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永平寺はブラック企業!? ――月給3000円、不眠不休の厨房で学んだ「完璧じゃなくてもいい」  作者: 佐藤 堅明


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第1話:お山の業界用語は「異世界」でした

『一挙三話公開』


はじめまして、私は現在、秋田県の曹洞宗寺院で住職をしています、佐藤堅明と申します。


今回、公式企画「春のチャレンジ2026」のテーマが「仕事」ということで、私の少し変わった前職——日本一厳しい修行道場と言われる「永平寺」での十五ヶ月間の体験を綴ってみることにしました。


タイトルに掲げた「ブラック企業」という言葉は、あくまで世俗の価値観に照らし合わせた比喩です。しかし、そこには現代の労働基準では測れない、人間の可能性を極限まで引き出す「真剣勝負の場」がありました。


連載中の『蒼龍くん物語』の根底に流れる哲学が、どのような過酷な現場で磨かれたのか。修行時代のリアルな裏側と合わせてお楽しみいただければ幸いです。

今から20年以上前。私が二十代の頃、一歩踏み出した「職場」のお話です。

そこは、福井県の山奥にある曹洞宗大本山・永平寺。私たち坊さんの間では、親しみを込めて「おやま」と呼ばれています。


静かな山寺を想像されるかもしれませんが、そこは七百数十年の規律が今も呼吸し続ける、日本一厳しいと言われる修行道場でした。門をくぐった私をまず待ち受けていたのは、聞いたこともない「業界用語」の嵐だったのです。


お山では、修行に入ることを「上山じょうざん」、無事に勤め上げた卒業を「乞暇こうか」と言います。※他にも違う言い方があります。

一方で、厳しさに耐えかねて脱落してしまうことは、同じ山を下りるにしても「下山あさん」と呼んで、明確に区別されていました。同じ道を通って帰るのに、言葉ひとつで意味が正反対になってしまう。私は、この「下山」という二文字の重みに、何度も背筋が凍る思いをしました。


食事の呼び方も不思議なものでした。

朝食は「小食しょうじき」、昼食は「中食ちゅうじき」。そして夕食は「薬石やくせき」と言います。

夕食がなぜ「薬」なのか。かつて修行僧は正午以降の食事を禁じられていましたが、寒さや空腹で体を壊さないよう、空腹という「病」を治すための薬として最小限の食事をいただいた……そんな名残です。実際に温めた石を抱いて腹の虫をなだめていたという説もあり、当時の修行の厳しさが言葉の中に今も生きているのです。


週休0日、睡眠三時間、そして給料ならぬ手当は……。

世間の物差しで見れば、間違いなく「ブラック企業」そのものに見えるでしょう。

しかし、ここで誤解していただきたくないのは、これは決して「人格を否定する場」ではなかったということです。


むしろ逆でした。

徹底的に無駄を削ぎ落とし、我を捨て、一つの所作に命を吹き込む。その厳格な規律は、私という人間を根底から作り変えるために不可欠な、先人たちの智慧だったのです。


今もなお、私はあのお山を、世界で最も気高く、最も誠実な「職場」であったと心から敬意を抱いています。


これから少しずつ、あの激しくも温かい、十五ヶ月の記録を綴っていこうと思います。


合掌

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


このエッセイで描いている「お山」の空気感をもっと深く、そしてファンタジーとして昇華させた物語が、現在連載中の『蒼龍くん物語』です。


▼【癒やし】蒼龍くん物語 〜小さな龍と学ぶ、心を調えるための「禅の智慧」〜

https://ncode.syosetu.com/n7536lr/


「本物の修行の世界」を知ってから物語を読んでいただくと、蒼龍くんたちの言葉がまた違った響きで聞こえてくるかもしれません。


次回は、修行初日。門の前で数時間も立ち尽くした、あまりに過酷な「入社式」のお話をお届けします。

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