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大きすぎるカブ

作者: 慧瑠

子供に紙芝居を読んでいる時、なんとなーく思いついたので気晴らしに投稿。

とか思ってたら、なんやら長くなってしまいました。


勇者が魔王討伐へ旅立ち時が進み早一年半。

勇者誕生を公表した王都から二日程馬車で下り、少し藪の中へと入った所。人目に付きにくいその辺りに、一軒家が建っていた。


「ふぉふぉ…ちと、放置しすぎたわい」


「あらぁ、本当ですねぇ」


そこに住む老人夫妻は、目の前にそびえ立つモノを見上げながら呑気に笑っている。


「いつもよりも大きいのぉ」


「皮むきとか大変ですねぇ」


それは大きなカブだった。

老人夫妻の一軒家よりも大きく、見上げなければふさも見えない程に大きいカブ。


おじいさんは、とりあえず…と、いつのもの様にカブを引き抜こうと試してみた。だが、そのカブは当然の様にビクともしない。


「やはり動かんのぉ…」


「困りましたねぇ」


おじいさんが周囲を見渡せば、自分の身長よりも少し大きめのカブが転がっているが、目の前のカブは明らかに自分一人では引き抜けないと分かっています。


「おじいさん、どうしますか?」


「ふぉふぉふぉ。ちょっと手伝ってくれそうな子等を探してくるとするかのぉ。

ばぁさんや、一週間程家を空けるがええか?」


「はいはい、大丈夫ですよぉ」


「では、このまま行ってくるとするわい」


「気をつけてくださいねぇ」


こうして、おじいさんは大きなカブを一緒に抜いてくれる者を探しに行くのでした。



おばあさんを待たせているので、できるだけ早くと考えたおじいさんは、全速力で藪を抜け川を駆け渡り山を一つ越えた辺りでカブが抜けそうな者を見つけました。


「ンー?人間トハ珍シイ」


「ふぉふぉ、お主は中々にいい体つきをしておるのぉ」


綺麗に切断された巨岩の上に座る赤い鬼は、自分を老人が見上げていることに気付いたのです。


この付近は、魔族にも人間にも協力をせずに種族的には中立である鬼が住んでいました。

鬼は力が強く、その戦闘力の高さからどちらの勢力からも協力を求められましたが、元々が個体個体で自由にしていた鬼は種族ではどちらかに関与する事はありませんでした。


だけど、個体でどちらかに協力していたりする事もあります。


おじいさんが見つけた鬼は、鬼たちの間でも敬遠される程、力が特別に強く、どちらにも協力はしていませんが、どちらとも敵対している鬼でした。


もちろん、そんな事を知らないおじいさんは、よじよじと鬼が座る場所まで岩をよじ登り、隣に腰をおろしました。


「人間ヨ、ココハ鬼ノ領域。何ヲシニ来タ」


図々しくも隣に腰をおろし、ふんふんと自分を観察するおじいさんに鬼は問いかけます。


「お主に頼み事があるのじゃよ」


「ホォ」


ふぉふぉと笑うおじいさんに、鬼は納得した様に頷き、その丸太の様な太い腕をおじいさんへと振り下ろします。

拳は岩を砕き、鬼の横に大きな穴が空きました。


「人間ヨ、オレハ弱者ノ頼ミハ聞カヌ」


口よりも先に手が出るとはこの事。

もはや聞こえていない事を理解しつつも鬼は言葉を吐きました。しかし、次の瞬間、鬼は自分の目を疑いました。


「人の話しは最後まで聞くものじゃ」


「確実ニ潰シタツモリダッタンダガナ」


おじいさんは鬼が振り下ろした拳に潰されてはおらず、鬼の腕を軽くペチペチと叩いていました。


「二度目ハナイ」


まさかあのタイミングでの攻撃を、人間の老体に避けられると思っていなかった鬼は、次の攻撃をします。

今度は避けられない様にと、手を広げ、凄まじい速度で振り下ろしました。

振り下ろす最中も、その掌が当たった瞬間も轟音が周囲に響き…潰す瞬間まで目を離さず、確実に当たった事を確認した鬼。


仕留めた。


今度こそと思った鬼。でも鬼はどこかで思います。


あの老体の人間は死んでいない…と。


「ふぉふぉ、これは期待できそうじゃ」


緊張感の無い声が聞こえた鬼は、思わず笑みを浮かべました。


強者の風格も威圧感も無く、ただの老人が自分の二度目の攻撃も避け、あまつさえ手の甲に悠々と腰を下ろしている。

舐められている様な、バカにされているような。自分に対してこんな態度を取った者はいつぶりか。


こういう時こそ冷静にならねばならない。怒りに身を任せては、つまらない結果しか訪れない事を鬼は知っています。

だからでしょうか。自分から攻撃をしたにも関わらずに、この老人の話しを聞いてみようと思ったのは。


「強イナ」


「ふぉふぉふぉ、経験の差じゃ。して、ワシの話しを聞いてくれる気にはなったかのぉ?」


「強キ者、話シヲシテミヨ」


鬼は、おじいさんの話しを聞きました。

なんでも、巨大なカブを引き抜くのを手伝ってくれる者を探しに、半日も掛からずに山を一つ越え、こうして自分の前に現れたと。

そして、おじいさんの見た目では、鬼の自分はカブを引き抜くのにいい協力者になるだろうとの事。


