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わりとテンプレな異世界転生者の日常  作者: ぐらんこ。
わりとテンプレな冒険者養成学園学生の日常
8/15

わりと上級魔術


 日頃の猛練習から来る疲れなのか、アリシアは体調を崩してしまったらしい。

 昨日は無理を押して登校したが、今日は休日。

 しっかりと休養にあてるつもりのようだ。アリシアは自室でゆっくりと寝ている。


 俺が部屋で読書に励んでいるとポーラさんが訪れてきた。


「ルートさん、上級魔術やりませんか?」


 突然の申し出。


 聞くところによると、ポーラさんはここ連日、アリシアに上級魔術を教えようと頑張っているのだが、なかなかうまくいかずに困っているらしい。

 教え方が悪いのか、それとも、アリシアの才能の問題なのか。


 悩んだ結果、良い機会だから俺にも上級魔術を教えてみて自分の教え方がどうなのかを確認しようということらしい。

 

「どこでやるんですか? 初めてだし、加減とか難しいかも」

 

 俺は言った。アリシアの練習につかっている3階のひと部屋には強力な結界魔法陣が張ってあって、アリシアクラスの魔術レベルだと上級を使っても大丈夫らしいが、何しろ俺は規格外なのだ。

 初級魔術が中級の威力、中級魔術が上級の威力になってしまう。もちろん加減もできるが、ポーラさんに言った通り、初めてでそれができるかどうかはわからない。


「えっと……、ルートさんの学園に忍び込んじゃおうかと……」


 気負うことなく言い捨てるポーラさん。

 俺もまあいっか、そろそろ上級魔術のひとつも覚えたいところだしと軽く請け負った。

 俺の手引きで学園に侵入。休日だから人はいない。


 上級生用の魔術練習部屋へと踏み込んだ。まだ陽は高いから、灯りも付けなくていい。

 物音さえ立てなければ気づかれる恐れも無いだろう。


「それで……どんな魔術を?」


「アリシアさんに教えているのは、得意な火属性です。

 ですが、それをルートさんに教えるわけにはいきません。

 魔術師協会にも加盟していませんから」


 魔術師協会というのはその名の通り、魔術師が集まる組織。

 魔術師の優位を保とうという思惑から、剣術が得意だったりする人間は入れない。

 剣術が苦手な魔術師たちが、自分たちの立場や地位を確固たるものにするために造られた排他的な組織だという噂もある。


 剣士だって魔術は使う。だが、その剣士が上級魔法とかもバンバンと使いだしたら魔術師の立場が危うくなる。需要が減って、立ち位置を失う。

 それを防ぐために、魔術師だけに上級魔法を流通させようとかそういう狙いなのだろう。アリシアは後々加入する予定だから――彼女は剣術の才能はあんまりないから――、特例で、ポーラさんの自分ルールを適用して教えているのだという。


「それだったら他の魔術も俺に教えちゃあ駄目なんじゃあ?」


「大丈夫です。これはオリジナルの魔術ですから。

 魔術師協会にも申請していません。

 だから、使うのならルートさんが開発したって言ってもいいくらいです。

 協会に所属していなくても、いろんな経路ルートで上級魔術は出回ってますし、日々新しい魔術が開発されてますから」


「そうなんですか」


「それに……、ちょっと内緒の話なんですけど、最近パルシと文通始めたんです」


「パルシってあの大魔道師でポーラさんのオジサンの?」


 俺は白々しく聞いた。


「ええ。プラシ伝手に家族が心配していると聞いたじゃないですか。

 あまり心配かけるのも悪いですし、かといって顔を合わせるのは恥ずかしいですし。

 パルシは魔術がすごいだけじゃなくって、人格者でもあるんですよ。

 あと一応わたしの魔術の師匠です。だから師匠と弟子ってことでお手紙から交流を始めようかと」


 なんだかよくわからないが、それがポーラさんなりのけじめのつけ方の第一歩なんだろうな。


「それで、お手紙にルートさんのことも書いたりしてます。もちろんアリシアさんのこともですけど。

 そしたら、この魔術を是非教えてみてくれってパルシから頼まれたのです。

 使い手がパルシとわたしだけだから途絶えそうだっていうのもあって。

 上手く覚えることができたら、ルートさんの必殺技にしてもいいそうです」


 そういうわけで俺はポーラさんから魔術を習うことになった。久しぶり。


「名付けて! 『ヘリムゾンフレア』です!

 火と水と風を融合させた、大爆発を起こす凄い魔法なのです!」


 細かい説明は割愛。詠唱のための呪文もなんだかなあって感じだったので割愛。

 『ヘリムゾンフレア』といういかしたネーミングセンスはパルシ由来なのかポーラさん由来なのかもわからずじまい。


 かわりに蛇足で述べておくと魔術の開発には二つの方法がある。

 ひとつは主精霊を見つけて自分の望む魔術の詠唱を教えて貰う方法。

 もうひとつは、既にある魔術を組み合わせたりしてアレンジする方法。

 圧倒的に後者が多く、ポーラさんの魔術もそっちのほうだった。


 とにかく俺はその『ヘリムゾンフレア』をマスターした。


「やけにあっさり身に付けちゃいましたね。

 複合魔術って普通の単一属性の上級魔術よりも格段に難しいんですけど?

 何倍も、何十倍もです」


「そうですか?」


「そうですよ」


「でも何度か失敗しましたよ?」


「何度か失敗したぐらいで出来るようになるもんじゃないんですよ。普通は」


「やっぱりポーラさんの教え方がいいんじゃないですかね?」


「そうですか?」


「ええ、それに、初めて使うのにちゃんと威力は加減できましたし……」


「やっぱり? 加減してくれました?」


「ええ、だって本気で使ったら、この部屋ぐらい吹き飛ぶでしょ?」


「そうですよね。一応ここにある魔法陣に加えて爆発の威力を押さえる呪符は張りましたから、窓が割れるぐらいで収まるはずですが」


「そうなんですか……」


 やっぱり後先を考えない人だなあポーラさんは。と思った。


 これで自信がついたのかなんなのか、アリシアの上級魔術は習得へ向けてわりと順調に進みだしたという。

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