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第1話 0歳の情操教育に猫耳は必須

補足


アルカパ:女神の名前。ドラ〇エⅤに同名の街があり、ビ〇ンカと結婚した上で宿に泊まるとイベント。

アルパカ:ラクダのなかま。真っ白。

メルカバ:ヘブライ語で戦車を意味する言葉であり、イスラエルが開発した戦車で(以下略



 目を覚ましたあと、しばらくは思うように動けなかった。


「だう、だーっだだだ!」


 ロクに言葉も出ず、視界もぼやけている。

 赤ん坊からスタートしたわけで、まだ身体が未発達だからだろう。


「センパイ、この子全然泣きませんね」

「先生は大丈夫って言ってたけど、本当かしら」


 看護師と思しき女性の声が聞こえる。


「なんかこう、赤ちゃんっぽくないんですよね」

「おじいちゃんみたい、っていうか」

「あー、たしかに!」


 ぐはっ。

 やめろ、やめてくれ……。

「キミってうちのおじいちゃんみたい」ってのは「いい人」に次ぐ童貞殺しワードなんだぞおい。

 あまりにも悲しいのでギャン泣きしたら、むしろ周囲には安心されてしまった。

 やがて退院の日が訪れ、俺は自分の家へと向かうことになる。

 閑静な住宅街の一角。

 二階建ての庭付き。

 なかなかにブルジョアな雰囲気だ。

 

 この時期、俺はちょっとした楽しみを見つけていた。


「だうー、あうー、ぱー」


 まだ言葉は出ないが、裏を返せば何を叫んでもバレないわけだ。

 せっかくなので、身振り手振りつきでアニメやらマンガやらのセリフを叫びまくってみる。


だう(見ろ)だだだうううううう(人がゴミのようだ)!」

ばぶば(それは)ばばぶーばばば(メラゾーマではない)だばだ(メラだ)

あたたたた(あたたたた)たたたたたたたた(たたたたたたたた)! ホアタァ(ホアタァ)!」


 ちなみに最後のセリフの時、うっかり父親っぽい男の顔にキックをかましてしまった。

 赤ちゃんのやることだし今すぐ許せよ。

 ごめんなさい反省してます。


「いやあ、うちの芳人(よしと)は元気だね」

「ミルクが欲しくて暴れているのかもしれません」

「じゃあ、君がおっぱいをあげればいいんじゃないかな……って痛たたたたたっ!?

 分かりました無言で殴らないでくださいすぐに用意しますごめんなさい」


 ベビーベッドの向こうでは、男女二人がどつき漫才を繰り広げている。

 男のほうは、いかにも優しげな好青年だ。顔立ちもけっこう整ってる。

 けっ。

 こういう草食系っぽいイケメンほど陰でいろいろやってるんだ。俺は騙されないからな! (偏見)

 俺は0歳にして父殺しの決意を固めた。

 これからは父親でも父さんでもなく、オヤジと呼んでやる。


「もう少しで直樹さまがミルクを持ってきます。しばらくお待ちください」


 女性はというと、家の中にも関わらず黒いスーツ姿だった。

 年齢は……二十代前半だろうか。

 表情は硬いが、間違いなく美人だ。

 クールで隙のない印象。

 俺とはどこか一線を引いた感じで、母親という雰囲気ではなかった。

 けどまあ、そんなのは些細なことだ。

 もっと気になることがある。

 女性の頭。

 ぴこぴこ。

 黒いつややかな髪のあいだから、ネコミミが生えている。

 コスプレ?

 スーツにネコミミとかマニアック過ぎやしませんかね。

 でもこの人、オタクって感じでもないんだよな。

 よし、こういう時こそ【鑑定】スキルの出番だ。


だうだど(汝の)どーだうだだだ(正体を)でだだででど(詳らかにせよ)だうどう(発動)、【だだでい(鑑定)】!」


 実のところスキルの発動は念じるだけでいいんだが、やっぱり詠唱ってのはロマンだと思う。

 無詠唱を持ち上げる連中はそのへんを分かってないから困る。


 数秒の後、俺にしか見えない蒼白い半透明のパネルが浮かび上がった。





 

 [名前] 水華(すいか)

 [性別] 雌

 [種族] ネコマタ

 [年齢] 121歳

 [称号] 不明

 [契約者] 伊城木直樹

 [能力値]

  レベル19

   攻撃力 22

   防御力 12

   生命力 12

   魔力  20

   精神力 40

   敏捷性 45

 [アビリティ]不明

 [スキル] 不明

 [魔法] 不明

  ※1 ごめん、やっぱ異世界で【鑑定】を適用するのは難しいね!

