第19話「サイドエピソード:決着」
※今回の話は、ライガ視点です。
≪そうだ! そうですよリアナ様! 装置にはまだ浄化前の魂が残っている筈です!≫
球体からノクスの声が耳に響く。
続けて、リアナの慌ただしい声。
≪た、確かに!! いま浄化装置を動かせれば、大量の魂力を確保できますね! 至急、西聖堂の技術部の主任に連絡を……≫
ライガは聞き耳を立てる。何やらゴチャゴチャ言ってるが――要は力をくれるってことらしい。
≪……よし、いける! この魂力を、僕を通してライガのリンク人形へ流し込みます!≫
その言葉に、耳がピクリと動く。
――次の瞬間。
「……っ、おぉ……すっげぇぇええ!!」
胸の奥で何かが爆ぜ、熱が血管を駆け巡る。筋肉が一気に膨れ上がり、皮膚が引きつれるほど。
心臓が暴れ馬みたいに跳ね、耳の奥まで鼓動が響く。
「よっしゃぁああああっ!!!」
地面を踏みしめる。土煙が舞い、視界が一瞬白んだ。
≪ライガ! リアナ様の特務権限で浄化装置を臨時起動してもらいました。その大量の魂力がいま、君に注がれています! あまりに膨大な魂力は体への負担となりますから、フルパワーで一気に巨人を穴に押し込んでしまいなさい!≫
「……言われなくても!!」
重かった巨体が嘘みたいに軽い。腕を振るだけで空気が震え、巨人の胴体がぐらりと浮く。
――ビシビシビシビシッ!
赤黒い光と蒸気、そして巨人の表面に走るヒビが一気に広がる。
「……おぉっらぁあああっ!!!!」
全身の力を込め、巨人を穴へ放り投げた。
「――ノクス!! 今だ!」
≪よし、――空間を閉じますよ!≫
ノクスの声と同時に、穴の縁が収縮を始める。
……その瞬間。
「んな……っ!?」
穴の奥から、縄のようなものが飛び出した。鋼鉄みたいな硬さで足首に巻き付き、瞬時に締め上げてくる。
骨が軋む。血が逆流するような圧迫感。
「いってぇ! ……って、なんだこれ……? なんでこんなのが!」
必死に足を引き抜こうとするが、まるで穴の向こうから何が引っ張っているみたいだ。
≪ライガ! そのままでは穴が塞がらない! すぐに切り離してください!≫
「簡単に言うなっ! 全っ然離れねぇんだよ!」
足元からずるずると穴に向かって引きずられていく。
少しでも気を抜くと穴に落ちてしまいそうだ。
(ヤベェ……このままじゃ持ってかれる!)
傍に落ちていた石を掴み、縄を叩きつける――ガンッ! 硬い。ビクともしない。
「くそっ! せめて、何か足場になるものがあれば……」
――閃いた。
「……【ステータスオープン】!」
足元に半透明のウィンドウが浮かび上がる。文字はほとんど消えてボロボロだが、もうそんなの関係無い。
「ふんぎっ!!!」
絡まっていない方の足でウィンドウを踏みつける。
――ベキッ、ビシビシビシッ!
画面全体にガラスのようなヒビが走り、あちこち火花が散っている。
恐らく数秒しかもたない。だが、今はそれで十分だ。
「くっそぉおおお!! 今のうちに何か……切れるもん……っ!」
「……らいふぁ!!!」
と、すぐ近くで誰かの声が聞こえてくる。
「レオン兄ちゃん!?」
這いずるように近づいてくるレオンの姿。
両腕の骨が折れているのか、肩を交互に動かして地面を掻いている。
その口にはナイフが咥えられていた。
「……うけ……とれえぇっ!」
最後の力で上半身を捻り、レオンはナイフを放つ。
ライガはそれを空中で掴むと、ためらいなく縄に叩き込んだ。
「……おらぁっ!!」
ブチブチブチッ!
刃が縄を裂く感触が、手に伝わる。足を引き抜いた瞬間、足場代わりのウィンドウがバリン! と砕け散った。
だが、縄はまだ生き物のようにのたうち、捕食対象を探しているかのように八の字を描くようにビチビチとうねっている。
「コイツ、まだ……っ!」
そのとき、指先に当たる固い感触――ジルミスが青年の召喚に使っていた、人形だ。
「……こいつで、我慢してろ!!!」
近くに叩きつけられた音に反応したのか、縄は勢い良く人形に飛びつく。ガッチリと絡みつき、そのまま穴の中へと吸い込まれていった。
≪--今だ! 強制閉門!≫
ノクスの声と共に、穴が一気に閉じる。
――ズズズッ! ズズゥゥゥンッ!!!
爆音が空を裂き、空間がビリビリと震えた。
「や……やった……っ!」
全身から力が抜け、膝が崩れる。
気づけば、レオンに支えられていた。
「兄ちゃん……俺……やったぞ……」
「……ああ、よく頑張ったな」
温もりと声が、じわじわと意識を溶かしていく。
ライガは安堵の息を吐き、そのまま眠りの闇に沈んだ。
Copyright(C)2025-流右京




