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第4話 ハーレム系ラノベで10年後を考えると恐怖しかない

乳児期・自宅編のラストです

 何が「僕たちの因縁に巻き込むわけにはいかない」 (キリッ) だ。

 相手が遠隔攻撃をかけれる以上、どこに逃げても同じだろう。

 同じことは水華(すいか)さんも思っていたらしく、


「私たちから引き離したとしても、芳人(よしと)さまが狙われる可能性は残ります」

「大丈夫だよ。僕には心強い味方がたくさんいるからね」

「……もしや、彼女らに連絡を取ったのですか」

「ああ、そのまさかさ。五人とも二つ返事でオーケーだったよ」


 果たして誰のことだろう。

 五人ってことは、もしかして俺の母親候補だった連中か?


「世の中には手を出すべきじゃない相手がいる。それが僕だ、伊城木直樹だ」


 そうしてオヤジが浮かべた表情は、この半年で一度も見たことのないものだった。


「どうせヒトのことをボンクラ退魔師と舐めているんだろうけれど、痛い目を見るのはオマエだ。

 じきに僕の女たちがツケを払わせにいくぞ、ざまあみろ。ハハハハハッ!」


 その場にいない人間に対する、嘲笑。

 うちのオヤジがやたら陰険なんですが、哺乳瓶ロケットパンチかましていいですかね。

 しかも偉そうなことを言いながら、戦うのは女任せっぽいのがまた……。


「……あの」


 水華さんはどこか呆れたような様子で口を開く。


「呪術師の件がそれで解決するのなら、芳人様をこの家から離す必要はないと思うのですが」

「いやいや、そういうわけにはいかないよ。

 背後に何らかの組織がついてる可能性だってあるんだ。

 芳人には避難してもらう。水華、君も同じだ」

「私、ですか?」

「僕やあの五人ならともかく、水華はそういうものへの耐性が低いからね。

 今回はたまたま芳人が助けてくれたけど、次はどうなるか分からない。

 ――里に帰るんだ」

「お役御免、というわけですね」

「僕は水華のことを大切に思っている。だから安全な場所に居てもらいたい。どうか分かってくれ」


 オヤジは歯の浮くようなセリフを並べると、フッ、とイケメンスマイルを浮かべた。

 もしこれがアニメなら、間違いなくヒロインは赤面するところ。そんな甘い笑みだ。

 けれど水華さんはそれに心動かされる様子もなく、


「契約主の決めたことならば仕方ありません」


 むしろ突き放すように冷たい声でそう言った。


「芳人様がこの家を離れるのはいつですか?」

「向こうの返事待ちだけれど、早ければ三日、遅くとも一週間後、かな」

「少なくとも今晩ではない、と」

「ああ、芳人のそばについてやってくれ。……僕は、どうにも嫌われてるみたいでね」


 わざとらしく肩を落とすオヤジ。

 水華さんはボソリと呟く。


「――きっと、貴方のドス黒さに気付いているからでしょう」

「ん、何か言ったかな?」

「風の音かと」



 * *



 話が終わるとオヤジはどこかへと出かけてしまった。

「五人と会うのも久しぶりだな」とか「朝まで搾り取られるコースかな」などと呟いていたので、マジで爆発すればいいと思う。母さんも墓で泣いてるぞ。

 リビングに残っているのは水華さんと俺の二人だけ。

 水華さんはふう、と一息つき、


「――芳人様、起きていらっしゃるのでしょう?」


 と、声をかけてくる。

 バレてたのか。

 ゆっくりと瞼を開ければ、水華さんが優しげな表情で覗き込んでいた。


「やはり、言葉が分かるようですね」


 どう答えるべきだろう。

 俺はしばし考え、ひとつの魔法を発動させた。

念話(テレパス)》。

 その効果は名前のとおり、相手の心へのダイレクトな呼びかけ。

 パス(経路)の確立に魔力を使うものの、それができるくらいには回復していた。


『すみません、聞こえます?』

「……芳人、様?」

『はい、俺です。伊城木芳人です』


 水華さんと目を合わせ、ゆっくりと頷く。


『これはテレパシーみたいなものなんですけど、ちょっと話を聞いてもらっていいですか?』


 このまま天才と勘違いされたままじゃ、思わぬところで厄介事に見舞われるかもしれない。

 ここで一人、身近な理解者を作っておくべきだろう。




 そうして前世について、かいつまんで話すこと小一時間。


「生まれ変わり、ですか。まさか本当にそのようなことがあるとは……」


 水華さんの反応は予想外のものだった。

 この世界には妖怪や退魔師がいるわけだし、転生だって珍しくない――と思っていたら、実際はそうでもなかったらしい。


「異世界についても同じです。世の退魔師や魔術師、あるいは私のような妖怪に訊いたとしても、フィクションの中だけの存在と答えるでしょう」

『そうか……』


 現代は案外とファンタジーだったが、意外にファンタジーじゃなかった。

 フィクション度が低いというか、中途半端に現実的というか。

 いやでもこれが現実なわけで、だったら『現実的』って言葉は間違ってるか。

『現実』ってなんだ……?


