つまりは
カックとともに戻った御座所には、すでに先客がいた。
「ほお、まあ、見られるようになったではないか小僧」
あの三つの椅子の内のひとつ、西側の椅子に座っていたのは褐色の肌に長い白髪を後ろに流した壮年の男である。しかし、広い御座所にはアニージャのしわがれた低い声が響いた。
からかいの表情を浮かべているアニージャは、黒いシロと似たような衣を纏ってはいるが、着ているものは滑らかな光沢がある上質なものである。茜色の衣に白髪が映える。
かけられた言葉にどこか羞恥を覚えたシロはモゾモゾとみじろいた。
「アーテルがじき来るであろ」
その言葉に反応するように、シロたちが通った椅子の後ろの扉がゆっくりと開いた。
御前が無表情で姿を現した。今朝と違い刺繍が入っている黒い羽織をまとっている。
彼女は音もなく進み、アニージャとは反対の、東側の椅子に座った。
真ん中の椅子が今だ空き、カックが座るのかと思えば、カックはシロの背を押した。
「ほらシロ、早く座れ!お前がいかねえと始まんねえだろ」
「え、あの、カック様、俺があそこに座るんですか!?」
どうみても自分が座れるような場所ではないと、シロはカックの手を離れ後ずさった。
「こらてめシロ!御前を待たせんじゃねえよ!」
首根っこ捕まれたシロは、カックに引き摺られながら無理矢理椅子の上に座らされた。
にやにやとからかいの目を向けるアニージャと、無表情でシロ達に見向きもしないアーテルの間はひどく居心地が悪い。
「シロよ、お主は代役よ」
掛けられたことばにシロは上目遣いにアニージャを見た。にやにやとした顔のままこちらを見下ろす褐色白髪の男は、表情のわりに優しい目をしていた。
「そこに座る奴が今、おらんのだ。お主がたまたまそやつと瓜二つであったが故、そこの無口女が無理矢理連れてきたのよ」
無口女と呼ばれた人物の方を見ると、アーテルが眉間に皺を作りアニージャを睨んでいた。
「帰らぬものをいつまでも待つわけにはいかぬのだ。我ら二人でもたせられる時はとうに過ぎておる。それを承知でシロをつれてきたのであろ。」
「黙れ」
そっぽ向いたアーテルをチラッと見上げたシロは、彼女の顔がなにか耐えるように、泣きそうな顔をしているように見えた。が、なにも口から言葉が出てこず、喉の奥で絡まったありきたりな慰めの言葉を飲み込んだ。
「我らは人間が神と名をつけた存在でな、今代は我とアーテルとシロっ子で人の世の面倒を見ねばならん」
「俺が、神様なんですか?」
「まだ見習いもであるがの。アーテルは前の者に執心しておってな、駄々をこねて困ったものだ」
アーテルの方を見れば、金の瞳が射殺さんとばかりにアニージャを睨んでいた。
間な挟まれ、生きた心地がしない。救いを求めるようにカックに目を向ければ、彼はさっさと正面の扉に向かっていた。
「さぁ今一度、神々に時間を与えよう」