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はい、ノリと勢いです。
新しい話、悪役令嬢転生系の世界で乙女ゲーのヒロインに転生したからってやりたい放題しすぎて破滅する悪役ヒロインに転生した話。
一周回ってますねこれ。
悪役ヒロインが直ぐにここは現実なんだからと覚悟をして真面目に努力して真っ当に生きたら普通に幸せにはなれるのにね。
って話です。(予定)
悪役ヒロインに転生したミーシアと婚約者の悪役公爵(漫画では処刑される)によるただのイチャイチャをお楽しみ出来れば幸いです。
んっ………ここ……は………?
わたし、は……だれ………?
朝の光で目を覚ませば、わたしは知らない部屋の知らないベッドで寝転がっていた。
ぼーっとする頭で周りを見回す。
特に豪奢な訳では無い、だからと言って、過度に質素でもない。
それなりの質感の麻の布団。
それなりに上質な寝巻き。
わたしの顔にかかるのは、サラリとした質感のピンクブロンドの髪。
………って、まって??ピンクブロンド??
わたしは日本人のはず。
そして黒髪だったはず。
それに、この部屋は普通に近いけど、なんと言うか、現代日本の一般家庭の部屋ではない。
家具を見れば何となく映画のセットの様な……そう、いわゆる中世ヨーロッパ的な雰囲気のあるアンティークな家具だった。
おかしい。
わたしの家は一般的な一軒家だった。
わたしはそんな家でフローリングの床に直接布団を敷いて寝ていた。
ベッドでは無かったはず。
ますます混乱する……
わたしが呆然としていると、いきなりドアが開いて誰かが入ってきた…!?
「あら、目が覚めたの?
………そのまま死ねば良かったのに。」
「……え?だれ??」
その入ってきた誰か、は、ドギツイ赤色の髪をした見知らぬオバサン。
何故かわたしの事を睨みつけている。
そんなオバサンに対してわたしは素で反応してしまった。
それが、いけなかった。
いきなり頬に走る衝撃、ベッドに叩き付けられる身体、揺れる視界、ただでさえ混乱していたわたしは、更に【何故】【何】で頭が埋めつくされた。
そんなわたしに対してオバサンが高圧的に怒鳴り散らす。
「誰ですって!?お前!誰に向かって言っているのかしら!?」
「いや、だってー
痛みと状況の不明瞭さで混乱する頭ではマトモに思考が出来ず、思わず口をつくと、更に衝撃。
「私が話しているのに口答えするな!!!
生意気なのよッ!!」
「口ごー
「黙りなさいッ!!」
3度、衝撃。
頭の冷静になってきた部分が『わたしってほんとバカ……とりあえず口を閉ざそう。』と囁いたので口をつぐんだ。
そこからはギャンギャン騒ぐ見知らぬオバサンの独断場だった。
と言うか頭がグラグラする、意識も朦朧としてきた。
わたしはガミガミ声を聞き流しながら意識を手放した……………
これが夢なら、どうか……………覚めて…………
そして、再び目を覚ますと…………
ガタゴト…ガタゴト……
「…………馬車?」
質素な馬車に揺られていた。
もしかして、まだ夢の中なのかな?
それにしては両頬が痛い。
それに、またちらりと見える髪の毛の色はピンクブロンド。
痛い………怖い………口の中が切れているのか、血の味がする…………それで、分かった。
これは、夢なんかじゃ、ない。って。
そもそもが見知らぬ場所だったからあの部屋に未練は無い。
けれど、よく分からないこの状況には恐怖しかない。
それにしてもなんで車じゃなくて馬車なのか、なんでアスファルトで舗装された道じゃないのか、なんでわたしの服がいつものシャツとズボンでは無く、さっきまで着ていたはずのワンピースでもなく、簡素なボロ切れになっているのか。
何も、何も分からない。
人間、本当に恐怖を感じると涙が出ないって本当なんだなぁ………とか考えながらフリーズしていると………急に馬車が止まった。
『なっ、なんだ貴様らは!?どこ所属の騎士だ!!』
『…………お前ごときに名乗る名を、我々は持ち合わせてはいない。』
『グハッ……!?ぐ………騎士が………何故…………
『…何故?と、聞かれたならば、
お前達の様な下郎を斃す事が騎士の勤めだからだ。』
何が起こっているのだろう?