「ですが」


 思考の迷路に入りかけた俺を引き戻したのは、水華さんの声だった。


「私は、芳人様のおっしゃることを信じようと思います。……命の恩人ですから」


 結果オーライ、助かった。

 ここで信じてもらえなかったら、さすがにちょっと困ってしまう。

 水華さんの懐の広さに感謝だ。


「ところで、前世の芳人様はどのようなお姿だったのですか?」

『そうですね……まあ、たいたいこんな感じでした』


 俺はかつての自分の姿を念話(テレパス)に乗せて送る。

 言葉だけじゃなく画像・映像も送れるのが便利なところだ。


「っ……」


 なぜか恥ずかしげに俯く水華さん。


『どうしました?』


 もしや間違えてエロ画像でも送ってしまったのだろうか。


「いえ、あの、以前のことなのですが」


 もじもじと口籠る水華さん。

 その頬は湯気が出そうなくらい紅潮していた。


「芳人様に、その、いろいろと見られてしまったな、と……」


 水華さんは、ぎゅ、と自分の右胸に手を添える。

 あっ。

 俺の頭をよぎったのは少し前のできごと。

 水華さんの胸、そこに垂らされるミルク。

 ――わ、私はそんなに大きくありませんが、せめて、気分だけでも。

 あれは俺のことを普通の赤ちゃんと思っていたからこそできた行為なのだろう。

 けれど実際のところ、こっちの精神年齢は生後半年なんてレベルじゃないわけで、


『す、す、すいません水華さんっ! 本当にごめんなさい!』


 俺は平謝りしつつ、過去の自分を褒め称えていた。

 ヘタレ万歳。

 あのとき欲望のままに吸いついていたら、今頃どんな視線を向けられていたことか。


「い、いえっ、気になさらないでください! 私が勝手にやったことですし、そのっ、前世のお姿も凛々しいというかすごく好みで、そんな方が自分に甘えてたかと思うとそれはそれで……な、な、何でもないです、ううぅ……」


