共感的な親近感
カウンターの隣の席で友達がまた男に振られたと愚痴っている。
酒の力で上乗せして、ギャーギャーとそれはかつての子供の頃のように彼女を降った男を罵倒する。
「ちょっと、聞いてんの?」
「聞いてるよ」
実際は上の空。度々の事だから、何を言っていたかの見当はつく。
「君の気持ちが分からないって分かる訳ないじゃん。分かりたかったら神様にでもなれっての!」
彼女の怒鳴り声に後ろの男性客が迷惑そうに振り向いた。私と目が合うと同情するような視線を向けて肩をすくめた。
酔っ払いに絡まれた一般客と思われたらしい。
それ程までに釣り合わないかと軽く落ち込む。
「大体、人と人の間には絶対的な壁があるんですよ!」
彼女は飲み干したグラスを置いてから、荒々しくカウンターを叩いた。
グラスを持ったまま叩きつけない所を見るに熱が引いてきたのだろ。
「悲嘆する前に手でも繋げば?」
そろそろ頃合いと見て笑い話に昇華させるべく、混ぜっ返す。
「乙女だねぇ」
彼女はあの頃と同じどこか大人びた風にクスクス笑った。
この顔を見逃した男に少しの優越感、少しの憐憫、それにこれはーー
「ーーどうかした?」
彼女が黙った私へ笑顔を向ける。
「いや、この笑顔を見逃した男は損してるなって」
「そうだよ。いつか後悔させてやんだから!」
彼女はそう言って拳を天井に突き上げる。
「させてやれ、させてやれ!」
その男が後悔すればこの親近感は増してしまうのだろう……。
それを知る私は未来の自分に対して無責任に拳を掲げた。