落ち着く間もなく状況が目まぐるしく変わり過ぎで、思考はフリーズしっぱなし。
本当に、ここはどこ??
やがて、馬車の荷台に鎧を着た人が乗り込んできた。
「……君がミーシア・ブロッサム嬢だね?」
「えっ……?わたしは違うよ。そんな外国人みたいな名前をしてないよ。わたしは………あれ?わたし……は……?」
「………どうやら混乱している様だな。
失礼する。」
「???」
言うが早いがわたしを横抱き……お姫様抱っこする鎧の人。
でも、いくらわたしが女の子でも横抱きって凄く力が必要だって聞いたことがあるよ?
だからわたしは素直に賞賛した。
「わぁ、凄い力持ち~♪さすが、鎧の人は違うねぇ~♪」
「……これは、混乱していると言うより幼児退行、か?」
「んぇ?」
「…………ともかく、君は私の屋敷にて保護する事が決定している。
済まないが連れて行くぞ?」
「よく分からないけどよろしくお願いします!鎧の人!」
「……私の名はアスベルだ。【アスベル・フォートラン】。
フォートラン公爵の名は知らないか?」
「…?ふぉーとらん?」
「どうやら知らない様だな。」
と、ここで鎧の人は器用に片手で兜を外した。
すると、黒い髪に紫の瞳の美丈夫が現れた。
「わぁ〜♪あすべる?さん、イケメンさんだねぇ〜♪」
「イケメン…?その様子を見るに褒め言葉の様だが……私の顔が怖くないのか?」
「へ?全然怖くないよ!
かっこいいよアスベルさん!」
確かに、ウルフカットはワイルドにみえるし右頬には古い切り傷があるし目は切れ長で眼光の鋭い三白眼、と言われるもの。
けれどその顔は困惑が見えるし声色は優しい。
そう、まるで……まる……で………?
「あーーっ!?」
「どうしたブロッサム嬢!?」
「思い出した!アスベル様だ!!」
「む?」
そう、アスベル様の顔を見て、思い出した!!
アスベル様はまるで、どころかわたしの最推し本人だって!!
ウルフカットの黒い髪に切れ長で三白眼の紫の瞳、右頬に傷があるこの美丈夫。
一目でカッコイイ人だと思ったけどそれは当然!
なぜなら彼はわたしが読んでいた悪役令嬢転生系の恋愛漫画の推し!
結婚するなら彼みたいな人がいいと思っていた程の推し!!!
漫画だけでアニメ化やドラマCD化はしてなかったから声は想像だったけど、想像よりずっと良いっ!!耳が孕んじゃう!♡
……っとと、一旦落ち着かなきゃ……その漫画の話になるけど、タイトルは【悪役令嬢に転生したけど私はまだ死にたくないっ!!】。
主人公はよくある剣と魔法と恋愛モノな乙女ゲーの悪役令嬢に転生してしまった女性だったんだけど、
それに敵役として登場するヒロイン(笑)はせっかくアスベル様が婚約者だったのに何故彼を捨てて他の(見た目だけは)優男共の方に行ったのか!!もしかしなくてもバカなのかな!?と思った程だよ!?
最後はお決まりの様に破滅したしね!!
と言うかヒロイン、婚約者がいる身で他の男性に惚れるとか色仕掛けをするとか中々にクズだったなぁ〜………見た目も夢女だし頭もお花畑だし、だからヒロイン(笑)は嫌いだった。
だからそんなヒロイン(笑)に惚れるヒーロー(笑)共もあまり好きになれなかった。
と言うかヒーロー(笑)共もそれぞれ婚約者が居たのにヒロイン(笑)に惚れるとかなんなの?
次々と婚約者にヒロイン(笑)に対する嫌がらせ(わたし的には冤罪)で婚約破棄をしたヒロイン(笑)とヒーロー(笑)共、クズ過ぎない?
アスベル様は悪役令嬢さんと共にそんなクズ達の元婚約者へひたすらアフターケアとしてヒーロー(笑)共とは別の、他国にあるもっと良い嫁ぎ先を紹介していた。
けれど、それがいけなかった。
その嫁ぎ先が軒並み国外であり、更に元婚約者のお嬢様達は皆有力貴族の子女。
当然、そのせいで(わたしからしたら自業自得だが)国力を削られ、他国に力を付けられたヒロイン(笑)やメインヒーロー(笑)の王太子は激高。
(ちなみに全て友好国や同盟国なので実際は繋がりがより強固になって相対的に国力が増加していた。)
それが、アスベル様が悪役公爵設定な理由なんだけど、ヒロイン(笑)視点ではってだけでアスベル様自体は常識人な上にただの苦労人じゃん!
