嫌われていると知っていたから
***BL***大好きな婚約者は、僕の顔も見てくれない。だから、僕はこの関係を、終わりにしようと思ったんだ。 ハッピーエンド
もう、終わりにしよう。
どんなに好きでも、あの人は振り向いてくれない。
彼には好きな女性がいるんだろう、、、。
今までずっと我儘を言って来た。
「どうして大事にしてくれないんだ!」
「こんなに好きなのに!」
「もっとちゃんと見て!」
「僕だけを愛して!」
喧嘩をする度に叫んでいた。
喧嘩と言っても、僕だけが勝手に怒っているんだ。
でも彼は変わらない。婚約すれば僕だけを見てくれると思っていたのに、彼はやはり僕を見なかった。
彼の好きな人が誰かは知らない。ただ、どんなに頑張っても僕は勝てない相手なんだ。
僕が男だからダメなのかな?
女の子なら好きになってくれただろうか、、、。
彼は僕をパーティに誘わない。僕をエスコートするなんて恥ずかしくて嫌なんだ。
彼と行けないパーティなんて、意味が無いと思っていた。
だからいつも欠席にしていたけど、今回は参加する事にした。
彼は僕を必要としないし、僕が参加をしても何とも思わないだろう。
僕達の婚約は親同士が決めたものだ。
でも、僕はとても嬉しかった。ずっとずっと好きだったから、嬉しくて嬉しくて、顔合わせの時もドキドキしていた。
それなのに、彼は僕を見なかった。エスコートさえしてくれない。
会話は普通に有ったけど、触れる事は許されなかった。
僕が彼を好きな様に、彼にも誰か好きな人がいるんだ、、、。そう思いながらも、婚約したのだから大事にして欲しかった。
例え愛していなくても、、、。
*****
「シーグヴァルト、久しぶりだな?」
名前を呼ばれてドキリとした、嫌なヤツに会った。
「アイツは一緒じゃ無いのか?」
僕は微笑んで誤魔化した。オーディンとパーティに出た事なんて一度も無い。
「彼はいつも忙しいからね」
と言いながら、酒を飲む。
「それなら、俺と一曲踊ってくれよ」
「喜んで」
僕はダンスを踊るのが好きだった。小さい頃から練習も苦では無かったし、いつかオーディンと踊りたかった。
今では、そんな細やかな夢さえ叶わない。でも良いんだ。これからは一人で楽しめば良い。
一曲踊ると、他にも誘ってくれる男性が現れた。
僕って意外と人気があるんだな、、、。なんて勘違いしそうになる。
流石に4曲連続で踊ると、息も切れ、少し休みたいと言うと、隣室に休憩出来る部屋があると言われた。
「シーグヴァルト、喉が渇いただろう」
そう言って、グラスを差し出されて、僕は一気に煽って飲み干した。
「隣室には軽食もあるよ」
新しいグラスを渡しながら、エスコートしてくれる。
家族以外にエスコートされるって、ドキドキするな、、、。ちょっと嬉しかった。
「あれ?隣室じゃ無いの?」
「ああ、他にもあるんだ」
「近い部屋は、すぐ人で埋まるからね。少し離れた部屋の方がゆっくり出来る」
僕を数人で囲う様に廊下を歩く。
「そうなんだ、知らなかった」
いつも家族とパーティに参加していたから、会場から離れる事も無かった。
「シーグヴァルト!」
オーディンの声だ、、、。
僕を囲っていた男性達が横にずれる。
「何?オーディン」
「こんな所で何をしてるんだ?」
怒っている。そんなにパーティに来て欲しく無いんだ。
「何って、パーティに参加してるんだよ」
僕は持っていたグラスを煽り、喧嘩腰になった。
「良いじゃないか、君の手を煩わせる事はしない。ダンスも彼等と踊ったし、一人で帰れるんだから」
怒りで顔が赤くなる。
どうせ、君はパーティに誘ってくれないじゃないか!
そう叫びそうになるのを我慢した。
息が上がる。怒りで興奮しているんだろうか?
