わりと掃除当番
俺達総合科の生徒は学園から掃除当番を押し付けられいる。
さすがに、上級生や魔術科剣術科の教室まで掃除させられることはないが、共有部分の掃除は大体我らのお仕事だ。
範囲が広くて毎日掃除なんてできたもんじゃない。
だから、当番とか割り当てとかも適当。適当にしばらく掃除していない場所をめぐる。
いっとき、プラシに当番表を作らせようという動きもあったが、文句が多くてやめてしまった。プラシ的にもそんな面倒な仕事を請け負わなくて良かったと思う。
掃除(やらなんやらの雑用)の流れ。
その日にすることをリストアップ。
剣術場とかトイレとか、草刈とかそんなのだ。
そのうち、トイレとかの明らかに外れのパートはくじ引きで外れた者が行うことになる。
そのあとはわりと適当。
一応プラシが仕切る。
「じゃあ、次は図書室~。図書室掃除する人~」
そんな感じで希望者を募る。
「じゃあ俺、いこっかな」
「あたしとミッツィ!」
ニグタとシノブが同時に声を上げた。
「じゃあ、あとひとりぐらいかな」
プラシが俺の方を見る。なんとなく最近シノブの子守役を割り当てられている感じ。
まあ、ミッツィが居てくれるから、シノブの制御はミッツィ任せでも大丈夫なんだけど、シノブと集団行動を取ろうという物好きはミッツィ以外には存在しない。
ニグタは外れ引いた~という後悔の表情を浮かべている。今さら取り消せないもんな。
仕方ないから俺も立候補した。図書室はまだ行ったことが無い。これまでに聞いた情報だと大して役に立つ本はないとか聞くけど、興味本位で覗いてみるのも悪くない。
本業は掃除だけど。
「じゃあ俺も……」
「それじゃあ、シノブとミッツィとニグタとルートでお願い。
えっと、じゃあ、次。
新校舎の第一魔術練習室は?
……」
淡々と割り当て決めていくプラシ。
「よし! いくぞ! 本に埋もれる快楽の世界へ!」
シノブの言葉に、ミッツィがすかさず突っ込む。
「あの、えっと、シノブさん。目的は掃除ですからね。
わかってると思いますけど」
「…………」
「…………」
無言で付いていく外れを引かされた俺とニグタ。
「掃除って言っても掃き掃除と拭き掃除ぐらい?
本棚のホコリとかは?」
ニグタがミッツィに聞いた。
ミッツィは掃除好き。掃除の時にはいろいろ仕切る。たどたどしくだけど。
そんなミッツィを知っているので、プラシはできるだけミッツィはいろんなところの掃除にローテーションして割り当てているようだ。
ミッツィが居れば掃除が捗る。普段目に付かないところの汚れまでちゃんと隅々まで行き届いた掃除をするのだ。
「あ、えっと、あのわたしとシノブさんで、机とか窓とかを拭きますので、その間に男子のお二人は、ハタキで本棚のホコリを落としておいてください。
最後にみんなで床をホウキで掃きます」
これこのとおり。既にミッツィの中では掃除のプランが出来上がっている。
「お願いですから……、シノブさんもちゃんとやってください」
「やってるよ~」
「そんなんじゃやっているうちに……入りません。
本読みながら拭き掃除なんて、掃除もできないですし本が濡れちゃいますよ」
「だから、雑巾は濡らさずに乾拭きしてるんだけどぉ」
「…………」
女子のやりとりを聞いてニグタがこっそり耳打ちしてくる。
「ほんと、対照的だよな。あの二人……。
ミッツィは家庭的で、シノブは破天荒」
「まあ、破天荒というか、自分勝手のわがままというか……」
「おっ、ルートもやっぱりそう思ってんの?
でも、二人っきりになると甘えんぼとか?」
「なんだよ、その言い方!
