第29話 30話近くでやっと背景設定を詳しく説明する
タイトル通り、設定の説明回です。
圧倒的ないまさら感……!
白米、焼き鮭、小松菜のおひたし――
朝食はいかにもな和風だった。
「芳人は音を立てずに食べるのが上手じゃのう」
「親の教育がよかったんだと思います」
畳敷きの部屋に、宗源さんとふたり。
昨晩、変身の反動によって気絶した俺は、そのまま宗源さんのとこへと運び込まれた。
静玖の特訓については綾乃と未亜が引き継ぎ、明け方までいろいろとやっていたらしい。
今は本邸でグッスリ眠っているんだとか。
さて、なぜ俺だけが別邸にいるのかというと、
「おまえさんに、面白いものを見せてやろうと思ってな」
「何ですか?」
「うむ、それはその時になってからのお楽しみというやつじゃ」
やけに勿体ぶっているが、たぶん新しいゲームを買ったとかそういう話だろう。
あるいはプレイステ○ションVRとか?
自分で買うには高いけれど、とりあえず一度は遊びたい。俺は貧乏性。
「芳人よ、ちょいと場所を変えるぞ」
宗源さんに連れられた先はいつものゲーム部屋じゃなく、奥にある広い座敷。
「どこか隠れられる場所は……うむ、ここがええかのう」
「押し入れ、ですか」
「うむ。そこから覗いておるがよい。別に出てきてもかまわんが、そうなるとお前さんのことを皆に紹介せねばならん。綾乃の許嫁としてな」
「全力で隠れておきます」
久しぶりに《隠形》を発動させ、押し入れをほんの少しだけ開けておく。
十分くらい経過したころだろうか、座敷にゾロゾロと人が入ってくる。
いずれも年老いた男女であり、互いに親しげな雰囲気だ。
耳を澄ませていると、
「やはり諸百会の前は注文が増えますなあ」
「特に白夜派が多いな」
「鷹栖家にも朝輝派にも押されておるし、巻き返しに必死なのだろうよ」
といった会話が聞こえてくる。
彼らは退魔師なのだろうか?
それにしては魔力の反応が薄いし、身のこなしも非戦闘員のそれだ。
「皆、揃ったか喃」
やがて響いた声は、宗源さんのものだった。
ただ、いつもと違って圧し掛かるように重苦しく、威厳めいたものを漂わせている。
そうして始まったのは、会議のようなものだった。
近況報告に始まり、退魔師業界の動きがどうとかこうとか、真剣な話し合いかと思うと、「最近の若い者は……」「息子の連れてきた嫁がキツくてのう……」といった愚痴が零れてワッと盛り上がる。
なんだか不思議な集まりだ。
朝9時から始まった会は、正午近くになってやっと終わりを迎えた。
別室に昼食が用意されているらしく、老人たちはゆっくりとした足取りでそちらに向かっていく。
そうして誰もいなくなった後、宗源さんが俺のところに来て説明をしてくれた。
あの老人たちはみな日本古来の鍛冶師――倭鍛冶部の末裔らしい。
各々の家では退魔師専用の武器・防具を作っており、彼らの頂点に立つのが真月家だという。
なるほど、納得がいった。
軍隊に例えるなら、真月家は兵站部門の長みたいなものなのだろう。
だからこそ退魔師に大きな影響力を持っている、と。
「今日集まった連中はみな、ワシを含めて家長を退いた暇人ばかりよ。ゆえに面白い話も色々と入ってくる。……どうじゃ、参考になったかのう?」
「ええ、ありがとうございます」
得るものはかなり大きかった。
老人たちの話を訊くうち、俺の頭の中には退魔師業界のおおまかな勢力図ができあがっていた。
簡単にまとめてみようか。
退魔師の世界はもともと、鴉城という家がすべてを取り仕切っていた。
神祇局のポストもこの一族がほとんどを占めており、従わないものはフリーランスとして細々と活動するしかない状況。
けれど、二年前の飛行機事故で変化が訪れた。
鴉城家の重要人物がまとめて命を落とし、分家筋を巻き込んだ跡目争いが勃発。
こうして内輪揉めを起こしているところに勢力を伸ばしてきたのが鷹栖家だ。
それに危機感を覚えたのかして鴉城家のお家騒動はひとまず中断となったのだが、結局、一つにまとまることはできなかった。
鴉城家次男の朝輝を中心とし、鷹栖家との協調路線を望む穏健派。
四男の白夜を中心とし、鷹栖家の排除を主張する強硬派。
この2つに分かれてしまったのだ。
つまり、
・鷹栖派
・朝輝派 (鴉城穏健派)
