表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/145

第21話 唐突な覚醒は主人公の特権

「こいつ誰だ!?」となった方はおままごと回 (12話)を思い出すといいかも

 さっきの地震は何だったのだろう?

 あれ以来、なぜか、右脇腹が疼いている。

 ちょうど《無貌(むぼう)の泥》を取り込んだ場所だ。


 ……。


 あれ?

 やけに頬がひんやりしているな。

 地面が近い。

 というか、倒れていた。

 いつの間に転んだんだ。

 魔力切れによる気絶か?

 おかしいな。

 あと一戦できる程度の魔力は残していたはずなのに。


 ドクン!


 右脇腹が激しく脈動し、それとともに意識が遠ざかり――

 

「兄さん!? ねえ、兄さん、しっかりして!」


 誰かの声で、目を覚ます。

 落ちてくる瞼を必死に開くと、そこには、見慣れた未亜の顔。


「どうしたの兄さん、どこか怪我したの!?」

「……たぶん、魔力切れ、だ」


 俺がそう告げると、未亜は頷いた。


「――《供与術式(サプリィ)》・《我が霊気は(ゲンキ)汝の甘露である(ダシテネ)》」

 

 呪文を唱え、俺の手を握る。

 触れ合った場所から伝わる、じんわりとした温かさ。

《供与術式》。

 名前の通り、相手に魔力を分け与える魔法だ。

 その速度はとてもゆっくりだが、だんだん、意識がはっきりしてくる。


「ありがとう、助かったよ未亜。……どうしてここに?」


 外で負傷者の治療を行っているのではなかったのだろうか。


「悪い予感がしたの。すごく曖昧なんだけど、兄さんが危ない気がして……」

「なるほど。愛の力だな」


 俺は冗談めかして答えてみる。

 すると未亜は、うん、と頷いて、


「そうかもね。だってわたし、兄さんの――勇者さまのこと、大好きだし」


 いきなり、そんなことを言ってきた。

 

「……」

「……」

「……自分で言って、恥ずかしがるなよ」

「…………勇者さまこそ、顔、赤いよ」


 くっ。

 何をラブコメちっくな展開をやってるんだ、俺たちは。

 玲於奈とアリアは退けたが、エピローグにはまだ早い。

 さっきの地震だって気になる。

 はやくフィリスを追いかけよう。


「勇者さま、いけそう?」

「ああ」


 ゆっくりと身を起こす。

 それから、


「さすがにもう『勇者さま』ってのはないだろ」


 ふと思ったことを口にする。


「他のやつが聞いたら何事かと思うぞ」

「じゃあ、なんて呼んだらいいかな」

「普通に『兄さん』でいいだろ。そもそもなんで急に『勇者さま』なんて言い出したんだ」

「別にいいじゃん。気分だよ、気分」


 女心はよく分からない。

 ただ。


「それなら名前で呼んでくれ。さすがにこっちの世界で『勇者さま』ってのは、その、ムズ痒いんだ」


 向こうの世界じゃ栄えある称号なんだが、世界が違えば事情も違う。

 こっちの日常生活で『勇者』なんて単語を使うことはまずないし、あっても『勇者 (笑)』みたいな(あざけ)りだろう。


「名前って、えっと、下の名前だよね」

「ああ。ちゃんと覚えてるか?」

「うん、前世と同じでしょ。えっと……」


 未亜は少しためらいがちに、かつ、照れくさそうに、


「よ、芳人…………兄さん」


 と、呟いた。


「兄さんはいらない。やりなおし」


 ちょっと意地悪して、そんな風にダメ出しする。


「テイク2、スタート」

「えっ? えええっ? …………よ、よよよよ――」

「よっちゃんイカ?」

 

