その後の香澄
あれからしばらく経って、香澄は梨乃と一緒に中学校に通うまでに回復した。体育の授業は未だに最後まで参加出来ないものの、それ以外はずっと教室に居る。
梨乃と豊は、香澄が無事に学校に通い続けているのを知って、嬉しく思っていた。今後は部活とかにも参加出来たらいいなと考えた梨乃は、顧問に頼んで見学を申し込んだのだった。
吹奏楽部の見学の日、梨乃が様子を見ようと音楽室に行くと、香澄が一人でピアノの椅子に座っていた。
「吹奏楽部の見学はもう終わったの?」
「みんな外に出たから、少し部屋で休憩しようと思っていたの」
「そうなんだ…」
香澄は、ピアノの鍵盤の蓋を開き、手を置いた。
「久々にピアノ、弾いてみたくなって。また練習も再開出来たらいいな」
そして、香澄は好きな映画のテーマ曲を弾き始めた。華奢な指から、荘厳なメロディーが弾けるように響く。同じクラスの中にもピアノが、弾ける人は居るが、ここまで弾けるとは思えない。香澄は、ピアノだけに向き合って、夢中に弾いていた。
そして、香澄が弾き終わると、背後から大きな拍手が聞こえた。振り向くと、吹奏楽部員や顧問、それから偶然聞いたいくつかの運動部員達が、香澄に気づいて音楽室まで駆け付けてくれたのだ。
「岡本さん、ピアノ上手いんですね。」
「はい!ありがとうございます!」
吹奏楽部長の先輩が、香澄に対してこう言う。
「あなたみたいな音楽好きな生徒を迎えたいの。無理しない範囲でいいから、是非来てくれないかしら。」
「先輩、ありがとうございます!」
香澄は先輩の手を握り、お礼を言った。
「良かったね、香澄」
香澄が吹奏楽部に迎えられるのを知った梨乃は、安心して後ろに付いていた。
同じ頃、玲奈と智は、愛花と一緒に公園で遊んでいた。愛花は、愛猫のチョコを抱えて、玲奈の側に居る。
「愛花の猫だったんだな」
「チョコって言うの、可愛いでしょ?」
「そういえば、どうして愛花はどうして黒猫を飼ってるんだ?横切ると不運になるとか、魔女が飼うとかいわれて嫌われてるのに…」
それを聞いたチョコは目を丸くした。チョコの事をそんなふうに言うのかと愛花は慌てたが、玲奈が代わりにこう答えた。
「違うよ、黒猫はね、幸運のシンボルだよ!」
「そうなのか…?」
「横切ると不運になると言われてるのは、幸運が逃げるからだっていわれてるけど…」
「まぁ、猫は何色だとしても可愛いよ。そしてね、黒猫のオッドアイって物凄く珍しいんだよ!」
愛花は慣れた手付きでチョコを抱え上げた。チョコは逃げずにじっとしている。
そして、愛花はチョコを智の膝に乗せた。チョコは、智に擦り寄ってくる。
「智君に懐いてるね」
「うん…」
智は、そんなチョコを撫でて可愛がっていた。
そして、二人は愛花と別れて帰っていた。その途中、偶然海の近くの丘に居る勤と出会う。
「あれ、勤君だ、どうしたの?」
「最近、ここに居る夢を見るんだ。もしかしたら、梨乃さんや智にあった前世の記憶、俺にもあるんじゃないかって思っててな。」
「そうなの?」
勤はずっと丘にある『光の樹』を眺めていた。勤がこういう事を言うなんて珍しい。玲奈は、明日早速この事を梨乃に聞いてみようと思った。