第1章 3話
それから三年もの間、俺は教会で執拗に暴力を振るわれる毎日。
そう、「教会から出ていけ」と言われたものの、ここ以外に行くあてもないし、考える力もない子供がそんな決断をできるわけもなく、結局教会の隅に居座っていた。
そして、次々とスキルの才覚を示したアドルス以外の孤児達はそのスキルを使って俺をいたぶるのが日課となっていた。
それにアドルスはなんの抵抗もせず、ただ痛みや苦しみを一身に受けるのみ。
いや、抵抗する気力が俺にはもうなかった。
家族だと思っていた孤児達に裏切られ、唯一絶対の信頼を寄せていた神父も、孤児達の行動を黙認している。
誰も俺を助けてはくれない。
……俺は一人だ。
……俺はもう、彼らと同じ人間じゃない。
完全に心を閉ざしてしまったから。
心なき者は、人ではない。
この世界の人々が信仰する十五天使の一人、サマエルの言葉らしい。
俺は自ら、人ではなくなってしまった。
そして更に二年の月日が流れ、上位スキルを発現させた、ラングを含めた殆どの孤児達は、国に重宝され、軍の上層部や騎士団に勧誘されていった。
残ったのは、俺と俺の後に教会に入ってきたまだ幼い子供だけ。
その子供も既にスキルを発現させ、勧誘がくるのも時間の問題だ。
こうして俺は更に、無能の烙印を押された。
俺をいたぶるラング達がいなくなった今、俺に干渉する者は誰一人としていない。
そしてそんなある日、兵士と思われる複数の男が教会に慌てて駆けつけた。
「た、大変だ!『災厄の裂け目』が出現したそうだ!!そして魔族も動き出した!」
「なんだって!?」
それを聞いた神父は目を丸くしていた。
「ここにもすぐに化け物がやってくる!!ここの子供達を連れて西へ逃げてくれ!」
「わ、わかりました!」
そして、兵士達は次の町へと警告に向かっていった。
それを後ろで聞いていた孤児達にも焦燥が走る。
「みんな聞いていたね?すぐに荷物をまとめて逃げるよ!!」
『は、はい!!』
神父の言葉に、孤児達は冷静に動き出した。
だが、一人だけ全く動こうとしない者が一人。
「アドルス……お前は逃げないのか?」
神父は一応彼にそう問いかける。
だが、アドルスからは何の返事も返ってこない。
「そうか……ならばお前はここで死ね。本当はお前のことなどどうでもいいからな。お前なんて、最初から預からなければ良かった。こんな無能の悪魔」
痺れを切らした神父が素顔を見せた気がした。
神父だって、本当は俺のことなんて家族ともなんとも思ってなかったのだろう。
全部この紫色の目のせいだ。
なんで、こんなことになってしまったのだろう。
いつから、俺はこんな風になってしまったのだろう。
俺の味方をしてくれる者は誰もいない。
教会の孤児達や神父が憎い。
この世界が憎い。
こんな世界、災厄の裂け目とやらで滅んでしまえばいいのに。
胸の内から、そんな感情だけがこみ上げてくる。
そうしているうちに、教会からは音が消えていた。
孤児達と神父が災厄から逃れるために教会を出たのだ。
最後に、俺に声をかけてくれる者はいなかった。
あぁ……もう終わる。
アドルスの命の灯火はもう消えかかったていた。
と、その時。
教会の壁が崩れる音が微かに聞こえた。
瞑りかけていた目をゆっくりと開き、軽く上を見上げると、そこには大きな白い翼を背中に生やした、誰がどう見ても、天使の姿をした青年がいた。
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