 ちなみに俺は当たりくじつきの辛口味が好きだ。

 小学生の遠足、友達4人で協力してビン入りの50本セットを買って行ったっけ。

 おやつは1人300円まで、だから300×4=1200円までオーケー。

 どうだこの完璧な作戦。

 先生にはなぜか怒られた。

 解せない。


「よ、よし、よし――」


 まだ未亜はためらっている。

 よしよしと言っているが、頭でも撫でてくれるのだろうか。

 やがて。


「――芳人」


 ようやく俺の名前を口にする。

 その頬はさっき以上に赤々と染まり、もはや茹で上がった蛸のよう。


「未亜」


 俺がそう呼び返すと、


「ふぁっ!?」


 ボン、と未亜の顔が爆発した。

 いや、比喩だけどな。


「うう、あう……」


 アワアワしている未亜を鑑賞しつつ、俺は立ち上がる。

 魔力が枯渇寸前なのは変わりないが、まあ、さっきよりはマシだ。


「ほら、行くぞ」

「う、うん」


 手をつないだまま歩き始める。

 未亜は左手、俺は右手。

《供与術式》は継続したままだ。

 互いに無言のまま、足音だけが洞窟に響く。




 最奥に辿り着いたのは、それからすぐのことだった。

 扉がある。

 およそ洞窟に似つかわしくない、両開きの重厚な扉だ。

 

「兄さん、これって」


 未亜が指さしたのは、扉に描かれた紋章。

『二枚貝に挟まれた瞳』と言えばイメージがつくだろうか。

 

 それは前世において俺が消滅させたはずの邪神を示すものだった。

 名前をあえて日本語で書き記すなら「ゼェャダフォァグィレャ」となるだろうか。

 言いづらくて仕方ないし、「邪神フォアグラ」とでも呼べばいいと思う。

 他にも同類の神が二柱いるらしいが、そっちは名前が伝わっていない。

 たぶん「邪神キャビア」と「邪神トリュフ」だろう。世界三大珍味的に考えて。


「……なんか腹が減ってきたな」

「ふざけてる場合じゃないよ」


 怒られた。

 ごめんなさい。


「ドアが魔法でロックされてる。……ちょっと待ってて、開けるから」


 未亜が扉に触れる。

 《解錠術式(オープナリィ)》を使っているのだろう。

 かかった時間は10秒と少し。

 なかなか短いタイムだ。


 俺たちはドアを押し開いて中に入る。

 そこは祭壇のような構造になっており、思いがけない惨劇が繰り広げられていた。


「フィリス様、どうして僕の気持ちを受け入れてくださらないのですか!? 恋がしてみたいというなら! 貴女を恋い慕っている弟子が、ここにいるというのに!」

「だってヘルベルト、貴方って退屈なんだもの。タイプじゃないわ。その上フられた腹いせに人の研究成果は盗み出すし、小さな女の子を誘拐するし。マイナス点ばっかり稼いで何がしたいの?」


 フィリスが、言葉のナイフでヘルベルトを抉っている。

 もう、ザックザクのメッタ刺しだ。


「そんな、僕はただ貴女に振り向いてほしくて――」

「私は目的のためなら手段を選ばないタイプだけど、少なくとも、目的に反するような手段は取らないわ。……もしかして、そういう愚かさを可愛がってほしかったの? マザーコンプレックスをこっちに押し付けないで頂戴」


