アリシアとして……
学園を辞めたアリシアが再起をはかるお話。
われながら不出来です。
『アリシアとして……』
「三ヶ月……か……」
アリシアが言った。
「長かったですか?」
ポーラが聞く。
「ううん。そんなことない。
もっと、かかるって覚悟もしてたから。
王都から帰ってくるまでの二ヶ月ほどと、帰ってきてからの一ヶ月。
退屈だったけど、意外と早かったなって感じだわ」
「アリシアさんは強くなられましたね」
「ううん。強くなんてなってないわ。ただ、道を示してもらっただけ」
「学園長さん……ですよね」
「そうね。あの人と話して、いろんな冒険者の話を聞いて。
ただ学園に通うだけが道じゃないってことを教えてくれたから」
「ひとつアリシアさんに聞きたいことがあります」
「なに? ポーラ?」
「アリシアさんは何のために冒険者になるのでしょうか?
冒険者になって何を成し遂げようとしているのでしょう?」
「昔は……。そうね。
ずっと言ってたことだけど、魔物から人々を、特に旅人を護りたい。
そのために魔物を倒す力が必要だって。
でも……今はそれだけじゃない。
ルートの側にいたいの。力になりたい……。
いつか冒険者になって旅をするルートを助けたい……」
「正直ですね。若いって良い事ですよね」
「からかわないでよ」
「アリシアさん。アリシアさんの目的はわかります。
そして謝らないといけないこともあります。
伝えないといけないこともあります」
「なに?」
「古い諺に、一度に2羽の兎を追うとどちらも捕らえられないというものがあります。
今のアリシアさんはその状態です。
旅人を護るために、魔術を磨くのは良いことです。
ですが、ルートさんと旅をするのに果たして攻撃魔術が必要でしょうか?
ルートさんは剣も上手ですし、自分で攻撃魔術も使えます。
ルートさんが必要とする力は、もっと他にあるんじゃないでしょうか?」
「そうね……。ずっと言ってくれてたもんね。全然聞かなかったけど。
わたしは攻撃魔術よりも、補助系の方が向いているって。
学園長にも言われたわ。
冒険者を目指すなら、サポート役に徹することもひとつの道だって」
「ええ、アリシアさん。
こういう諺もあるんです。
ひとつの石で2羽の鳥を落すこともやりようによっては出来るって。
まさに、アリシアさんの補助魔術がそうなんです。
謝らないといけないことのひとつ目です。
わたしは元々アリシアさんを補助魔術のエキスパートに育てるおつもりでした」
「小さい時のわたしは全然、聞かなかったし努力もしなかったけど」
「謝らないといけないことはもうひとつあります。
その頃からなんですが、実はアリシアさんの魔法の練習はどちらかというと攻撃魔術のためではなく、補助系や回復魔術を使いやすいようなメニューにしてました。
だから、アリシアさんは攻撃魔術を覚えるのに余計な苦労をしたと思います」
「自業自得ってやつね。
あのころからポーラの言うことを聞いていたらもっと違う今があったかもしれないわね」
「で、ついでにもうひとつ謝らないといけないんですが……。
実は、そのことをすっかり忘れていて。
アリシアさんが攻撃魔術しか練習してくれないと思い込んでしまっていて。
補助系の魔術を教えて差し上げるという考えがちっとも浮かびませんでした。
ごめんなさいです。
多分、上級魔術でも回復魔術とかを教えておけばもっとあっさり習得できたかもしれませんし、あの……。
発表会に出場することも無かったのではと……」
「どうだろう? あの時はまだ、魔物を倒す力が欲しいってそれだけを考えていたかもしれない……」
「でも、今は違いますよね?
アリシアさんは成長しました。そして地力は十分です。
ひとつの石……補助系の魔術で二つの目的を叶えられる可能性が高いです。
魔物に襲われている人を助けること。それこそが防御結界などのサポート魔術です。
襲われた人を助けるのには回復魔術が最適です。
魔物を倒すだけが答えではないのです。人はひとりでは生きていけません。
仲間と助け合い、役割分担をすることも重要です。
幸いにしてルートさんはオフェンスタイプ。言い方は悪いですが、ルートさんの力はアリシアさんの役に立ちます。アリシアさんに無いものを補ってくれます。欠点を埋めてくれます。
アリシアさんがルートさんのお仲間になりたいのであれば、一緒に冒険したいのであれば、アリシアさんの取るべき選択肢は一つです。
ルートさんに足りないものを身につけること。ルートさんを補助する技術を身につけること。
すなわち、防御、回復、補助の魔術のエキスパートになることなのです」
「なれるかな?」
「まだまだ2年も残ってますよ。ルートさんが卒業して冒険者になるまでには」
「魔力の量は相変わらずなんだけど……」
「お金に糸目をつけないのであれば、精霊石を買い込んで魔力を蓄えておくという手も使えますが、あまりオススメできません。精霊石にばかり頼っていると、いざという時に対処する方法が無くなってしまったりしますから」
「あの発表会で使った杖に使われてた石みたいなのもあるしね……」
「ええ……。
それと、魔法薬も頻繁に飲むと効き目が薄れてくるとも言われています。
戦闘中とかに飲んでもすぐに効く訳でもありませんし、そんな余裕がないことも多いでしょう。
ですが、方法がないわけではありません。
なにも、アリシアさんの魔力を使うだけが魔術ではないのです。
覚えるのが大変でしょうけど、世界に満ち溢れている魔力を集めて使用する方法だってあるのです。
例えば、魔法陣を描いたり、呪符を使ったりです。
どちらかというと、それはわたしの得意分野でもあります」
「2年間で……、わたしどこまで行けるかな?」
「天辺目指しましょう!」
「学園長からは、実力のある魔術師に師事して地道に練習すれば、近いうちに冒険者にはなれるって聞いたんだけど、実力のある魔術師ってどこにいるのかな?」
「アリシアさん! わたしです。ポーラです。それこそがわたしに与えられた新たな使命。
いえ、本来の使命なのです。
アリシアさんを立派な魔術師にすること。補助と回復が大得意な後方支援の魔術師さんです。
昔からのわたしの目標なんです。サポートに特化した優れた弟子を育てるのは。すっかり忘れてましたが。
是非ともお手伝いさせてください。
居心地のよいこの屋敷でもうしばらく暮らさせてください。
クラサスティス家で暮らさティス!!」
「………………ありがとう。頑張る。
頼りにさせてもらうわね。」
「……はい。微力ながら頑張ります。
まだまだお若いアリシアさんは様々な可能性を秘めています。
自分の才能を知り、得意分野を知り、そして自分のやりたいことを達成する手段の一つとする。
それこそが、道を切り開くのです。
どうか、アリシアさんはアリシアさんらしく。
自分だけの道を進みましょう」
「わたしらしく。わたしがわたしとして。
アリシアとして、できることをひとつずつ身に付けていく……か……」
「そうです。アリシアさんらしくです。
恋も魔術も!」
「でも、魔術はともかく、ポーラは恋愛相談の相手としてはさっぱり役に立たなさそうね」
「そ……、それは……」




