シンゲツ
道端をうろついてるのは、ババアだ。
私は、サイドカーを止めて、ババアに詰め寄った。
「婆さん、こんなハイウェイのど真ん中で、危ねーぜ」
「ちょっと訪ねたいんじゃけども、孫の家はこっちかい?」
いやいや、こんな果てしなく続く道の先に、孫の家はねーんじゃねーかな?
「婆さん、住所とかちゃんと確認したか? ぜってーこっちにはねーぜ」
「もういいぜ、下がってろ」
その時、婆さんとはまた別な声が響いた。
そして、頭上から黒い僧衣を羽織った、中肉中背の男が、鎌を振り上げて私の方に向かってきた。
「ちゃんと金は貰うからね!」
「分かってるよ」
こいつら、グルか!
私の親切心を利用しやがるとは、許さねぇ。
振り上げた鎌が、私の頭に刺さる。
だが、その鎌は、私の皮膚を凹ませたにとどまった。
「なっ、馬鹿な!」
「全然効かねーな」
私は、グーで相手の顔面を殴りつけた。
がはっ、といううめき声を漏らす。
「おらっ、死ねっ、死ねっ、死ねっ」
私は、倒れた相手に容赦なく足蹴をかます。
「や、やめでぐだざいっ、死んじゃいまずっ」
「うるせーよ、おらっ、おらっ」
相手は、ぐったりして鎌を落とした。
すると、体型が中肉中背から、ただのデブへと変化した。
「あん? お前、シンゲツじゃねーか」
シンゲツは、身体能力がアップする、エクサ・サイズという鎌を持っている。
体型まで変わるとは知らなかったが。
「何が、能力アップだ。 安パイ切ってんじゃねーぞ」
シンゲツを倒すと、今度は背後からパチパチ、という音が聞こえた。
「先輩、流石です」
「……おめー、レモンか」
レモンは、確か14才で死神になった、最年少死神だ。
今年でまだ16だったかな。
月間最優秀死神にも選ばれてたし、業界じゃ結構評判がいい。
「先輩、私が他の死神を撒く手伝いをしますよ」
「おめー、さっきツイートで私を倒すのに賛同してなかったか?」
「あれはフリですよ。 この先の田舎町にホテルを予約してあるんで、行きましょ。 私、自転車なんで、先行ってます。 詳細のライン、見といて下さい」
チリン、とラインを通知した音が鳴った。