「アー…ナンダ、ソノ、オレニ、ソノ'カブ'ヲ引キ抜クノヲ手伝エト」


「ふぉふぉ、その通りじゃ」


まさか、そんな頼み事をされるとは思っていませんでした。

鬼は悩みました。


手伝うのは構わないが、その話が嘘かもしれない。


自分の存在がどういうモノかを鬼自身は知っています。普通とは違い、固有の力を有する自身は、協力をしないのならば脅威でしかない事も。

もしかしたら今の話は、自分をなんらかの罠に嵌める嘘かもしれないと。


そんな鬼を見て、おじいさんは言います。


「無理して手伝わんでもよいぞ。ただ、お主等の様に頭に角が生えとる種族は、なんでも酒が好きらしいのぉ…。

ワシのばぁさんが作る料理は、酒にもよー合って、これまた酒まで美味くなるんじゃがのぉ…」


横に座る自分をチラチラと見ながら言うおじいさん。

きっと、おじいさんは鬼の考えを見透かしてはいないでしょう。ただ、どうにかして鬼の協力を得たい。その一心である事を鬼は察しました。


そして、少し呆れつつも先程まで考えていた罠の可能性を、なんの根拠も無く切り捨て…


「分カッタ。ソノ頼ミヲ聞クトシヨウ」


「ほほほ!それはよかったよかった」


鬼の答えを聞いて嬉しそうに笑みを浮かべるおじいさん。


自分に笑みを見せる者はいつぶりか。最後に見たのは…あぁ、古くに旅立ち、今な亡き親の笑みが最後だ。

その後からは、自分は敬遠され近くに寄ってくる者も居らずに孤高。こうして会話をしたのを久しい事。


いや、良く良く考えれば、そうする様に仕向けてきたのは自分かもしれない。


「強キ者ヨ。(つがい)ノ飯ハ、ソレホドニ美味カ」


「ばぁさんの手料理を毎日食べておるワシは、世界一の幸福者じゃと言える程にはのぉ」


「ソウカ。ソレホドナラバ、オレノトッテオキノ酒ヲ持ッテイコウ」


--


おじいさんに言われて、一足先におばあさんが待つ家へと向かうため、鬼は山を越えている最中。

鬼の大きさでそうは思いませんが、肩にはとても大きな酒樽を担ぎながら一人で山を越えています。


道中、鬼は思い出しました。


別れる前、おじいさんがもう少し協力してくれそうな者を探しに行くと言った時に言われた何気ない一言。


―着いたらワシの友達だと伝え、暫し待っておれ―


いつの間にか自分は友達になっていた。

会ったばかりで、攻撃をしてきた相手を友と呼んだ。


おかしな話だと鬼はおじいさんに伝えましたが、おじいさんは言いました。


―同じ釜の飯を突き、共に酒を飲む。友と言うには十分じゃ―


あまりにも簡単になれてしまう'友達'に、思わず今度は自分が笑ってしまいました。

つられておじいさんも再度笑顔を自分に向けてくれました。


簡単で、当たり前の様に流れるそのやり取りに、鬼は不思議と心が暖かくなった事を思い出します。

我ながら、こんなに自分が単純だと思っていませんでしたが、それが心地よく、その小さき老体の友人を大切にしようと鬼は思いました。


だからでしょうか、自分が蓄えていた中で一番の酒を肩に担ぎ、いつもよりも軽く感じる足取りで、友人の愛する者が待つ場所へと向かえるのは。


「クダラヌ馴レ合イ。今デモ、ソウ思ウ。

ダガ、無駄デハ無イトモ思エルノダナ」


鬼が歩けば森は静まり、鬼は孤独を感じていました。

でも今は、その静かさも悪くはなく、孤独を感じることはありません。


--


鬼と別れ早三日。未だに協力者を探して駆けるおじいさん。

家で待つおばあさんと、そろそろ着いている頃の鬼。そして、引き抜く予定のカブを思い浮かべ、次の協力者を探しにまた山を越えます。


「おー君とワシでも行けたかも知れぬのぉ」


日も傾き、山頂でおばあさんが作ってくれたオニギリを食べながら呟くおじいさん。

おー君こと鬼の友人の力は、凄まじいものだったと思い、もしかしたら二人でも行けたかもしれないとここまできて少しだけ後悔をしていました。


「ばぁさんの飯が食いたいのぉ」


移動に疲れた。いい人材が見つからない。などではなく、ただただおばあさんが作った温かいご飯が恋しくなっていただけです。


そんな愛しきおばあさんを思い浮かべていたおじいさんへと近づく人影がありました。

気付いたおじいさんが振り返り目を凝らすと…。


「えっと…夜中にこんな所で一人は危ないですよ?」


何やら綺羅びやかな鎧を着た青年と、その後ろに中々の筋肉を携えた中年。そして、青年と同じ年頃ぐらいの娘が二人が立っていました。


「ふぉふぉ、平気じゃよ」


顔の皺を増やし笑うおじいさんに、青年達は困惑しつつおじいさんの近くへと寄っていきます。


「いえ、でもこの辺の魔物は獰猛ですし…」


四人の代表でしょうか。最初と同じように青年はおじいさんを心配して、困ったように声をかけました。


「ふぉふぉふぉ。ワシの若い頃は、道端にも獰猛な獣がでたものじゃ。

それと比べれば、今は平和で楽なものでのぉ…」


月も高くなり、夜の帳が下がりきったこの時間。

いつもであれば、すでに寝ている時間のおじいさんは、青年の言葉を耳にしつつも昔の話を続け始めてしまいました。