別に俺とシノブは付き合ってもいねえし。
単に、絡まれてるだけだ」
「そうか。でもシノブと一番仲がいい男子ってお前じゃね?」
「席も隣だし……入学試験の時からいろいろあったからな……。
カンニングの共犯とか……」
俺はついついポロリと漏らしてしまった。
あわてて言い繕う、というか誤解の無いように補足する。
「俺がカンニングしたわけじゃないぜ。
あいつに勝手に答案見られただけだからな」
だが、ニグタはあっけらかんと、
「ああ、やっぱり。あいつの脳みそで筆記とおるはずがないからおかしいと思ってたんだよ。
ちなみに俺は優等生のプラシとたまたま隣の席だったから……」
最後までは言わなかったが、ニグタはニグタでプラシの答案のお世話になったということだろう。
シノブもニグタも不正入学だ。今さらどうこういうことでもないし証拠は遙か彼方へ隠滅済みだ。
「それより、さっさと終わらせて、ミッツィを手伝ってやろうぜ。
シノブと二人でじゃいつまで経っても終わらなそうだ。
俺達だって帰るのが遅くなっちまう」
ニグタは意外とこういう気遣いができる。
腫物――シノブ――には極力関わらず。だがしかし、ミッツィのような真面目で堅実で謙虚な生徒には、優しく手を差し伸べる。
「ああ、ってかやってるよ。
さぼってんのはお前だろ」
俺はニグタに言う。
俺はちゃんと本棚にハタキ掛けしながらニグタと会話している。さぼっちゃいない。 ニグタもハタキ掛けはしているが、それは既に俺がハタキ掛けした場所だ。なんの意味も無い。
「おうよ! 任せとけ」
ニグタは軽く請け負うと、未だハタキ掛けされていない、書架へと向かって行った。
退屈単調な作業だが、本の背表紙を見ているだけでも気は紛れる。
魔術書の類は基礎レベルのものしかそろえていないから、タイトル見ただけで内容が想像つくものばかり。
歴史書は……、苦手分野。だが、タイトルで中身を想像するのは楽しい。
ふと剣術系の棚に来て一冊の背表紙が目に留まった。
『ジャルツザッハ剣術の基礎理念とは』
おお、ジャルツザッハだ。俺はそれを手に取りパラパラと捲る。
うーん。これは……、なんとなくゴーダが読んでいそうだ。
ゴーダが教えてくれたとおりのことが書いてある。
復習にはいいけど、この先の事とか書いてくれてたらな。
と最終に近いページを流し読んで、書棚に本を戻す。
その近辺を注意深く見てみると、
『ジャルツザッハ剣術の応用と実践』
という本が見つかった。
目次を見ただけで心が躍る。
これは……、俺が習得したジャルツザッハのその先。
応用と実践とタイトリングされているだけのことはある。
ぼんやりとしか見えてないかなった、ジャルツザッハ剣術の神髄。
それについて詳しく書かれているようだ。
後で借りよう。そして持って帰ろう。決意した。
「何読んでんのよ?」
気づくと背後からシノブに声を掛けられた。
見られてまずいものでもない。掃除そっちのけで読んでたのはよろしくないことだけど、シノブだってさぼってぶらぶらしている同罪だ。
「いや、ちょっとな」
「なんか面白い本あった?
絵本みたいに絵がいっぱいのがいいんだけどあんまりというか全然置いてないのよね」
そりゃそうだろう。俺達の年代向けに絵本の需要なんてほぼ無いのだから。
「絵本じゃねえよ。ただの剣術指南書。
面白そうだからちょっと見てたけど、ちゃんと掃除に戻るから。
シノブもぶらぶらしてないで掃除しろよ。
ミッツィが可哀そうだぜ?」
「やってるわよ。ちょっと休憩してただけじゃない」
見るとシノブの雑巾はちゃんと湿っていた。
まあ、完全にさぼりではなく、掃除したり息抜きしたり。
シノブのペースでミッツィの激怒を買わない程度には己の役割を果たしているんだろう。
ただただ、人一倍飽き性で、堪え性がないだけだ。
「おう、俺もこの棚終わったらハタキ掛けおしまいだから。
床掃除にジョブチェンジだ。
なんならシノブにはチリトリ係の名誉を与えてやるぜ?」
「あほか! あたしは箒じゃ! チリトリは、ニグタにでもやらすがよかろう」
その後、みんなで箒とチリトリを持って、床をまあるく掃きました。
掃き残した角とか隙間とかの部分はミッツィがちゃんとフォローしてくれました。
シノブは、箒を持つと、棒術の達人! とでもいわんばかりに振り回して演舞を演じたりしてたけど、ミッツィに窘められて、ちゃんと掃除に戻りました。
俺はチリトリ係でした。
以上、何の変哲もない図書館を掃除したひと時の話。
あとがきです。
皆さんの学校ではチリトリ係は名誉職でした?
虐げられてました?
うちの学校では人気がありました。
こう、職人芸っていうのでしょうか?
如何に箒の人の心を読んで、先回りして構えるかとか、床との設置角度を最大効率考えてチリトリを配置するとかいろいろ。奥が深いです。