・白夜派 (鴉城強硬派)
退魔師たちはこの三つの派閥に分かれ、現状、睨み合いを続けている。
三國志……って感じじゃないな。
朝輝派と白夜派はもともと一つなわけだし。
むしろZガ●ダムが近いかもしれない。
同じ連邦軍から分かれたエウーゴとティターンズ、そこにやってくるアクシスみたいな。
そして来週の諸百会はその代理戦争の場と目されており、特に強硬派の意気込みはかなりのものだとか。
で、ここからはもう少し細かいレベルの話になる。
静玖の家――相鳥家は鴉城の分家なわけだが、穏健派に所属しているらしい。
「鴉城朝輝としては、相鳥静玖を差し出すことで鷹栖家との距離を縮めるつもりなんじゃろう」
会議の内容に付け足すようにして、宗源さんが教えてくれる。
「相鳥家の当主といえど、所詮は分家よ。本家の人間が決めたことを覆すのは難しかろう。それでも何とか食い下がって、『諸百会で優勝すれば、鷹栖家との婚約は無効』という話に落とし込んだようじゃ」
「静玖が強硬派に移ってしまえば解決するんじゃないですか、これ」
「いやいや、話はそう簡単ではないぞ。強硬派の長――鴉城白夜は生粋の陰陽道至上主義でな、相鳥家を徹底的に嫌い抜いておる」
つまり雉間をさらに先鋭化させたようなヤツ、ということだろうか。
そうなると静玖には逃げ場がないわけで、だからこそ俺を頼ったのかもしれない。
「綾乃から話は聞いておる。芳人よ、相鳥静玖を救うための策を授けてやろうか。ワシなりのな」
それは是非教えてほしい。
老人の智慧というのは馬鹿にできないものだし、こんなややっこしい業界なら尚更だ。
「鷹栖文鷹、鴉城朝輝、鴉城白夜。この3人の首を落として、新たな派閥を掲げればよい。おまえさんなら簡単じゃろう。名前は、そう、C∴C∴Cとでも――ぬわあああああああああああっ!?」
宗源さん!?
突如としてその足元に闇が広がったかと思うと、数え切れないほどの触手が宗源さんを絡め取っていた。
そのままずるずると闇の中へ引きずり込んでいく。
やがて嬌声が聞こえ始めた。
……誰に需要があるんだ、コレ。
「まったく、おじいちゃんには困っちゃうね」
嘆息しながら現れたのは、孫娘の綾乃だった。
邪神の生まれ変わりでもある。
あの触手は、もしかしなくても眷属なのだろう。
「おじいちゃんって、昔はかなりの暴れん坊だったみたいなの。だから極端なことを言ったりするけど、芳人くんに汚れ仕事をさせようだなんて最低だよ、うん」
「あ、ありがとな……」
礼を言うべき場面なのかどうかはよく分からないが、ほかに言葉も思い浮かばない。
というか宗源さんは無事なんだろうか。
だんだん声も聞こえなくなってきたぞ。
「ま、それはともかくとして――はい、芳人くん。受け取って」
綾乃が手渡してきたのは……ええと、瓶詰の、干しイカ?
「静玖お姉ちゃん、今日は朝からお兄さんのお墓参りの予定だったんだって。明日には帰るらしいけど、一人にしておくのも心配だし、ちょっと迎えに行ってあげてほしいな」
「……干しイカはどう関係あるんだ」
「行き帰りのおやつだよ。あっ、車なら用意してあるから安心してね。――時田さん、後はよろしく」
パンパン、と手を打ち鳴らす綾乃。
すると、
「失礼いたします。それでは参りましょうか、吉良沢様」
いつも真月家までの送り迎えをしてくれている、ロマンスグレーの老紳士が現れた。
この人、時田って名前だったのか。
執事で時田……なんだか日輪の力を拝借して必殺技を出しそうな組み合わせだ。
「で、これから俺はどこに連れて行かれるんだ?」
「ああ、ごめんごめん、まだ説明してなかったね。京都だよ、京都」
「……はい?」
キョウト?
紀元前にモンゴル一帯を支配してた民族か?
それは匈奴です。
「ここからだと高速道路で3時間くらいかな」
いきなりの急展開を前に唖然とする俺をよそに、綾乃はそのまま話を続ける。
「未亜ちゃんのことならわたしに任せて、ゆっくり旅行を楽しんできてね。
――もしかしたら向こうで荒事が起こるかもしれないけど、もしそうなったら静玖お姉ちゃんの実地訓練としてはピッタリだよね」
そういうわけで次回は京都です。
あと、何とは言いませんが、自分の血肉とか使った料理ってヤンデレのテンプレですよね。