青年達も、こんな所でおじいさんを一人にする事はできず、ずるずるとおじいさんの話に付き合うハメになってしまいました。

それから…これは長引くと察した男と娘達は焚き火の準備をし、薪を二回ほど追加した頃。おじいさんの話が五週目に差し掛かった辺りです。


「でのぉ…ふぉふぉご………」


突然、おじいさんが黙ってしまいました。


「お、おじいさん?」


おじいさんの身に何か起きてしまった?と慌てた青年でしたが、よく耳をすませば…聞こえてくるのは静かな寝息。


「まさか…あのタイミングで寝たのか」


それに気付いた男は、呆れた様子で呟き、青年もハハハ…と困った様子で頭をかくばかり。


「それで、どうしますか?」


二人の娘の内、修道服に身を包んだ娘が青年と男に聞きました。

残りもう一人の軽装の娘は、焚き火に集めた薪を追加し、何やらスープの様なモノの仕上げに取り掛かっています。


「流石に置いてはいけないよね…」


「なら、ここで野宿ですね」


「まぁ、そのおじいさんが話し始めたぐらいには分かってたことよ」


青年の返答に呆れた様子もなく、もはや慣れた反応を見せる娘二人。男も分かっていたかの様に、既に寝床の準備を始めていました。


「ありがとう皆」


「これで放置するなんて言われても、きっと誰かが反対してたわ」


スープの仕上げを終えた軽装の娘は、味見をしながら青年の答えます。残りの二人も優しく笑みを浮かべ軽装の娘に賛同する様に頷きました。


「皆、ありがとう」


青年は、仲間の優しさに感謝をし、夜を越しました。



翌朝。


「ふぉっふぉっ!」


「「「「…………」」」」


急接近する大きな気配に目を覚ました四人は、瞬時に対応できるよう各自武器を手に取りました。

そして見たのは、ワイバーンと呼ばれる飛行型の魔物に鷲掴みにされて空高く消えていくおじいさん。


助けるために動こうとした青年達でしたが、何やら楽しそうに笑うおじいさんから告げられた言葉で動きが止まってしまいました。


その言葉で動きが止まってしまった青年達。すでにおじいさんは豆粒程の遠さ。


「'ばぁさんによろしくのぉ'って…ばぁさんって誰よ!」


「昨晩のお話に出てきたおばあさんではないでしょうか…」


軽装の娘の叫びに答える修道服の娘。


「よろしくったって…場所が分かんねぇだろ」


「王都付近の川を下ればいいらしいですよ?何やら大きなモノがあって分かりやすいとか…」


男の言葉に答える修道服の娘。


「えっと…どうしようか…」


「王都は場所が分かるので、私達なら転移魔法でいけますが…」


「ハハハ…急がないと行けないけど、放置もできないよね」


青年の視線に気付いた修道服の娘は答え。元からそうするつもりではあったのか、青年は苦笑いをしながら修道服の娘が言ったように'転移魔法'を唱え始めました。


「にしても、よくあのおじいさんの話を聞いて覚えてたわね」


「職業柄…どうしても耳を傾けてしまうんですよ…」


「…それもそれで大変なものね」


軽装の娘は、修道服の娘に同情の視線を投げかけ、その会話を聞いていた青年も男も同じように疲れきった様子の修道服の娘を見ながら消えていきました。



場所は変わり空高く。


「ふぉー」


おじいさんは、地上を見下ろしつつ空の旅を楽しんでいました。


何かあれば、降りようとは思っていたおじいさんでしたが、何かあるよりも先にワイバーンが高度を下げ始め、数分後には何やら大きなお城へと着陸したのです。


「はて、ここはどこじゃろうか…」


ワイバーンが着陸する前に投げられましたが、難なく着地をしたおじいさんは周囲を見渡しました。


石造りの大きなお城。自分を連れてきたワイバーンは、一度着陸して鳴き声を上げると、どこかへまた飛び立ってしまい一人ぼっちのおじいさん。

見渡しても、大きな扉が一つ。周りの風景は、切り開かれた陸地が少し続いて海。


はて?ここはもしや孤島かも。もしそうならば、ばぁさんとの約束までに帰れないのでは?と首を傾げていたおじいさんでしたが…そんなおじいさんの後ろにあった大きな扉が開かれ、またしても人影が。


「偵察に行かせてた子が何か持ってきたみたいだけど……。

何を連れてきてるのよ、あの子…」


「ふぉふぉ、ばぁさんには劣るがべっひんさんじゃのぉ」


「褒めてるのか貶してるのか分からないけどのだけど…貴方、ココがどこだか分かっているのかしら」


振り返り、目に入った人影を見たおじいさんの第一声に、なんとも言えない表情の翼を持った女がおじいさんに聞きました。


「はて、空を飛んでおったら着いたからのぉ…」


「…まぁ、私を見て大体察するかもしれないけど、一応教えといてあげるわ。

ここは魔王様の城よ」


「ほぉー!家主が居るなら、挨拶せねばのぉ…案内、頼めるかの?娘さん」


「その反応は予想外なのだけど…私の言葉、ちゃんと伝わったわよね?」


驚くか、恐怖で叫ばれるか、はたまた自暴自棄になって突っ込んでくるか…と、幾つかの可能性を考えていた翼の女は、おじいさんの反応に困惑しながらもちょっと面倒事の臭いがして自分の主である魔王に任せる事に決めた。


