最終回:修行とは「自分を好きになるための時間」だった――連載を終えて【完結】
春チャレンジ2026への投稿として、お届けしてきた私の修行記も、今日で本当に筆を置きます。
振り返れば、私の修行生活は決して「高潔で立派なもの」ではありませんでした。
二十九歳で家族を置いてお山に入り、月給三千円の現実に打ちひしがれ、慣れない厨房仕事に右往左往し、暗闇の自販機に心を奪われ、肉の入っていないカレーに一喜一憂する。
悟りとは程遠い、あまりにも情けなく、不器用な一人の男がそこにいただけです。
けれど今は思います。
あの「格好悪さ」こそが、私にとっての修行だったのだと。
自分の弱さを知り、足の痛みを知り、孤独を知った。
その経験が、誰かの痛みに気づくための感覚を、ほんの少しだけ私に与えてくれました。
永平寺の龍門に刻まれている「杓底一残水」。
一杓の水はわずかでも、流れに返せばやがて大河となる。
あの山を下りた日、私は「立派な僧侶」になれたわけではありません。
ただ、自分の未熟さから逃げなくなっただけです。
今も失敗は尽きません。
それでも、あの一年が教えてくれたことがあります。
修行とは、完璧になるための時間ではなかった。
自分の不完全さを抱えたまま、それでも歩き続けられる自分を、少しだけ好きになるための時間だったのだと。
修行生活の記録はここで終わります。
けれど、私の修行は、今日も続いています。
合掌
蒼龍寺住職 佐藤堅明 九拝
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
先月から書き始めたこの修行記が、レビューまでもいただき、多くの方に読んでいただける作品となったことは、著者として望外の喜びです。山を下りてからの二十年、あの孤独な日々を言葉にして放流できたことで、ようやく私自身の修行も一つの節目を迎えた気がします。
この連載はここで幕を閉じますが、私の執筆活動は続きます。
もう一つの連載作品、小さな龍が禅の智慧を学ぶ物語『蒼龍くん物語』では、いよいよ物語が大きく動き出す第三章クライマックス「魔王・黒龍との直接対決編」へと突入します。
これに合わせて、同作を【週二投稿(火曜・金曜19時)】にペースアップしてお届けする予定です。
この修行記で私の「人間臭さ」を見てくださった皆さまと、今度は物語の世界で、問いと共に立ち止まる時間を共有できれば幸いです。
また、更新した活動報告にて、本年中の執筆ロードマップを公開いたしました。
五月の「蒼龍くん物語エピソードゼロ」公開、夏の公式企画「ホラー」、そして秋の公式企画「旅」。
私の目指す「答えを押し付けない物語」の全容を記しております。
よろしければ、Xアカウントや活動報告も覗いてみてください。
それでは、また、次の作品でお会いしましょう。
▼【癒やし】蒼龍くん物語 〜小さな龍と学ぶ、心を調えるための「禅の智慧」〜
https://ncode.syosetu.com/n7536lr/




