表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/145

第18話 ステータスは文字数稼ぎっておばあちゃんが言ってた

 静玖(しずく)によると、雉間(きじま)裕二郎(ゆうじろう)という男の実力は、


「ガンダ○で言うなら『一般兵の乗ったド○』、将棋なら銀」


 と、いうことらしい。

 いまひとつイメージがつかないので、もう少し詳しく訊いてみると――


「退魔師の中では中堅どころだと思います。強いことは強いんですけど、頑張ればいつか追い越せるかな、って」


 ああ、そういうことか。

 なんとなく理解できた。

 ゲルグ○みたいにビーム兵器を使うわけじゃないしな、○ム。

 革新的な性能ではない、けれど侮れない量産機といったところか。


 ここで雉間のステータスを見てみよう。




 [名前] 雉間(きじま)裕二郎(ゆうじろう)

 [性別] 男

 [種族] 中二病

 [年齢] 54歳

 [称号] 雉間家三十八代当主 四歳児に負けた男 

 [能力値]

  レベル68

   攻撃力  72

   防御力  71

   生命力  62

   霊力   71

   精神力  63 (-25)

   敏捷性  64

 [アビリティ] 雷神の加護Ⅴ

 [スキル] コスプレⅧ 手芸Ⅶ 雉間流陰陽術Ⅷ 雉間流柔術Ⅵ 

 [状態異常]

  冷え切った家庭:妻には逃げられ、娘 (4歳) からの視線は冷たい。精神にマイナス補正。

 ※退魔師だから「魔力」を「霊力」にしたけど、本質的には同じだよー (byアルカパ)




 女神アルカパによる死体蹴りがひどい件について。

 称号から「四歳児に負けた男」は外してやってほしい。

 あと、「冷え切った家庭」ってのはなんだ。暴露してやるなよ。かわいそうだろ。

 ついでに、もう一個だけ言わせてくれ。

「雷神の加護」とやらを持ってるのに、雷撃魔法で気絶するってのはおかしいだろう。

 まったく。

 ちゃんと仕事してくださいよ、雷神さん。


 ……ツッコミを入れるだけ入れて気が済んだし、いいかげんまじめに考えよう。


 雉間のステータスをあちらの世界に例えるなら、まあ、魔王軍の部隊長レベルといったところ。

 四大魔将どころか、小規模なダンジョンのボスにも届いていない。


 これが「退魔師の中堅どころ」とするなら――まあ、迎撃は十二分に可能だろう。

 まさか雉間ひとりで乗り込んできたなんてバカな話はありえないだろうし、きっとアパートのまわりには手勢が潜んでいるはずだ。できればその数を把握しておきたい。


「静玖、ちょっといいか」

「身長は155cmでスリーサイズは上から88、57、84ですよ」


 そうかー、雉間って巨乳だったんだなー。


「あ、もちろんわたしのプロフィールです。ちなみにEカップですよ、Eカップ」


 だからなんだ。

 数字もアルファベットもただの飾りだ。エロくないヤツにはそれがわからない。

 おっぱいはただそこにあるというだけで尊いのだらよ。 (謎方言)

 ……ふう、またしても名言を作ってしまったぜ。


 って、脳内ショートコントをやってる場合じゃないな。


「敵の数を教えてくれ。雉間のやつは仲間をどれだけ連れてきたんだ?」

「むう、イマイチの反応ですね」


 ちょっと不本意そうにむくれる静玖。


「ご主人さまが難しい顔をしていたので、この静玖、身体を張って(なご)ませようとしたのですが……」

「そういうのは後でいい。とにかく今は情報が必要なんだ」

「大丈夫ですよ、雉間さまだけですから」

「は?」


 思いがけない答えに、一瞬、思考が停止する。


「冗談だろ? 自分が乗り込むにしても、後詰に部下を連れてくるのが当然じゃ――」

「その部下がいないんです。みんな、もっとマトモで力のある派閥に流れちゃいまして……。それで、雉間さまは功を焦ったんだと思います」

「じゃあ、どうして静玖は従ってたんだ?」

「家の関係が色々とあるんですよ。でもまあ、さっきブッチしちゃいましたし?」

 

 おどけた調子で肩をすくめる静玖。


「こうなったら突っ走るまでです。――だから責任取ってくださいね、ご主人さま?」




 * *



 

 わかった、と俺は頷いた。

 頷いてから、ふと、気付く。


 あれ?

 おかしくないかこれ?

