑った。そして、こう続ける。
「まぁ、厳密に言えば、今の俺は華玄ではない。俺は風見昴、そう遠くない未来に冥府を統べる者さ、誰が何と言おうと、俺は俺だよ」
昴がそう言うと、周囲の花畑が一気に燃え上がった。
「凄まじい霊力…!」
「こんなものじゃないさ、俺はもっと強くなる」
昴によると、華玄は自らの力で自らを封印した後、この空間を作り出して、力を蓄えながら、現世や冥界を操作していたのだそうだ。
手にしている糸は、人の運命そのものらしく、玲奈達四人にも繋がっているらしい。
「一つ教えてやろうか、玲奈、確かお前は、前世の事知りたがってただろ?」
玲奈が頷くと、昴はこう答えた。
「俺は自分自身を封印した後、強大な魂を取り込んだんだ。月輪、弓姫、紅姫、日輪の四つの魂さ。お前は、その中の紅姫の魂の一部を植え付けて出来た存在なんだ。だからお前は、常人よりも強力な霊力を持ってるんだよ」
「そうなんだ…」
「最も、霊力が強くても、それが使えなくては意味がない。梨乃達と違って、お前は霊術使えないだろ?霊力の強さと、霊術の強さは必ずしも比例する訳でないんだよ」
昴の言う事は、玲奈が今まで見聞きしてたどの話よりも壮大で、玲奈には全く想像出来なかった。
そこで玲奈は、先程思いついた素朴な疑問を昴に投げかけてみる事にした。
「凄いね、昴君。でも何で魂を取り込んだり、私に植え付けたりしてるの?」
「それは俺が再びこの世界に産まれる為さ、その為ならどんな手段だって取る。」
昴はそう答えながら右手を開いた。すると、燃えて灰になったはずの蓮華の花が、先程芽吹いたように生き生きとしだす。
どうやら昴には、生命すらも左右出来る力を持っているらしい。同じ能力者だったとしても、梨乃や智とは比べものにならない力を持っているという事だろうか。
「また会おうな、お前の判断さえ誤らなければ俺と会える。楽しみにしてるよ」
昴はそう言って、夢の中から消えてしまった。玲奈の夢もそこで途切れ、玲奈は目を覚ました。
その日は丁度日曜日だった。玲奈は、朝食を食べて、散歩の支度をする。玲奈は、昨日の夢の事を梨乃に話そうと思ったのだ。
そうして、梨乃の所へ向かおうとした時、何処かから、自分を呼ぶ声が聞こえたのでその声がする方へ走って行った。
気がつくと、玲奈は『光の樹』がある丘に着いていた。見ると、既に誰かがそこに居る。玲奈は人の気配がある方に行き、顔を覗き込んだ。
「君は…?」
そこには、楊梅色の髪の毛で、しかも自分とよく似た少女が立っていた。




