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二話 前編:幸奈の受難

 それはとても小さな村だった。私を含めた村の住人は、皆家族のように接していたし、とても仲が良かった。山々に囲まれ、都市との流通があまりなかったせいで技術的には遅れていたが、自然と人々の愛に囲まれ、とても幸せな村だった。

 そんな村が消えたのは、私が十歳の時だった。


* * *


 いつも通り、朝起きて顔を洗い、着替え、自慢の銀髪をすく。肩口ほどに伸ばしてあるそれの、右側にサイドテールを結ぶ。黒いリボンがぴょんと跳ねた。

 最愛の母親の用意した朝食を食べて、敬愛する父親に見送られながら家を出る。六年生の兄、二年生の弟と一緒に学校へ向かう。人口百人未満の小さな村の、全校生徒数二十数人の小さな学校だ。村には学校はこの一つで、卒業すれば成人と認められる。

「よーし、学校まできょーそーだよ」

「わぁ。お姉ちゃん待ってよぉ」

 私は走るのが大好きだ。いつも弟たちと走って登校していた。風を切り、大地を蹴り、木々を横目に、ただ駆ける。息が上がり、体がぽかぽかしてくる。そうしていつも、

「あれっ」

 気が付けば転んでいた。擦りむいたのか、膝からは血が流れている。それを私はぼーっと見つめていた。

「こら、ユキ。気をつけなきゃだめだろう」

 そんな私を兄が撫でる。兄はランドセルから絆創膏を取り出し、私の膝に貼る。

「えへー。お兄ちゃんありがとー」

 私が嬉しくなって笑うと、兄はいつも悲しそうに笑った。私は昔から、みんなが言う『痛み』を感じなかった。普通は、けがをすると痛くて泣きたくなるらしいけれど、私は兄が悲しそうな顔をするから泣きたくなってしまう。

「じゃあもう一回きょーそーだよっ」

 私はそんな兄を笑わせたくて、元気よく駆けだす。


 全校生徒二十数人の学校で、三年生と四年生は合わせて七人だ。都市の学校は一学年ごとに教室が分かれるらしいが、この学校は生徒数が少ないから、二学年ごとに教室が割り振られる。みんな仲が良かったが、私が特に仲良くしていたのは、本が好きで気の弱い(しずく)と、元気な男の子、夏樹(なつき)の二人だ。

「しずくー、おはよ」

「おはよう。幸奈ちゃん」

 雫は、いつも私より早く学校に着いていて、席に座って本を読んでいる。聞けば、授業開始の一時間前には必ず来ているらしかった。私が教室へ着くと、本を閉じて色んな話をしてくれる。私は本が苦手だったけど、雫の話はとても楽しかった。

 そうしているうちに、三、四年生の担任の先生が来る。そしてチャイムが鳴る。それと同時に元気よく駆け込んでくるのが夏樹だった。

「せんせー、はよーございまーっす!」

 そう言って笑顔を浮かべるが、

「夏樹は遅刻、っと」

「せんせー、そりゃないよー」

 そしてクラスが笑いに包まれる。いつもの光景だった。


 一時間目は体育だった。授業はかなり自由で、体育なんかは私たちで話し合って決まった種目をやる、というものだった。その日、私たちはドッジボールをすることになった。先生も加わって、四対四で試合をした。