 ちょ。

 フィリスさん、マジで容赦ないッス。

 男に対してマザコンはキラーワードなんだから勘弁してやってくださいよ。


「ううぅ……ああああああぁぁぁっ――」


 ああもう、ヘルベルトさん泣いちゃったじゃないですか。


「フィリス、それくらいでいいんじゃないか……?」  


 さすがに見ていられず、俺は止めに入っていた。


「あらヨシト、遅かったわね。ミアちゃんも来てくれたの?」

「はい、なんだか嫌な予感がして……」


 未亜のカンはある意味で大当たりと言えるだろう。

 俺たちが来なければ、フィリスはさらなる精神()撃をヘルベルトに加えていたかもしれない。


 ふむ。

 さっきの会話から考えるに、この男はフィリスの気を惹きたかったわけだ。

 真月ちゃんを生贄に「何か」を召喚し、それでもって自分の実力を示そうとした。

 ……恋は人を狂わせるというけれど、もう少し周囲への迷惑を考えてほしい。


 そういや俺、ヘルベルトに「恐怖の記憶がずっとリピートされる呪い」をかけてたっけ。

 あれはどうなったのだろう。

 フィリスに訊いてみると、


「悪いけれど解除させてもらったわ。じゃないと話にならないもの」


 つまり彼女はヘルベルトを呪いから救った上で、改めて地獄に叩き落としてるわけだ。

 ……フィリスさんこえー。


「私はもう飽きた……じゃなくて、気が済んだわ。誘拐された子を連れて帰りましょうか。あっちよ」


 フィリスは祭壇の奥を指差す。

 そこには怪しげな魔法陣が描かれており、中央にひとりの女の子が寝かされている。

 真月綾乃だ。

 

「私がヘルベルトを連れていくし、その子はヨシトとミアに任せていいかしら」


 了解。

 腕力の強化くらいならほとんど魔力はいらないし、真月さんを運ぶのは簡単だろう。

 

 これにて事件解決。

 ありがとうありがとう。

 オーイエー。



 とはならなかった。


 

「……くくくく、あはははははっ」


 フィリスが魔法でヘルベルトを拘束しようとした、その時だった。


「はははははっ――ゴホッゴホッ、あはははっ、はははははははっ!」


 泣きながら、噎せながらの哄笑。

 その調子はどこか(ひず)んでいて、不吉な印象を漂わせている。


「兄さん、魔法陣が……」

 

 未亜に言われて、気付く。

 魔法陣が薄緑色に輝き、這うようにして動いていた。

 真月さんのところから、ヘルベルトの足元へ。

 

 そして。


「ははははははっ、くはははははははははは! どうして僕がフられるんだ!? 意味が分からない! おかしい、おかしいだろう!? あはははははははははは――!」


 狂ったような笑いとともに、ヘルベルトの身体がどろりと溶けた。

 魔法陣が回転しながらどんどんとそのサイズを縮めていき、細長い光の柱が立ち上る。


 空間がぐにゃりと曲がり、裂けた。

 鉄の焦げるような匂いとともに何かが這い出してくる。



 



 かつて俺はこの光景を目にしたことがある。

 前世。

 邪神教団の連中が、己の身を生贄にフォア(ゼェャダフォァ)グラ(グィレャ)の眷属を喚ぶとき。

 あれとまったく同じだった。






「XGyyyyYHAaaaaAAAAA……」


 文字にしがたい唸り声とともに現れたのは、不気味なシルエット。

 簡単に言えば、「怪奇ツタ男」か。

 ウジョウジョとした蔦が集まって、人間めいた形を作っている。

 蔦からはそれぞれ半透明の液体が滴り、なんとも気持ちが悪い。


 俺は【鑑定】を発動させた。




 [名前] ヘルベルト・フォン・オイレン

 [性別] 男

 [種族] 邪神 (眷属)

 [年齢] 27歳

 [称号] 幼女誘拐犯 (元)フィリスの弟子 緊縛趣味 M

 [能力値]

  レベル0

   攻撃力      1

   防御力      1

   生命力     1

   魔力   計測不能

   精神力     不定

   敏捷性      1

 [アビリティ] 眷属:フォア(ゼェャダフォァ)グラ(グィレャ)

 [スキル] 緊縛Ⅹ 絞殺Ⅱ

 [魔法] 《時間術式(クロックリィ)》:常時




 レベル0、攻撃、防御、生命、敏捷オール1。

 邪神とその眷属の特徴だ。

 これは弱さを意味しない。

 無限に等しい魔力がすべてを代替してしまう。

 しかも常に《時間術式》が発動しているため、あらゆる攻撃が無効化されてしまう。

 対抗手段はひとつ。

 こちらも《時間術式》を使って中和を行う他にない。


 問題は、それを使える人間が俺だけということ。

 参ったな。

 眷属といえど、こいつを殺しきれるだけの魔力は残っちゃいない。


「た、た、助けてくれっ! な、なんだこれは! どうして僕が、こんな目に……!?」


 蔦の中からモゾモゾと浮かんできたのは、ヘルベルトの顔。

 その表情は、恐怖と驚愕に染まっていた。


「フィリス様、いくらなんでもこんな仕打ちはあんまりです! ああ、助けて、助けて――」


 ちょっと待て。

 ヘルベルトは、ヤケを起こして自分を生贄にしたんじゃないのか?

