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第1章 2話

あれから、十年後───。


教会の裏庭に、アドルスと、多数の同じ孤児達姿があった。



「この悪魔がっ!!」


憎悪に満ちた叫び声とともにドガっ、と強烈な音が響き渡る。


孤児のリーダー核である一番年長のラングという男が彼の腹部を思い切り殴ったのだ。


「ぐは……っ!?」


悶絶しながら、俺は腹を押さえながらうずくまった。


数秒呼吸が不安定になる。


呼吸が安定した後も、俺はただ呆然としていることしかできなかった。



それもそのはずだ。



ついさっきまでとても親しげに接してくれていた孤児達が、虫けらを見るような冷たい視線を向けてきたからだ。


そこにラングからの一撃を食らえば、もう驚くことしかできない。



急にどうしてしまったんだ。



俺が何かしてしまったのだろうか。



ラングに下から視線を向けながら、訪ねた。



「ど、どうして……」



「ああ?よくそんなことが言えたもんだな!」



右頬に強烈な痛みを覚えた。



今度は完全に顔が地を這う。



「神父様の話を聞いちまったんだよ。お前のその左目……怪我なんかじゃくて、『半魔疫病』っていう悪魔の病だってな」



「な、なんだ……それ……っ?」



『半魔疫病』。この言葉をどこかで聞いたことがある。一体どこでだ!?



これまで、神父からは俺の左目は先天性の障害があると聞いていた。孤児達には怪我として解釈されていたようだが。


悪魔の病って一体、何の話だ。



「お前は、いずれ体内の魔気が暴走して狂人になって人間を殺すようになるって神父様が言っていた。最近この辺の村の飢饉が続いているのも、全部お前のせいだ!」



「な、なん……だってっ」



一体何のことだ!?



全く理解できない。



俺が狂人?人を殺す?そんなわけない。


だいいち、俺はこの教会内のこと以外の情報には触れる機会がない。



外の世界を知らない。



教会内の孤児と神父以外の人間を見たことがない。


なのに、どうして俺が悪魔になって人間を殺すんだ?


そんなこと、誰も教えてくれなかった。



そうだ、神父様が言っていたんだ。


この目はただの障害。悪魔の病気なんかじゃない。


「お、俺は……何も知らない!何もしてない!信じてくれ!」


足をガクガクさせながら立ち上がり、叫んだ。


俺は俺の信じるものを貫く。



神父の言葉を信じる。


そう決意した。


だが、その信頼は中庭に突然現れた神父本人の言葉によって裏切られることとなった。


「とうとうばれてしまったか……」


そう言いながら、ゆっくり歩み寄ってくる神父。


「神父様……っ!?それって……どういう……俺の目はただの障害なんですよね!?」


必死に訴えるアドルス。


それに一片の表情も変えない冷めた顔をした神父。


嫌な予感がする。



「君の両親の頼みで、君の目の核心は伏せていたが、ばれてしまってはもうそれを守る必要もないか……」


俺の両親が隠したかったこと。


一体なんなんだ?


神父は淡々と語り出す。



「君の片目は紫色だ。この意味は君も知っているね?」


「紫色って……まさかっ!?本当に……っ」


俺はこのことを教会にある歴史書を読み漁っていた時に知った。


「そう、君はあの『殺戮の魔王』と同じ……半魔疫病なんだ」



ラングと同じ言葉を口にした。


数万年前に一度だけ現れ、人々を恐怖に陥れた、最恐の存在。


現在では、魔族を率いている人類にとって一番の強敵……『魔王』。


俺がその最悪の存在と同じだなんて、そんなこと簡単には信じられない。



「な、なにかの冗談ですよね!?俺が……そんな……皆んなもふざけるのはよしてくれよ!」


この時、俺は既にどこかおかしくなっていた。


唐突に突きつけられた真実を受け入れることができず、まだ希望を捨てきれていない。


孤児や神父の顔を見れば、それが真実なのだとすぐにわかるものを、俺は見ようとしない。



頭の中で補正をかけている。


自然と頭をよぎる、孤児達との毎日の楽しい日々。


初めて会った時に、ラングが俺に言ってくれたあの言葉……。



(俺たちは家族だ。たとえどんなことがあっても、俺たちはずっと一緒だ)



この言葉を思い出す。



「なあ、皆んな……俺達、家族だよな?どんなことがあっても、ずっと一緒だよな……?」


俺は手をゆっくり彼らに差し出す。


きっと、この手を掴んでくれると信じて。



だが、彼らの言動は俺をさらに追い詰めるものだった。


「誰と誰が……家族だって?」


「……ぇ?」


瞬間、強烈な痛みと共に、後方に三メートル程飛ばされる。



ラングが初めて、『スキル』を発動した。


衝撃波のスキルだった。


スキルというのは、その人の才能か、とても強い意志が具現化して発現するものだ。


今、ラングがスキルを発現させたということは、つまり……。



「お前みたいな悪魔と、誰が家族だってかっ!?」


そのラングの憎悪の叫びに、後ろの孤児達も煽られた。


「そうだ!お前なんて家族じゃない!!」


「誰が悪魔となんて家族になるか!!」



「この教会から出ていけ!!」


『出ていけ!!』


誰一人として、俺を庇うような発言をする者はいない。


誰も手を差し伸べてはくれなかった。


この時、やっと俺は現実を理解した。




俺の居場所は……もうない。


俺に家族は……もういない。


俺はそこで下を向いた。


彼の目から光が失われた。






今話もご拝読ありがとうございます!



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