「よっしゃーっ! 行くぞ、幸奈っ」

「当てられるなら当ててみなよーっ」

 私と雫は同じチームだったが、夏樹は敵になった。雫はあまり運動が得意ではないので、いつも後ろの方へ行ってしまう。対して私や夏樹は積極的に前へ前へと出るタイプだ。

「ナツキスペシャルアターック!」

 夏樹は大きく振りかぶり、容赦なく全力でボールを投げる。ヒュウと風を切り、私へ一直線に飛んでくる。私はそれを全身で受け止める。

 夏樹が、やるじゃねえかと呟く。私は、ボールを右手に乗せると、肩の高さへ持ち上げる。

「第六天魔王に告ぐ。不遜なる狂気の器、天地を結びし鎖の元へ――」

 私は左手で顔を覆い、夏樹に半身を向ける。周りの男子がざわざわと騒ぎ始める。いわく『ノブナガが来るのか?』『まさか来ないだろ』『ノブナガは忙しいからな』

「強悪すらも、勝利の甘露の前には愛おしい。今こそ顕現せよ! 高速詠唱(ザ・ビーツ)信長(ノブナガ)到来(トウライ)!」

 叫び声とともに、私はボールを投げ飛ばす。男子からは歓声が上がる。いわく『ノブナガ到☆来』『ノブナガキター!』『ヒェア!ヒェア!』

 そして夏樹の足元を狙った弾は、夏樹の認識を超えて直撃、空中へ跳ね上がり――

「ナイスキャッチっ」

 敵チームの男子がぽすっと受け止めた。周りの男子から嘆息交じりに声が聞こえる。いわく『ノブナガ帰ったな』『やっぱ忙しいんだな』

「恨みっこなしだぜっ」

 ボールをキャッチした男子がそう言ってボールを投げる。これもかなり速いボールだ。ボールが来ることはあらかじめ予測していたので、私は難なく避ける。が、

「あうっ」

 ボールは丁度私の後ろにいた雫に向かう。そして雫の胸にポンと当たったボールは、彼女が尻餅をつくと同時に地面へ転がった。

「ありゃ。雫、ごめんね」

 全然平気だよー、と彼女は笑って外野へ走っていった。大丈夫。私たちのドッジボールはこれからだ。




「いやー、いい汗かいたねー」

 体育は終わり、女子は女子更衣室へ、男子は教室へ向かう。

「私は怖いだけだったよ」

 雫ははにかんでそう言った。しかし、雫も運動神経が悪いわけではないのを私は知っている。

「雫もボールを怖がらなければもっと楽しめるって。バドミントンとかはめちゃくちゃうまいじゃん」

「だってバドは怖くないもん。ドッジボールはボールも大きくて怖いし……。それに胸に当たると痛いんだよね」

 そう言って雫は胸を撫でる。

「痛いって、特別に?」

「そう。お母さんに聞いたら、おっぱいをつくる準備をしてるんだって。だから大人になるまでの辛抱だって言われたの」

 ふうんと私は答えた。雫の胸をよく見ても、体操服の上からでは何もわからなかった。

 そうこう言っているうちに、更衣室へ着く。引き戸を開け、中へ入る。

「じゃあさ、雫のおっぱい見せてよ。もうおっきくなってるの?」

「全然だよー。でも押すと痛いの」

「わかった。優しくする」

 雫はするするとシャツを脱ぐ。日焼けの少ない、白くきれいな肌だ。

「うわー。すっごいきれいだね」

「そんなことないよ」

 少し照れたように言う。私は雫の身体をまじまじと見る。よく見れば、小さなお椀を逆さにしたようなふくらみが確認できる。

 私もシャツを脱いで自分を確認する。パッと見では雫と違いはないが、雫と違って私はぺったんこだった。

「幸奈ちゃんは押しても痛くないの」

「うん。全然だよ。……なんか雫がうらやましいな。私より大人みたいで」

「同い年じゃない」

 そう言って雫はクスクスと笑った。私は、雫が風邪をひいてしまうと嫌なので、早く着替えちゃおうと促す。二人でぱぱっと着替えて、教室へ向かう。


 教室の前では先に着替え終わった子が待っていた。恐らく、男子が着替え終わっていないのだろう。私もその隣へ行こうとするが、後ろから肩を叩かれる。

「どしたの、雫」

「ねえ、あの人たち、なんだか怖いよ」

 雫は窓の外を見て指さす。その先には薄汚い恰好をした男が、何かを手にもって集団で歩いている。

「何あれ……。銃?」

 男たちが持っているのは、村の男の人たちが使っている猟銃に似ていた。しかし、猟銃よりも黒くごつごつしていて、なんだか不安な気持ちになる。何よりも、見たことない人だったのがとても不安を掻き立てる。