どうであれ、こうして魔王城に人間が入ってしまったのだ。その報告はしなければならない。

ならば当事者を魔王様と会わせて処理してもらい…まぁ、自分はお叱りを受けるかもしれないけど…。と、先に待つ流れの対処を考えつつ、翼の女はおじいさんを主の元へと案内するのでした。


--

-


「どうしてこうなった…」


おじいさんを魔王の元へと案内した翼の女は、何度目かになる言葉を呟きました。


おじいさんを案内して早二日。

翼の女の眼前では、この二日間


「フハハハハハハハハハ!」「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ」


戦闘を続ける魔王とおじいさんの姿がありました。


始めは、案内したおじいさんを魔王は殺そうとしました。ですが、おじいさんは魔王の攻撃を避け、あろうことか魔王に握手を求めたのです。


全力では無いとはいえ、簡単に攻撃を避けられた事に何かしらの火が付いたのか、握手などせず二度目の攻撃。

おじいさんは、攻撃として振られた拳を受け止め、魔王の拳を両手で包み握手。そして一言。


-いきなりお邪魔をしてすまんのぉ。良かったらワシの手伝いをしてくれんか?-


-抜かせ老体-


そこから、魔王のその言葉が開始の合図と言わんばかりに、魔王の猛攻とそれを捌くおじいさんの姿が…。


「あ、あの…お食事です」


「あぁ…そこに置いてて頂戴」


最初は驚いたものの、二日間も続けられているその光景に翼の女は驚きから呆れに変わってしまい。一日過ぎた辺りでは魔王城に居る魔族達にも噂が広まってしまい、何故かおじいさんの食事まで用意される始末。


「お二方、ご飯の用意ができましたよ」


食事を持ってきた魔族を見送った翼の女は、未だに戦闘を続けている魔王とおじいさんに声をかけました。

その声に反応して、魔王とおじいさんの動きはピタリと止まり、用意された食事へと視線が注がれます。


「老体、食事の時間だ」


「ふぉふぉ、ワシの分もあるのか。ならば、頂こうかのぉ」


魔王とおじいさんは、今まで何事も無かったかのように用意された席に座り、食事を始めました。


その様子を見ていた翼の女は、呆れと困惑とで表現し難い表情で問います。


「魔王様、完全に殺すつもりで戦っていられましたよね?」


「当然だ。しかしこの老体…中々やる」


「そっちの人間は…」


「ふぉふぉ、そんな気はさらさら無かったわい。ただ、死ぬ気も無かっただけじゃ」


「クハハハ!」「ふぉふぉふぉ」


楽しそうに笑う魔王とおじいさん。

翼の女は、そんな魔王を見て思います。


久々に、これ程楽しそうに笑う魔王を見た。


世界征服を掲げ、様々な事柄で笑う事もあったけど、ただ無邪気に子供の様に…楽しそうに笑う魔王は久々だと。いや、もしかしたら仕えてから始めて見たかもしれないと。


「さて、続きを始めるか老体!」


出された食事をかき込む勢いで食べ終えた魔王は、さっそく続きをしようと席を立ちました。

ですが、おじいさんは何かに気付いたようにハッ!と顔を上げて翼の女に聞きます。


「ワシが来てから、どれくらい経ったかのぉ」


「二日よ」


「ふぉ…」


翼の女の返事におじいさんは固まってしまいました。

ばぁさんと約束したのは'一週間程'。鬼のおー君と出会ってからここまで五日は過ぎています。


「マー君…すまぬのぉ。そろそろワシは帰らねばならん。

愛しのばぁさんが待っておるでのぉ…。そこで、ちと相談なのじゃが、ここから帰るには家が遠くてのぉ。

あの飛ぶ動物を貸して欲しいのじゃ」


「ほぉ…」


おじいさんの言葉を聞いた魔王は、目を閉じ何やら思案顔。

そして何かを思いつき、ニヤリとイタズラが浮かんだ様な顔で言いました。


「我が送ってやろう」


「ちょ、魔王様!?」


--

場所は変わりおじいさんとおばあさんの家。

そこでは、一足先に着いていた鬼のおー君がおばあさんのお手伝いをしていました。


「大釜ハ、コノ辺デイイカ?」


「はいはい。その辺で大丈夫ですよぉ。そろそろお茶にしましょうか、鬼さんや」


「オォ、スマン」


着いてから、おじいさんの知り合いである事を説明した鬼。おばあさんは、その話を聞いて'おじいさんのお友達ですかぁ'と軽く受け止めて食事やら寝床やらを用意してくれました。