ちなみに作中原作ゲームでのアスベル様も何故か悪役公爵扱いだった。
理由は同じ、お花畑脳なメルヘンヒロインからしたら、継母から助け出した事を盾に自身への婚姻を迫る悪党って感覚だったらしいね。
見た目が悪人面だからって理由で『貴方は私の王子様じゃない!!』ってやつね。
いやぁ………ほんとにふざけてるねゲームミーシアも!?
アスベル様は見た目がちょい悪系イケメンのスパダリでしょうがッ!?
実際、ミーシアを助ける前から婚約の話は成立していた、義妹がアスベル様の見た目で嫌がったから代わりにミーシアがって理由だけどさ。
なのに!それでも!!アスベル様は未来の自分の妻となるミーシアの為に真の悪党である継母やお父様、義妹を成敗してミーシアを助けてくれたってのに!!
なんでミーシアまで見た目で怖がるかなぁっ!?
制作陣頭おかしいの!?
普通、ヒロインを助け出した男性ってメインヒーローになるもんでしょーが!!
なんでそれが対極の悪役公爵になってんの!?
しかも肝心のヒーロー(笑)共がミーシア同様のドクズッ!!!
婚約者を悪役に仕立てあげて見た目は可憐なミーシアをものにしようとするとか中々に最悪な男共だよ!?
頭がお花畑なミーシア的にはカッコよかったんだろうけど、漫画版読んでた読者達的には『は?』が多かったよッ!!
作中ではそれが人気の乙女ゲーだったって扱いだから漫画のミーシアの中の人は随分歪んだ価値観の日本から来たんだね?
わたしの居た日本とは違う世界線の日本だよねそれ??
………話を戻すけど、悪役令嬢さんの奮闘も虚しく、アスベル様は国家反逆罪で処刑されてしまう。
さらに最悪な事にアスベル様は辺境伯領の管轄も行っていた為、その辺境伯兵全てがクズ王太子の管轄になり愚かな王太子は元婚約者達への制裁と称して嫁ぎ先の各国への戦争へ突入していく…………と、収まり着くのかこれ?
な展開になって行った。
ちなみに、悪役令嬢さんは帝国の皇子と結ばれたしなんならクズ王太子の率いる王国軍は帝国と各元婚約者の嫁いだ国々との連合軍で壊滅させた。
(相手国達からしたら優秀な令嬢達を国によこしてくれた上に繋がりが強くなったから見返りに支援物資や交易品に色を付けて送ったはずの王国の王族に裏切られた形になるから怒りも相当。
それぞれの令嬢達の家族もそれぞれの国へ亡命した。)
勿論首謀者のヒロイン(笑)は捕らえられて皇子と悪役令嬢さんによって処刑された。
悪役令嬢さんは、アスベル様を殺し王国民へ迷惑をかけ、帝国や他国の人々を必要のない戦争で無為に殺したヒロイン(笑)に対して慈悲も罪悪感も忌避感も感じなかったからね。
そうそう、確か、そのヒロイン(笑)、ことミーシアも転生者だったんだよねぇ………フルネーム…は…………そう、【ミーシア・ブロッサム】!!
ピンクブロンドのゆるふわロングヘアで薄青の瞳でタレ目、可愛らしい顔立ちで見た目だけならゆるふわ系で妖精さん。
だけど中身は天然に見せ掛けた腹黒転生者。
自分が乙女ゲーヒロインだからこの世界は自分のモノだし皆ゲームキャラだから何しても構わないでしょ、悪役公爵や悪役令嬢は私の為に死んでね♡国民?何それ??所詮は脇役でしょ☆系の、イタイ転生者だった。
……………って!わたしさっきなんて呼ばれてた!?
「ブロッサム嬢?
