第3話
旅の翌日、ミナミツバサは鉄道模型の運転会に参加するため、鉄道模型の棚から、Nゲージの車両を出した。
車両は、683系「サンダーバード」、681系「サンダーバード」、681系「北越急行スノーラビット」。
ミナミが愛用する鉄道模型の車両である。
ミナミは、東京まで出てきて、鉄道模型の店に入り、店内の大型ジオラマで走行させる。
隣りの線路では、60代の男性が、黙々と旧型客車を線路に乗せ、それを蒸気機関車C57で牽引させている。
反対側では、ミナミと同い年ぐらいの者が、「カシオペア」を走行させている。
2つとも、機関車が牽引する列車だった。
その真ん中で、ミナミは白地にグレーのスマートな車体の683系を走行させるが、周りを見ても、同じ車両を走らせる人は皆無だった。
高架の線路を、長大編成の貨物列車が走っている。
牽引しているのは、北陸本線等で貨物列車を牽引しているEF510電気機関車だった。
(昨日、「サンダーバード」に乗ったが、今日は模型を走行させる。どんだけ俺は「サンダーバード」が好きなんだか。)
と、ミナミは思った。
ミナミは、コントローラーを見た。
このコントローラーは、本物の電車の運転台をイメージして製作されたコントローラーで、車で言うアクセルに当たる、マスターコントローラーにブレーキハンドルの他、ブレーキの圧力計、速度計等が付いている。
ミナミは、速度を上げるため、マスターコントローラーを全開にした。
実際の683系の最高速度、160キロに合わせる。
もちろん、模型でそんな速度は出ないが、ミナミが操作する683系は、他の模型よりも明らかに速い速度で走行する。
「速いあれ。」
「あの速度でよく脱線しないね。」
とギャラリーの子供の視線が、ミナミの操作する683系に向けられる。
(爽快!)
ミナミは思って、ニコリと笑った。
しかし、他の線路で走行していた車両が脱線し、それがミナミの操作する列車に突っ込んで来て、見事に脱線転覆した。
「アーやっちゃったよ。」
ミナミは笑いながら、それを復旧させると同時に、他の線路で脱線した車両も元通りにした。
(よし。では、改めて。)
ミナミは、また模型を走らせた。
だが、それを、1周させると、それをしまった。
そして、今度は、681系の模型を出す。
それは、さっきまで走らせていたサンダーバードの683系とは違って、白地にグリムゾンレッドの帯を纏った車両である。
これは、サンダーバードに使用されている681系と同形式だが、681系は「サンダーバード」を走行させるJR西日本の他に、もう一社でも所有している。
北越急行。
北越急行は、首都圏と北陸を結ぶ短絡路線として開業し、その路線でも特急列車を走らせるが、この際、JR西日本が北越急行向けに改良した車両が、この車両である。
この車両は、北越急行のマスコットであるウサギから、「スノーラビット」の愛称を持っている。
ミナミは、その車両をさっきのサンダーバード用の681系のように、高速で走行させる。
「683系も681系も高速運転じゃないと、しっくりこないぜ。」
とつぶやく。
ミナミの心は、681系や683系と共に、高速で駈けだしたように思った。
ただ、昨日、特急「サンダーバード」に乗って富山に降りた時に出会った、女の子の記憶が、脳裏に焼き付いていた。
その子に、彼は運命を感じたが、彼には好きな人が居る。
しかし、昨日の旅では、「サンダーバード」より彼女のほうが印象に残ってしまっていた。