3話 初めてのクソラノベ
クソラノベ読むよ。ストーリーも進む(?)よ。
「少年、ラノベを読むぞ」
「いきなりですね神様」
「一応ラノベに関する作品じゃしな。ラノベに触れんのは不味いじゃろう」
「前回のアレから、よくそんなことが言えますね」
「前は前、今は今じゃ。細かいことを気にしていては、これから先やっていけんよ」
「はあ……。で、なにを読めばいいんですか?」
「今回読むのは『授業中バトルフィールド』! 通称JBF!」
「授業中バトルフィールド? 聞いたことないタイトルです。どんな作品なんですか?」
「心して聞け! JBFはクソラノベ中のクソラノベ……つまり! キング・オブ・クソラノベなんじゃ!」
「なんでクソラノベ薦めるんですかっ!」
「これがクソラノベに関する作品じゃからじゃ」
「……ああ、まあ、そうですけど……」
「そんなわけで、まずは買って読むのじゃ」
「えっ、買うとこからですか?」
「当たり前じゃ。ラノベは買うとこから始まる。これは常識じゃ」
「いや、だとしても神様が薦めたんですから用意くらいはしといてくださいよ。そんなとこに行数使うの好ましくないんですから」
「メタいこと言っとらんでさっさと買ってくるのじゃ」
「ちぇっ、どうなっても知りませんよ」
~ JBF購入 ~
「買ってきましたけど、これ表紙から酷いんですけど?」
「こんなのまだ序の口じゃ」
「マジか……」
「さあ、読むのじゃ少年!」
~ JBF読書中 ~
「ゴミ箱! ゴミ箱はどこですか!」
「落ち着け! 落ち着くのじゃ少年!」
「これが落ち着いていられますか? クソもクソのド糞じゃないですか! 今にもウ○コ臭がしそうなクソですよ!」
「じゃから最初に『キング・オブ・クソラノベ』と言うたじゃろう」
「こんな酷いとは思いませんでしたよ! なんですか、あのつまらないパロの連続! 魅力の『み』の字もないキャラ! 迫力皆無のバトル! そしてなによりも酷いのは、あのスッカスカのストーリー! 読んでて悲しくなりましたよ! 『嗚呼、僕はこんな物に時間を使ったのか』って!」
「酷くない! 順番に、冷静に考えろ少年! JBFは、本当に酷かったか!?」
「酷かったです。ゴミだったです。よくもこんなもの読ませましたねコンチクショウ」
「そこまで言うこたぁなかろう!」
「言いますよ。なんですか、神様はアレが面白かったと? だとしたら眼科行くことを勧めますよ。いや、もう眼科じゃ手遅れです。精神科に行きましょう。ってか行け」
「そこまで酷くはないわい! 確かにJBFは、低品質のパロと、案山子みたいなキャラと、欠伸の出るバトルと、五十音表以下のストーリーしかないが!」
「五十音表にストーリーはねえよ。褒めたいのか貶したいのか、どっちだ」
「じゃがしかし! JBFはそれらのクソが集まることで、相乗効果によって神が降臨する最強の作品になるんじゃ!」
「いや、そんな凄そうに言ったところで結局はクソですよね。それにクソが集まってもクソ以外にはならないでしょ」
「じゃかあしい!」
「ええー!?」
「ワシはこれでもクソラノベの神様じゃ! 今まで世に出た全てのクソラノベを読んできた! そのワシが言う! JBFは最強のクソラノベじゃ! 他のどのラノベもJBFほどクソにはならなんだ! キャラも、ストーリーも、設定も、バトルも、なにもかも、全ての頂点に君臨するのがJBFなんじゃ!」
「それ底辺……」
「JBFは底辺ではない!」
その時だ。
「底辺も底辺のド底辺じゃないの」
「こっ、この声は!」
「神様、知ってるんですか!?」
「奴こそは数多くのラノベをその汚らわしい肢体で虜にしてきた女神……通称ラノベの女神じゃ!」
「ラノベの女神ッ!?」
「そんな悪く言うことないでしょ! 私の印象が酷くなったらどうするのよ!」
なにもない空間から女神が現れる。
神様の言うように、その容姿はちょっと過激だった。
「カーッ、ペッ! 堕ちろ堕ちろ。地まで堕ちてしまえ! クソラノベを信じぬ邪教なぞ知ったものか!」
「そんなこと言ってるからクソラノベなんて底辺は流行らないし受け入れられないのよ。ねえ少年?」
「えっ? 僕に話振らないでくださいよ」
「なによ、つれないわねぇ」
「止めてもらおうか糞女神。その少年はワシが見つけた器じゃ」
「なーにが器よ。昔っからあなたはそうやってクソラノベばっかり薦めて、同じ神様として恥ずかしいわ」
「よく言うわい。この、痴女が」
「ちょっと! 色気も人気の出る方法の一つなのよ! そうやって女の子の魅力を蔑ろにするから売れないのよ、このクソラノベ!」
「痴話喧嘩なら他所でやってください!」
「「痴話喧嘩じゃない!」」
「なに? 失礼しちゃう! 止めたわ。こんなガキ、相手にするんじゃなかった」
「けえれけえれ! 二度とワシに近づくな!」
「ふんっ、後悔するといいわ」
女神の姿がすっと消える。
「やっといなくなったか、あの女狐め! 塩じゃ、塩でも撒くぞ!」
「塩は掃除が大変なのでやめてください」
「じゃあ消臭剤じゃ! 空気を綺麗にするぞ!」
「好きにしたらいいですけど、部屋汚さないでくださいよ」
「わかったわかった」
「本当かなあ……。まあいいか。僕はJBF売ってくるんで、たぶん十分くらいしたら帰ると思います」
「あーはいはい」
「いってきまーす」
バタンッとドアが閉まる。
それからしばらくして、神様が異変に気づいた。
「ん? JBFが、ない?」
そう、授業中バトルフィールドが見当たらないのだ。
はて、物が忽然と消えるだろうか?
答えは否。神様が言うのもなんだが、そんな超常現象はありえない。
ではなにか理由がある。
神様は必死に思い出す。会話を、行動を。
答えは案外すぐに出た。
『僕はJBF売ってくるんで』
悪魔の台詞が神様の脳内で連続再生される。
意味を理解するには、数秒を要した。
「まっ、待て! 待つんじゃ少年! 売ってはならん! JBFは、JBFは~~~~」
神様の悲鳴が、少年の耳に届くことはなかった。
クソつく(仮題)クオリティー。