 どこまで本気なのかお世辞なのか、あるいはパニックで思ってもみなかったことを口走っているだけなのか。こんな時はどう反応をすればいいのだろう。


「……失礼しました」


 俺が戸惑っていると、やがて水華さんは我に返ったらしく、ひとつ咳払いをし、


「昔日の件はどうか気になさらないでください。

 ……とはいえ恩もありますし、芳人様が望まれるのでしたら、私はいつでも――」

『大丈夫です水華さん落ち着いてください、それより今後の話をしましょう、ええ、今後の話を』


 このまま同じ話題を続けるのは危険すぎる。特に俺の理性にとって。


『前世のことなんですけれど、できればオヤジには伏せておきたいんです』

「承知しました。私もそれがよいかと思います。直樹様は何というか、その……」

『邪悪な気配がする?』

「……否定はしません」


 水華さんは目を伏せる。それは言葉よりもはっきりとした肯定だった。


「ただ、私は契約というものに縛られています。

 直樹様がそれを使って強引に聞き出そうとする可能性は否定できません」

『ああ、それなら大丈夫ですよ』


 俺は念話に平行し、水華さんにかかっていた契約について解析を進めていた。

 術式の出来としては下の下。

 書き換えるのは簡単だ。


『――《侵蝕術式(インベイドリィ)》・《汝の縛()鎖は我が()手に至る()》』


 ここでの『R』は『られ』じゃなく『り』だ。

 分からない人はNTRでググってみよう。

 契約に偽装を施し、表面上の契約者はオヤジのままにしておく。

 けれど実質的な権限はすべてこちらで奪い取った。


『これでもう大丈夫です。オヤジからはもう水華さんに干渉できません。

 ただ、これもできるかぎり伏せておきたいんで、余程のことがない限りは従うフリをしておいてください。……水華さん?』


 おかしいな、返事がない。

 目をぱちくりとさせたまま黙り込んでいる。


『水華さん?』

「すみません、少々驚いておりました」

『もしかしてこの契約、この世界だとかなり上位のものだったりします?』


 俺がそう尋ねると、水華さんは深くうなずいた。


「書き換えが不可能な術式として知られています」


 だったら驚くのも当然だし、俺も俺でビックリだ。

 こちらの世界は科学技術が発展したぶん、魔法技術はイマイチなんだろうか。




 ともあれ身の上話もひと段落、ここからが大事なところだ。

 俺は水華さんからこの世界の常識をひととおり教えてもらうことにする。

 前世でも途中まではこっちで暮らしていたが、退魔師やら何やらについてはサッパリ分からない。

 思わぬところで地雷を踏みたくはないし、情報を集めるのは必須だろう。


 その中でとくに興味深かったのは、『一般的な退魔師』が俺を見たときに予想される反応。


「五十年に一人か二人、天才と呼ばれるような人間が現れます。

 直樹様も芳人様について、そのように理解しているのでしょう」

『生まれ変わりの可能性は考えない、と』

「はい。多くの退魔師は、輪廻転生などフィクションである、と考えています」


 なるほど。

 俺がポカをしない限り、転生についてバレる可能性はないわけか。

 他に重要な話としては……そうそう。

 オヤジの愛人たち。

 そのいずれも国内屈指の実力者ばかりらしい。

 曰く。


 オヤジとは血の繋がらない妹であり、体内に狼神を宿す女性――『伊城木月(いしろぎゆえ)』。

 とある魔術結社が生み出した「人類最高峰の魔導師」の試作品(プロトタイプ)――『アリア・エル・サマリア』。

 退魔師として名門の家柄に生まれながら、暗殺者として育てられた少女――『鴉城深夜(あじろみや)

 オヤジの幼馴染であり、魔を祓う古流剣術の使い手――『神薙(かみなぎ)真姫奈(まきな)』。

 ただ一人だけに愛を捧げる淫魔の姫君――『マーニャ・ラフィルド』。


 なんだこれ。

 SENG(それなんてエロゲ)と言いたくなる設定のオンパレード。

 しかも全員がオヤジを狙ってて、20代後半。

 うわキツ。

 誰得だよこれゲームだったら絶対に炎上してるぞ。 

 いまごろオヤジは、この五人と(よろ)しくやってるわけか。

 自分の親ながらドン引きだ。

 なんであんなのがモテているのやら。


「直樹さまには理解しがたい力があります」


 俺の疑問を察したかのように、水華さんが言う。


「本人は『女難の相』と言っていますが、あれはもっと(おぞ)ましい何かです。

 私も、危うく取り込まれるところでした」

 それは半年前のできことを指しているのだろうか。

 俺がこの家に来たばかりの頃、オヤジが水華さんのフラグを立てかけた事件――。


「ですが冷静になってみて分かりました。

 直樹さまの――あの男の目には、自分しか映っていません。

 女性が想いを寄せたところで、体よく使い捨てられるだけ。

 ……芳人様を普通の人間として育てたがっているのも、何か思惑があってのことかもしれません」




 * *




 それから五日が過ぎたある朝、オヤジはやたらツヤツヤした表情で帰ってきた。

「向こうの都合もついたみたいだしね。今から芳人(よしと)を連れていくよ。

 ――水華、契約をもって君に命じる。里に戻るんだ」

「……承知いたしました」


 荷物をまとめたトランクケースを手に、家を出る水華さん。

 俺たちは密かに念話(テレパス)で言葉を交わす。


『またいつかお会いしましょう、芳人様』

『中学か高校か、それなりの年になったら迎えに行くよ』

『はい』



 それから水華さんは、ふっ、と色香の漂わせた笑みとともにこう告げた。


『名実ともに芳人様のものになれる日を、いつまでもお待ちしております』




次回からは新ヒロインが登場します。

でも序盤に一度出てます。


ちょっと裏設定


水華(すいか)


 ・ネコマタの女性。 (いちおう)クール系

 ・もともと伊城木直樹と契約していたのは、彼女の姉である炎乃華(ほのか)

 ・しかしながら炎乃華は三年前に命を落とす。

 ・ここで炎乃華さん、まさかの暴挙。直樹を心配するあまり、自分の契約を妹の水華に移してしまう。

 ・ちなみに炎乃華も直樹ハーレムの一員。

 ・水華さんのガードは堅く、三年間ずっと直樹に靡くことはなかった。

 ・一度だけ危ない瞬間があったものの (第一話) 、芳人によって助けられる。

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