さくら
ここはとある百貨店の一角。
現在、春の生け花の展示会が催されている。
テーマは「桜」。
豪華絢爛な個性あふれるプロたちによる自慢の作品がスペースを彩っている。
啓翁桜、東海桜、関山桜、、、と桜の種類もさまざまで、訪れる人の目を楽しませている。
「素敵ねぇ。」「ねえ、本当に。」
品のよさげな年配の女性客たちが声を上げると、次から次と、それにつられるようにお客さんが入ってくる。
「ああ、こっちも素敵。」「ねえ、このポストカードも素敵。」「あら、ほんと。」その声を聴いた客のひとりが、思わずポストカードを手に取り、数秒迷ったものの、ついにはレジに向かった。
「あらっ。こっちの手ぬぐいも。」「やだ!ものすごくいいじゃない。」するとまた、その声を聴いた別の客が吸い寄せられるように、てぬぐいを手に取り、じっと見つめると意を決したかのようにレジに向かった。
・・・キーホルダー、ガラスの器、しおり、、、、、他にも同じ現象が立て続けに起こった。
「領収書になります。ありがとうございまーす。」
係員はレジにお金をしまいながら、最後の客を見送ると同時に、それとは反対方向に去っていくふたりの女性の後姿を横目でちらりと見た。
・・結局、さんざんしゃべくったにも関わらず、彼女たちは何も買わずに会場を後にしたが、彼にとっては大満足の結果となった。
このまま最終日まで本当に『サクラ』として会場に来てほしいところだ、と思う今日この頃であった。
完