初めは、一悶着あるかもしれないと予想していた分、簡単に受け入れられて困惑した鬼でしたが、おばあさんのご厚意に甘えておじいさんを待つことにしました。


流石に寝床は狭く野宿でしたが、翌日にはおばあさんの話も聞き、待っているだけでも暇なのでお手伝いをしはじめ、今では共にお茶をする仲に。


そんな鬼とおばあさんが、おじいさんの帰りを待ちつつお茶をしていると、何やら木々の奥に四人の人影が。


「まだかしら…あの大きな葉っぱと目指してるけど、遠近感狂うぐらいに大きいわね。

というより、本当にあれを目指してあってるの?」


「おじいさんのお話では、とても大きなカブが…との事でしたので…。

あれは木々などで伸びる様な葉っぱではありませんし。でも、私も不安になってきました」


「でも、大分近づいては居ると思うよ」


「まぁ、行けば分かるだろう」


先頭を歩く青年と筋肉質な男。その後ろから修道服と軽装の娘。

四人は、王都から二日程歩いて、やっとの事でおじいさんの家の付近まで来ていました。


「おやおや、お客さんですかねぇ」


声が聞こえたおばあさんは、会話の内容からこちらへと来る事を察して四人分のお茶の準備を始めました。

それと同時に、青年達が木々を抜けておじいさんの畑へと…。


「なっ!」


「赤鬼!?」


「なんでここに!」


「どちらにしろタイミングが悪いな!」


木々を抜けた先で青年達はお茶を啜っている鬼のおー君を見つけて臨戦態勢へ。

そんな四人の様子を横目に、おー君は構える事もせずにお茶の味を堪能しています。


「「「「……」」」」


「バアサン、オカワリヲ貰エルカ?」


「えぇ、もちろん」


構える事なく、家から出てきたおばあさんにお茶のおかわりを要求する鬼に、青年達は言葉を失いました。

目の前に居るのは、間違いなく凶悪で、同族からも恐れられている'赤鬼'で間違い無いなずなのですが…何故か、のんびりとした空気でおばあさんとお茶を呑んでいます。


「マァ、座レ人間ノ勇者ヨ。ココデ、ソレハ無粋ダ」


「皆さんも、どうですかねぇ?」


「あ、はい」


そののんびりとした雰囲気に逆らえず、思わず青年は返事をしてしまい、結局四人とも鬼とおばあさんとお茶を飲むことに。


それから暫くして…大きなカブを眺めながらお茶を呑んでいた皆の視界に影が覆いました。


「ヤットカ」


空を見上げ呟く鬼に釣られ、青年達も見上げると…そこには大きなドラゴンがこちらへと向かって降りてきます。

青年達が慌てて構えようとしましたが、そのドラゴンから聞こえた声に動きが止まってしまいました。


「ふぉっふぉっふぉっふぉ」


何やら楽しそうな笑い声。

そして、青年達だけではなく皆が聞いたことのある声。

青年達が頭上に'?'を浮かべている間にドラゴンは畑を荒らさない様に着陸し、その背中からおじいさんと呆れ顔の翼の女が降りると、ドラゴンもその姿を変えていきます。


「カカカカ!貴様ガ来ルトハナ!」


「それは我の言葉だ。まさか、貴様等が居るとはな」


「ま、魔王!?」


その者の登場に、それぞれ反応を見せ、何やらピリピリとした空気が流れます。


そんな中で


「ふぉっふぉ、戻ったぞぃ」


「おかえりなさい。沢山のお友達を連れてきましたねぇ」


「ふぉふぉふぉ、取れたカブを腐らすのも勿体無いからのぉ…ちと、張り切りすぎたわい」


「あらあらまぁ」


ほんわかとした空気を作り上げるおじいさんとおばあさん。

会話の後、一杯のお茶を飲み終えたおじいさんは、まだピリピリとした空気を展開している三組に声を掛けました。


「マー君とおー君は、知り合いじゃったのか。

それに、ワシの話し相手になってくれた青年君達も顔見知りとはのぉ…。


ふぉふぉ、かな。積もる話もあるじゃろうが、ひとまずは手伝いを頼むわぃ」


慣れた手つきで縄で投げ輪を作り、それを葉に引っ掛けて葉を引っ張り寄せると、ガシッと脇に抱えて三組へと視線を送ります。


「クハハ、本当にデカイな!赤鬼、貴様でも抜けんか」


「試シタガ、びくトモセン」


移動中に話を聞いていた魔王は、笑いながらおじいさんの後ろへと移動して葉を脇に抱えます。