黙り込んでどうした??」
「………アスベル様。」
「ああ、どうした?ブロッサム嬢。」
「わたしは、ミーシア・ブロッサム?」
「ああ、君はミーシア・ブロッサム伯爵令嬢で、全ての手続きが完了した本日より私の婚約者となった。」
「あなたは?わたしの旦那様??」
「いや、まだ違う。
だが婚約者だから将来的にはそうなるな。
だから君が私を“アスベル様”呼びをしても咎めるつもりは無い。
今日からとは言え婚約者だからな。」
「………あ、じゃあ、わたしのこともミーシア、って呼んで?」
「分かった、ミーシア。
それで?どこか身体が悪いのか?」
「あ、ううん!身体はへーき!!
だけど…………そのぅ…………
ヒロイン(笑)になっちゃった事が問題なんだよ!!!
確かに?作中原作である【紅の氷華】では見た目通り儚げなドアマット系ヒロインだったよ??頭お花畑だったけど。
けど恋愛漫画の【悪役転生(略称)】では見た目だけは“はいはい可愛い可愛い”なだけのクズなヒロイン(笑)じゃん!!
というかわたし、このヒロイン(笑)の見た目も性格も好きじゃなかった!!
漫画ではわざとらしくツインテールにしてユメカワ☆な服装してた腹黒だったし、
作中原作では普通に可憐な姿をしていて、領地経営をさせられていた程度には頭がいいくせに、性格が夢見がちなお花畑だから嫌いだったな、ゲームミーシアも。
………あ、でもさっき、アスベル様ってば今日から婚約者って言ってたよね??
という事は、これってちょうど漫画が始まった所ら辺??
確か、ヒロイン(笑)が転生してきたのってアスベル様と婚約する少し前辺り……だったはず。
あ、でも原作漫画ではわたしはアスベル様とこんな出会い方をしなかった………
だって、漫画のミーシアは腹黒で強かだ。
意地悪な継母や義妹を逆にやり込めるくらいはしていた。
でもわたしはそれに失敗した。
何故なら、中途半端にミーシア(笑)が継母や義妹に逆虐めをしまくった挙句、カウンターを食らって毒を飲まされた辺りがわたしの覚醒ポイントだったから。
本当ならあの時もミーシア(笑)だったら強かに、確実に、そして華麗に仕返しをしていたシーンで、継母や、義妹を破滅させてスッキリ〜☆
『ここから私の真のヒロイン生活が始まるのよ!』
なシーンだったからだ。
いやまぁ、アスベル様がわたしを助けに来たって事は結果的にはざまぁ完了してるっぽいけど。
ただ、本来なら売り飛ばされそうになる直前にアスベル様達公爵兵が伯爵邸に乗り込んでくるはずだった。
が、“わたし”は気絶し、あの継母に売り飛ばされてしまった。
と言うか仮にも伯爵令嬢であるわたしを奴隷商に売り飛ばすなんて大胆かつ愚かにも程があるよね??実際、わたしが何もしなくてもこうしてアスベル様が助けに来てくれた訳だし。
「……しゅきぃ…♡」
「…………はぁ……どうやら、我が婚約者は疲れている様だな。」
「はっ…!ごめんなさい………
「いや、気にするな。
だが、明日からは気をつけなさい。」
「はぁい………
うん、今は混乱してるのもあってわたし自身、よく分からない言動をしている自覚はあるよ?
だから今日は……うん、寝ちゃおうね!
寝逃げでリセットだよ!!
とりあえず今わたしがどこに居てどんな状況なのかは分かったし、少なくともまだアスベル様との関係は始まってすらいないみたいだから良かった………
コレで既にハーレムルートを目指してアスベル様を捨てて浮気し始めた後だったら関係修復にすっっごく頑張らなきゃいけないところだったよ!!
だから、安心してねーちゃお!!
(超絶前向き)
「あの、アスベル様…?」
「どうした、ミーシア。」
「あのね、わたし、何だか眠たいの……だから……おやすみなさい。」
「…………………そうか。おやすみ。今はよく眠れ。」
(この状況で婚約者とは言え初対面の男に抱き抱えられながら眠れるとは。
我が婚約者殿は華奢な見かけによらず豪胆だな。)
「………ふへぇ~♪あしゅべぅしゃまぁ〜♡」
「ふはっ…【死神卿】と恐れられるこの私に、何も知らない幼子の様に無邪気に縋るとは。」
(だが、この私を怖がらない女性は貴重だ。
混乱している今だけでない事を祈ろう。)