「シーグヴァルト?」
ツカツカと歩み寄って来る。
「ヤバい」
誰かが呟くと、周りの男達は散って行った。
「何を飲んだんだ?」
「カクテルだよ!」
オーディンがグラスを奪い、香りを嗅ぐ。
「クソっ!」
と言うなり、僕の腕を引いて一番近い部屋に入る。
カチャリ
何で鍵を掛けるんだ。
扉の近くのサイドテーブルにグラスを置くと、僕を抱き上げた。
え?
今まで一度も僕に触れた事が無かったのに!?
中央に置かれた応接セットの横を通り過ぎると、僕を放り投げた。
酷いっ!
床に落とされたと思い、目を瞑るとベッドの上だった。
はぁ、、、。
ため息を吐いた途端に、怒りが湧いた。
「いくら何でも、放り投げるなんて酷いじゃ無いかっ!」
「シーグヴァルト、どうして此処にベッドがあるか分かるか?」
「休憩する為だろ?」
オーディンは、何も知らないのか?と言う顔をした。
彼がベッドに膝を着いて上がって来る。
ドキリとした。
僕の左の靴を脱がす。
えっと、、、。
更に右足の靴も脱がされた。
彼はベッドに乗ると、ギシッと音を立てて近寄って来る。
心臓がドキドキする。
「お前が飲んだのは、ただのカクテルじゃ無い」
「?」
「混ざり物のカクテルだ」
彼の掌が、僕の太腿に軽く触れた。
ゾクゾクゾクッと、何かが背筋を這い上がる。
変だ、、、。
「だからパーティに連れて来たく無かったのに、、、」
どう言う事?
「オーディン、、、何か、、、変」
「参ったな」
彼はベッドの上を移動する。僕を跨ぐ様に枕元の水差しに手を伸ばす。
オーディンの香りにクラクラする、、、。
身体を起こしていられない。、、、熱い、、、。
上着を脱ぎたい僕は、ボタンに手を掛ける。
オーディンがギョッとした顔になっている。
急いでグラスに水を注ぎ、手渡す。
一口飲むと、喉の渇きを思い出した様に一気に飲んだ。グラスの淵から水が溢れても関係無かった。
飲み終わり、息を吐き出すと
「もう良いか?」
とグラスを受け取る。
コトリ
と音を立ててグラスを置く。親指で僕の口元に溢れた水を拭う。
「あ、、、」
変な声が出た。
「だから、、、」
と言って、オーディンは僕に口付けをした。
僕の初めてのキスは甘いキスだった。口の中が潤い、もっともっと欲しくなる。
「だから、嫌だったんだ、、、」
頭がフワフワして、何も考えられない。身体が熱くて上着を脱ぐ。何もかも脱ぎたい。シャツのボタンが外せず、モタモタしているとオーディンが引き千切った。ブチブチと言う、糸が切れる様な、布が裂ける様な音。
瞼が下がる。眠りたい訳では無い。ただ目を閉じると身体中の感度が上がるみたいだった。
「すまない、、、シーグヴァルト、、、」
最後に聞こえたのはオーディンの声だった。
*****
目が覚めるとオーディンは居なかった。
なんだ、、、夢か、、、。
涙が出た。夢でも嬉しかった。
「夢じゃ無ければ、あんな事無いか、、、」
自分の言葉に傷付き、枕で涙を拭いた。
早く婚約を解消しよう。もう、彼の事は諦めたんだ。その方が良い、、、。
ん?
と思った。シーツが地肌に触れている。清潔なサラサラのシーツが僕の身体に纏わり付く。
僕の服は?
嘘、、、だって、そんな事あり得ない、、、。
カチャリ
扉が開く気配に布団を被る。、、、何が起きてるの?
誰かが枕元に立つ。
「シーグヴァルト、起きてるんだろう?」
そっと布団をずらしてオーディンの顔を見る。
「軽食を貰って来たから」
僕はモソモソ起き上がる。
「ちょっと詰めて」
奥に移動すると、座った僕の上にトレーごとサンドイッチを置く。
オーディンは開けたスペースに腰掛けると、スッと僕に手を伸ばし
「すまない、、、やり過ぎた、、、」
と胸に触れた。見ると赤い痕が、、、。
え?