 その叫びはとても演技に見えない。


「召喚術式はさっき破壊しておいたはずなのに……!?」


 フィリスもフィリスで戸惑っている。

 いったいどうなってるんだ。


「助けてください! ……助けてぇ! うあぁ、ぁぁぁぁあああああああああああああっ!」


 ヘルベルトが悲鳴をあげる。

 その言葉とは裏腹に、無数の蔦が首をもたげ――

 

 まずフィリスへと、襲いかかった。




 * * 


 


「せめて安らかに眠りなさい、ヘルベルト。――《十重(メニィ・)二十重(メニィ・)葬送火竜(クリメイション)》!」


 フィリスの反応は早かった。

 蔦が迫るより先に魔法を放っている。

 おそらくはあちらの世界における、《火炎術式》にあたるものだろう。

 炎で象られた竜が何十匹と生み出され、一斉にヘルベルトへと襲いかかった。


 火竜たちは念入りに蔦という蔦を焼き尽くし、勝利の凱歌をあげて消滅する。

 後には灰すらも残っていない。


 ――しかし、《時間術式(クロックリィ)》はそれを凌駕する。


「な、なんだ、どうなってるんだ。僕は、僕は、何になっちゃったんだよぉ!?」


 ほとんど間をおかず、ヘルベルトは再生していた。


「これ、ヨシトが使ってた魔法と同じ……?」


 フィリスは一瞬でそれを看破すると、指示を仰ぐようにこちらへ視線を向けてくる。

 そのわずかな時間が、致命的な隙になった。


「――きゃぁっ!?」


 彼女の足元から蔦が飛び出し、その全身を絡め取る。

 見ればヘルベルトの身体から伸びる蔦のいくつかは、地面の中に潜り込んでいた。

 地中からの、奇襲。


「ちぃっ!」


 フィリスを見捨てるわけにはいかない。


「――《時間術式(クロックリィ)》・《(シヌトキハ)時に逆らうこと莫れ(チャントシニマショウ)》・《付与(アンド)》・《風霊術式(エアリィ)》・《我が手は(イチバン)空を(マリョク)断つ(ショウヒガ)剣である(スクナイヤツ)》!」


 右腕を振り下ろす。

 放たれた風の刃が蔦を切り落とし、フィリスの身体を自由にする。

 

 ここまではいい。

 問題は、そのあと。


「っ……!?」

 

 足元がフラついた。

 眩暈とともに意識が遠ざかる。

 魔力切れの前兆だ。

 嘘だろう?

 俺の残り魔力を100とするなら、今の《時間術式》+《風霊術式》は5程度の消費に過ぎない。

 まだ余裕があるはずだ。

 それなのに、どうして。

 

 ――ドクン! 

  

 再び、右脇腹が脈動する。

 まさか身体に取り込んだ《泥》が、俺の魔力を横取りしてるのか?

 さっきまでは何もなかったのに、どうして、いきなり。

 

「痛いじゃないかぁぁぁぁ! 痛くないように助けろよぉぉぉぉぉぉぉ!」


 ヘルベルトががなり立てる。

 その怒りを表すかのように蔦が絡み合い、巨大な「腕」を形作った。

 風を巻き込んで迫る、剛腕。

 

 衝撃が訪れる。

 しばらくの浮遊感のあと、地面に叩きつけられる。


「ぅ……ぁ…………ッ!」


 肺から空気が絞り出され、遅れて、痛みがやってくる。

 全身をバラバラにされたような、激痛。


「兄さ――やぁぁっ!?」

「ミアちゃん!? っく……!」


 未亜の悲鳴と、フィリスの呻き。

 俺は薄れゆく意識を必死に繋ぎ止める。

 歯を食いしばり、必死になって瞼を開いてみれば、


「んっ……ひゃ……ん――」

「やぁ……あ、う……!」


 未亜とフィリスが、囚われの身となっていた。

 粘液の(したた)る蔦が二人の肢体に巻き付き、舐めるようにあちこちを這い回っている。

 