  ※2 翻訳チームががんばって作業を進めてるし、期待しててね! (by アルカパ)



 えっ、このステータスって人力なの? いや、神力?

 とはいえそれよりも重要なのは種族欄。

 ネコマタ。

 まさか(しょ)(ぱな)からファンタジー要素に遭遇するとは思ってなかった。

 ファンタジーというよりは和風伝奇か?

 いずれにせよナマの猫耳だ。

 ふさふさしてて気持ちよさそうだし、俺としてはタッチしてみたい。


だだううう(すみません)! だった(ちょっと)だでで(耳を)モフだででだばばあ(モフらせてください)!」

「ミルクならそう焦らなくとも大丈夫です。今、直樹様が用意していますよ」


 話ぶりからするに水華さんはオヤジの部下というか、使い魔的な存在なのだろう。

 ステータスにも[契約]なんて欄があったしな。

 ならオヤジは何者かという話になってくるんだが、ちょうど近くに戻ってきたし【鑑定】してみよう。

 

 [名前] 伊城木(いしろぎ) 直樹(なおき)

 [性別] 男

 [種族] 人間

 [年齢] 29歳

 [職業] 退魔師

 [称号] 伊城木家当主 (四代目) ぼんくら

 [能力値]

  レベル25

   攻撃力 15

   防御力 12

   生命力 11

   魔力  14

   精神力 8

   敏捷性 10

 [アビリティ]不明

 [スキル] 不明

 [魔法] 不明


  


 『ぼんくら』って、おい。

 うちのオヤジが顔だけ男すぎて辛い。


「遅かったですね、直樹さま」

「これでも急いだんだけどね……。水華、よかったらミルクをあげてみないかい?」

「私は、子供に怖がられる質ですので」

「大丈夫、僕の息子だよ?」


 オヤジから寄せられる謎の信頼。

 正直、裏切りたくて仕方ない。


「で、では……失礼、します」


 うおお。

 水華さん、めっちゃ緊張してるよ。

 なのに無理して笑みを作ろうとするから、むしろ肉食獣が牙を剥いているようにしか見えない。

 手先も震えまくってるし、これ、普通の子供なら大泣きだよな。


「ど、どうぞ……」


 差し出される哺乳瓶。

 俺は素直にくわえることにした。

 どうやら母親はすでに亡くなっているらしく、ひたすら人工乳の毎日だ。

 ゴクンゴクン。

 ふはー。

 うーんまずい、もう一杯!


「わぁ…………」


 水華さんは俺の食事風景をぽわーっとした感じで眺めていた。

 キリッとした外見の割に、実は可愛いものが好きなんだろうか。


「きゃっきゃ! だうー!」


 ちょっとサービスして、笑顔を向けてみた。

 ついでに水華さんの指を握る。

 すると。


「~~~~っ!」


 ポン、と水華さんの顔が赤色に染まった。

 ふはは、フラグを立ててしまったようだな。

 んなわきゃない。

 赤ちゃんという存在ゆえの魅力補正だろう。


「な、な、直樹さまっ!」


 水華さんはちょっと裏返った声で叫んだ。


「わ、わた、私っ! この子のっ、お母さんになりますっ!

 さ、里に連れて帰ってもっ、よろしいでしょうかっ!」

 

 はい?

 そいつはちょっと前のめりすぎませんかね水華さん。

 食事シーンだけでコレとかチョロすぎますよマジで。

 いや、でも待てよ。

 彼女はネコマタで、その里。

 つまり猫耳美少女だらけの村ってことだな! 

 よしオッケー。

 ふははは、マタタビを集めてハーレムを築いてやるぜ!

 と、思っていたら。


「水華さんの気持ちは嬉しいけど、ごめん、その申し出は受けられないよ」


 なぜ断るんだオヤジ。


「芳人はふつうの人間として育てるつもりなんだ。

 退魔師としての伊城木家は僕の代で終わりだからね」


 マジですかオヤジさん。




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