「何?これ?」
「キスマーク」
僕がオーディンの顔を見ると、口付けをして来た。
「押さえられなかった」
わからない、、、。
「オーディンは僕の事、嫌いでしょ?」
ギュッと抱き締めてくれた。
「オーディンも飲んだの?その、、、昨日の混ざり物、、、」
彼の身体がスッと離れ、僕の顔を見る。
**********
私はシーグヴァルトが大好きだった。彼を狙う貴族は多い。だから、他の貴族が釣書を送り始める前に婚約を決めた。半ば、強引に、、、。
いつも紳士的でいたいのに、彼の隣に立つと彼に触れたくて堪らなかった。まだ、あどけない彼にそんな不埒な真似は出来ない。でも、我慢するには相当な覚悟がいた。
私は、彼に触れるのを辞めた。
パーティに連れて行かないのは、彼を狙っているヤツが多いからだ。私もずっと一緒にいる訳にもいかないし、不穏な噂は沢山聞いていた。
怪しい薬を使い、関係を持つのだ。
薬を盛られた女性達は、泣き寝入りしか無かった。着いて行った時点で、了承済みだと言われてしまうから、、、。
だから、シーグヴァルトが数人の男性と廊下を歩いているのを見つけた時は、ギョッとした。
「何故、パーティに参加したんだ?」
危ないのに、、、。
「オーディンが一度も連れて来てくれないから」
「それは君が可愛いから」
「可愛い?」
彼はため息を吐くと
「そんな嘘、吐かないでよ」
と言った。
サンドイッチを見つめながら
「好きな人がいるんでしょ?」
と呟く。
小さくカットされたサンドイッチを両手で持ち、あむっと食べる。可愛い唇が動く。
「婚約解消しても良いよ、、、」
もう一口、パクッと口に運ぶ。
「うっ、、、」
ポロポロ涙を溢した。
「うぅ〜、、、。ずっと好きだったのにぃ、、、」
**********
オーディンにやっと、婚約解消の事を話せた。これで、僕達は本当に終わりだ、、、。
**********
「婚約解消はしない」
え?
と言う顔でシーグヴァルトが此方を見る。可愛い顔だ、、、。
涙にキスをする。
「父を説得して、君と婚約したんだ。解消なんて有り得ない」
「両家の話し合いで決まったって、、、」
「その前に、当然私と父の話し合いが有ったんだ」
「オーディンは、僕が嫌いでしょ?」
彼は、俺にもサンドイッチを寄越した。
「貴方には好きな女性がいて、僕との婚約が嫌なんだと思ってた」
「君が好き過ぎて、近くにいたら手を出してしまいそうだったから」
本当かな?と言う様に、首を傾げて私を見る。
そんな仕草の一つ一つに、私は翻弄されてしまうんだ。
つい、口付けてしまう。
はあ、、、。
「一度君を味わってしまったから、もう戻れない、、、覚悟して」
「えええ、、、?」
**********
私の目の前には、例の薬がある。
シーグヴァルトがカクテルに混ぜて飲まされた、アレだ。
あの日、彼は凄かった、、、。いや、もう、本当に、、、初めてとは思えない程大胆で、艶があり、肌は桃色に染まり、声は艶かしかった、、、。思い出す度に身体が疼いてしまう。
だから、私は彼に触れない様に心掛けていたのに、一度知ってしまった蜜の味は、甘くて忘れられない。
彼にキスをしたい。触れたい。抱き締めたい、、、。
しかし、彼は私と婚約解消をしようとしていた。それ程の相手にあの濡れ場となると、やはり薬が効いていたのだろう、、、。
もし、この薬が無ければ、彼は私に触れられても、何も反応が無いかも知れない。
いや、寧ろ嫌悪感すら抱くかも、、、。
はぁ、、、。
薬は取り敢えず、引き出しにしまった。捨てる訳にはいかない、、、。し、、、万が一俺のテクニックが、、、。
うぅ、、、。
**********
あの日から、オーディンは僕といつも手を繋いでくれる。ちょっと恥ずかしい。
でも、どうして急に手を繋いでくれる様になったのか、分からなかった。
僕はオーディンの顔を見る。余り此方を見てくれない。まぁ、いつもの事だけど、、、。
「シーグヴァルト、、、あんまり見られると、、、その、ちょっと恥ずかしいかな、、、」
あ、、、耳が赤い。オーディンも恥ずかしい事あるんだ、、、意外。
僕は嬉しくて、彼の腕に寄り掛かる。
、、、彼の香りだ、、、。
「僕、オーディンの香り、好きなんだ」
独り言みたいに呟いた。
ん?