「先生に言った方がいいかな」

「うん。とりあえず職員室に行こう」

 私たちは走って職員室へ向かう。普段だったら廊下を走るなんてダメだけれど、今の私たちはそんなことを言っていられる気持ちじゃなかった。

 職員室のドアをどんどんと叩く。失礼します、と言ってドアを開ける。

 担任の先生は次の授業の準備をしていて、私たちに気付くと、どうしたと近づいてくる。

「先生、なんか変な人がいた」

「あの、外に知らない人が銃みたいなものを持って歩いていたんです」

 先生は、少しだけ不審な顔をしたが、とりあえず案内して欲しいと言った。

 私たちは職員室を出てすぐの窓から外を見る。さっきの男たちを見ると、先生は険しい顔をした。

「とりあえず、みんなと一緒に教室で待っていなさい。先生もすぐ行くから」

 私たちは、わかったと返事をして教室へ戻る。男子の着替えはもう終わっていた。

 教室に入ると、一番に夏樹が話しかけてくる。

「どうした。遅かったじゃん」

「ん。なんか外に変な人がいてさ――」

 その時、遠くから、ぱん、という乾いた音が聞こえた。教室はしんと静まり返る。

「……これ、猟銃の音か?」

「そうだけど、こんな近くで撃たないよ」

 みんなが口々にはやし立てる。そんな中、続けてぱぱぱぱっという連続した音が鳴る。それは次々と連鎖して、人々の悲鳴と重なる。

「やばいってこれ」

「ねえ、どうしたの」

「悲鳴がしてる!」

 私は教室を飛び出した。雫の制止する声が聞こえたが、すぐ戻ると言って走る。

 職員室へノックもせずに入る。けれど、それを戒める声は聞こえない。

「なんで……」

 職員室には誰もいなかった。呆然と立ち尽くしていたその時、廊下をどたどたと走る音が、そしてガチャガチャという金属の擦れる音が聞こえた。

 私は直感的に危険を感じて、すぐそばの机の下へ潜る。やがて足音は遠ざかっていった。しかし、私は恐怖で動けなかった。何が起きているかわからない。けれど、何か起きてはいけないことが起きていることはわかった。

 私は震える足で学校の外を目指す。そこには、本来ならば誰もいないグラウンドがあるべきだった。しかし、

「なにこれ」

 学校の先生たちが血を流して倒れていた。中にはもちろん、担任の先生も含まれている。

「先生っ! 先生!」

 駆け寄ってゆするが、反応はない。体を起こして上を向かせると、私は恐怖に手を離した。目は見開かれ、顔は恐怖に歪んでいたのだ。

「やだ、やだ、なにこれ、やだっ」

 私は腰が抜けて、地面に広がった血にぺたりと座りこむ。すると、学校の中からも悲鳴と乾いた音が聞こえだす。逃げなきゃと思った。

 雫たちを置いて行くのか。彼女たちは今まさに危険な目に遭っているのではないのか。不安を抱きながら、私は駆ける。家へ帰れば、お父さんとお母さんが守ってくれる。悪い人たちを、やっつけてくれる。