 

 静玖が雉間を裏切ったのは、フィリスとの友情を優先したからだ。

 そこに俺は一切関わっていない。


 責任を取る取らないじゃなく、そもそも無関係のような……。


「ふふふっ、みなさん今の聞きましたね。ちゃーんと言質取りましたよ、言質」


 イヒヒ、とまるで魔女みたいな声で静玖は笑う。


「そうね。これはもう、執事としてちゃーんと雇ってあげないとダメじゃないかしら」


 クスクスといたずらっぽい表情を浮かべたのはフィリスだ。


「兄さん、ここで見捨てたら直樹って人と同じになっちゃうよ」


 さらには未亜まであとに続く。

 彼我の戦力差は3:1、しかも向こうは女で、こっちは男。

 ()能差は圧倒的だ。


 くそっ、勝てるわけがない。

 

「――それで、ちょっとマジな話いいです?」


 冗談めかした雰囲気の中、だしぬけに静玖が口を開く。


「実はうちの家、立場がかなり弱いんですよね。わたしが当主を継いだ、というか継がされたのは先月なんですけど、その時にはもう政治的に詰んじゃってまして……」


 なんだか急に重たい話になってきたな。

 静玖といえばアレな言動ばかりが目につくが、実はいろいろと心労があるのかもしれない。


「ぶっちゃけ、今の派閥争いでどこが勝っても相鳥家に未来はないんです。だったらご主人さまみたいな超有望株に一点賭けするのもありかなー、と思ってる次第でして、はい」

「超有望株って、どこがだ? うち(吉良沢家)、別に退魔家の家系でもなんでもないぞ」

「そんなの大した問題じゃありません。四歳にして大人顔負けの知性、雉間さまを一撃で昏倒させるほどの魔力、そしてなにより《赫夜(かぐや)の月姫》フィリスイリスともツテがあるんです。家柄なんて消し飛ぶくらいのチートですよ、コレ」


 鼻息荒く詰め寄ってくる静玖。

 顔が、顔が近い。

 ちくしょう、なんだか甘い香りがするぞ。

 少しドキッとしたじゃないか。


 あと、さりげなく《赫夜の月姫》って言ってたな。

 念押ししておくが、これはあくまで静玖が勝手に言ってるだけの二つ名だ。

 公式名称ではないので気を付けるように。


「だからご主人さまが退魔師として売り出す時には、わたしにも声をかけて頂けたらなー、と」


 なるほど。

 ただのイタい子と思っていたが、彼女なりに当主として家のことを考えているらしい。

 そういう責任感は嫌いじゃない。


「だ、だから別にチンピラから助けてくれたり、黒騎士から守ってくれたことで十歳も下の男性を好きになっちゃったとかじゃないですからね、ええ。そこは勘違いしないでください……勘違いしないでよねっ!」


 えーと。

 なんかもう、最後で色々と台無しだ。

 取ってつけたようなツンデレは、ジョークなのか照れ隠しなのか。


 未亜のほうを見ると、


「そっか、別に兄さんのことを狙ってるわけじゃないんだ……」


 などと胸を撫で下ろしていた。

 うちの妹が素直すぎて、将来が心配です。


 

 


 とまあそんな一幕を挟みつつ、俺は雉間を縛り上げる。

 ロープはフィリスの部屋にあった。


「ご主人さま、やけに手馴れてますね。いやらしい……はぁ、んっ……」


 恍惚の視線を向けてくる静玖が怖い。

 別にサドい趣味があるわけじゃないからな。

 前世の経験――魔王軍のやつらを拘束したり尋問したり、そんな機会が多かっただけだ。


 よし、完了、と。

 雉間のことは好きになれないが、陰陽師ファッションは格好いいと思う。

 烏帽子(えぼし)を被って京都を練り歩くと楽しいかもしれないが、ま、そのへんは今回の件が済んでからか。

 

 フィリスの弟子による、真月(まつき)綾乃(あやの)の誘拐。

 いったい何の目的があってのことなのだろう。


「生贄、ね」


 師であるフィリスは呟く。


「彼――ヘルベルトがやろうとしているのは、いわゆる古典的な召喚術なの。供物を捧げることで超常的な存在を実体化させる。儀式が始まってしまえば、綾乃って子はまず助からないわ」

「そんな!」


 声を荒げたのは未亜だ。

 当然と言えば当然だろう。

 前世、未亜は――ミーア・グランスフィールドは邪神の生贄として短い人生を終えている。

 同じようなことが起こると聞かされて、黙っていられるわけもなく、


「兄さん、力を貸して」


 真剣な眼差しを、俺に向けてくる。


 常識的に考えるなら、いわゆる退魔組織とやらに任せるところなんだろう。

 俺たちはまだ四歳児に過ぎないし、出しゃばれば大人たちの邪魔をするだけかもしれない。


 だが。

 静玖曰く、そういう機関はどれもしっちゃかめっちゃか、捜査そっちのけで足を引っ張り合うばかりらしい。

 例外は雉間派 (構成員約1名) くらいだが、そいつならいま俺の横で寝ている。気絶的な意味で。


 うーん。

 ひどいなコレ。


「私はもともとヘルベルトを追うつもりだったけど、ヨシトが一緒なら心強いわ」

「ご主人さまの格好いいところ、また見せてほしいなー、って」


 さらにはフィリスと静玖も、俺を(はや)し立てる。

 