「オーディン?」
めちゃくちゃ赤いんだけど!熱でもあるのかな?
「シーグヴァルト、私は君の前では常に紳士でいたかった。だから、今まで君と少し距離を置いていたんだ。でも、、、最近は、、、すまない。余り格好良く無いね」
「オーディン、僕は今の貴方の方が好きだよ」
手を握りながら、彼の香りを嗅ぐ。
「だって、僕の事好きなんだなって思えるから」
繋いだ手にキスをする。
「本当かい?」
「うん、前は淋しかった。貴方は手も握ってくれなかった。パーティにも誘われないし、ダンスも踊ってくれない。僕が貴方を好きだった様に、貴方にも誰か好きな人がいると思っていたから、、、。ずっと淋しかった」
「、、、」
「今は、貴方が顔を赤くする度に嬉しいよ」
「シーグヴァルト、、、。私もずっと君が好きだった。本当だよ。だから、君と婚約したんだ」
**********
あれから半年後、私達は結婚した。
もっと早く式を上げたかったけど、どんなに頑張っても、半年掛かってしまったのだ。
結婚式での彼は可愛くて、美しかった。私は、まるで夢を見ている様で、まだ現実味が無い。
あの薬、、、。
引き出しを開ける。
使った方が良いだろうか、、、。
私達はこの半年で随分変わった。
二人でいる時は、常に隣り合わせにいたし、手も繋いだ。彼を大切にしたし、彼も大切にしてくれた。
しかし、忘れられない初夜を迎える為には、この薬が必要なのでは無いか、、、。
シーグヴァルトに痛い思いはさせたく無い、、、。
私は、この美しい小瓶を持ち、二人の部屋の扉を開けた。
、、、シーグヴァルト、、、。綺麗だ、、、。
美しいナイトドレスに身を包み、真っ赤になりながら俯いている。
私は小瓶を枕元に置き、彼の横に座った。
「オーディン、、、」
瞳を潤ませて私を見る。
刺激的なドレスだ。
彼は恥ずかしそうモジモジする。
可愛い、、、。
「シーグヴァルト、愛してる」
そう言いながら口付けをすると、彼はポスンとベッドに倒れた。
彼に覆い被さり、優しくキスをすると小さく唇を開いた。頬に触れ、何度もキスをするだけで、彼はウットリして来た。
あの小瓶はいらないだろう、、、。
彼の反応をよく見れば分かる。私が彼の身体に優しく触れるだけで、彼はあの夜の様に反応していく、、、。
ああ、、、シーグヴァルト、愛している、、、。
**********
「オーディン、、、。これ、何?」
素晴らしい夜を過ごした後、彼は枕元の小瓶を手にした。
「これはね、愛の薬だよ」
「愛の薬?」
「いつかシーグヴァルトに飲ませて上げる、、、」
ふふ、、、と彼は笑う。
「愛の薬なんて変なの。僕達、そんな薬いらないのに、、、」
「そうだね」
私は彼を抱き締める。
彼の小さな身体が気持ち良い。腕の中にすっぽりと入り、私達はいつまでも一緒に過ごした、、、。
愛の薬、いつかはオーディンに盛られてしまうのでしょう、、、。