魔王の問いに返事を返しながら最後尾で葉を腕に巻き付ける様に絡め握る鬼。


「勇者共も早くしろ」


当たり前の様に言ってくる魔王と展開についていけず、もう拒否できる空気でもない事を悟った青年と男は、魔王と鬼の間に立って葉を脇に抱えました。


「ふぉっふぉっふぉ、では行くぞぃ。

うんとこしょどっこいしょ」


「「う、うんとこしょどっこいしょ!」」


「これでも抜けんか!」


「手強イナ」


掛け声に合わせ力を入れていきますが、カブは中々動きません。


「ばぁさんや」


「はいはい」


おじいさんに呼ばれて察したおばあさんは、おじいさん達に手を翳して肉体強化の魔法を使いました。


「ごめん、二人も頼んでいいかな!」


「え、あ、うん」


「は、はい!」


青年も、おばあさんと一緒に見ていた娘達に声を掛け、それに答えて二人も強化魔法を皆に使います。


「ほら、貴様もだ!」


「えぇ…」


魔王に言われて翼の女も皆に強化魔法を使いました。


修道服の娘も軽装の娘も、翼の女も思います。


まさか…勇者(魔王)に強化魔法を使う日が来ようとは…。


それぞれ思う所があるものの、それを口にできる空気ではないのです。

そのかいあってか…大きなカブがピクリと少しだけ動きました。


「ふぉっふぉっふぉ、もう少しじゃ!そーれ!うんとこしょどっこいしょ」


「「「「うんとこしょどっこいしょ」」」」


掛け声に合わせて大きなカブを引くこと何回か…ついに、カブはドゴン!と地を鳴らしながら姿を見せました。

それはとても大きな大きなカブ。

カブが抜けた穴は、まるでクレーターの様にぽっかりと空いています。


「ふぉっふぉっふぉ」


「クハハハハハ!」


「「おぉ……」」


「カカカカ!!」


その圧倒的な大きさに、それぞれ反応を見せました。


「後は、頼むぞぃばぁさんや」


「はいはい、任せてください」


「運ブノハ、オレガシヨウ」


抜けた大きなカブを両手いっぱいに持ち上げておばあさんの後を着いていくおー君を見て、おじいさんは手伝ってくれた者達へと視線を移します。


「さて、もうひと仕事じゃ」


「あ、私はおばあさんのお手伝いに行ってきますね」


「私も行くわ」


「えーっと…それじゃ、私もそっちに行ってきますねー」


遠目に見ていて何かを察した女性陣は、そそくさとおー君を追って家の裏へと消えていってしまいました。

そして、大きなカブを抜いたことで得ていた高揚から察せなかった青年と男、そして察して尚そこに居る魔王におじいさんは言いました。


「残りのカブも抜くぞい」


--

-


日は暮れ、カブを持っていって戻ってきたおー君も手伝い積み上げられた、さっきの程ではないが普通よりは明らかに大きなカブの山。

その山の周辺で服が汚れる事も気にせずに仰向けになっているおじいさん以外の男達。


「つ、つらい…」


「かなりな…」


青年と男は、言葉を話すのも辛そうに空を仰いでいます。

その近くにで仰向けの魔王と鬼も


「戦い以外で、ここまで充実感を得るはな」


「畑仕事デ…ト言イウヨリハ、皆デヤッタカラカモナ」


「貴様からそんな言葉を聞く日が来ようとは、驚きだ」


「オレモ自分デ思ウ」


心地よい疲労と不思議な満足感、充実感を感じていると、家の方から女性陣とおばあさん、そして仕事が終わって手伝っていたおじいさんが台車を押してやってきました。

同時に、とてもいい香りが皆の鼻腔を埋めていきます。


「皆、助かったわい。

遠慮せずに、お食べ」


動くのもきつかったはずなのに、その美味しそうな匂いに釣られて男達も集まり、女性陣の手によって大きなカブを使った料理が盛られていきます。


そして準備を終えて、皆にお皿が行き届いた所でおじいさん達は手を合わせて…


「いただきます」


「「「「「「いただきます」」」」」」


皆が一様に一口目を口に運びました。

疲れた体に温かさが行き渡り、濃くもなく薄すぎることもない落ち着いた味が体と心をほぐしていきます。


驚愕する程に美味しい!というわけではありません。でも、そっと寄り添ってくる様に、周囲の空気まで柔らかくしてくれるような料理に、誰もが言葉を発する事無くその味を堪能してました。

