かつての兄弟へ
玲奈達が冥界に行っていたのと同じ頃、梨乃の祖父である風見守は、散歩の途中で偶然、智の父親である剣崎廉に出会った。
実は、守と廉は、死出山で暮らしていた時、同級生で仲が良かったのだ。久々に出会った二人は喜びの余り、何を話せばいいのか分からなくなってしまった。
すると、廉の方から守に向かってこう話し出した。
「久し振りだな、守」
「君は変わらないな、廉」
自分が老いているのに対して、廉が二十代半ばの頃とそう変わらない見た目をしているのを見た守は、そうからかうように言った。
「死神だって老いて死ぬさ。ただ、それが人間よりも緩やかなだけで」
廉はそう平然と言い切った。
「やはり智君は廉の息子だったか、昔の廉に似ていたからそうだと思ってな。」
守は、以前見かけた智の姿と廉の昔の姿を重ねて見ていた。
そして、廉は久々に出会った守に、こう話し出すのだった。
「我々剣崎家は冥王月輪の命の元、風見家を監視し続けていた。死神として生き続けた剣崎家と異なり、風見家は、すぐに人間と同じ寿命になり、血も力も薄くなった。妖達に命を狙われ、血筋が絶えかけた事もあった。それでも、この風見家は死出山を守るという名目の元で存在し続けたのだろう?」
そう言って、廉は自分が知っている冥界の昔の事について語り始めた。
風見家は古代では豪族と呼ばれ、産まれつき強力な霊力を宿していた。そして、その力を利用して陰陽師として活躍していた。
その中で有名なのが、『風見の始祖』と呼ばれ、死出山で知られ続けた風見清蓮だった。風見家は、清蓮の子孫であるが、清蓮自身は生涯独身だった。
風見家は、清蓮の血を引いているという訳だが、清蓮から産まれた訳ではない。清蓮の双子の兄である風見王蓮の子孫だった。
風見王蓮は陰陽師だったが、清蓮程の力は持っていなかった。そして、ある時隣国の姫として現世に来ていた月輪の娘である紅姫と結ばれ、子供を産んだ。その子供が冥界で“忌み子”と呼ばれた風見華玄だった。
他の死神達には伝わっていなかったが、実は華玄には双子の弟が居た。風見幽玄といって、死神の力を持っていた。幽玄は死神として冥界に留まり続け、死神と結ばれて子孫を残すのだった。
そして、華玄の子孫は風見家として、幽玄の子孫は冥王月輪から剣崎の姓を授かり、今に至る訳であった。
「つまりだな、かつて俺達は兄弟だったって事だよ。そうだったのは千年以上も前の話だから、剣崎家の人間の血も、風見家の死神の血も、大分薄くなっているはずだがな。」
「それを、寿命が近づきつつある僕に言ってどうする?」
守がそう言うと、二人の間の空気が急に冷たくなった。
「僕は人の寿命が分かるのだけど自分の寿命だけは分からない。だけどな、最近になってもうすぐ自分にもそれが近づきつつあるのが分かるんだ。」
「そうだったな」
廉は守に背を向けた。
「また会おうな」
「次出会う時には、僕は生きているかどうか分からないがな…」
守も廉に背を向けて、立ち去って行った。
守は死神である自分に対して恐れを見せない。それは、智の友人である玲奈達もそうだった。
智の能力は、今は亡き冥王月輪と同じものだった。それが今智に現れているという事は、古代の冥界が復活しようとしている兆しなのかもしれない、と廉は考えている。
「あの子達は、冥界の歴史を大きく動かす鍵になるかもしれないな…。」
廉はそう呟いて、家に帰ってしまった。