「ああごめんなさいフィリス様、けれどいい格好じゃないですかあはははははは。横の小さな女の子もこれはこれで悪くない。どうせ助からないならみんな巻き込んでやる。僕の思い通りにならなかった世界への報いですよひゃははははははっ!」


 ヘルベルトはそんな無茶苦茶な論理を口にしながら、ギリギリと二人の首を絞め上げる。

 俺はすぐさま助けに行こうとした。


 なのに、力が入らない。

 手足の骨が砕け、あらぬ方向に曲がっていた。

 さらには猛烈な眠気までもが襲ってくる。 

 くそっ。

 ここで気を失って、たまるか。

 未亜を、フィリスを、助けないと。


 けれど視界はだんだんと闇に閉ざされて――

 

 ――ドクン。


 なぜか右脇腹の拍動だけが、強く感じられた。






 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 




 

 ――ねえねえ、芳人くん。ちょっと手助けしてあげよっか?

 ――でも、ひとつ条件があるの。別に大したことじゃないよ。

 ――わたしを『フォアグラ』って呼ぶのやめてほしいな、って。

 ――だってあれ、ガチョウとかアヒルの脂肪肝でしょ。女の子的にはすごく傷つくんだよ?

 ――オーケー? 約束はちゃんと守ってね。



 ……。

 …………。

 ………………。



 ――よーし、作業終了。

 ――まさか《泥》を取り込んでるとは思ってなかったけど、結果オーライだね。

 ――活動限界は3分くらいかな。

 ――ついでにカラータイマーもつけとく? なーんてね。



 ……。

 …………。

 ………………。



 ――え? おまえは消滅したんじゃないのかって?

 ――ふははは、ひとの心に悪がある限りわたしは何度でも蘇るのだー!

 ――ってのは嘘で、ミアちゃんのオマケ? みたいな?


 ――念のために言っておくけど、今回の件、わたしはノータッチだよ?

 ――()()()()()()()()()()()()()()()とか意味わかんないなー、って思ってただけだし。

 ――喚ぼうとしてる本人が目の前にいるのに、誰も気づいてないの。ちょっと面白いよね。


 ――誘拐犯くんが生贄になっちゃった理由は、まあ、次に会った時にでも話そうかな。

 ――それじゃあ頑張ってね、芳人くん。

 ――気が向いたらまた一緒におままごとしてくれると嬉しいな。





 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 

 

 夢を見ていた。

 暗闇のなか、俺は誰かと喋っていた。

 詳しい内容は覚えていないが、相手は、女の子だったような気がする。


 その後、今度は真っ白な空間に浮かんでいた。

 

 ――ガシャン、ガシャン。


 遠くから鎧が近づいてくる。

 赤いマフラーを巻いた、漆黒の鎧騎士。

 前世の俺だ。

 

 ふと、フィリスとの会話が思い出された。

 《泥》に関する検査結果。


『黒騎士の概念情報が、ヨシトの中に格納されてるみたいなの』

『すまない、もう少し簡単に言ってくれないか?』

『方法はまだ分からないけど、黒騎士の力を使えるようになる可能性が――』

 

 つまり、そういうことなのだろう。

 俺は手を伸ばす。

 鎧騎士も手を伸ばした。

 

 過去の自分。

 今の自分。

 

 それがひとつに重なり――





 目が、覚める。

 さっきまでの疲労感が嘘のようだった。

 枯渇寸前だった魔力が、全身に満ち満ちている。


 立ち上がった。

 金属と金属が打ち合い、ガシャン、と音を立てる。

 

 目の位置が普段より高い。

 当たり前だ。


 自分の身体を見下ろす。

 漆黒の全身鎧に包まれていた。

 前世の姿。

 黒騎士の力。


 眷属を倒すには、十分すぎる。


 

 さあ、行こうか。


果たして芳人くんはこのままシリアスを維持できるのか(予告)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