そこでふと思い出したように鬼のおー君がどこかへ移動し、大きな樽を抱えて戻ってきます。


「ジイサン、約束シタトッテオキダ」


「ふぉふぉふぉ、これは楽しみじゃのぉ」


目の前にどん!と置かれた酒樽を嬉しそうに撫でるおじいさん。

それを見ていた魔王は、それが酒だと気付きました。


「貴様のとっておきか、我も気になるな」


「マズハ、オレトジイサンデダ。バアサンモドウダ?」


「あらあら、ならご相伴に預かりましょうかねぇ」


おばあさんは一度家へと戻り、数個のお猪口と大きめの盃を一つ。そして、器に盛られた別の料理を持って戻ってきました。


「はい、おじいさん。

おーちゃんは、こっちで大丈夫かしらねぇ?」


「オォ、スマンナ」


おばあさんが持ってきたモノを手際よく配り終え。おー君は、おじいさんとおばあさんが持ったお猪口と、自分用に用意してくれた盃に並々酒を注ぎます。


「デハ…」


「ふぉふぉ、良き友人に会えた事に」


「ふふふ、新しいお友達に」


「…フッ。アァ、良キ友人達ニ」


「「「乾杯」」」


嬉しそうに微笑む鬼。それを見て、これまた嬉しそうに笑うおじいさんとおばあさんは、酒の入ったお猪口と盃を軽く掲げ一口。


「ふぉー、これは美味いのぉ!」


「そうですねぇ」


「気ニ入ッテクレタカ。コノツマミモ、酒ニヨク合ウ」


おー君が、その美味しさに進んでしまい空になった盃におかわりを注ごうとした時、自分に魔王や男のみならず、青年や女性陣の視線が集まっている事に気づきました。


「…オレノ自慢ノ酒ダ。

遠慮ハスルナ。飲ムトイイ」


「ククッ、そう来なくっちゃなぁ」


おー君がそうする事が分かっていたのか、予め持ってきていたお猪口をおばあさんが皆に配り、皆が酒と飯を堪能しました。


そんなこんなで気がつけば、夜も遅く、酒も飯もソコソコに減った頃。

修道服の娘と軽装の娘、そして翼の女は何やら意気投合し、おばあさんに料理を教わる為に家の中へ。

外では、男達が飯をツマミに酒をまだ呑んでいました。


「さて、ワシは少しばぁさんの様子を見てくるとしようかのぉ」


空になったお皿を片手に家へと移動していくおじいさん。

その場には、魔王と鬼、青年と男が残されます。本来ならば敵同士の者達。おじいさんが居なくなれば、それなりに空気が変わったのが分かりました。


「まさか、赤鬼とあろうものが老体の人間二人と友の杯を交わすとは…分からんもんだな」


「ソレヲ言ウナラ、魔王ト勇者共ガ共同作業シタ事ニモ驚キダ」


「…僕だって、まさかとは思うさ」


「それには同意だな」


落ち着いた事で、この現状が異常な事を皆が察していました。

敵同士であるはずなのに、こうして食も酒も共にし、同じ疲労と充実感を味わっている現状が。


「魔王」


「なんだ勇者」


「僕達は、本当に戦わないといけないのかな。

ほら、彼女達も仲良くなったみたいだし…もしかしたら僕達は無駄な事をしているんじゃないかな」


青年の言葉に魔王は酒を一気に飲み、空にして答えます。


「当然だ。我等と貴様等の溝は深く、もはや引けぬ所まできている。

我は世界征服をする。貴様等はそれを阻止する。

目的も手段も相容れぬ関係だ。

分かり合うなど無理だろう。我が世界を手に収めるか、貴様等が我を殺すか…それでしか、終わりはない」


魔王の返答に勇者は黙ってしまいました。鬼や男も口を開きません。

その様子を少し眺めた後、魔王は追加した酒を再度空にして言いました。


「だが、こうしているのも悪くはない。今は不思議とそう思えている。

恐らくは、あの老体が我と対等以上に戦い、我はそれに満足をしたからかもしれぬ。

しかしそれだけでも無いのだろうな。


今回、多少ではあるが人間共を知ることはできた。

できたが…やはり我は世界征服を止めるきはない。それが今回でハッキリと分かった。

だがまぁなんだ…。我が征服し終えても、貴様等人間共を無碍には扱わぬ事ぐらいは考えてやろう」


魔王の言葉を聞いて青年達は目を見開いて驚きました。

どういう心変わりか…人間は根絶やしだと謳った魔王の口からそんな言葉が聞けたのです。


「そっか…。

でも、僕はやっぱり魔王を倒さないといけないね。

魔王が幾ら無碍にはしないと言っても、それまでに多くの命が亡くなってしまう。

だから僕は魔王を止める為に倒す事にするよ」


「今の貴様では無理だがな」


「すぐに追いつくさ」


そう話している内に、お互いのお猪口が空になりました。

魔王が追加を注ごうとすると、横から手が伸びて柄杓を握りました。


邪魔をされた事にちょっとだけ不機嫌になりながらも、青年が注ぎ終わるのを待とうとする魔王に、酒が入った柄杓が向けられます。


「なんのつもりだ?」


「僕達は敵だ。

でも、この瞬間は敵じゃなくてもいいでしょ?」


「…クハハ!甘えるなよ勇者。どの瞬間でも我等は敵だ。

だが、酒を酌み交わす敵もよかろう」


自分の持つお猪口に酒が注がれると、魔王は青年から柄杓を取り、今度は自分が青年のお猪口へと注ぎます。


「魔王の酒だ。噛み締めて味わえ」


「抜カセ、オレノ酒ダ」


今までのやり取りを見ていた鬼は、勝手に何を言っていると言わんばかりに盃を酒樽へと突っ込み追加分を掬い上げます。

そしてそのまま柄杓も手に取り、酒を掬い、丁度空になった男のお猪口に注ぎました。


「いいのか?」


「遠慮スルナト言ッタ。

口数ガ少ナイガ…貴様モ酒ガ好キナノダロウ?ソレダケデイイ」


「ははっ…あぁ、言葉に甘えてありがたく頂戴する」


それ以降、無粋な会話など無く、ただ酒と飯を楽しみ、時折なんてことのない会話をする魔王と勇者と鬼と男。

そんなただの酒場で見れる様な風景ができていました。


そして場所は変わり厨房でおばあさんに料理を教わっていた修道服の娘と軽装の娘、翼の女も同じように予めよけて持ってきていた酒を口にしながら話していました。


「魔族ってのも、あんがい話せるのね」


「それでも私達は敵同士。

人間をみれば、剣を向けるわ」


「それはお互い様だと思いますよ」


おばあさんがおじいさんと一緒に皆の寝床の準備に行って三人だけになっても、不思議と空気は変わらずに話ができています。

お酒の力なのか、元々息が合う仲だったのかは本人達にも分かりません。


「次に会った時は、どちらかが死ぬまでかしら」


「でしょうね。魔王様は征服を止めようとは思わないでしょうし、それなら私は人間と戦うもの」


当然のように言う翼の女に、少しだけ軽装の娘も修道服の娘も寂しくなってしまいました。


せっかく仲良くなったのに…と。


「お互い、惚れた相手を支えたいのだから当然よ。

結果がどうであれ、これで妥協してしまったら私は後悔するし…それは貴女達も同じだと思うけど違うかしら?