 いつも歩いている道ではなく、家へ向かう最短の抜け道を走る。それは、林の中のけもの道だ。とがった枝が服に引っかかり、小さな傷を無数に作る。私はとにかく走った。

 そして、ぱっと開けた場所に出る。そこには、村の人たちの家や畑があるはずだった。学校はどうしたと心配する暖かい人たちがいるはずだった。

 しかし、畑には大きな自動車が何台も停まり、学校で見た男たちと同じような格好をした人たちが、村人たちに銃のようなもの、いや、銃を向けていた。

 村の老人や男性たちは血の海に倒れ、若い女性たちだけが一か所に集められていた。

 男たちの一人が私に気付く。目が合う。恐怖でへたり込んでしまう。どこからかお母さんの逃げてという叫び声が聞こえる。私は怖くて泣く。

 男は笑顔で私を見下ろしている。乱暴に私の腕を掴むと、ずるずると引きずり、母親たちの元へ連れてこられる。

「お願いです。子供たちだけは見逃してやってください」

 母親が男の足元で許しを請う。男は、私の母に銃を向ける。ぱん、と音が鳴って、母は死んだ。

「あ、や、なんで、うそ」

 うまく声が出なかった。どくどくと赤い液体が母から流れ出てくる。

 男は鼻で笑うと、私を適当に投げ捨てる。私は母へ駆け寄る。液体を母へ戻そうとしたが、それは次々と流れ出てくる。

「よく聞け。今からこの村は我ら天奉会が管理する。不満のあるものは前へ出ろ」

 男の声は聞こえているだろうが、誰も前へは出ない。いや、出られない。

「不満はない、ということだな」

 男は再び笑顔を浮かべ、ゲラゲラと声を上げる。それにつられて、他の男たちも笑う。村の女性たちは青ざめた顔をしていた。


 その日、私たちは村の公民館で夜を明かすことになった。二人の男が監視する中、わずかな毛布に身を寄せ合い、みんなでくるまった。夜中に男がやってきて、何人かの女の人を無理やり連れて行った。翌朝になると、連れていかれた女の人が泣きながら裸で戻ってきた。村の女性たちが彼女らに毛布を掛けて慰めているのを見て、何かひどいことをされたことだけは理解した。

「ユキちゃん、他の子たちはどうしたの」

 隣に住んでいた、私より五つ上のお姉さんがそっと聞いてくる。確か、名前は各務原(かがみはら)晴夏(はるか)さんという。

「わかんない」

 私は自分でも驚くほど冷たい声で言った。まるで自分の体を動かしているのが自分ではない心地だ。

「ごめんね、ユキちゃんも辛いのにね」

 そう言って晴夏さんは私を抱きしめ、頭を撫でてくれる。

 思い出した。晴夏さんには五年生の弟がいたんだ。


 昼頃には、晴夏さんが連れていかれた。晴夏さんは静かに涙を流し、素直に男たちに従った。私はそれをただ眺めていた。代わりに来た男が食べ物を置いていった。どう見ても食べ残しで、でもお腹が空いていた私たちはそれを口にするしかなかった。

 私たちはただじっとしていた。男たちの監視の中、建物を出ることも許されず、排せつも部屋の桶で行った。臭いはすぐに気にならなくなった。


 夕方ごろに晴夏さんが帰ってきた。やはり裸で、汗だくだった。鼻につくようなにおいがしたが、これもすぐに慣れた。晴夏さんは泣きはらした真っ赤な目で、私に優しく笑いかけた。ただいま、と言われたので、お帰りなさい、と返した。

 男から着るものが与えられることはなく、食事は男たちの食べ残しが三回。それ以外はただ過ぎていく時間を浪費するだけ。晴夏さんは帰ってきてから、ずっと私を抱きしめていた。私としては心地よかったが、晴夏さんはずっと泣いていた。


 そんな生活を続けていると、いつの間にか服を着ているのは私だけになった。何度か連れていかれそうになったが、そのたびに他の人が高い声を出して男にすがるのだった。男は気分よさそうにその人を見て、私を手放す。私は、守られていることだけは理解した。


 また数日が経つと、今度は連れていかれた切り戻ってこない人が出始めた。しかもそれはかなりのスピードで、年上の人から順に選ばれていた。晴夏さんも何度も連れていかれたが、その度に戻ってきた。晴夏さんは、連れていかれるたびに表情が無くなっていった。