「なんで俺がリーダーみたいな扱いになってるんだ」

「だって兄さんだし」

「私を【魅了】した男の子だもの」

「ご主人さまですので」


 くっ。

 やっぱり女は強い。

 というか出会って間もないのに仲良さすぎだろ、三人とも。

 見事な連携すぎて勝てる気がしない。


 とはいえ。


「知り合いが危ない目に遭ってるんだ。……見捨てるわけにはいかないよな」


 こっちは腐っても元勇者だ。

 見て見ぬふりなんてできない。

 それに、いつだかのヤンデレエンドで終わったおままごと。

 俺のテンションに合わせられる逸材を亡くすのはあまりに惜しい。

 だから。


 ――サクッと真月さんを助けて、雉間のことを「やーい役立たずー」なんて煽ってやろうぜ。


 俺はちょっと格好をつけて、そんなセリフを言おうとした。

 素早く髪形を整えて、キランと流し目をキメるつもりだったんだ。

 


 そのタイミングで、


「お久しぶりですね、師匠」


 思わぬ邪魔が入った。

 さっきの雉間といい、最近はいきなり人の家に上がり込んで話を始めるのがブームなのか?

 まあ、ここは俺の家じゃないんだが。


 そいつはドアから入ってきたわけじゃない。

 突如として、この四畳半の部屋に出現した。

 

 背の高い青年だ。

 短く切りそろえた金髪に、銀フレームの四角い眼鏡。

 青色の瞳は、冷徹な知性の輝きを湛えている。

 

 フィリスの弟子――ヘルベルト、だろうか。


 全身を白い法衣に包んでいるが、その姿は、やや透けているように見えた。


「ようやく儀式の準備が終わりましたのでね、招待状を渡しに参りました」


 慇懃無礼な様子で腰を折るヘルベルト。

 何だか話が長くなりそうだ。

 というか。

 ひとの名シーンを奪った罪は重いぞ。


 俺はそのへんに落ちていた広告のチラシを手に取ると、紙飛行機を折って投げつけた。


「ふっ、愚かな」


 キザったらしく髪を掻き上げるヘルベルト。

 

「こんな攻撃……攻撃? まあいいでしょう。何をしようとも無駄ですよ。これは精神波長の投射による虚像、ああ、程度の低い日本の退魔師に言っても分からないでしょうが、つまりあらゆる干渉を受け付けず――――びゃああああああああああああああっ!?」


 イケメンにはおよそ似つかわしくない悲鳴をあげ、ヘルベルトがぶっ倒れる。

 その額には紙飛行機が突き刺さっていた。

 やがてその姿はすうっと溶けるようにして消滅する。


「ヨシト、あなたってわりと容赦ないのね……」


 俺が何をしたのか理解しているのだろう、フィリスは微妙な表情を浮かべていた。


「えっ? えっ? なんです、今の?」


 混乱する静玖に俺は解説する。

 これは一種のマインドハッキングだ。(以前、マーニャに仕掛けたアレを思い出してくれ)

 ヘルベルトの精神波長に同期するような術式を組み込んで、紙飛行機を投げつける。

 で、それを起点として精神干渉を展開したわけだ。


 相手はすぐさま回線を切ってしまったものの、精神防壁の構築においては三流以下。

 おかげで必要な情報は引き出せている。

 ヘルベルトの居場所。

 ここから北にかなり離れた山奥だが、まあ、夜が明けるまでには辿り着くだろう。


「それなら急ぎましょう、ご主人さま。居所が知られたとなれば、ヘルベルトが儀式を前倒しにするかもしれません」

「それは大丈夫よ。ね、ヨシト」


 フィリスは軽くウインクを投げてくる。


「いまごろヘルベルトは気絶してると思うわ。もしかすると、廃人になってるかも」


 可能性はゼロじゃない。

 俺はヘルベルトの記憶を強制的に吸い出した。

 下手な術者なら対象を脳死させることもありうる。


 とはいえ俺の場合、前世で山ほど経験を積んできたしな。

 人間相手なら、まあ、半日くらい昏倒させるだけで済むはずだ。


 もし俺たちより先にヘルベルトが目を覚ましたとしても、頭痛と眩暈(めまい)がひどくで儀式どころではないだろう。

 念のため「恐怖の記憶がずっとリピートされる呪い」もかけておいた。

 

 つまり主犯はこの時点で無力化できたわけだ。

 あとは真月さんを迎えに行くだけの簡単な仕事……の、はず。


 

 都合のいいことにフィリスは車を持っており、俺たちはそれで北へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