人間だけれど、貴女達の事は嫌いではないわ。色々と応援できることもあるから、そこは応援してあげる。

だから頑張りなさいよ。たとえ、私と戦う事になってもね」


仲良くなったと思っていたのは、娘達だけではありませんでした。

それを知って、さっきまであった寂しさはどこ変え消え、代わりに惚れている事を当てられて恥ずかしさがこみ上げてきます。


「そ、その…なんというか、強くて凄い大人ですね」


修道服の娘は、恥ずかしさから自分で何を言っているか分かっていません。

そんな様子を見て翼の女は笑いながら修道服の娘の頭を優しく撫で言いました。


「生きてる長さが違うわよ。

それに、弱かったら魔王様の側近なんてできてないわ」


それからというもの、話は恋の話へとシフトして夜も更けていくのでした。


-


「今日は賑やかでしたねぇ」


「ふぉふぉ、たまにはこういうのも悪くないのぉ」


布団の準備も終えたおじいさんとおばあさんは、皆が寝静まった後に縁側でお茶を啜っています。


「そうですねぇ。

また、大きなカブができたときには、お願いましょうか」


「ふぉふぉ、ばぁさんは賑やかなのが好きじゃのぉ。

そんなせんでも、きっと来てくれるじゃろうよ」


「好きですよ。

まるで、子供達が帰ってきたみたいですもの」


「ふぉっふぉっふぉっふぉ。

確かに…今日は、いつもよりも愉快な一日じゃった」




翌朝、起きた皆の表情は、どこか落ち着き、または吹っ切れた様な表情をして別々の方向へと旅立っていきました。


それから数ヶ月後。とある孤島。


「ハァ…ハァ…」


「クソ…」


「まだまだだな」



「ここまで差がありますか…」


「まだよッ」


「そうね。まだよね」


魔王と対峙する青年と男。翼の女と対峙する修道服の娘、軽装の娘。

実力の差は、まだ埋まること無く、青年達は劣勢でした。


息を切らし、反応も鈍くなった青年にとどめを刺そうと剣を振り上げた魔王でしたが…その刃は寸の所で止まります。

そして、ふと空を眺め魔王は呟きました。


「カブの汁物が飲みたくなった」


「「は?」」


一瞬、何を言っているのか分からなかった青年達でしたが、すぐに理解をして絶体絶命の瞬間にも関わらず笑ってしまいました。

その呟きを聞き取っていた翼の女は呆れ、娘達も唖然としています。


「行くんですか?」


「どうせ、今のままなら何時でも殺れる事は変わらん。

それよりもアレが食いたい。

行くぞ。老体がくたばってしまっては食えん。ついでに赤鬼も回収する」


「仰せのままに魔王様。

…それで、貴女達はどうするの?」


「え…トドメを刺さないの?」


「惚れた男が言うのだもの。ある程度は聞いてあげたくなるのよ。

こんな突拍子も無い我儘もね」


言い終えると、既にドラゴンへと姿を変えた魔王の背に乗る翼の女。

翼の女からの言葉はなく、視線だけでどうするのか聞いてくる。


「ど、どうしようか…」


相も変わらず突然の流れに困惑する青年でしたが、男が魔王へと近寄り聞きました。


「俺も良いか?」


「ククッ…好きにしろ」


男の問いに鎌首を下げ乗りやすい様にする魔王。男は、そのまま首から背へと移動する…前に、視線を修道服の娘へと向けました。


「あっ…えっと…わ、私も久々に行きたいのですが…どうでしょう」


尻すぼみになりながらも自分の意思を告げてくる修道服の娘を、軽装の娘は軽く背を魔王の方へと押します。

それだけで、ととっと移動して魔王へと近づいた修道服の娘の前に、少し大きな手が伸びてきました。


「行こうか」


「はい!」


男の手を嬉しそうに握り、一緒に魔王の背に乗る修道服の娘。

その様子を見た青年は嬉しそうに微笑み、自分の手を軽装の娘へと差し出しました。


「僕達も行こうか」


「ふふっ…今の貴方じゃ私を支えられないわよ」


満身創痍に近い青年の手を優しく握り返して、支える様に魔王の背へと乗る二人。


「もういいか?もういいな?では、行こうか」


返答を聞く間も無く、魔王は自慢の翼を広げ天高く飛び上がりました。


-


魔王の背で回復魔法を受け、青年と男がある程度回復した辺りで目的地へと付きました。

道中で鬼も回収しようとしたのですが、少し探しても鬼の姿はなく、諦めておじいさんの家へ向かうことに。

鬼が居なかったことで、一番ショックを受けた男でしたが…おじいさんの家の畑で見えた巨体が見えてすぐにそっちの気持ちも回復します。


「ナンダ。客人カ来タノカ」


「クハハ、貴様もだろう?」


「オレハ、定期的ニ手伝イニ来テイル」


鬼は数回会話をした後に、家で色々と準備をしているおじいさんとおばあさんへ魔王達が来たことを伝えに行きました。

その事を聞いたおじいさんとおばあさんは、ふぉふぉふぉあらあらと、今日も賑やかになりそうだと笑うのでした。

蛇足


「そういえばおじいさん」


「なんじゃ?ゆう坊」


「あのカブ、魔法とかで抜いちゃダメだったんですか?」


「下手に魔法使うと、もしかしたらカブに傷がついてしまうかもしれんじゃろ?」


「あぁ…確かに」



終了。




ここまで読んでくださってありがとうございました。

難しいですね、こう…民話風に書くのって。カブの大きさ表現も甘々ですし…。


なんかカブ以外の話が多くて、どんなの書きたかったの?って言われても、やたらでかいカブ抜きたかった。としか言えません。


また懲りずに、なんか童話なり民話なりで思いついたら書きたいなぁとか思ってます。

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