 ある日、私が連れていかれる番になった。他の女性がいつものように言いよると、頭から血を流して倒れた。私は男に引っ張られるまま、歩いた。

 連れてこられたのは、かつての村長の家だ。中へ入ると、男たちがたくさんいた。

 建物には部屋が沢山あり、中からは女性の苦しそうな声や、男たちの笑い声が聞こえた。

 その中の一室、ドアの前には男が二人、銃を持って立ちふさがっている。門番だろうか。

「例の逃げそびれたガキか。……目が死んでるじゃねえか」

「ああ、サタケの野郎が目の前で母親を殺したらしいぜ。かわいそうに」

「まだ小学生か? なかなか使えそうだな」

「お前本当に気持ち悪いな……。まあ、こいつはボスが殺しを仕込むらしいぜ。確かにこんな子相手に警戒しろって方が無理あるし、適任っちゃ適任だな」

 男たちは笑いあうと、門番の一人がドアをノックする。中からの返事を待ってから、ドアを開ける。男に手を引かれて、私は中へ入る。

 本来ならば村長が座るべき調度品の机に腰かけていたのは、無精ひげを生やした目の鋭い男だ。机に広げられた地図から、視線を私に向ける。

「ボス。例のガキです」

「おう、とりあえず座れや」

 無精ひげの男、ボスは机の前のソファを勧める。男が礼をして座る。私はとりあえずその横に座る。

「嬢ちゃんはこっちへ来な」

 私は立ち上がり、ボスと机を挟んで向かい合う。ボスは、黒い柄に十センチほどの刃が付いたナイフを私の目の前に置く。にやりと笑って、私に小声で囁く。

「あいつを、殺せ」

 私は首だけを動かしてソファに座った男を見る。こちらを見てはいたが、会話までは聞こえていないようだ。

 ボスは大仰に立ち上がると、男と反対側のソファに座る。私はナイフを手に取り、背中に隠して男の背後に立つ。男は不思議そうな顔で私を見たが、すぐにボスの方へ向き直る。

「いけ」

 ボスが小さく声をこぼす。私はナイフを振り上げ、両手で思いっきり男の首に突き刺した。

 男は苦しそうに声を上げる。さっとナイフを抜き、もう一度刺す。男がこちらを向き、手を伸ばす。取られないよう、ナイフを抜き、男の右目に突き刺す。男が仰け反る。それを利用してナイフを抜き、左目に刺す。抜く。

 男は地面に倒れ、動かなくなった。私は、ごめんなさい、と呟いた。

 ボスは満面の笑みを浮かべていた。


 それから、ボスからは色々なことを教わった。言葉遣い、上下関係、人体の急所、刃物や銃器の扱い方など。天奉会とは日本をよりよくするために活動していること。この村はそのための犠牲になったこと。よくわからなかったが、綺麗な服が着られて、暖かい部屋で生活できて、おいしいご飯が食べられるならどうでもよかった。

 日にちの感覚はすぐに無くなった。


 私はボスの元で様々なことをした。日常の世話やスケジュール管理から、裏切り者や口止めの殺人もやった。それでも、村の外に出ることは許されなかった。一度トレーニング中に村の外の森へ出てしまったことがあったが、その時は小屋の中で一晩中殴る蹴るの暴行を受けた。

 ボスは私へ厳しい教育を課したが、それ以上に、村の人間が次々に暴行を受けて命を落としていくのは、私の心に復讐心を燃え上がらせるのに十分だった。

 私は、静かにゆっくりと、天奉会への怒りを溜めていった。


 村は天奉会の拠点となり、多くの人間が出入りした。見たこともないような道具を多く目にすることとなった。手りゅう弾、無反動砲、暗視ゴーグルなど、様々な道具の使用方法を学んだ。

 そんなある時、拷問の実験対象に晴夏さんが選ばれた。ボスの命令で、私は拷問の方法を学ぶという名目でその実験を見せられた。その頃の晴夏さんは、かつての明るさを失い、けれど媚びるようにへらへらと笑い続けていた。

 ボスの目的は、私への見せしめだったのだろうか。それとも本当に私に拷問の方法を教えたかったのかもしれない。前者であればこれは間違いなく成功だと言えるだろう。日々壊れていく晴夏さんを見続け、私は何度も晴夏さんを助けようとして踏みとどまった。それは常に私を苦しめ、思考を奪い、憤怒だけを残した。

 最後には、ボスの命令で私が晴夏さんを殺した。私は、ごめんなさい、と呟いた。

 ボスは満面の笑みを浮かべていた。

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